真田十勇士
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巻ノ九十四 前田慶次その十
「わしの友にもなってくれた」
「そうでしたか」
「そうじゃ、しかし随分と寂しい方で」
「お父上とも上手くいっておらぬとか」
「ご幼少の頃からな、しかしな」
「そのご気質はですな」
「良い方でな」
それでというのだ。
「非常によい方じゃ」
「そうなのですか」
「それでよくお話をしていたが」
「今は」
「あの方は越前に行かれてな」
そこに封じられたのだ、その石高だけでなく官位もかなり高いものを与えられてはいる。
「過ごされておられるが」
「越前ですか」
「どうもな」
慶次はここでだ、結城を心配する顔で述べた。
「近頃お身体が優れられぬらしい」
「はい、そのことはです」
「真田殿もお聞きか」
「鼻が欠けられたとのことなので」
「花柳の病じゃな」
「それかと」
「あの病は厄介じゃ」
慶次は遊びも好きだ、風流を解するが故に。それで花柳の病についても知っていて言うのだ。
「罹るとな」
「鼻も欠けて」
「身体のあちこちが腐って爛れてじゃ」
「そうしてやがてはですからな」
「あの方もまだ若いが」
それでもというのだ。
「あれではな」
「長くはないですか」
「難儀なものじゃ」
慶次は飲みつつ普段の明るさを消していた、そのうえでの言葉だった。
「まだ若く見事な方なのに」
「その病で」
「長くはないとはのう」
「人の運命はわかりませぬな」
「わしみたいな老いぼれの不便者はまだ生きておる」
自嘲気味の言葉だった、慶次にとってはこれまた珍しく。
「それがのう」
「世のですか」
「解せぬところじゃ」
「こうしたことはわかりませぬな」
「全くじゃ、しかしな」
「それでもですか」
「無念じゃ」
その結城のことを思えばとだ、慶次は言うのだった。
「実にな」
「それは確かに」
「あの方はご次男でありな」
「兄弟の順から言えば」
「将軍になれたかも知れぬしな」
慶次はこのことも言った。
「しかし太閤様の養子となられ」
「結城家も継がれ」
「そのこともあってじゃ」
「将軍にもなれず」
「そしてお父上とも折り合いが悪く」
「しかもですな」
「あの様な病になられた」
花柳の病にというのだ。
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