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シビリアンコントロール

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第一章

                  シビリアンコントロール 
 シビリアンコントロール、日本語に訳すと文民統制だ。軍の指揮を軍人ではなく文民即ち政治家が持つものだ。この場合軍の最高司令官は大統領か首相になる、民主主義国家では選挙に選ばれた政治家がなるものだ。教科書では非常に素晴らしいシステムだと書かれている。だが。
 サラーフ王国でナベツーラが首相になったのを見てだ、この国で小説家を営んでいるアストム=ハットゥーシは眉を顰めさせて言った。
「これはまずいぞ」
「と、いいますと」
 担当のオブン=フィルドゥシーはハットゥーシにすぐに問うた。二人共サハラの者に相応しく浅黒い肌に彫のある顔立ち、黒い髪と瞳を持っている。フィルドゥシーの顔は細面で引き締まっていてハットゥーシの鼻の下には口髭がある。フィルドゥシーは彼のその口髭を見つつ自宅でテレビを観て言った彼に対して問うたのだ。尚フィルドゥシーは連載中の作品の打ち合わせで彼の家に来たのだ。
「何かありますか」
「ナベツーラは只マスコミに人気があるだけの奴だ」
「そう言われますと」
「何の能力もない、特に軍事はな」
「あの、軍事といいますと」
 フィルドゥシーは怪訝な顔でだ、ハットゥーシに言った。
「今我が国は」
「オムダーマン共和国と戦闘中だな」
「その中での選挙で」
「マスコミはやたら野党を贔屓していたな」 
 当時の野党だ、そのトップがナベツーラなのだ。
「そしてこれでもかと野党を持ち上げてだ」
「その結果でしたね」
「ナベツーラは政権の座に就いたがな」
「首相になりましたね」
「あいつは只のマスコミの寵児だ」
 かなりシニカルにだ、ハットゥーシはフィルドゥシーにこうも言った。
「只のな」
「マスコミに人気があるだけの」
「この国はマスコミが異常に強い」 
 他の国はネットも普及しているがサラーフは建国当初電力の確保に四苦八苦していたので一般市民のインターネットの使用を厳しく制限したりしていたのだ、情報の為の電力はマスコミが独占していてそれが今にも至っていてマスコミの力が二十世紀後半の様に強いのだ。
「そして与党に厳しく野党に甘い」
「それも極端に」
「しかもナベツーラはだ」
 その彼はというのだ。
「その野党の中でだ」
「極端にですね」
「人気がある、しかしその能力はだ」
 政治家としての資質、それはというのだ。
「全くない、特に軍事はな」
「無能ですか」
「文字通りのな、そして取り巻きもな」
 要するに部下達もというのだ。
「とんでもない奴等ばかりだからな」
「そうした連中が軍隊を動かして」
「そしてだ」
 そのうえでというのだ。
「負けるかもな」
「オムダーマン軍は強いですね」 
 フィルドゥシーはハットゥーシに怪訝な顔になり尋ねた。
「噂では」
「噂というかな」
「実際にですよね」
「あっという間にサハラ西方の他の国を併呑したからな」
 当事者であるオムダーマン、サラーフ即ち彼等の国以外の国をだ。オムダーマンは瞬く間にそこまでのことをしたのだ。 
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