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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Eipic39おかえりなさい~Rebirth~

†††Sideルシリオン†††

ミッドに本格的な冬が訪れた12月後半。自室で残っていた仕事を片付け、「そろそろ休むか」とあくびをしながらストレッチして、凝り固まった体の筋肉をほごす。寝室のベッドにはアイリとフォルセティが寄り添う形で眠っていて、いつも思っているが姉弟のようだ。

「おやすみ、アイリ、フォルセティ」

ベッドの左側から入り、俺、フォルセティ、アイリの川の字で横になる。疲労が溜まっているのかすぐにウトウトし始める。完全に眠りの世界に入る前に「我が手に携えしは確かなる幻想」と、複製したものを具現するため呪文を詠唱。

(本当に待たせてしまったな・・・)

ゆっくりと目を閉じて完全に眠りの世界へ、ではなく「ただいま、我が創世結界」へと移る。プライソンに奪われていた権限を奪還してから4度目の創世結界への進入だ。こうして進入する度に、なんて惰弱で貧弱な欠陥か、と思う。権限を奪われただけで自分の精神世界に入ることが出来ないなんて・・・。

(複製物を奪われたことは多々あれど、権限そのものを奪われるなんて初めてだったからな・・・)

そんな言い訳をしてしまっている自分自身に呆れ果ててしまう。今後の為に何かしらの対処策をいくつか考えながら、「姉様!」と呼びかける。ここは“英雄の居館ヴァルハラ”の玉座の間。“ヴァルハラ”と“異界英雄エインヘリヤル”の管理を任せているゼフィ姉様の“エインヘリヤル”が居るはずなんだが・・・。しかし玉座に姉様の姿は無かった。

「一体、どこへ行ってしまわれたのか・・・?」

玉座の間からとりあえず出て、廊下で左右をキョロキョロしているところで、「きゃん!」と俺の背中に誰かが勢いよくぶつかって来た。振り向いてみると、「お前は・・・デルタ!?」が居た。複製権限が奪われていたわけだが、複製はされていたわけか・・・たぶん。

「というか、何故に水着姿?」

尻もちをついたデルタに手を差し伸べると、オレンジ色をしたフレアビキニを着たデルタが「あっ、えっと、神器王・・・?」と小首を傾げながらも俺の手を取ってくれた。よっ、と掛け声を発しながらデルタを立たせる。

「ここに居るということは、俺の真実はもう理解しているようだな」

「ここがどこで、あなたが誰なのか、デルタがどうなってるのか、もろもろ全部」

俺の複製能力によって複製されたモノの所有者は使い魔・“エインヘリヤル”となり、それと同時に俺の真実を知ることになる。だから基本的に同情などで俺の協力してくれるが、我の強い子は結界内でも召喚後でも勝手気ままだ。

「それで? こんなところで、あと水着で何をやっているんだ?」

「あ、そう! 助けて、追われてるの!」

デルタが俺の背後へと回り込んで来た。彼女が来た方向へと目を向けたところで「デルタ姉様ぁ~!」という悲鳴めいた声が聞こえてきた。この声は「イプシロン・・・」だな。デルタもそうだが、肉眼でもモニター越しでも関係なく、この目で見たものは複製できる。

(スキュラの姿とスキルはモニターでしっかり見ているため、登録はされているわけだ)

廊下の奥から「このままでは犯されると、イプシロンは危惧します!」とスクール水着姿な少女・イプシロンが駆けて来た。さらに廊下の奥から「姉たちを置いて逃げる妹がいますか!」と怒声が。この声はアルファだな。

「イプシロン、こっち! 最強の助っ人がここに居る!」

「ルシリオン・セインテスト調査官! 助けてくださいとイプシロンは懇願します!」

半泣きだったイプシロンやデルタを見捨てるわけにもいかず、「こっちだ!」と2人の手を引いて、3つ奥の扉を開けて入る。天蓋付きのベッドや鏡台、脚の長い丸テーブル、アンティーク調の肘掛椅子、ステンドグラスの扉付きキャビネットなどと言った家具がある15帖ほどの部屋。

「えっと、確かあの辺りに・・・あった」

シャンデリア側の天井に天井裏に抜けるための点検口。真下にテーブルを持って来て、「ここから上階に上がるぞ」と伝える。まずは俺から上がり、「ほら、手を伸ばせ」とテーブルの上に立ったデルタに手を伸ばす。

「あ、うん、ありがとう」

デルタの手を取って「あらよっと」軽々と引き上げる。正直、おそろしく重かったが彼女も1人の女の子。重いなんて言われたくないだろうと思い、言葉を呑み込んだ。次に「イプシロン」の手を取り、天井裏へと引き上げる。

「ありがとうございますとお礼を述べます」

「いや気にするな。で? 君らに一体なにが起きているんだ。アルファの怒りの声も聞こえていたが・・・」

四つん這いで天井裏内を移動し、上階へ上がるための点検口を目指しながらそう訊ねる。デルタとイプシロンは水着姿。アルファの怒声からして彼女も水着姿にさせられているんだろうと考えられる。

「何か判らないけど、ヴァルハラ(こっち)に来てからというものアン・アップルトンとかいう奴が、デルタ達の体をいろいろ触ったり着せ替えしたりしてくるの」

「しかもどこに逃げようとも隠れようとも、的確に捜し出してくる反則ぶりに、イプシロン達はもう、心が折れそうです」

「あー、あの女の子好きの・・・」

ある契約先世界で知り合った女性だ。好きなことがセクハラ、好きなものが可愛い女の子と堂々と宣言している、ちょっと残念な思考の持ち主だ。それ以外は普通に良い女性だんだが・・・。

「君たちはエインヘリヤルでの新入りという立場だからな。先輩としてのスキンシップなんだろう」

「えー! だからって会うたび会うたび、おっぱいやお尻を触られるのはノーサンキュー!」

「うんうん」

「そうか・・・。っと、アレだアレだ」

見えてきた上階への点検口の真下に着き、両手を付いて立ち上がりつつ点検口の扉を押し上げて開く。まずは俺が出てリネン室内に入り、室内を隈なく確認、次に廊下への扉を薄ら開けて周囲を確認。誰も居ないことを確認して、「デルタ、イプシロン。いいぞ」と声を掛ける。

「ふぅ。思ったより埃っぽくないから良かった」

「ここは俺の精神世界でもあるからな。常に最適な環境に保たれるようになっているんだよ。・・・とりあえず、ブランケットを羽織っているといい」

リネン室を目指した理由がこれでもある。羞恥心をある程度有しているらしい彼女たちを、いつまでも水着一丁で放置というわけにもいかない。2人は「ありがとう」と受け取り、デルタはパレオのように腰に巻いて下半身を隠し、イプシロンはケープのように羽織って胸部を隠した。

「さて、これからどうし――」

そこまで言いかけたところで「見ぃ~つけま~した♪」と、キィーと木の軋む音を発しながら扉が開いた。ハッとして振り向けば、「ゼータ姉様・・・!」とイプシロンが声を震わせて呼んだ。

(ゼータ。確か、フォルセティによって殺害された少女だったよな・・・)

「デルタ姉様、イプシロン姉様。よくも逃げてくださいましたね。おかげで私はもちろん、アルファ姉様も、ベータ姉様も、ガンマ姉様も、それはもうあられもないお姿に・・・」

ゼータはその艶やかな黒髪に合う和服姿なんだが、和服は和服でも花魁みたくなっていて、両肩を露出している。デルタが「なんでバレたし!」と俺を睨みつけてきた。

「いや、俺もよく判っていないんだが・・・。誰かに見られていた・・・?」

「正解! しっかり見ていたぞ~、ルシル!」

どこからともなく聞こえてくる第三者の声。しかし目に見えているのは、「お尻見えちゃうから~!」と喚くデルタと、「あわわわ!」と慌てふためくイプシロン、そして「この程度の辱めなど・・・!」と、2人のボトムを引っ掴んでいるゼータ。もうひどい混乱だ。

「こっちだ、こっち」

声のする方を見れば、「あぁ、君か、マサムネ」が居た。手の平サイズの小さな女の子で、銀髪ツインテールに眼帯という出で立ちの、スクナと称される神の末裔の1人だ。

「久しぶりだな、ルシル! マサムネがずっと見ていたからな、お前のこと!」

「・・・君も大変な目に遭っているようだ」

「・・・うん」

マサムネもまた、着せ替え人形の如くゴスロリ衣装を着せられていた。彼女も犠牲者の1人というわけだ。

「ゼータ。デルタとイプシロンは捕まえられた?」

「あ、はい。アルファ姉様」

次に姿を見せたのはウェディングドレス姿のアルファだった。彼女は俺に気付くと否や、「神器王ぉぉぉッ!」とベールを脱ぎ棄て、鼻っ面が引っ付くほどに顔を近付け、俺の顔を両手で挟み込んできた。

「なんですか、あの女たちは!? 胸は触るわ、お尻は撫でるわ、服を着替えさせてくるわ!」

「まぁそういう性癖なんだ、許してやれ!・・・ん? 女・・・たち?」

「いくら同姓と言えど許せるものと許せないものとあるわ!」

アンだけでなく、他にもアルファ達“スキュラ”を弄ぶ何者かが居るのか。その正体はすぐに知れた。廊下から「次は何を着せようかな~♪」鼻歌交じりな陽気な声が聞こえてきた。今まさに俺が捜している人物の声だった。

「アルファ、デルタ達は確保できた~?」

「次の衣装も決まってるから・・・」

「「あ」」

俺を見てゼフィ姉様とアンは口をあんぐり。ゼフィ姉様が真っ先に再起動して「ルシル~❤」と俺をハグした。

「お久しぶりです、ゼフィ姉様」

「本当よ! 全くと言っていいほどに逢いに来てくれないんだから! もう!」

姉様の豊満な胸に包まれながら「アンも、久しぶりだな」と挨拶すると、「ええ、久しぶり。ちょっと見ない間に小さくなって♪」と頭を撫でてきた。彼女の身長は163cmだから、完全に俺が見下ろされる立場になっている。

「ゼフィ姉様、捜していたんですよ」

「そうなの? ごめんね、ルシル。それで、どういった用件? それともただお姉ちゃんに逢いたかったとか? だとしたら嬉しいな❤」

姉様の言うように、姉様に逢いに来た~、って話なら喜んでもらえたんだろうが、残念ながらそうではないのだ。姉様にハグされたまま「あの娘を捜しているんだ、ゼフィ姉様」ここに来た理由を伝える。

「な~んだ残念」

名前を口にせずとも俺の思考を読んだ姉様が肩を落とす。“ヴァルハラ”の管理者である姉様なら、“エインヘリヤル”がどのエリアに居ようとも瞬時にその居場所を割り出せることが出来る。

「えっと~、中庭の花壇に居るわね。呼ぼうか?」

そして“エインヘリヤル”への念話も可能だったり、いつでもどこに居ても近くに召喚で来たりもする。が、「いえ。自分で行きます。ありがとうございました」と礼を述べて姉様の胸から離れる。

「え? ちょっ、神器王? デルタ達は!?」

「見捨てるつもりですか!?と、イプシロンは批難します!」

「この女はあなたの姉でしょう!? 何とかしてください!」

「ご慈悲を!」

デルタ達が半泣きで懇願して来るから、「ゼフィ姉様、アン。程々に頼むよ」と頼み込む。ここで散々イジられ、いざ現実に召喚された時に反抗されて寝返られては堪ったものじゃない。

「愛しのルシルからのお願いだし・・・」

「久しぶりに会ったかつての同僚だし・・・」

「「しょうがないか~」」

そう言って肩を竦めた姉様とアン。姉様が「じゃあ今日はもう解散」と指をパチンと鳴らすと、デルタ達の服装が見慣れた制服に戻った。彼女たちは「はあ~~」と長い溜息を吐き、その場にペタリとへたり込んだ。

「ではゼフィ姉様。またいずれ!」

姉様の右手を取って甲にキスをし、手を振り合いながら廊下へと出る。ここは3階だ。階段を使うのもまどろっこしい。両開きの窓を外に向かって開け、地上を見下ろせばすぐに「お、発見!」お目当ての人物を見付けた。窓枠に手を置いて「よっ」と飛び降り、花壇を踏まないように着地する。

「っ・・・!」

花壇に咲き誇っている花々にジョウロを使って水遣りをしている彼女は俺を見て、「久しぶりだな、ルシル」と笑顔を浮かべて挨拶をしてくれた。

「ああ、久しぶりだな。・・・10年も待たせてしまって本当に申し訳なかった。リインフォース・アインス」

ロストロギア・“夜天の魔導書”。初代・祝福の風。名をリインフォース・アインス。アギトも見つけた。あとは君が八神家に戻ってくれば、すべてが元通りとなる。俺の“界律の守護神テスタメント”としての人生が終わるまでに、やっぱり君だけははやて達の元へ帰してあげたかったんだ。間に合って良かったよ。

「迎えに来たぞ。帰ろう、はやて達のところへ」

アインスの今の服装は園芸で汚れても支障の無い、Tシャツとサロペットパンツと麦わら帽子、それにエプロンと軍手という完全武装。そんな彼女に俺は手を差し出た。

†††Sideルシリオン⇒はやて†††

これは夢やってすぐに判る光景が目の前に広がってた。茨に拘束された子供の頃の私、今は亡きリインフォース・アインス。そんでアインスに殴り飛ばされたナハトヴァール・アウグスタ。

(これは10年前、闇の書から夜天の魔導書へ・・・本来の姿へと戻った・・・あの日)

幼い私が拘束された茨から解放されて落下するんやけど、アインスが抱き止めてくれた。そんで激昂したアウグスタを、シグナム達の魔法や技を使って迎撃。血の色に染まってた世界が一変して、星空の海となった。そんであの、私とアインスにとって決して忘れられへんやり取りや。

『災厄撥ねし魂・導き果てぬ絆・希望の守り手、シュリエルリート。これまで多くの災厄を撥ね退けてきてくれたその気高い魂にありがとう。わたしらとの出逢いまで果てること無く導いてくれたこの絆にありがとう。わたしらの未来に光を灯してくれる希望を守ってきてくれたその手にありがとう。かつての主、オーディンさんから与えられたその名を今ここに空へと返上する。そして、新たな夜天の主の名において、汝と魔導書に新たな名を贈る』

ルシル君に名前を考えるように言われた時からずっと考えてた名前。幼い頃の私に考え付ける名前の中で、一番の出来やったって自負してる。

『強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール・・・、リインフォース』

あまりの懐かしさに鼻の奥がツンとする。あれから10年、それともまだ10年。アインスが旅立って今日まで、ホンマに多くの出来事があったな。

「なあ、アインス。話したい事、聴いてほしい事、たくさんあるんよ」

目を閉じて、両手を胸の前で組む。楽しい事も苦しい事も、いろいろな出来事があったな~。思いを馳せ終えて目を開けたところで、「ここは・・・」また場所が変わってた。私が居るのは「海鳴市の私の家・・・」やった。

「うわぁ、懐かしいな~♪」

ミッドに引っ越すことになったから、後ろ髪を引かれる思いやったけど引き払った生家や。門から庭へと入ってくと、「アインス・・・!」が居った。縁側に座って幼い私やルシル君、リインとお茶してる光景。

「(そんな日もあったな~)・・・ん?」

アインスが時折、私を見てる気がする。そやけど、そんなわけないって笑う。これは夢やもん。いや夢やからそんな事があるんかもしれへんな。って思うてたら、アインスが私の方へと歩いて来た。

「アインス・・・?」

私の前で立ち止まったアインスはとても綺麗ない微笑みを浮かべて、私の頭を優しく撫でてくれた。

「アインス!」

ハッとすればそこは六課の寮の自室で、「あ・・・」ベッドの上やった。すぐにベッド側のナイトテーブルの上に置かれてるお出かけバックを覗き込む。リインが起きてへんようでホッと安堵。2人が起きひんようにベッドから降りて、鏡台の上にある宝箱を開ける。

「アインス・・・。私に何か伝えたい事、あったんか・・・?」

鎖が通された待機形態の“シュベルトクロイツ”の両側には指輪が2つある。ソレは夏祭りの露店でルシル君に買った貰ったもので、1つは私、もう1つはアインスの物や。

「・・・夢でもええからもう一度逢いたいな・・・」

そう願いを込めて“シュベルトクロイツ”を首に掛けた。それから日の出までぼうっと過ごした。そんでいつも通りの身支度を始める時間になったところで、髪の毛を櫛で梳いて、局の制服に着替えて、鏡で身嗜みをチェック。

「よしっ」

人の前に出ても恥ずかしないことをしっかり確認。ちょう前に起きたリインも「準備バッチリです!」って宙を舞って私の元へ来た。2人で部屋を出て、まずは食堂へ。食堂に行くまでにシグナム達やなのはちゃん達と合流して「おはよう~♪」って挨拶を交える。食堂に着いて、カウンターから朝食が乗せられたトレイを受け取って、いつもの席に着いてく。私、リインがまず着いて、残りの2席は私の大切な人が座る。

「おはよう~ございます!」

そんなところに元気な挨拶が食堂に響いた。入口を見ればフォルセティとアイリ、そんでルシル君が居った。ルシル君たちとも挨拶を交わし終えた後、カウンターへ向かうルシル君とアイリ、ヴィヴィオの元へ行くフォルセティを見守る。

「ヴィヴィオ、おはよう!」

「おはよ~、フォルセティ♪」

「「えへへ~♪」」

フォルセティとヴィヴィオのやり取りは見てるだけでもう幸せや。生まれなんて関係あらへん。重要なんは生き方や。ヴィヴィオと小さく手を振り合ったフォルセティが戻って来て、アイリやルシル君が自分とフォルセティの分のトレイを持って、「お待たせ」と席に着いたところで・・・

「いただきます!」

私の食事前の挨拶に、食堂に居るみんなも「いただきます!」と続いた。思い思いに談笑しながら食事を進めてると、ルシル君が「八神家一同に連絡」そう言うた。私たちだけやなくてなのはちゃん達も談笑を止めて、ルシル君を見た。

「今日中に10分ほどの時間を俺に欲しいんだ。出来れば全員が揃った状態でね」

朝食後に休憩時間はあるけど、すぐに仕事の準備を始めるもんや。でもルシル君がわざわざ伝えてくると言うことは、かなり重要な話やと思うし。とゆうわけで、八神家はササッと食事を終えて寮の外の庭へ移動する。

「はやて。アインスの指輪を貸してくれないか?」

「え? あ、うん」

胸元から“シュベルトクロイツ”を出して、鎖を一度外して指輪だけを離す。そんでルシル君に「どうぞ」って手渡した。今朝はアインスの夢を見て、さらにはルシル君からアインスの話が出て来た。これは偶然なんやろうか。

「12月25日。10年前、あの娘は本来の名を取り戻し、それと共に新たな美しい名を与えられた。それはある種の誕生日だった」

ルシル君の独白に「リインフォース」って私たちは漏らした。ルシル君は足元にミッドでもベルカでもない魔法陣を展開して、魔法陣上で指輪をポロっと落とした。そやけど指輪は地面に落ちることなく宙にふわっと浮いた。

「正直、タイミングはどうしようかと考えていたんだが、ちょうど今年で10年という節目。運良く複製権限も奪還できたわけだ。なら今年の今日12月25日、やるべきだと判断した」

これから何が起こるのか、ルシル君の話を聴いてるだけで推測できた。鼓動が早くなるのを自覚する。

「おいおい、ルシル。マジか・・・!」

「出来るんですか!? 本当に!」

「すごいすごい!」

ヴィータとリインとシャマルも察したみたいで、テンションがすごい。シグナムが「頼む。アイツもまた、我々の家族なのだ」ってルシル君の肩に手を置くと、ルシル君は「もちろんだとも」って強く頷き返した。

「ルシル君。・・・アインスが、戻ってくるんやんな・・・?」

「ああ。・・・10年前、本当はオリジナルの方を生かしてあげたかったけど、それを成せるだけの技術が俺には無かった。それを見越していた俺は、アインスに贈っていた指輪にある細工をしておいたんだ」

「細工・・・?」

「これから俺が行うのは、アインスのエインヘリヤルの召喚だ。だがエインヘリヤルは本来、登録された時点で現実での記憶が途切れる。アインスも例に漏れずだ。でもな、10年間の思い出を共有できないのはあまりに酷というものだ。だから指輪に細工した。アインスの心は、この指輪のガラス玉に宿っているんだ。そういうわけで、はやてが見ていたものは、オリジナル・アインスの心も見ていたというわけだ」

――私は生き続けます。目には見えないでしょうが私の魂と、みんなを守りたいという意志は主はやて達の魂と共に居て、あなた達を見守り続けます――

アインスが天に旅立つ前に言うてくれたことを思い返す。ホンマにずっと側で見守ってくれてたんやね、アインス。

「では始める。我が世界より来たれ、貴き英雄よ。・・・其は強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール・・・、リインフォース・アインス!」

宙に浮く指輪がアインスの魔力光である深紫色の光球に呑み込まれると、さらに人型の光が発生して、少しずつアインスの形をしてく。そんで一際強い発光と衝撃波が発せられて、「わぷっ?」両腕で顔を覆う。光と衝撃波が治まったとことで腕を下げると、風に靡く長い銀色の髪が真っ先に視界に入った。

「アインス・・・!」

今日までずっと片時も忘れることのなかった家族が、愛しいアインスが、消えてく魔法陣上に佇んでた。アインスの側に立ってるルシル君が私に振り向いた。さらに私の右肩にシグナムが、左肩にシャマルが手を置いた。

「はやて」

「はやてちゃん」

ヴィータとリインも私を見るから、私はコクリと頷いた。私も頷き返して1歩1歩とアインスの側へと歩み寄ってく。アインスは目を閉じたままで、私が触れられる側まで来ても微動だにせえへん。

「ルシル君・・・?」

「契約を。エインヘリヤルは本来、1時間ほどで顕現限界となって消失する。アインスもこのままだとそうだ。手間は掛かるが消失したらすぐに召喚を繰り返す、なんてことも出来るけど、俺だってあと10年も生きられるか判らないような運命を背負っている。俺の死はアインスの消滅にも繋がるからな。そうなる前に、アインスをヴァルハラから解放して、現世に固定する必要があった」

「そんな、ルシル君・・・。そんな悲しいこと言わんで・・・」

ルシル君の制服の袖を掴む。ルシル君は私の手に自分の手を添えて、「はやて。アインスを」って私の手をアインスの頬へと移した。はぐらかされたのは解る。けどアインスを放っておくわけにはいかへんよな・・・。

「(あとでいくらか文句聞いてな・・・)それでルシル君、どうすればええの?」

「ユニゾンすることで契約が成される。以降は指輪を本体として、本来の姿フォーム、小人フォーム、指輪フォームの3形態の姿を取れるようになる。しかし彼女の維持には、彼女自身の魔力は元よりはやてにも少しばかり魔力の負担が・・・ある。いいだろうか?」

「もちろんや! シグナム達とも一心同体やし、アインスともそうなれるなら・・・!」

左手もアインスの頬に添えて、そっと額同士をくっ付けた。そんでアインスとの「ユニゾン・イン」を果たすと、私の内にアインスの鼓動をあるのをハッキリと感じれるようになった。そやけど昔と同じユニゾンの感覚で、契約とか特別な感じはせえへんなぁ~・・・。

「ルシル君、これでええの?」

「ああ。今まさに、契約が結ばれてる最中だ。俺のヴァルハラから完全に切り離されている途中だな。・・・さぁ目覚めるぞ」

ルシル君がそう言うた直後、「っ!」ドクンと心臓が跳ねた。胸に手を添えてると、「ユニゾンを解除してくれ」って言われたことで「ユニゾン・アウト!」をした。私たちの前で改めてアインスが現れた。さっきと違うのは目を開けて、あの懐かしい綺麗な微笑みを浮かべてることや。

「アインス・・・? アインス!」

「はい。お久しぶりです、主はやて!」

「アインス!」

私はアインスの胸に飛び込んだ。背中に腕を回すと、「またこうしてあなたに触れることが出来て嬉しいです」って抱きしめ返してくれた。ホントはもっとこうしてたいけど、感動の再会を私が独り占めするのもアカンよな。アインスの背中を2回、優しく叩くとアインスが手を離してくれたから、私も手を離して距離を取った。

「「「アインス!」」」

「ヴィータ、シャマル、リイン!」

直後にヴィータ達が駆け寄って来た。シグナムとザフィーラも遅れてアインスの側にやって来て「久しぶりだな。また会えて嬉しいぞ」って再会を喜び合った。そんでアインスは、アイリとフォルセティの側へ。

「アイリ。本当に久しぶりだ。お前やアギトと再会するまでは生きていたかったんだが・・・」

「ううん。こうしてアイリ達の目の前に居るのもアインスだからね。アイリも、またアインスに逢えて嬉しいよ♪」

アインスとアイリが握手を交わすと、アイリが1歩下がってフォルセティを前に立たせた。フォルセティは「アインスおねえちゃん・・・?」って呼んだ。アインスの事はアルバムや思い出話で伝えてあるからな。アインスは片膝を付いてフォルセティと目線を合わせた。

「はじめまして、フォルセティ。ああ、私がリインフォース・アインスだ。君ともこうしてお話が出来て嬉しいよ、フォルセティ」

「うんっ!」

アインスにハグされて頭に撫でられたフォルセティが「えへへ♪」って、くすぐったそうにハニかんだ。

「ルシル。お前には感謝しきれない恩が出来たな」

「何を言う。10年以上もヴァルハラに放置していたんだ。それについての謝罪もある。気にしないでくれ」

「いや。ヴァルハラでの生活もまた充実した、とても楽しいものだった」

「そう言ってもらえると助かるよ」

そんでアインスは最後にルシル君と向き合って、ガシッと握手を交わした。それを見届けた私は「ルシル君、フォルセティ、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リイン、アイリ」八神家一同の名前を告げる。フォルセティだけは小首を傾げたけど、ルシル君がコソコソっと耳打ちすると、「うんっ、わかった!」って元気よく返事した。

「主はやて、皆、一体・・・?」

アインスの前に横一列に整列した私たちの様子に、アインスもまた小首を傾げた。大事な家族が帰って来た。それなら私たちは、この言葉でアインスを迎えやなアカンよな。私が「せ~の・・・!」と合図を出して・・・。

「「「「「「「「「おかえりなさい、アインス!」」」」」」」」」

「・・・っ!・・・ああ、ああ! ただいま!」

ルシル君のおかげで、こうして私たちはまたアインスと同じ時間を生きられることになった。ホンマにおおきにな、ルシル君。
 
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