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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【夢幻に彷徨う蒼き蝶】

 
前書き
 まだアカデミーには入学していない男の子と女の子が、ある人と遭遇する不思議なお話。 

 
 ───白い霧の立ち込める深い森の中、うつ伏せに倒れていた一人の少年がおぼろげに目覚める。

紺色で男物の無地の着物を身に纏っており、背中まで滑らかに流れる長髪、それに長い前髪に紛れた額には妙な文様が刻まれている。

立ち上がってみると、少しふらつく。周囲は白い霧に包まれていてどこなのかも分からない。

そもそも自分が何者なのか、何故このような場所に居るのかが分からなかった。


「人の気配がするってばさ…! いいヤツとは限らないから、兄ちゃんの後ろから離れちゃダメだぞっ」

「う…うん、お兄ちゃん……」


 一人放心状態で佇んでいると、男の子と女の子と思しき声が微かに聞こえてくる。

段々と近づいて来る黒っぽい影に、どうすれば良いか分からない彼は立ち尽くす。


「……あれ、あんたは──」

「お兄ちゃん、その人“びゃくがん”だよ…! きっと、日向の人だよっ」

 霧が立ち込める中、よく見える距離まで相手は近寄って来た。黄色い髪の男の子と、黒髪の女の子のようだった。

日向の人、と呼ばれた彼にとっては、何故だか見覚えのある二人の子供だったが、思い出す事は出来ない。

「あんたって、ほんとに日向の人か? 会ったことあるような、ないような……。てかあんた、オトコ?オンナ??どっちだってばさ」

 黄色い髪の男の子が、まじまじと見つめてくる。オトコか、オンナか……? 果たして自分はどちらなのだろう、と彼は不思議そうに首を傾げる。

「おいあんた、質問してんだから答えろよ! しゃべれないのかっ?」

「ねぇお兄ちゃん、その人のおでこの模様って……」

「え? あぁ…、ほら、母ちゃんから教わっただろ。日向の家では昔、呪印制度ってのがあって、分家だった人たちが“日向の呪印”を額に刻まれたって──」

 女の子に、男の子がそう話しているのを聞いて彼は、胸の辺りがざわついた。


じゅいんせいど……ぶんけ……ひゅうがの、じゅいん──


知っている気がするのに、何かに阻まれているかのように思い出せない。

「なぁあんた…、大丈夫か? むずかしい顔してるけど、どっか具合わるいのかよ」

 男の子が心配そうに顔を覗き込んでくるが、どう反応していいか分からない。

「ねぇ、日向のお姉さんかお兄さん……お名前は?」

 女の子に質問された彼はしかし、何も答えられない。自分の名を知らないのもそうだが、二人の子が発しているような声を出す事すら、出来ないようだった。

「……ヘンなヤツだなーあんた、けどなんかやっぱ見覚えあるんだよなぁ? 母ちゃんもそうだし、日向の人たちってみんな同じ目してるから、似てるように見えるだけかな…?? おれよりは年上みたいだけど、そんなに大人って感じでもないし……。ほんとに日向の人なら、会ったことあるかもしれないよな。おれたちのことは、知ってんの?」

 当の彼は、言われている意味がよく分からないというように少し間を置いてから、小さく首を横に振る。


「じゃあ、自己紹介してあげるね! ヒマは、ヒマワリっていうんだよ。うずまきヒマワリ! こっちはヒマのお兄ちゃんで、うずまきボルトっていうの!」

「ヒマワリ、そんな気安く名乗っちゃダメだってばさ…! まだこいつの正体よくわかんないだろっ」

「だいじょうぶだよ、日向の人にわるい人いないもん!」

「いや、だってしゃべんないし、髪長いけどオトコかオンナかもわかんないし……? まぁいいや、日向の人ってことにしとくってばさ。──妹のヒマワリがさ、おれと外で遊んでる最中にキレイなチョウチョ見つけたー!とか急に声上げて森の方に走ってくもんだから、追いかけてったらいつの間にか霧が出てきて、帰る方向わかんなくなっちまったんだ」

「ごめんね、お兄ちゃん……でもすっごくキレイなチョウチョさんだったんだよ! 青くて、透き通ってて…!」

「んー、おれには見えなかったけどなぁ…? そうだっ、あんた日向の人なら白眼使えるだろ? 透視能力とかいうやつ! この霧の中から帰れる道、見つけてくれってばさ!」

 ボルトという男の子に言われても、彼にとっては“びゃくがん”というのが何を意味するのかすら理解が及ばない。

「なに困った顔してんだよ、あんたやっぱり日向の人のフリしてる悪いヤツなのかっ…!?」

「お兄ちゃん、そんなこと言ったらダメだよ…! この人もいっしょに、連れて帰ってあげよ?」

 ヒマワリという女の子が、なんの迷いもなく彼の片手をとる。

「手…、冷たいね。さむいの?」

 間近の女の子が心配そうに見上げてくるが、彼はどんな顔をしていいかも分からない。


「──あっ、お兄ちゃん、ヒマわかったよ」

「は? 何がだってばさ、ヒマワリ」

「この人……、ネジおじさんに似てる」

「へ…? ネジ、おじさん?」

「うん、ほら、お母さんに写真見せてもらったでしょ? お部屋にだって、写真立て飾ってあるし」

「あぁ…、なんつーか、よく見りゃそんな気もするけど……今の格好、忍服じゃないし額当てもしてないしなぁ。上忍と下忍、どっちの頃だろ…?? 写真でしか見たことないから、よくわかんねーってばさ」


「ねぇ……もしかしてほんとに、ネジおじさんなの?」

 女の子が、蒼い目でじっと見つめてくる。

ねじ、おじさん……。

その響きが、彼には妙に可笑しく思えてくるが表情には表れない。

「なに言ってんだってばさヒマワリ、ネジのおじさんは……前にあった戦争で父ちゃんと母ちゃんを守って死んじまってるんだぞ。おれの名前……そのおじさんからきてるの、父ちゃんから聞いてるだろ」

 ボルトという男の子は、うつむき加減でそう言った。

ねじ、というおじさんは、もうしんでいるらしい。

ぼると、という男の子の名は、そのおじさんからきている……?


「あ…、霧がだんだん晴れてきた気がする…!」

「お、ほんとだ。…ん? 向こうが明るく見えるってばさ、森から出れるんじゃねえかな! 行ってみようぜっ」

 女の子と男の子に手を引かれるが、彼の足は地面に張り付いたかのように動かない。

「何してんだよ、おれたちと一緒に行こうってばさネジ!」

 ボルトに迷いなくそう呼ばれた時───彼の足は、ヒマワリとボルトに手を引かれるままに歩き、そして走り出し、光差す方へ向かってゆく。


……あぁそうか、俺は確か、音忍の一人と刺し違えたも同然になったはずで───その後、どうなったのだろう。あのまま、死んだというのだろうか。まだ、死ぬわけにはいかないんだが……

死んでいようといまいと、何故この少年少女と出逢ったのだろう。

ネジおじさん、と呼ばれた気がするが、ひどく他人事のように思える。

ただひとつ、はっきりと分かるのは……俺はこの子達と“この先”へは行くべきではないという事。

ヒマワリと……ボルト、だったか。

……二人共、すまない。

せっかく俺を見つけてくれたのに───さよならだ。


 声にならない言葉を残し、彼は不意に自分の体が宙に浮くのを感じた。

「うわあっ、なんだ!? 急にすげぇ風…っ」

「お、お兄ちゃん、おじさん、どこ……?!」

 一陣の風が、ごうっと音を立て吹きすさび、木の葉が幾つも舞ってボルトとヒマワリは目を開けていられず、掴んでいたはずの手さえ離してしまった。

──風が止み、二人が目を開けた時には立ち込めていた霧が嘘のように晴れ、森の中ではない木ノ葉の里に近い開けた場所に立って居た。

ふと、すっきりと晴れ渡る青空を見上げると、蒼くきらめく綺麗な蝶が一匹、音もなくひらひらと舞っている。

「あ……待って、ネジおじさ──」

 ヒマワリが声を掛けた途端、すぅ…っと青空に溶け込むようにその姿を消した。


「お兄ちゃん、ネジおじさんが会いにきてくれたのかな…?」

「……違うと思う、たぶんヒマワリの方が見つけたんだってばさ」

「もう……会えないのかな」

「そんなことない、きっとまた会えるよ。そん時は……消えちまわないように、今度はちゃんとおれが捕まえてやるってばさっ」



《終》

 
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