魔界転生(幕末編)
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第91話 包囲
西郷軍は命からがら城山に逃げ帰って来たはいいが、すでに政府軍に包囲され行くも引くもできなくなってしまっていた。
もともと鹿児島は中立を取っていた。西郷軍にも政府軍にも肩入れはしない。
が、鹿児島は西郷の故郷。
西郷支援を義しとしている者が多い。しかし、西郷憎しと思っている人物もいた。
何故なら、廃藩置県で領地をなくしてしまった士族は全国に数知れない。鹿児島の士族たちも例外ではない。
そして、その中心に島津久光がいた。
久光は、何度も西郷や大久保に苦汁を飲ませられてきていた。
特に西郷には、罵詈雑言まで浴びせられ、藩主を藩主とも思わない態度に怒りを通り越し、憎しに変わっていった。
そんな久光だからこそ、中立を取った鹿児島とはいえ、久光が裏で政府とつながっていたのではないかと思われても仕方がないのではないだろうか。
西郷は、いや、西郷軍はすでに徹底抗戦する気力もなくなっていたが、この城山で最後の戦いと決意していたのだった。
そして、原城の戦いも佳境を迎えていた。
政府軍が動きだし、原城を包囲し始めたのだった。
城門内は死人共に支配され入るに入れなかったが、十兵衛に全滅させられ容易に入ることが可能になった。そして、死人同様厄介で摩人と化していた剣豪たちも出てくることはなかった。
が、政府軍は慎重に城門内に入り、城内と侵入していった。
「どうなっておるのだ!!」
大山の我慢も限界に来ていた。
数多の剣豪と言われた男たちが誰一人帰って来なかった。頼みの武蔵までも帰って来ないありさまだ。
(もう、潮時かもしれん)
大山は、隙あらば逃げ出そうと画策し始めていた。
(こんな有様になるのなら、西郷さんと一緒の行動をすればよかった。何が言説の剣豪達だ)
そして、大山の心は、苛立ちと怒りと後悔が、渦巻いていた。
「但馬殿、どうやら新免・武蔵もやられたようですな」
そんな大山の気持ちを知ってたか知らずか天草はしれっと但馬守に言った。
「流石は十兵衛。死合うの楽しみじゃわい」
但馬守はクククっと不気味に笑った。
階段を上り、ついに天守閣へ十兵衛と土方は登ってきた。
「親父殿」
きっちりと正座をして微動だにしない初老の男に十兵衛は、悲しそうに声をかけた。
「やはり、来たか、十兵衛」
初老の男は目をつぶっていたのか、ゆっくりと目を開けた。
「情けなや、親父殿。再び外道に落ちてまでこの十兵衛と戦いたいのでござるか?」
十兵衛は、その男を軽蔑するかのように目を細めて見つめた。
「どうとでもいうがよい。ここには、邪魔者もいない。転生衆全員が倒れたのだからな。
これで、心おきなくお前とさしで、死合えるというものよ」
初老の男はゆっくりと立ち上がった。
「但馬殿、もしやそれが狙いだったのですか?」
若い声の声が聞こえてきた。
「天草四朗!!」
土方がその男を見て叫んだ。
「土方殿、お主も天草をしっているのか?」
十兵衛は、土方を見ることなく聞いた。
「ええ。俺の仲間であった。近藤勇や沖田総司。そして、俺が生きてきた時代の剣豪といわれた男達を摩人に仕立て上げた男。それに、俺も天草四朗にあっている」
土方は、天草を睨み付けていった。
「なるほど。天草、お前は一体何をしようというのだ?こんな時代にも表れおって。一体、何を企む?」
十兵衛もまた天草を睨み付けて言った。
「ふん。お前には関係ないのことよ、十兵衛」
天草もまた十兵衛を睨み付けた。
「お前は幕府に恨みがあったのだろう?が、すでに、その幕府もなくなった。お前の目的ははたされたのではないのか?」
十兵衛はかつて戦ったときの天草の目的を口にした。
「ふん。もはや、幕府など関係のないことだ。私と信者たちの怒りと悲しみと憤りはこの日の元全土を焼きつくし、滅ぼすことこそ成就されるのだ」
天草は、そういうと狂笑した。
「それがどうしたというのだ?」
但馬守は、冷たく言い放った。
「同感でござる。お主ら全員地獄に叩き落とすことが俺の役目でだからなぁ」
十兵衛は、少し無精ひげが伸びていた顎を撫でた。
「よう言った、十兵衛」
但馬守はすらりと刀身を抜いた。
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