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強欲探偵インヴェスの事件簿

作者:ごません
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プロローグ

 
前書き
 ども!ごませんです。久しぶりに真面目(?)な小説を書きたいと思いまして書き始めた次第です。飯テロ要素は少ないとは思いますが、よろしければお付き合いくださいm(_ _)m 

 
 ガチャリ、と重厚な音を立ててその男は入ってきた。身の丈は2mに届こうかという上背に、幅広のハズのドアが窮屈そうに見える程の横幅。まるで、岩の塊がそのまま動いているのでは?とさえ錯覚しそうなその男は、油断なく周りを警戒するようにキョロキョロと鋭い眼光を飛ばしている。その顔は樫の木を削り出して作ったかのように武骨で、ウルフカットと言えば聞こえはいいが、どう見てもざんばらに刈り込んだようにしか見えない黒髪と、揃いの黒い瞳がそれを人の顔だと認識させてくれる。そしてまた、彼の纏う装備品も彼の迫力を増させている原因の1つであった。

 旅装のきほんであるマントは羽織っている物の、その下に着込んでいる鎧は金属で作られたプレートメイルでも無ければ、動物の皮を鞣して作られた皮鎧でもない。一見するとその質感は岩。岩を削って作られたようにすら見える暗灰色の鎧。しかし知識のある物からすればその鎧がとんでもない逸品だと気付かされる。

「おい、アレってまさか……」

「あぁ、鎧竜の甲冑だ」

 ジロジロと無遠慮にその男を観察していた酔っ払いらしき男達が、小さく言葉を交わす。鎧竜……モンスターの跋扈するこのイシュタルと呼ばれている世界でも、上から数えた方が早い強さを誇る種族・飛竜種。その中でも巨体とその甲殻の堅牢さから鎧竜の名で呼ばれる飛竜の素材をふんだんに使った鎧と兜、一揃いの防具。それだけの物を揃えるには、一頭や二頭そのモンスターを屠ったとしても足りない。そして鎧が一級品であるならば、武器もまた業物。

 その大男が振るうに相応しいサイズの大剣がその広い背中に背負われている。鈍い鋼色に輝くソレの表面には、何やら幾何学的な紋様が彫られている。魔術師の素養がある物が見れば武器などに『属性』を持たせる為の魔術回路を形成していると気付く事が出来るだろう。そしてその属性は『雷』。一度振るえば紫電が迸り、敵を感電させるだけの電流が流れる事が容易に窺える。そして魔法を纏わせた『魔剣』と呼ばれるその剣が、そこらの装備とは一線を隔す高級品である事もまた事実。それだけで男は只者ではないのだ、と雄弁に物語っていた。




「ようこそ、ミナガルド冒険者ギルドへ……って、ハリーさんじゃないですか!お久しぶりですねぇ」

 この偉丈夫はハリーという名前らしい。しかも中々の有名人のようだ……まぁ、この容姿で目立たないという方がどだい無理な話ではあるような気がするが。

「あぁ、かれこれ3ヶ月ぶり位になるか?」

「指名依頼の火竜の番(つがい)討伐に向かって以来ですもんねぇ!……にしても、帰り遅すぎません?」

 ハキハキと高いテンションで喋り続けるギルドの受付嬢。やはり接客業の為か、かなりの上玉である。シャープな輪郭に目鼻立ちの整った顔。それだとキツい印象になりそうだが、人懐っこい笑みを浮かべている彼女にはその気配が微塵もない。毛先がクリンと丸まった亜麻色の髪が彼女なりのチャームポイントらしい。ボディラインも出る所は出て、引き締まっている所は引き締まっている。出ている所は丸みを帯びて、実に女性らしいシルエットを見せる。特に胸は少し動く度にユサリと動く程に大きく、ウェイトレスの制服かと見間違えそうなデザインのギルドの制服をはち切れんばかりに虐めている。当然ながらこのギルドの看板娘よろしく、粗暴な野郎の集まりであるハンター達からは絶大な人気を誇る。

「まぁ、指名依頼は急ぎだったんでな。転移陣を使わせてもらった……交通費は依頼者側持ちだったし」

 危険なモンスターが跳梁跋扈する世界で、人間が対抗する為に生まれたのが『魔法』である。自然界に溢れる『マナ』と呼ばれるエネルギーと、自分の体内にある『オーラ』を反応させ、自然現象等を引き起こす奇跡の力である。魔法を専門職とする『魔導師』だけでなく、簡単な魔法であれば一般人でも使える程度には普及している。そんな魔法社会において、長距離を一瞬で移動してしまうのが転移魔法である。

 大規模な魔法的装置を用いて、大都市間を繋いでいるこの交通網は、現代の感覚で言えば新幹線が近いだろうか?一瞬で目的地に着いてしまうので、情緒も何も無いのだが。しかも転移魔法の利用には高額な利用料が掛かる。人間同士の争い……戦争に容易く利用できてしまうからだ。敵地のど真ん中にいきなり大軍団を送り込む事すら可能にするこの魔法的装置は、各国によって厳しくその利用を制限されている。一般人でも利用できなくはないが、その分高額な利用料を設定して使用する人を制限しているのだ。

「依頼はすぐに終わったんだがな……帰りはゆっくりと歩き旅さ。ついでに地方の寒村回って、塩漬けになってる依頼を片付けながらな」

 何度も言うが、このイシュタルという世界はモンスターの溢れる世界である。そんなモンスターを狩って貴重な素材を集めたり、地域の安全を確保するのが冒険者の役割だ。当然ながらその冒険者を纏めるギルドは、規模の大小はあれどもどの市町村にも存在する。しかしながらその規模の大小がネックであり、ギルドが頭を悩ませている問題でもある。

 冒険者とて人であり、生活が掛かっている仕事なのだ。当然ながらいい暮らしがしたいと思えばその足は自然と大都市に向かう。都市が大きければギルドの規模も大きく、舞い込む依頼も多種多様。稼ぎ口が多いのだ。中には、故郷に愛着を持って村に居着きの冒険者として定住する者も居るが、絶対的に数が足りていない。その上、居着きの冒険者の手に余るような依頼や、見返りとなる報酬が少なすぎる依頼は無視される傾向が強い。冒険者とて仕事なのだ、名誉よりも実益を優先するのが大多数。死んだら元も子もないのだ……当たり前だが。一部の冒険者は英雄願望にほだされて、難しい依頼をこなそうとする輩もいるが殆どはモンスターの胃袋に消えるか、野垂れ死にである。

 そんな世界だからこそ、難しくて実入りの少ない依頼は長期間放置され、冒険者達の間では漬けすぎて塩っ辛くなってしまった野菜になぞらえて『塩漬け依頼』と揶揄される。そんな依頼をこの強面の巨漢冒険者は優先的に片付けているのだ。それに見合った実力に加え、困っている人を放っておけないという生来の気性が、彼にそうさせているのだ。顔に似合わず他人に優しく、出来る限りの全力を尽くす……そんな彼を地方の村では『勇者』だとか『英雄』だと呼ぶ者も少なくはない。本人はただの苦労性だ、と思っているのだが。




「くわ~!さっすがハリーさん、実力もあるのに自惚れないし、わざわざ塩漬け依頼を片付けてくれるなんて……よっ、冒険者の鑑っ!」

「褒めても何も出ないぞ、ベッツィー。そんな事よりも道中討伐したモンスターの精算を頼む」

 カウンターにドカリと置かれた革袋の中には、多種多様なモンスターの部位が入っている。これは『討伐証明部位』と呼ばれる物で、そのモンスターを討伐した、という証である。依頼を達成した証明にもなるし、移動の道中に襲ってきたモンスターを討伐した褒賞金にもなる……重要な物だ。勿論、それを誤魔化して楽に儲けようとする不届き者もいるのだが、ギルドがしっかりと鑑定・査定するので不正は直ぐに暴かれ、不届き者は相応の罰を受ける。資格の剥奪だったり、最悪の場合は賞金首にされて他の冒険者に狙われる事になる。世知辛い上にヤクザな世界なのだ、ここは。

「うわ、これまた大物ばっかり……これは査定に時間かかりますよ?」

「いいさ。俺もさっき帰ってきたばかりだ、久しぶりに美味い物でも食って、のんびり待ってるさ」




 そう言ってハリーは受け付けを離れ、併設されている酒場に向かう。冒険者というのは酒好きが多い。依頼を達成すれば祝杯を上げ、失敗すれば反省し、次へと切り替える為に仲間と杯を交わす。酒とハンターは切っても切れない間柄である。そんな冒険者ギルドに酒場が併設されている、というのは何ともちゃっかりした話である。ギルド直営の酒場だから品質もしっかりした物であるし、仕事終わりに移動する手間が無いというのが大きなメリットであり、今日も酒場は冒険者でごった返している。

「らっしゃい……ってハリーじゃねぇか!いつ帰った?」

「あぁ、ついさっきな。元気そうだなマスター」

 言葉を交わしているのはこの酒場をギルドから任されているマスターだ。元冒険者であり、怪我を理由に引退した後にこの酒場を任されるようになった。見た目は筋肉質でスキンヘッド、額より少し上から左の頬にかけて大きく残った傷痕が迫力をプラスしている。盗賊の首領、と言われて疑う人が何人いるだろうか?という位には厳つい見た目をしている。

「それで?何か食ってくんだろ?」

「今日のオススメは?」

「そうだな……草食竜のステーキでどうだ?」

「んじゃあそれと、ジャリライス大盛り。それとエールね」

「おいおい、そんな駆け出しのヒヨッコが食うようなモン頼まなくても良いだろうが。儲けてんだろ?」

「いいだろ別に、好きなんだから」

 少しブスッとしながら、注文を待つ為に席を探す。カウンターは元より、円形のテーブルに酒樽を利用した椅子が4つずつ置かれたテーブル席もほぼ満杯。辛うじて埃を被ってそうな隅の席が空いているのを確認し、ドカリと少し乱暴に座る。汚れているのではないかと疑っていたがそんな事はなく、テーブルも椅子も綺麗に磨かれている。あのマスターは顔に似合わずマメで綺麗好きなのだ。

「お待たせしました~!草食竜のステーキと、ジャリライス大盛り。それとエールです……そしてお帰りなさい、ハリーさん!」

「あぁ、ただいまパティ」

 ハリーが注文した料理を届けに来た給仕のパティに、ハリーは笑みを返した。ギルド職員の制服と良く似たデザインの制服を着こなし、元気いっぱいにちょこちょこ動くパティも、隠れた人気を誇る。大人の魅力に溢れるベッツィーに対して、元気一杯の娘を見ているような、ほっこりとした気分にさせられるのだ。年の頃は14、5と若い為にあんまりスケベな視線を送っているとロリコン扱いされて変態野郎だと噂される為、控えている物が多いが、そんなの知るかとばかりにセクハラを働こうとする剛の者もいるが。

「きゃあ!何するんですかっ!」

 そして今も、パティの尻を撫でようとした冒険者の一人がパティの持っていた金属製のトレーで手痛い反撃を受け、周りにいたハンターに袋叩きにされている。さながら、

『ウチの娘に何しとんじゃゴルァ!』

 という声が聞こえてきそうである。どの世界でもYESロリータ、NOタッチは不変の合言葉のようである。そんな騒がしい様子を眺めながら、ハリーは食事と向き合った。

 熱い鉄板の上でジュウジュウと音を立てているステーキ。これは草食竜の肉であり、この辺りではポピュラーな肉である。牛や豚、鶏、羊、ヤギ等の家畜もいることはいるのだが、如何せんモンスターに襲われる被害が多いので高級品なのである。ならばと、ハンターが多い街などでは常時貼り出される依頼として、肉食竜を討伐・解体してその肉を納品するという依頼がある。草食竜は大人しく、初心者向けの相手でもあり、解体の技術を学ぶにはうってつけ。金を稼いでいい装備を手に入れたい新人等は毎日のようにこの依頼を受ける。草食竜は繁殖力が高いため、ちょっとやそっと狩りすぎた位では絶滅したりしない。食料事情にも金銭的な面でも、草食竜は優秀であった。

 とは言え、何はともあれまずはビールだとばかりにハリーはジョッキを掴む。氷魔法が得意だというマスターのお陰か、エールはキンキンに冷やされており、最高の喉越しだ。一気に飲み干すと、お代わりを頼む為にパティを呼ぶ。その間に料理にありつくというのが、ハリーお決まりのパターンだ。

 フォークとナイフを掴み、肉を切る。ナイフに大して抵抗がなく、スッと入っていくのを確認したハリーは、おや?と思う。草食竜の肉というのは、総じて筋張っていて固いのだ。野生で暮らす彼らは外敵から逃げ回る為に余分な贅肉などは付いていない。北部の寒い気候なら多少脂も付いてくるのだが、温暖な気候のミナガルド周辺ではそれは有り得ない。

「はーい、エールのお代わりお持ちしましたぁ~!」

「おいパティ、まさかこの肉って仔竜の肉じゃないだろうな?」

 仔竜の肉というのは草食竜の子供の肉の事である。生態系を保護する意味も込めて、仔竜を狩るのは禁止されている。流れ弾や誤って殺してしまった物は仕方無いとされてはいるが、基本はご法度。納品された仔竜の肉は一般市場には流れず、貴族などの上流階級に納品される、らしい。らしいというのはギルドがその取り引きをしているというのを公式には認めておらず、噂話として聞こえてくる話、というレベルの事だ。当然だが、仔竜の肉を食うのも基本的にはご法度とされている。

「やだなぁ、違いますよぉ!それは養殖された草食竜の成竜の肉です」

「養殖?モンスターをか」

 草食竜も大人しいとはいえモンスターである。一度暴れ出せば手が付けられなくなる。

「なんか、どっかの大商人が始めたらしいですよ?ハンターさんに草食竜を生け捕りにしてもらって、繁殖させて、牧場で飼うんですって」

「へぇ……まさに養殖だな」

「殆ど歩かせないで餌を食べさせるから、プクプクに太って脂が付くからお肉が柔らかいらしいです」

 言われてみれば、成る程確かに染み出してくる肉汁が多い。しかし慣れ親しんだあの赤身ばかりの肉が食いたかったハリーは、少しガッカリする。

「やっぱり美味しくないですか?」

「顔に出てたか?すまん」

「いえいえ、他のお客さんからも不評なんですよ。試しに仕入れたんだけど、失敗したってマスターぼやいてましたし」

 どうやらハリーは在庫処分を手伝わされたらしい。何がオススメだよ、ったく……とぼやきながらハリーはジャリライスをかっこむ。

 ジャリライス、と名前が付いてはいるが、本当に砂利が入っている訳ではない。米と呼ばれる穀物の他に、麦やら豆やら、他の穀物も混ざった物で、言わば雑穀米の様なものと言えばイメージ出来るだろうか。勿論混ざりっ気無しの白米も有るのだが、ハリーはこの色んな食感が楽しめるジャリライスを気に入っていた。何より、安い。大盛りで2杯食べても白米の大盛り1杯よりもやすいのだ。大食いのハリーには嬉しい限りである。かなりの額を稼いでいる癖に、貧乏性なのである。

「あの……相席してもよろしいでしょうか?」

 大きく切り分けたステーキを頬張った瞬間に、声を掛けられた。顔を上げると、そこにはプラチナブロンドの美少女が立っていた。 
 

 
後書き
プロローグだというのに張り切ってしまいましたwしかも主人公はハリーではないという事実。まぁタイトルからしてバレバレだとは思いますがwww

2話目に……出てくるかな、主人公(^_^;) 
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