普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
199 〝闇の印〟
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
〝それ〟はいきなりの事だった。
ウィンキーから離れてしばらく歩くと、事態は急変した。7人で立ち往生してしまったのはきっと仕方ない事だと云える。
〝闇の印〟についての話は父さんから聞いた事があった。〝闇の印〟の形容は大まかにいってしまえば〝蛇が舌のように口から出ている髑髏〟で、〝お辞儀さん(ヴォルデモート)〟──もしくは〝お辞儀さん(ヴォルデモート)〟に与する連中、≪死喰い人≫共の印だ。
……ちょうど〝あの様に〟──製作者の精神年齢を測りたくなる様なフォルムだ。
何の拍子もなしにいきなり打ち上げられたエメラルド色の髑髏には7人で一斉に気付く。不意に前方がエメラルド色の光に照らされたので光源であろう物を探ったのだから当たり前だ。〝闇の印〟は位置的に俺達の背後に打ち上げられていた。
ここまで来るのに樹木を避ける為に多少ジグザグには進んで来たけれど直角とかには曲がったりしていない。……それが意味するのは、通ってきたルートに〝闇の印〟を打ち上げた者が居たと云うことになる。
……どうやら〝その事〟に気付いたのは俺だけではなかったようで…
ジニーと巻き毛の少女以外の5人の視線が交錯する。
そして数秒の後にフレッドが口を開く。どうやらフレッドが提起して舵取りをしてくれるらしい。
「誰か、怪しいヤツを見たやつは?」
目を黒白とさせているジニーと巻き毛の少女──そしてフレッドてジョージの以外の〝3人〟は首を横に振る。ふとジョージの方をみればジョージはジニーにどういう事かを説明していた。
「〝どういうこと? 皆止まっちゃったけどあの印は何なの?〟」
「……〝前提として、俺達は今テロリストに襲撃されている──そこまではいいな?〟」
「〝ええ〟」
「〝で、〝あれ〟はイギリスで猛威を奮ったテロリスト集団の象徴なんだ〟」
「〝テロリスト──もしかして…っ!〟」
「〝〝その公算〟は高いだろうな。……しかも俺達が通ってきた道に近いと思わないか? ……それでフレッド──俺の兄は誰か見なかったかを聞いてるんだ〟」
巻き毛の少女以外でフランス語を話せるのは俺だけなので、俺が掻い摘まんで説明してやる。首を横に振っているあたり、少女もまた怪しい人影は見なかったようだ。
「〝でももう〝姿くらまし〟したんじゃないの?〟」
「〝その可能性もあるな〟」
俺は気配察知で〝そいつ〟がそこに居る事を知っているが、みなまでは語らない。……〝見えていないモノ〟が見えるなんて、この魔法界でも狂気の始まりだと云われているからだ。〝聞こえないはずの声聞こえる〟と云うのもそれと同じ様なもの。
「彼女、何て?」
「もう〝姿くらまし〟してるんじゃないかって」
「あぁ、その可能性もあったわね」
(……っ、姿を〝くらました〟か…)
手間なれど、ハーマイオニー達に少女の言葉を翻訳していると、キャンプ場の気配が忽然と消えていくのを察知する。キャンプ場を我が物顔で荒らし回っていた仮面の連中は〝闇の印〟を見て〝姿くらまし〟でトンズラをしたようだ。
……これでキャンプ場を襲っていた連中が〝お辞儀さん(ヴォルデモート)〟に顔向け出来ない連中であったと云う事が半ば証明された。
(父さんたちがこっちに来るか…)
キャンプ場に居た連中の最後の一人の気配が消えて数秒、父さん、エイモスさん、クラウチ氏を含めた20人の気配が一気に森の奥──こちらに来るのが判る。
そして割りとすぐに、分け入ってきた父さん達を視認した。
――「おーい、みんなぁー!」
どうやらそれは父さん達も同様なようで、父さんは声を張りながら駆け寄って来る。
「はぁはぁ…。……皆、怪我は無かったかい?」
息も絶え絶えで俺達を慮る父さん。……父さん達にとって〝闇の印〟は〝そういうもの〟だったと云うのを改めて確認出来た。
父さんの息も調った頃、フレッドが切り出した。
「……んで、親父よ。結局何があったんだ?」
「……≪死喰い人≫どもの仕業だ。やつらからしたらちょっとした同窓会みたいなものだろう」
「マグルを空中で吊り上げるのが同窓会? 良い趣味してるぜ」
フレッドから訊かれた、父さんは冗句を交えての説明にジョージが悪態を吐く。
「アーサー、後は私が引き継ぐ」
そこで、父さんが俺達の無事を確認するまで待ってくれていたらしいクラウチ氏が会話に割り入ってきた。少し震えている声音からは自制しようと努めているのが判り、よく見れば顔に青筋が浮かんでいる。
……宛ら爆発寸前の爆弾である。
云うなれば、クラウチ氏は魔法省でも生粋の〝タカ派〟で、数多くの〝闇の魔法使い達〟をアズカバン送りにしている。……そして、シリウスもだ。シリウスをアズカバンに送ったことから察せられるかもしれないが、調査や裏付けやらについては〝杜撰〟の一言だ。
「君達は犯罪の現場を通ってきた可能性がある」
「〝闇の印〟が打ち上げられた件ですね」
クラウチ氏からの問いに、簡潔に答える。……クラウチ氏みたいなタイプの人間は無駄話や冗句は好まない。現状が現状だ──アニーはまだしも、他の皆が〝クラウチ氏の知りたいこと〟を先読み出来るとは思わなかったので俺が矢面にたった。
どうやら、それが功を奏したのかクラウチ氏は幾分か青筋を薄くして鷹揚に頷いて、次の質問に移る。
「そうだ──ちなみに不審な人物は見かけたりは?」
「〝挙動不審な屋敷しもべ妖精〟を見掛けたりしましたが、それ以外は…」
「……っ! その屋敷しもべ妖精の格好はどうだったか覚えているだろうか?」
「タオルみたいな布を巻いているだけでした」
「ウィンキー!!」
俺がそこまで──クラウチ氏にイメージしやすい様に語ると、クラウチ氏は弾ける様にウィンキーの名を叫んだ。しかし、ウィンキーは現れなかった。
「ウィンキー? ……ウィンキー!!」
クラウチ氏は何度もウィンキーを呼びつけようとするも、やはりウィンキーは現れない。そろそろクラウチ氏の声がヒステリック気味になってきたところでエイモスさんがクラウチ氏を諌める。
「バーティ、恐らく君の〝しもべ〟は〝失神〟なりさせらているだろう。……考えたくないことだが、〝こと〟が悪ければ──つまり〝そういうこと〟だろう」
「……君、確かアーサーの息子だったな──君は確かウィンキーの挙動がおかしかったと言ったな。……それはどんな風に?」
「ウィンキーは〝まるで誰かに掴まれていて、その誰かに抗っているよう〟でした」
「……一応訊いておくが嘘偽りは無いな?」
「誓って──な? 〝君もキッチンタオルみたいな布を巻いている屋敷しもべ妖精を見たよな?〟」
「〝ええ、間違いないわ〟」
他の6人に──少女にもフランス語で促せば、皆は言葉少なに肯定する。……クラウチ氏は項垂れた。
「なんたることだ…」
「ふんっ」
ウィンキーの扱いにからして、クラウチ氏に良い感情を懐いていなかっだろうハーマイオニーが鼻を鳴らすが、クラウチ氏はそれどころじゃなかったようだ。
茫然自失としたクラウチ氏を見かねたらしいエイモスさんが引き継ぐ。
「バーティ、ここから私が──ウィンキーを見掛けた君達はその流れのままここに来たんだな?」
「はい」
「そして、そちらのお嬢さんは…」
エイモスさんの視線は巻き毛の少女に移ろい──俺に戻る。
平素ならパーシー曰く200以上もの言語を操るクラウチ氏が通訳するのだろうが、現状でのクラウチ氏はこう言ってはクラウチ氏を信望しているパーシーからしたら憤慨するかもしれないが──役立たずなので、フランス語を話せていた俺が通訳しろという訳だ。
「この娘は〝ボーバトン〟の生徒らしく、どうやらマダム・マクシームとはぐれてしまったようです」
「そうか。……後にあちらから届けが出るだろうからこちらで保護しておこう──あ、そうだ。名前をまだ聞いていなかったな」
「名前ですね。名前は──あ」
そこで漸く少女の名前をいまだ知らなかった事を思い出す──が、現状が現状だったので仕方ないと思い直す。……フランス語を話せたのは俺と少女だけだったと云う状況だったから人名を指定するまでも無くフランス語で少女へと話し掛けたら彼女は反応してくれたのもある。
……だからエイモスさんと父さんからはため息なんて聞こえない──全くもって聞こえないのだ。
「〝……そういえば君の名前を訊いてなかったな──俺はロナルド、呼びにくかったらロンでいい。……君は?〟」
「〝ふふ、全く呆れちゃうわ。……私はシャルロットよ〟」
「〝シャルロット──ね。いい名前だ。じゃあシャルロット、その人達について行けばマダム・マクシームと合流出来るから〟」
「〝判ったわ〟」
少女──シャルロットから名前を訊き、シャルロットの身柄をエイモスさん達に預ける。……ところどころでビミョーな雰囲気になりつつも、漸く帰れるようになるのだった。
……そして、やはりと云うべきか父さんからもフランス語を話せる事について驚かれたりしたが、詳らかに語るべくもないだろう。
SIDE END
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