有終の美
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第一章
有終の美
カール=マリア=フォンーウェーバーにだ、周りの者達は言うのだった。
「出来ればです」
「止められた方がいいのですが」
「それでもですか」
「やられますか」
「はい」
細面で髪の色は黒い、目は丸く鳶色である。知的な顔立ちである。
しかしその顔は痩せこけておりしかも肌の色も悪い、それは今まさに死のうとしているかの様である。
その顔でだ、ウェーバーは答えた。
「絶対に指揮を」
「されるのですか」
「そのお身体でも」
「是非共」
「そのつもりです、何しろです」
声も弱い、今にも消えそうだ。しかしその声で言うのだった。
「私の作品の上演ですから」
「オベローンの」
「だからですか」
「その指揮はです」
弱い声だがそれでもだった、ウェーバーは踏ん張る様にして言う。
「作曲者である私が」
「務められる」
「何としてもですか」
「そうします」
こう言って退かなかった。
「何があっても」
「その身体でも」
「それでもなのですね」
「指揮をされますか」
「絶対に」
「そうさせて下さい」
頼みもした、周りに。
「あの作品の指揮は」
「オベロンのですか」
「是非共」
「そうされると」
「そうです、何とかです」
また頼んだ。
「やらせて下さい」
「そのお身体では厳しいと思いますが」
「それでもですね」
「指揮をされますか」
「そのおつもりですか」
「はい、私の作品なのですから」
作曲した作品だからというのだ、そのオベロンが。
「そうしなければ」
「ですが貴方は」
周りの者のうちの一人がここでウェーバーを気遣って彼に言った。
「肺の病で」
「労咳ですね」
「それもかなり酷い」
「わかっています」
蒼白の痩せ細った顔での返事だった、ただ目だけは大きく光もまだ保っている。弱い光であっても。
「私の命もです」
「残念ですが」
「それでもです」
「指揮をされますか」
「むしろだからこそです」
命が短いことがわかっている、だがそれ故にというのだ。
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