魔法少女リリカルなのは ~最強のお人好しと黒き羽~
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第三十一話 魔法
――――管理局の協力を経てから、ジュエルシード捜索は今まで以上に順調に進んだ。
アタシ達が学業に専念している間、管理局の皆さんがジュエルシードを捜索して、アタシ達に連絡が来ればすぐに回収に行ける。
今まではジュエルシード自体が何かしらのアクションを起こさないと探し出せなかったから後手に回っていたけど、今は大きな被害を出さずに捜索できている。
だけど、ジュエルシードが見つかっても、見つかった時には既に手遅れだったこともある。
アタシたちと敵対し、別の事情でジュエルシードを集めているフェイト・テスタロッサと、イル・スフォルトゥーナの存在。
彼らもまたジュエルシードを見つけて、アタシたちより先に入手していることもあった。
先に見つけた者勝ちの状態がしばらく続いているけど、お互いに気づいている。
発見されていないジュエルシードは残りわずか。
それを見つけ、入手した瞬間、お互いの狙いは少し変わる。
ジュエルシードの捜索から、ジュエルシードの奪い合いに変わる。
そしてそれは、アタシたちと彼女たちの戦いを意味していた。
そんな予感を抱きながら過ごす日々、ジュエルシードが中々見つからなくなっていた。
まだ相手側も発見できていないジュエルシードが必ずあって、だけど管理局でさえ見つけ出せずにいるみたい。
ジュエルシードが見つからないもどかしさ。
それとプラスして、アタシたちを不安にさせることがあった。
お兄ちゃ……黒鐘先輩が目を覚まさないでいた。
アースラに備わっている医療機器を用いて先輩の身体を調べてもらっても、治っていない傷や、脳に障害となる症状は見当たらなかった。
健康状態良好にも関わらず、先輩は眠りから覚めない。
原因は不明。
命に別状なしで植物状態でもない。
目を覚ますだけで全てが解決するはずなのに、その一つが叶わない。
『姉弟揃って目を覚まさないと、不安になる』。
お姉ちゃんがそう言って、アタシたちは先輩が先輩のお姉さんと同じように、ずっと目を覚まさなかったらどうしようって不安になった。
だけど、不安になる反面、確信めいたものもある。
先輩は必ず目覚めてくれる。
目覚めない不安と、必ず目覚める確信。
複雑な感情を胸に抱きながら、アタシたちは彼の目覚めを待つ。
魔導師として、そして一人の学生として――――。
*****
それは、学生として過ごす日々のこと。
「アンタ、いい加減にしなさいよっ!?」
放課後の校門前で、聞き覚えのある女性との怒声が響き渡り、下校途中の近くにいた学生の視線を集めた。
それはアタシとお姉ちゃんも同じで、少し離れたところから響いた怒声の方を向いた。
「アンタ、あたしたちの話し聴いてるの!?」
再び響く怒声。
そこに視線を向けると、アタシのクラスメイト三人が視線を集めていた。
高町 なのはさん。
月村 すずかさん。
そして怒声を出していたアリサ・バニングスさん。
三人ともクラスでも有名な三人組で、こうしてアリサさんがキレてる所を見るのも珍しくない。
だからか、見慣れている同級生の人たちは『なんだ、また喧嘩か……』と呆れ混じりの様子で下校していった。
知らない人達が何事かと野次馬となっている。
アタシとお姉ちゃんも見慣れているけど、野次馬になった。
それには理由があって、
「私たちのせいね」
「お姉ちゃんもそう思う?」
「ええ」
喧嘩している時期や、私たちの共通の事情を考えればきっと、高町さんが怒られているのはアタシたち『魔導師』のせい。
ここでアリサさん達の中に介入しても、火に油を注ぐだけになるという考えは、アタシたち共通の理解になった。
だから高町さんには申し訳ないけど、アタシたちは野次馬にも仲裁側にもなれず、逃げるように背を向けて歩き出した。
こんな時、黒鐘先輩だったらどうしたんだろう?
あの中に飛び込んで、解決させてしまうのかな?
自分に責任があると理解していながら。
アリサさんの怒りが増すだけになるかもしれないとしても。
それでも黒鐘先輩だったら、解決させてしまうのかな?
できるのだとしたら、一体どんな言葉を放つのだろう?
「……柚那?」
「え?」
俯き、タラレバのことばかりを考えていると、お姉ちゃんがアタシの顔を覗き込んできた。
「心配事?」
「う~ん……タラレバのことを考えてた」
「タラレバ?」
お姉ちゃんと肩を並べて歩きながら、考えていたことをそのまま話した。
「黒鐘先輩だったら、こんなにモヤモヤすることをしないのかなって。 ほら、黒鐘先輩って無視するの苦手だし」
風を使う魔導師のアタシが、アリサさん達の空気を読めない情けなさを感じながら。
アタシのような力がないのに、空気を読んで動ける黒鐘先輩。
劣等感を感じることを素直に話すと、お姉ちゃんが珍しく笑った。
「ふふ」
「な、なに?」
別に笑わせるつもりで話したわけじゃないだけに、突然笑われたことにアタシは首をかしげる。
するとお姉ちゃんは不敵に微笑んで私を見つめる。
「柚那、口を開けば黒鐘のことばっかり」
「な……っ!?」
な、ななな……っ!?
「なななななっ!?」
「思考が現実に出てる」
「お、お姉ちゃん!」
「どうしたの?」
知らないふりをしてお姉ちゃんはアタシの表情を観察するように見る。
ああ、きっと私は今、凄く顔を真っ赤にしている。
こんなにも全身が暑いから間違いない。
「ア、アタシは別に、黒鐘先輩ばっかりじゃ……」
必死に弁解しようと頭の中で言葉を選んでいくけど、動揺した心は竜巻が吹き荒れるがごとく荒れていて、まともな単語がでない。
だから声もどこか自信のない感じに弱々しくなってしまって、
「でも今、黒鐘のことを考えてた」
そしてそれがお姉ちゃんの悪戯心を刺激しているようで、その表情は小さな変化だけど、楽しんでいるのが見て分かる。
姉妹ってそういうのがわかってしまうから、たまに厄介。
「そうやって先輩呼びするの、いつまで続けるつもり?」
「……」
だから今の言葉が悪戯ではなく、真剣な想いで聞いてることも分かってしまう。
いっそ今の言葉も悪戯からのものなら、アタシは適当に言い訳出来たと思う。
だけど、分かってしまったら嘘は付けない。
「答えが出せるようになるまで」
だから本当に思っていることを言葉にする。
アタシが黒鐘先輩に対して抱く感情。
色んなものがあって、ハッキリしてるものや曖昧なものがある。
それはきっと、あの人に会えなかった五年の時間が、アタシの中にある感情を複雑な形にしてしまったからで。
今は失った五年を取り戻すような時間を過ごしていて、複雑になった感情を正しいものに直している最中だから、黒鐘先輩と呼んで少しだけ距離を取る。
決してあの人のことを嫌ったり怒ったりしてるわけじゃなくて、アタシがアタシなりの答えを出すまでの間にそうしようとしているだけ。
私がちゃんと胸を張って、あの人の隣に立つために必要なことだと思ったから。
「答えがちゃんと出ないうちにお兄ちゃんって呼び続けたら、それに甘えそうになるから」
これはアタシなりの決意だから。
「……そう」
答えを聞いたお姉ちゃんは私から視線を外し、夕焼けの空を見上げた。
「……桜、もうすぐ終わる」
「……」
お姉ちゃんの言葉に反応して、私も空を見上げる。
空はそよ風に乗った桜の花びらが舞っていて、夕焼け色と混じり合って複雑な色をしていた。
風に流れる花びらを追っていると、道路を挟んだ先に立つ桜の木を見つける。
そこはほとんどの桜が散っていて、青葉もチラホラと見受けられて、桜の時期の終わりが迫っているのを実感させられる。
確か、お兄ちゃんと再会した頃はまだ、桜が満開の場所が沢山あった。
桜が舞い散る景色と、四季があることに驚いたのが去年のこと。
アタシの出身世界は桜がなくて、四季がない。
毎年温暖な気候で、ある時期に雨が降り続いて、ある時期にその時期だけの植物が咲いたりする世界だった。
だからこの世界に来て、一年に四回も大きく季節が変わることに驚いた。
そして同時に、季節の終わりが切ないことを知った。
特にこの時期、この季節。
春の桜が咲いて、そして散っていくこの時期。
「……あっという間、なんだね」
時間はゆっくりと、だけど確実に進んでいる。
黒鐘先輩と再会した、桜の咲いていた時期から時間は進んでいて、もうすぐ全ての桜が散り終わる。
同じままではいられない。
「柚那も私も、変わっていく」
「うん」
お姉ちゃんの言葉が、心に染みていく。
アタシたちは変わって、いつか何かになる。
お姉ちゃんはきっと道場を継いで、アタシはその補佐をする。
――――本当にそれでいいのだろうか?
今、黒鐘先輩に対する気持ちすら曖昧な私が、本当にそんな未来に行き着くのだろうか?
「柚那」
「なに?」
数歩早足で私の正面に立ったお姉ちゃんは、春の向かい風に髪をなびかせながらこちらを見つめる。
「黒鐘のこと。 道場のこと。 全部、答えは一つじゃないから、色々考えて答えを出して」
それは真剣だけど、厳しさよりも優しさを感じさせる、お姉ちゃんの顔だった。
お姉ちゃんの言葉が風に乗ってアタシの全身にぶつかって、アタシの中にあるモヤモヤしたものを振り払っていったような気がした。
ああ、お姉ちゃんは分かっているんだ。
アタシが何に悩んでて、どうして答えがでないのか。
そんなアタシにお姉ちゃんなりの言葉で伝えてくれたんだ。
「うん。 ありがとう、お姉ちゃん」
「ふふ。 帰ろ?」
「うん!」
アタシは小走りでお姉ちゃんの隣に向かい、また肩を並べて歩き出す。
もしかしたら将来、こうしていられなくなるかもしれない。
未来は何もわからない。
春の次が夏になるような、確定した未来はアタシたちにはない。
春からいきなり冬になったりする。
もしかしたら四季そのものがなくなるかもしれない。
そのくらい、アタシたちの未来は分からなくて曖昧だ。
なら、こうしている時間は大事にしたい。
そして大事にしているものは、大切にしたい。
だから、
《雪鳴! 柚那! ジュエルシードが見つかったからすぐにアースラに来てくれる?》
「ユーノの念話……」
「うん。 お姉ちゃん、行こっ!」
「ええ」
だからアタシは――――大切な者のために走る。
*****
雪鳴さんと柚那ちゃん、そしてユーノ君と合流して、指定の場所に移動すると私たちは地上からアースラの管制室にワープした。
景色は一瞬で全く違うものに変わる感覚は、最初は混乱して乗り物酔いみたいな感覚になったのを覚えてる。
今は慣れて何も感じないってことは、それだけここにこうして来ることが、習慣とか当たり前のことになってるってことだと思う。
そんなことを思いながら管制室を見渡すと、すでに中は慌ただしくしていた。
それを見てユーノ君がデスクと向き合ってる女性、エイミィ・ミリエッタさんのもとに向かって状況を聴きに言ってる。
私たちは職員さんたちの邪魔にならないよう、壁際に移動してモニターに視線を向けた。
中央奥に管制室の端から端まで、下から天井まで広がる大型の電子モニターに流れる映像がその原因で、私たちがここに来た理由。
映像には、ジュエルシードが発生させた“それ”と戦う、私たちの知る三人の男女の姿があった。
小伊坂君よりも真っ黒な印象と歪ませたような笑顔が特徴の男の子。
三人の中で一番背の高いオレンジの髪をした女性。
そして、金髪の髪がと黒い衣装を身にまとった女の子。
オレンジ色の髪の女性と金髪の女の子は連携しながら戦って、黒い男の子は一人で暴れてる。
場所は地上が見えないから、きっとどこかの海。
空は分厚い雲に覆われて光が遮られてるから、昼間なのに周囲を凄く暗くさせてる。
海鳴で経験したことがないくらい強烈な雨と風、そしてどんな建物でも飲み込んでしまいそうなくらい大きな津波。
そんな場所で一番目立つのが、モニターに映る三人が戦っている敵で、この異常気象の原因――――海から曇天まで伸びる巨大な七つの竜巻。
きっとジュエルシードがそのエネルギーで発生させたのがそれで、それが原因で豪雨と強風を生み出してる。
これが地上で、人の多い町に来たらなんて、考えただけで震えちゃう。
それくらいの竜巻は、三人の魔法を受けてもダメージを受けた様子はない。
黒の男の子の攻撃が竜巻を横に真っ二つに斬ってみても、切断された所から新しい竜巻が生まれて効果がない。
竜巻からは細長い竜巻が生まれて、植物のツルのように伸びて三人を襲ってくる。
それを回避したり、迎撃したりしながら対応しているけど。
「ジリ貧」
雪鳴さんの冷静な一言に、私たちは頷く。
私も、戦った数はみんなより少ないけど、少ない私でも分かるくらい、状況はよくない。
それに加えて雪鳴さんと柚那ちゃんの表情に目を向けると、二人は黙ってモニターに映る状況を凝視している。
きっと頭の中であれとどう戦うかシュミレーションしてるんだ。
私はまだ、あの状況を打破する発想は浮かばないけど、二人のシュミレーションの中に入れるようにはなりたいと思った。
あの状況を打破する一手に私の力が、役立てるといいなと思っていると、私たちの前にリンディさんとクロノ君、そしてケイジさんが集まった。
「お待たせしてごめんなさい」
「いえ。 それより、私たちも現場に行きたいんですけど」
状況は一刻も争うのは十分に理解できた。
今のままじゃ、あの三人が危ないし、ジュエルシードの回収も難しいと思う。
でも、私たちが行けばどうにかなるかもしれない。
「いえ、それには及びません」
そんな私の考えは、リンディさんの冷たい一言で停止した。
「え……それは、どう言う意味ですか?」
「皆さんは現場に行かなくて結構、そういう意味です」
「邪魔になる?」
リンディさんの言葉に対してすぐ、雪鳴さんが問うとリンディさんは首を左右に振って否定すると、隣にいたクロノ君がリンディさんの言葉を引き継ぐにように話す。
「放っておけば、彼らは自滅する。 しなければ、力を使い果たしたところを叩けばいい」
「彼女たちを犠牲にする。 そう言いたいんですね?」
クロノ君と柚那ちゃんの言葉に、私はショックで言葉を失った。
それは、何にショックを受けたのか私自身もよくわからない。
卑怯だと思ったから?
三人を見捨てるから?
ハッキリとした答えはないけど、この胸の中にあるモヤモヤとした感情はなんだろう?
分からないけど……分からないけど、何もしないで三人が……特に金髪の女の子が傷つく姿を見るのは、嫌だ。
「納得いってねぇ顔だなぁ……」
ため息と共に言葉を漏らすケイジさんに、クロノ君は真剣な顔で、私たちを鋭く睨む。
その視線に気圧されそうになりながら、クロノ君の言葉に耳を傾ける。
「僕らの目的はジュエルシードの回収だ。 彼らが持ってるものも例外じゃないし、こうして全員揃ってるなら、まとめて取り押さえたほうが効率がいい。 抵抗しづらくなるほど疲弊してくれれば、こちらとしても確保は楽になる」
それは色んな事件を経験して、ちゃんと解決させないといけないクロノ君たちの経験がだした答えなんだ。
だからきっとそれは間違いじゃなくて、正しい答えなんだ。
それなのに、どうしてこう、辛いんだろう。
――――私は理数系が得意だ。
数字には絶対の答えがあって、答えのための方式も絶対にある。
計算からだした答えはウソをつかないし、否定することなんて考えたこともなかった。
きっとクロノ君の出した答えは、今までの経験から導き出した絶対の答えなんだ。
クロノ君の答えに従えば、ジュエルシードは全部揃う。
それでユーノ君の願いは叶って、事件は解決するはず。
それはきっと良い事――――、
『きゃっ!?』
『フェイトっ!?』
――――っ!?
モニターから響く悲鳴と叫び声に、私の考えは吹き飛ばされた。
金髪の女の子の悲鳴は、私の中の――――記憶に届いて、私の考えを否定するような言葉が出た。
「違う」
呟く程度の小さな声でだそうと思ってたのに、思った以上にハッキリと響く声で、周囲にいたみんなの耳に届いた。
だけど私は言い直すことなく、言葉を続ける。
「クロノ君の言葉。 リンディさんたちの考えは、正しいけど……違う」
違う。
そう、ハッキリと否定する。
私は正しいことを、正しいと理解できない。
ここで正しいと理解することが、正しいことだと思わない。
「……僕らのやり方に従えないのか?」
クロノ君の目が、怒り混じりにこちらを睨んでくる。
でもさっきみたいに気圧されたりしない。
私はもう、私の意思を持ったから。
「あの子、凄く辛そうな顔をしてるの。 悲しそうな顔をしてるの。 そんな、見てられない」
「見たくねぇもんなら目を瞑りゃいい。 聞きたくなきゃ耳を塞げばいい。 そうはできねぇか?」
ケイジさんの言葉も、私の意思を揺るがすことはできない。
だから首を左右に振って否定する。
「きっと目を閉じても、耳を塞いでも、見えるし聞こえてくるの。 あの子の辛い顔と、悲しい声が」
そして何より――――。
「そんな姿を見せられたら、放ってなんかおけないよ!」
私は、感情だけでクロノ君たちの考えを否定してる。
子供のワガママにしか聞こえないはずだ。
私のワガママで、管理局の皆さんに迷惑をかけちゃう申し訳なさは、もちろんある。
それでも、そんなことがどうでもよくなっちゃうくらい、あの子のことが気になるんだ。
今にも泣きそうで、それを我慢してるあの子が。
私は会いたい。
あの子に。
そして伝えたい。
そうだ――――伝えたいことがあるんだ。
「私、行きますっ!」
そう叫んで、私はクロノ君たちに背を向けて、ここに来る時に使った転送エリアに向かって走り出した。
「ま、待て――――っ!?」
私を止めるために走り出そうとしたクロノ君は、目の前に現れた人によってそれを停止した。
「なのは、行って!」
「ユーノ君!?」
私とクロノ君の間に入るように、ユーノ君が両手を左右に広げて現れた。
クロノ君を睨みつけ、進行を妨げる。
「……君たち、自分が何をしでかしてるか、分かっているのか?」
「分かってる。 って言っても、信じてもらえないと思う」
「ならなぜ?」
クロノ君の問いに、ユーノ君は笑みで答えた。
「僕は、なのはの考えが正しいと思ったから」
「ユーノ君……」
その言葉に、心が軽くなった気がする。
私のしてることは子供のワガママで、大人の皆さんに迷惑をかけてるだけだと思ってた。
それは迷惑だらけで、誰も理解してくれないんだって。
でも、いたんだ。
私のワガママを理解して、味方になってくれる人が、私にはいたんだ。
――――あの子も、この感情を理解して欲しい。
強い願いを込めて、私は転送エリアに足を踏み入れて、ユーノ君の方を向いた。
「え……!?」
すると、壁になっていたのはユーノ君だけじゃなくなっていた。
雪鳴さんと柚那ちゃんも、ユーノ君の横に立ってケイジさんやリンディさんの行く手を阻んでいた。
「行って。 あなたの優しさがあれば、あの子を救える」
「雪鳴さん……」
「アタシたちもすぐに向かうから。 一人じゃないからね!」
「柚那ちゃん……」
二人は優しい笑顔で、私を見送ってくれた。
嬉しかった。
胸いっぱいに、嬉しいって感情が溢れていく。
気を抜いたら泣き出しちゃいそうな、そんな気分が私の心を満たしていく。
転送エリアの効果によって景色が変わって、私は雲よりも上空に身を投げ出して、落下していく。
雲の上って、曇天の地上と違って青空が広がってる。
雲一つあるかないかで、こうして景色が変わる。
私はそれを知って、凄く驚いた。
どれだけ強い雨でも、どれだけ激しい雷でも、どれだけ強い嵐でも、――――雲を一つ突き破れば、世界はこんなにも綺麗なんだ。
そんな感動を思い出しながら、私は首にぶら下げた赤くて丸い宝石――――レイジングハートを握って、天にかざした。
「風は空に」
風が私を、優しく包み込む。
全身を撫でる風は、私の高揚する身体を冷ましていく。
そして身体は羽が生えたように軽くなる。
「星は天に」
風の次に魔力が私の全身を包み込む。
それは私の衣服をバリアジャケットへ変えていき、身体能力を強化させる。
強化された目で空を見ると、青空なのに無数の星が見える。
沢山ある星の中には、私と同じ沢山の人が生きて、暮らしている。
ユーノ君も、雪鳴さんも、柚那ちゃんも、クロノ君やリンディさん、ケイジさん。
ジュエルシードを奪い合ってるあの人たち。
金髪の女の子も……そして、小伊坂君だって。
あの星のどこかで生まれた、別々の世界の人なのに、こうして一つの場所に集まって出会えた。
そんな奇跡を、私は大切にしたい。
この手の魔法はきっと、そのためにあるんだ。
「不屈の魂はこの胸にッ!」
大切なものを守りたい。
そのためには、色んな障害がある。
だけど私は逃げない。
絶対に諦めない。
立ち向かい続ける。
そのための力はこの手にある。
「この手に魔法を!」
魔法と言う、奇跡の力。
私に空を見せてくれて、出会いをくれた力。
この力で私は――――、
「レイジングハート、セットアップ!」
悲しい運命を、撃ち破って見せる。
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