提督はBarにいる。
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肉+夏野菜で夏を乗り切れ!・その1
「助けて提督~っ!私、これが最初で最後のチャンスだと思ってるのぉ~!」
号泣した足柄に泣き付かれ、涙やら鼻水やらその他色んな物で制服をグシャグシャにされたのは、足柄が秘書艦を務めていた日の午後の休憩の時の事だった。足柄は朝からどんよりとしており、何を言っても上の空で事務仕事はこなしていたものの、どう見ても普段の様子からはまるで別人だった。そこで、午後の一服の時に聞いてみたんだ。『お前、何かなやんでるんじゃないか?』ってな。すると隣に座っていた足柄はプルプルし始めて、目と鼻から汁を垂れ流しながら大声で泣き始めた。そしてひとしきり泣いた後、グシャグシャになった顔を俺の胸に埋めながら冒頭の台詞を吐いたのだ。お陰で涙と鼻水でメイクが崩れて、制服がファンデーションとかマスカラとか、口紅だらけだよったく……。落ちるよな?コレ。とりあえず、汚れた制服は洗濯に出し、詳しい事情を足柄に尋ねた。
「んで?どうしたってんだよ。何が最初で最後のチャンスなんだ?」
「あのね……私、今付き合っている彼と同棲始めたのよ」
「ブフッ!」
思わず飲んでたコーヒー噎せちまった。交際は順調だとは聞いてたが、もうそんなトコまで進展してたのか。
「それで?まさかいきなり結婚する、なんて言い出さねぇよな?」
「そ、それはないわよ!?ちゃんと結婚する時には報告するわ」
「まぁ、それなら大して問題はねぇが……」
「それで、同棲を始めたはいいんだけど……彼が構ってくれなくなったの」
足柄はそう言うとズーンと落ち込んでしまった。
「前みたいに構ってくれなくなったし、くっつこうとすると振り払われたり……前はこんな事無かったのに」
「Oh……」
いわゆる倦怠期、って奴なのか?それとも別の原因があるのか。
「何か思い当たる原因は?」
「特にないわ。最近疲れが溜まってたみたいで、食欲も落ちてはいたみたいだけど」
ふむ、食欲の減退に疲労の蓄積か。
「……足柄、同棲してるって事はお前が飯作ってんだよな?」
「えぇそうよ、それがどうかした?」
「食欲の減退に合わせて、冷たい料理とか、アッサリしてて食べやすい物にメニューが偏ってねぇか?」
「よく分かったわね、提督ってもしかしてエスパー?」
「んなワケねぇだろ。彼氏の態度が変わった原因だけどな、そりゃ多分夏バテだ」
「え、夏バテ?」
そう、夏バテだ。最近急激に暑くなったし、湿度も高くなって蒸し暑くなっている。そうなってくると身体の発汗作用や代謝機能に負担がかかり、消耗が大きくなってくる。それに、暑いからと冷たい物やアッサリとした物ばかり摂っていると、胃腸が弱ってきて消化機能も落ちて内蔵全体が弱ってきて悪循環に陥りやすい。それが夏バテの正体だ。夏バテは夏にやって来る物だと思われがちだが、早い人は梅雨時から体調を崩したりする。
「多分お前の彼氏も夏バテ気味で、まとわりつかれるのを嫌がったんだろ。それを解決してやれば、万事解決ってワケだ」
「夏バテ解消って言っても、どうすればいいやら……」
「その辺は俺がサポートしてやるから、明日にでもウチの店に連れてきな」
「恩に着るわ提督!」
さぁて、俺の夏バテ解消レシピが火を吹くぜ。
明けて翌日、業務終了後に足柄が噂の彼を連れてやってきた。20代前半だと聞いてたが、成る程……足柄と並ぶと中々の歳の差カップルに見えなくもない。
「ちょっと提督、今失礼な事考えなかった?」
おっとっと、やはり女の勘はバカに出来ねぇな。なんて話は兎も角も、だ。彼氏の顔色やらを見る限り、かなり内臓が弱ってるな。見るからに顔が青ざめてるし、腹の辺りを擦っているから腹の内側が冷えているのを本能的に感じているのだろう。
「まぁまぁ、取り敢えず座ってくれ。今日は足柄に出来たって噂のイケメン彼氏の面って奴を拝んでみたくなってな。無理言って連れてきてもらったんだ」
「いや、イケメンだなんてそんな……」
彼は青ざめた顔のままで、謙遜するように首を左右に振る。しかし贔屓目に見たって中々のいい男である。別に深い意味は無いんだがな、俺ノンケだし。しかし、想定していたよりも症状が重そうだ。最初に考えていたプランに修正が必要だろう。
「まぁ、取り敢えず2人の馴れ初めなんか聞かせてくれよ。その間に何かチャチャッと作っちまうからよ」
さて、まずは身体の毒素を排出させるとしますかね。
《梅でデトックス!梅わさびポテサラ》
・ジャガイモ:2個
・玉ねぎ:1/2個
・梅干し:1個
・マヨネーズ:大さじ2
・わさび:適量
・醤油:少々
・鰹節:適量
よく『夏場には辛い物を食え!』とか、『鰻や肉を食ってスタミナを付けろ』なんて話があるが、間違っちゃいない。だが、弱っている胃腸にいきなり刺激物や脂っこい物を入れると逆に胃腸にダメージ負わせて体調不良が悪化……なんて事がままある。その時の体調や時期に併せた『食養生』が必要なんだ。じゃあまずは何を食えばいいか?俺のオススメは梅干しや酢のような酸っぱい物だね。
梅干しや酢に含まれるクエン酸は体内の疲労物質である乳酸を分解して体外に排出させる働きがある。それに酸味ってのは辛い刺激よりも優しいが、適度に胃腸の動きを活発にしてくれるんだ。何となく胃腸が疲れてるなぁ……って時には梅干しを使った料理や酢の物、オススメだぜ。ってなワケで、梅を使っていて適度に腹も膨れる特製ポテトサラダ。早速作っていこう。
ジャガイモは皮を剥いて4つに切る。玉ねぎは薄くスライスしておき、辛いのが嫌なら水に晒しておく。
鍋に水を張り、ジャガイモを茹でていく。沸騰してきたら火を少し弱めて10~12分程、竹串がスッと入るくらい柔らかくなるまで茹でる。
その間に味付け用の『梅マヨ』を作るぞ。梅干しの種を取り除いて叩き、梅肉を作ったらマヨネーズ、醤油、わさびと混ぜ合わせておく。わさびが苦手って人は少なくてもいいが、入れないと味がとっちらかっちまうから、少しは入れるようにしてくれ。
ジャガイモが茹で上がったら茹で汁を捨てて再度火にかけ、水気を飛ばす。熱い内に潰し、玉ねぎ、おかかと和える。ある程度混ざったら梅マヨを入れて更に和えれば完成。
「さぁ出来たぜ、今夜のお通しの『梅わさびポテサラ』だ」
「うわ、何だか創作料理の居酒屋に来たみたいだ」
「でしょ~?提督ってアイデアマンの上に料理上手なんだから!」
オイオイ、褒めたって何も出て来やしねぇぞ?まぁ、胃腸が疲れてるなら最初は酒も控えた方が良いだろうな。
しっとりとしたポテトサラダから、梅干しの酸味とわさびのツンとした辛味が仄かに漂う。それを纏めるおかかと醤油の旨味。そこにシャリシャリと玉ねぎがアクセントを加える。酒飲みならここいらでビールか冷やをキューっとやりたくなる。
「いやぁ、工員の先輩方や足柄さんから美味い美味いとは聞いてましたけど、想像以上でした」
「そうかい?嬉しいねぇ」
やっぱり若いな、少し滋養のある物を食えば持ち直す力は強い。これならもう少し食わせても大丈夫そうだ。
「足柄、彼の隣に座ってんのもいいが、こっちに入ってきて手伝ってくれ」
「え、いいの?私が手伝ったりして」
「いいんだよ、ホラこっちこい」
これが当初からの狙いだったりする。足柄に夏バテ対策にさどういう食材がいいかを教えつつ、料理を提供する。少しずつ胃腸の調子を整えて、最終的には肉をガッツリいける位まで戻してやるのが目標かな。
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