普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
197 ルード・バグマン
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
〝忘却術〟を掛けられたマグルのロバートさんから受け取った地図に従って向かった場所には[ういーづり]と書かれていたまでは良かったのだが、いざテントを張ろうと云う時になって父さんがこんな事を──興奮気味に宣った。
―魔法は厳密には許されない。これだけの数の魔法使いがマグルの土地に集まっているのだから、テントくらいは手ずから張ろうじゃないか! ……何、マグルがいつもやっている事だから、そう難しい訳でもないだろう──アニー、ハーマイオニー手順から教えてくれ―
〝建前乙〟と言いたかったし、木槌で杭を打ち込む段階になって父さんの興奮が最高潮に達し、いっそ父さんが邪魔になったがテントは建った。
……主にアニーとハーマイオニーが──四苦八苦して張ったテントだったが、テントを張り終えたところで〝今更〟の事を口にした。
「張っている時に気付くべきだったのだけれど──このテントに10人も入るのかしら?」
「そこはまぁ〝検知不可能拡大呪文〟様々って事で…」
アニーがハーマイオニーの疑問に答えると、ハーマイオニーがはっ、とした様な表情を浮かべる。そして、そんな二人に──もとい、アニーに父さんが感心したような顔で言う。
「アニーは知っていたのかい?」
「ロンが前に〝検知不可能拡大呪文〟が掛かったバッグをクリスマス・プレゼントにくれましたから」
「ロン、もう〝検知不可能拡大呪文〟が使えるのか?」
父さんは驚きながら俺に言った。俺は首肯して〝検知不可能拡大呪文〟を使える事を認める。……隠す必要性があまり無く、アニーやハーマイオニーももう使えるからだ。
「まぁね。……けど、アニーとハーマイオニーも使えたはずだよ」
「何ともまぁ…。先の〝動物もどき(アニメーガス)〟の件にしろ──〝出藍の誉れ〟とは正にこの事だ!」
その事を父さんに伝えたら、父さんは更に驚く。……しかしそれ以上に嬉しそうだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
父さんから水を汲んでくる様に頼まれた俺、アニー、ハーマイオニー。行き掛けと帰り掛けに知っている顔と出会って軽く談笑していたら遅れてしまって、それをフレッドとジョージに触れられる。
「よう」
「遅かったな」
「シェーマスの家族とオリバーに捕まってたんだよ──それよりまだ火を熾せてなかったのか?」
とっくに父さんが火を熾せているものと思っていたのだが、父さんは地面に散らばる〝マッチだったもの〟に囲まれながら佇んでいた。……それも、いかにも〝一仕事を終えた!〟とでも言いたげな爽やかな顏で…。
さすがにこれ以上はマッチの無駄だし──見ていられなかったので、それとなくアニーを見遣ればアニーはそれだけで俺の意図を理解してくれて、父さんにマッチの使い方を教授に向かった。
……マッチを初めて使えて狂喜乱舞している父さんを尻目に、フレッドとジョージに行き掛けでふと覗いたブルガリア・チームについての話題を投げ掛けてみる。
「そういやブルガリアチームの方に寄ってみたんだが、どうだったと思う?」
「どうだった?」
「大体予想出来るぜ」
「クラムだらけだった」
フレッドとジョージは揃えたように〝うわぁ…〟とな風に顔を顰める。
クラム──ビクトール・クラムはブルガリアの魔法学校であるダームストロング校の生徒で、ブルガリアのナショナルチームのシーカーでもある。……有り体にいわば有名人だ。
俺自身がクィディッチチームについてそこまで興味が無いので、あまり情報は集めていないがブルガリアのチームはこう言ってはアレだが〝クラムのワンマンチーム〟みたいな感じだったはず。
クラムは良い選手で良いシーカーなのは間違いないのだろうが、ハーマイオニーはクラムをお気に召さなかったようだ。
「……でもクラムって気難しそうな人だったわ──写真でしか見てないけれどね」
「クィディッチでは顔つきは関係ないよ、ハーマイオニー。……でもハイスクールの生徒がNBLで活躍してるって考えたら凄いと思わない?」
アニーがハーマイオニーをやんわりと諫める。割と正鵠を射ている表現に俺も感心した。
………。
……。
…。
火は点いても料理が出来るくらいの炎になるには1時間近く掛かった。その1時間は、おおよそ通り掛けに父さんに挨拶に来る魔法省の役人達の解説だった。……俺達は既に知っている相手だったので、主にアニーとハーマイオニーの為の解説だったのだろう。
俺達ウィーズリー家のテントは競技場への大通りに面していたので、〝小鬼連絡室〟の室長、〝実験呪文委員会〟のメンバー、〝忘却術士〟──果てには〝無言者〟と、バラエティーに富んだ人物達が行き交った。
(……おっ、来たか)
ようやっと〝火〟が〝炎〟となった頃、〝探知〟の範囲内の森に3つの知っている気配が現れた。ビル、チャーリー、パーシーの三人だ。
〝姿現し〟でやって来た三人はゆっくりとした歩みでこちらに合流してくる。
「お父さん、たった今〝姿を現し〟ました」
「三人ともちょうど良かったな、今から昼食だ」
ビル達を迎え入れる父さん。これでウィーズリー家のテントは全員揃った事になり、父さん、ビル、チャーリー、パーシー、フレッド、ジョージ、ハーマイオニー、俺、アニー、ジニー──計10人とちょっとした大所帯になった。
そしてプレートに広げられた料理を2/3ほど空けた頃。
(……ん…?)
淀みない歩調でうちのテントまでやって来る気配を察知した。その気配は間違いなく指向性をもってうちのテントに向かっている。知らない気配だったので顔を確認してやろうとした──が、その前に父さんがその人に反応して立ち上がった。
「これは時の人──ルード!」
父さん〝ルード〟と──そして〝時の人〟とも呼んだので、その人物がルード・バグマン氏なのだろうと簡単に推察出来た。
ルード・バグマン氏の格好は胸のところに大きなスズメバチが刺繍されたクィディッチ用のローブを着ていて、控え目に云ってもとても目立っていた。
「やあ、我が友アーサー! 見てみなよ、今日は絶好のクィディッチ日和だ、雲一つ無いぞ!」
「そうだな、ルード──で、こいつが三番目の息子のパーシーだ。今年魔法省に勤めはじめたばかりだ」
「初めまして、バグマンさん」
「よろしくな、パーシー」
がっちり、と父さんとバグマン氏は握手をして、それに倣うかの様にパーシーがバグマン氏と握手をする。
……パーシーはバグマン氏を〝人に好かれやすいだけ〟と酷評していたので、父さんと違って〝親バグマン〟とはどうしても言い難いが、そこは我慢してコネクションを作っているのだろう。
その後に父さんがアニーを紹介して、バグマンさんはエイモスさんと同様のリアクションをしたが割愛。……そして父さんは、改めてバグマンさんを俺達に紹介した。バグマンさんに礼を言っておくようにとも言っていたが、バグマンさんは〝気にしない気にしない〟と手を振り、父さんを制す。
「いやいや構わんよ──それよりアーサー、試合に賭ける気は無いかね?」
「……ふむ、10ガリオンくらいだったらモリーも目くじらを立てんだろう」
(……俺も一口乗ろうか──ん…?)
父さんがちゃらちゃら、とガリオン金貨を入れている財布をバグマンさんに見せる。……俺も賭けに参加しようとしたが、俺の中で何かが引っ掛かったような感覚がした。……その感覚には覚えがあった。
前世でやっていた賭け麻雀で、最後まで金を払おうとせずに踏み倒そうとしていた奴と対面した時の感覚に近かった。自分の感覚に自信もある。
……しかしそれはつまり、バグマンさんが賭けに負けたその時は踏み倒そうとしていると云うことだ。考えたくないことだが…。
どっちにしても父さんは賭けに乗っかってしまった。もう俺の口からはとやかく言えない。……第一父さんが賭けに勝つとも限らないのだ。
アイルランドに賭けた父さん。その宿命のホイッスルは直ぐに鳴り響いた。
SIDE END
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