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angelcode~とある少女の物語~

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別荘へ

 
前書き
しばらく間を開けてましたが、更新です。 

 
 食事が終わった後、手短に準備を整えて、ソフィアは出発した。
 目指すは、町の外れから北西に見える丘の上にある、サン・ボヌール男爵の別荘。
 一先ず、中心部から郊外に向かう道を進む。

 昨日一昨日と二日ほど晴れが続いたからか、それとも町中の道路だからなのか、雑踏で踏み固められた通りには、水溜まりは影もなかった。
 程なく町外れまで歩いてきて、建物が疎らになってきた頃、続く道の向こう、左右に森を配する様に小高い丘が見えた。あの丘の上に男爵の別荘があり、ベリル伯爵が滞在しているかもしれないのである。
(ベリル様に会いたい…)
 そう思うと、いてもたってもいられず、ソフィアの足は幾分はや歩きになる。

 しばらく進んだところで、道の両脇が、沼沢地かと見紛う荒れ地に変わってきた。どうやら開墾はできたものの、疫病や野獣その他に襲われたりして人々が減り、耕されないまま放置されたところに、長雨が続き、シャンティエの町より少し低く、窪地になっている事から、捌け口が無いまま雨水が溜まって、沼沢地のように見えているらしかった。
 道も、踏み固められているはいうものの、土がむき出しの路面で馬、車の作る轍が2本、平行線を描いてい延びてる。
 長雨の影響で牧草も育たず、家畜たちも殆どが狭い畜舎に押し込められ、ワインやビールの搾りカスに灰を少し混ぜた物などを与えられて、当面しのいでいるという。貴族の移動でもない限り、最近は馬車を見ない。

 学習院から巣立った日に馬車に乗ったのは、教会の権威を背景に、エクソシスト養成機関である学習院が、各赴任地の近くまで行く馬車や荷馬車を手配していたからであり、町民や村人などは、どんなに遠くても歩いて移動するのが普通であり、それだけソフィア達は優遇されていたのである。


 初めはキリエそしてグローリアと、育った修道院で覚えた聖歌を口ずさみながら、ひたすら歩いていく。
と、急に雨粒が降りてきた。見上げると、先程まではあったムラは今はなく、鉛色の空が広がり、そこから雨粒が降りてきているのだった。
重荷になるからと雨具を持ってきていなかった事もあり、ソフィアはあっという間にずぶ濡れになってしまった。
しかし道を引き返すわけにもいかず、小走りに急いで丘の坂道に辿り着いた。あまり高くはないが馬車道であるためか蛇行していて、思ったよりも距離がある。
貴族の別荘へ行くのである。ずぶ濡れは仕方ないとしても、跳ね上げた泥で更に汚れる訳にもいかず、歩きながらやっとの事で馬車留めのポーチに入り雨をしのぐと、スカートの裾を絞ってみたが、雑巾を絞るかのように雨水が流れ落ちた。
 水滴が滴り落ちない程度に服を絞り皺を整えてから、一呼吸して通用口に繋がる砂利道を走り出す。いくら教会から来たとはいえ、この雨ざらしの格好では良くない。しかも正面から入って、滞在中の伯爵に会うのは心が引けた。
 通用口の庇にたどり着き、呼び鈴の紐を引く。


 やや間があって、通用口のドアが開いた。
「これは、ソフィア嬢ではないですか。早くお入りなさい」
「え……」
 手を掴まれて引っ張られるようにして中に入ってみれば、そこは資材置き場でもあるのか、壁際には薪の山、通用口のドアの列びにはトングや熊手といった作業道具が掛けられていた。
 ベリルは、これまた壁際にぶら下がっているタッセル付きの紐を引くと、召使いの一人を呼び出した。
「彼女は私の客人です。身体を拭いて、それから乾いた召し物を着せて下さい。私は応接室に居ますので」

 必要なことを言って応接室に向かおうとするベリルに挨拶だけでもと思ったソフィアだが、ふっと優しく微笑むベリルに言葉が出なくなる。
「挨拶は後にしましょう。そのままではソフィア嬢が風邪を引きかねません。では頼みましたよ」
その言葉を最後に、廊下の奥へと行ってしまう。


「さ、ソフィア様。伯爵様の仰る通りです。こちらへどうぞ」
 無理矢理連れていかれた先は、花模様の散りばめられたタイル張りの小部屋で、そこにはお湯が張られた大きなタライと背もたれのない椅子が1脚、そして3人の女中が待ち構えていたかのように、着ていた衣服を剥ぎ取られてしまった。そして1人が剥ぎ取った衣服をまとめてどこかへ運び出そうとする。
「あっ、それは……」
「こちらで洗濯しますので、ソフィア様は身体の汚れを洗い流してくださいませ」
「は、はい………」

 ソフィアはされるがままになり、髪も身体も温かい香水入りのお湯で清められると、柔らかなタオルに包まれて洗い場を後にした。
女中に囲まれて移動した先は、女性用の着替え室らしくクロークには貴族が着るドレスが見えたが、ソフィアに用意されていたのは髪の色を引き立たせるような、淡いペールブルーの、商家の娘が着るような慎ましやかなドレスであった。このような貴族の別荘には不釣り合いな衣装である。

 女中達に囲まれて、ドレスを着せられると、無理矢理スツールに腰掛けさせられて、パフュームを思い切り吹き付けられて噎せてしまった。
「ごめんなさいね。でも、私達は嬉しいのよ♪ソフィア様がいらっしゃらなかったら綺麗に着飾って差し上げるなんて出来ませんでしたもの…」
髪を結い上げながら女中1人が言う。
「このドレスなんて、伯爵様の御用達の職人がたまたまいらしたから、速攻で作らせたらしいわよ。一体どんな腕をしていらっしゃるのかしらねぇ…?」
「さ、ソフィア様。これで完璧ですわね♪伯爵様がお待ちですわ。応接室に案内致します」
 鏡の中のソフィアを見て満足げに頷いた後、女中の1人が手を引いてソフィアを立たせた。

 応接室に向かう途中、女中が話してくれた内容によると、男爵は伯爵の用事で不在で、その間の事は全て伯爵が取り仕切っているらしい。また、伯爵は地位は伯爵ではあるものの、その権力と財力は公爵に匹敵すると言われ、援助を乞う者が大勢いるために、こうして田舎に隠る事が多いのだという。
 そのような話を聞きながら、長い廊下を曲がってしばらくすると金細工が豪華な白塗りの扉の前で立ち止まる。
「こちらが応接室でございます」
小声で説明された後、女中がノックをし中に呼び掛ける。
「伯爵様。ソフィア様をお連れ致しました」
「ソフィア嬢、中にどうぞ……」
 間髪置かずにベリルの涼やかな声が響き、女中が扉を開けた。
「さ、ソフィア様……」促されてしずしずと部屋に入ると、背後で扉が閉まる音が聞こえた。


「やはり、ヴァプラの見立ては間違いないですね。さ、ソフィア、こちらへおいでなさい」

 ベリルの、鈴が奏でるような涼やかな声音と、差し出された手に誘われるように、ソフィアはゆっくりとベリルの座るソファのある暖炉の傍へと歩きだした。



 
  
 

 
後書き
ベリル=べリアル『この世の君』という事で、地上に支配が及ぶ悪魔であり、権力を与える悪魔ですからね、貴族の中には崇拝者かいてもおかしくないよね?みたいな感じです。
また、本編にチラっと出てきたヴァプラですが、当然のごとくこれまたソロモン七十二柱のヴァプラです。
べリアル様は七十二柱を統べていた4柱(べリアル様、アスモデウス、ガープ、ベレトで、ガープだけ「president(総統)」)の1人と言うことで、伯爵や侯爵はべリアル様にこき使われている訳ですね。(「王だけでも」ザガンやバラムなど入れて10柱くらいいたと思ったんですが、それでも魔族の各位階の支配者でもあるべリアル様(第三位階)とアスモデウスが支配するのは当然だとして、なぜガープ??(笑))

そして……
中世には「お風呂」の概念が無かったらしく(たまに身体を拭く程度だったため、体臭を隠す目的で香水が作られたのが近世…つまりヴェルサイユ最盛期の頃ですから…(汗))こんな感じかな?といった具合です。古代ローマやドイツの一地域では「スパ」が盛んなんですけど…。そして入浴が盛んだったらペストはそんなに猛威を振るえなかったんじゃ…?とか思ったりw(肺ペストだったら空気感染だから、入浴して清潔を保っても意味ないんだけどw) 
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