リアリズム
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第八章
「けれど美優ちゃんらしさなくて」
「怖いだけで最期もな」
「凄い形相で首切られたうえで断末魔の叫びだよ」
「何だよあの怖さ」
「完全にホラーだろ」
吸血鬼のイメージ、普通に言われているそれではなくというのだ。
「俺トラウマになったよ」
「俺もだよ」
「あんな美優ちゃん観てな」
「怖いだけで可愛くも何もない」
「奇麗でもないしな」
「折角美優ちゃん使ってるのにな」
アイドルでもかなり人気で可愛いと評判の彼女を起用していてもというのだ。
「あれはないだろ」
「他の演出も怖いばかりでな」
「吸血鬼の奇麗さないよな」
「二回観ようとは思わないな」
「そうだよな」
こうした話をしてだ、興行収益はプラスだったが。
思ったよりよくなくてだ、映画会社の上層部も難しい顔になった。
「今一つか」
「ああ、収益はな」
「作品自体の評価は高いが」
「それでもだな」
彼等も作品を観て言った。
「怖いだけでな」
「リアル過ぎてな」
「あれだけ予算と手間暇かけたが」
「それだけの収益だな」
「ギリギリだな」
「どうもな」
そのかろうじて黒字という状況にも思うのだった。
「いいかというとな」
「微妙なところだ」
「しかもとにかく我が強い」
打越自身の話にもなる。
「脚本家の人やスタッフから評判が悪い」
「スポンサーにも徹底的に逆らうしな」
「一度原作者の人にも門気宇を言った」
「流石に原作者に木を言うとな」
「それは駄目だ」
「原作者は尊重してもらわないと困る」
到底というのだ、このことは。
「今回が最後か」
「あまりにもリアリズムにこだわり過ぎる」
「それがかえってよくないという面も出たしな」
今回の作品でというのだ。
「予算もスケジュールもかかり過ぎる」
「雨が必要だからといって本当の雨は待っていられない」
打越は過去そういうこともした。
「いい映画を制作出来ても問題があり過ぎる」
「これでは駄目だ」
こうなってだ、以後打越は干されることになった。しかし彼はそれでも反省せずに自身のブログやツイッターでリアリスムを言い続けていた。
しかし多くのファンはその彼を見てだ、難しい顔で思った。
「相変わらずだなこの人」
「リアリズムばかりだ」
「予算もスケジュールも考えてないな」
「スタッフのこともスポンサーのことも」
「そうしたことまではな」
監督としてそこまでは考えていないというのだ。
それでだ、彼等はくも思った。
「これはずっと干されるな」
「収益も思ったより出していないいしな」
「いい映画作られてもこれじゃあな」
「どうしようもない」
ブログやツイッターであくまで自説を主張する彼を見て思うのだった、そこに曲がったところはなく一途だったがただそれだけだった。
リアリズム 完
2017・4・17
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