カレーライスかライスカレーか
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第一章
カレーライスかライスカレーか
その洋食屋では今喧々諤々の議論が行われていた、客達はカレーを食べながらそのうえでそれぞれの意見をぶつけ合っていた。
「いや、カレーライスだ」
「違う、ライスカレーだ」
「だからカレーライスだって言ってるだろ」
「ライスカレーなんだよ」
彼等は酔ってもいないのに言い合っていた、その彼等を見てだ。
常連客の一人城之内美稀は首を傾げさせて交際相手の古田洋佑に尋ねた。
「あの人達何言ってるの?」
「何でもな」
洋佑も首を傾げさせつつ美稀に答えた、茶色の神で奥二重の目で白い肌と左の口元の黒子が印象的だ。唇の色はピンクだ。背は一七五程だ。オレンジのブラウスと白いズボンが似合っている。
美稀は黒髪に少し赤をかけていて首の付け根までさらりと伸ばしている、面長で唇は少し突き出た感じだ。二重の切れ長の目と奇麗なカーブを描いた眉が印象的だ。背は一六七程ですらりとした外見である。服装もそのスタイルに似合う青いズボンと白のブラウスだ。
「カレーの呼び方で言い合ってるらしいんだよ」
「カレーの?」
「カレーライスが正しいかライスカレーが正しいか」
「それでなの」
「言い合ってるんだよ」
見れば老若男女がそれぞれ二つに別れて店の真ん中で激しく言い合っている。
「ああしてな」
「そうなのね」
美稀はハヤシライスを食べつつ応えた。
「何ていうか」
「そこからは言うなよ」
下らないとだ、美稀が言うと察してだった。洋佑は注意した。
「絶対にな」
「そうね、それじゃあね」
「まあな」
洋佑はオムライスを食べつつ美稀に話した。
「そういうことでな」
「ああしてなのね」
「言い合ってるんだよ」
「事情はわかったわ」
美稀にしてもと答えた。
「おおよそね」
「ああ、それはそうとしてな」
洋佑はここで話題を変えてこう美稀に言った。
「この店って美味いよな」
「八条町でも有名な洋食屋さんでね」
「老舗なんだろ?」
「大正からのね」
「その伝統のせいかな」
「美味しいわね」
「ああ、オムライスもな」
「ハヤシライスもね」
彼等が今現在食べているそうしたものがというのだ。
「美味しいわ」
「昔ながらの味ってやつでな」
「洋食屋の洋食ね」
「そうだよな、幾らでも食えそうだな」
「そうね、もう一杯おかわりしようかしら」
美稀は自分のハヤシライスを食べつつ言った。
「これはね」
「俺もそうするな、本当に美味いからな」
「もう一杯ずつね」
「食おうな」
二人は今はあえて店の中での議論を無視した、議論はやがて店の親父が他の客に迷惑だから止めろという注意で終わった。これで一旦店の平和が戻ったが。
二人はそれぞれもう一杯ずつハヤシライスとオムライスを食べ終えてだ、店を出て商店街を歩きながらあらためて話をした。
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