普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
196 ストーツヘッド・ヒルより
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
「健全なる肉体には健全なる精神が宿る──ってな」
「いや、それ逆だから」
「……二人共余裕そうね」
「ハーマイオニー、もね…」
息も絶え絶えのジニー。……否、俺とアニー、ハーマイオニー以外の皆も──フレッドとジョージですらストーツヘッド・ヒルを〝棲みか〟としているウサギにしてやられているようだった。
俺達三人が平気なのは、ホグワーツで常日頃から鍛えているからだ。杖を振ってばかりではどうしても完全に健全とは言い難いし、やはりどこでも最後に頼れるのは裸一貫の自分の肉体なのだ。
今なら20キロくらいならネビルも息を切らしながらだが走破する。……監修している俺がたまに魔法でふと思いついたように妨害──地形を変えてやったりしているので、この場に居るアニーとハーマイオニーもこのストーツヘッド・ヒルのウサギの巣なんかには遅れをとったりしなくなった。
(早く6年にならないかね…)
「はぁ…」「はぁ…」「はぁ…」
俺とアニー、ハーマイオニーの溜め息が一致する。それに驚き三人で目を合わせあうも、アニーとハーマイオニーの二人には──当然俺にも〝疲労〟の色は無かった。……おそらくだが同じ事を考えているのかもしれない。
6年になったら〝姿あわらし〟の教習コースを受講出来るようになる。……先ほどは体を動かすのは大切だと述べたが〝そこはそれ〟だ。
………。
……。
…。
「ふーっ…」
父さんはメガネを外し、セーターで汗を拭いながらひと心地をつく。話を聞くにここにクィディッチ・ワールドカップの会場へ向かうための〝移動キー〟が設置されているらしい。
最後にぜぃぜぃ、と息を切らしながらジニーが合流したところで父さんが俺達に話しかけてきた。
「さぁ、後は肝心の〝移動キー〟が必要だ。〝移動キー〟はそこまで大きいものじゃないから探すのも中々に〝ほね〟なんだ。……だから皆も探すのを手伝ってくれ」
そう地面に目を凝らし始める父さん。……俺達もそんな父さんに倣い周囲を探し始めた。
……無言で探すこと2分かそこらで、声音からして男性だろう──大きな声が〝移動キー〟を見付けた事を教えてくれた。
――「アーサー、セド! こっちだ! 〝移動キー〟を見付けたぞ!」
ふと声のした丘の天辺の方向に目を向ければ星空を背負った背の高い二人の男の影が立っているのが見えた。
その内の一人の気配は知っていた。しかし俺の知る〝彼〟──セドリック・ディゴリーはあんな声ではなかったので父親辺りだと当たりをつけておく。……セドリックのことを〝セド〟と明らかな愛称で呼んでいたのもある。
「エイモス!」
父さんは〝エイモスさん〟のところに歩を進めたので俺達も父さんの後に続く。父さんは、褐色の──一目見ただけごわごわとしていることが判るアゴヒゲを蓄えた血色のよい壮年の魔法使いと握手する。
〝エイモスさん〟は左手に〝マグルだったら何の変哲もないガラクタだと思うだろう〟──カビだらけの古いブーツを携えていた。父さんの話と〝エイモスさん〟の発言から類推するにおそらくそれが〝移動キー〟なのだろう。
父さんは〝エイモス〟さんを俺達に紹介した。
「皆、エイモス・ディゴリーさんだ。魔法省の〝魔法生物学規制管理部〟にお勤めだ。……皆には、その隣のハンサムさんについては紹介は不要だろう?」
父さんの言う通り〝隣のハンサム〟には覚えがあった。セドリック・ディゴリーだ。セドリックは父さんの言う通り中々スマートな面持ちの好青年で、クィディッチのハッフルパフ・チームのシーカーな上に監督生と云う──正に〝文武両道〟を体現した〝男版・アニー〟といっても差し支えがない完璧超人である。
「やあ」
「よろしく」
「どうも」
セドリックの挨拶に、フレッドとジョージはぶっきらぼうに返す。多分だが去年のクィディッチのグリフィンドール対ハッフルパフ戦で〝してやられた〟からだ。
シーズン初戦のグリフィンドール対スリザリンから打って変わって二戦目にあたるハッフルパフ戦では苦戦を強いられた。
……〝180対90〟──それが三時間にも及んだ去年のハッフルパフ戦の最終的なスコアである。セドリックとのデッドヒートをアニーが制する事が出来なかったら、目も当てられない状態になっていただろう。
父さんはフレッドとジョージのそんな──一方的でしかない態度に気付かずエイモスさんと世間話に興じている。
「アーサーはここまでどれくらい歩いた?」
「村はそこそこ近いから、そこまでは歩いてないな。……エイモス、そっちは?」
「夜中の2時からおっとり刀で家を出て来たものさ。……セドも〝姿あらわし〟のテストを受ければ良かったんだ。さすれば──まぁせっかくのクィディッチ・ワールドカップだ細やか事に愚痴をごぼすまい」
エイモスさんはそこらで父さんとの世間話を打ち切り、「ところで」──とフレッド、ジョージ、俺、ジニー、ハーマイオニー、アニーの順に値踏みするとかではなく見回した。
「ひぃふぅみぃ──まさかこれ、全部君の子かい?」
「まさか、赤毛の子だけだ。こっちの娘がハーマイオニー──そしてこっちの娘が、あの有名なアニー・ポッターだ」
そう父さんはフレッド、ジョージ、俺、ジニーを指す。その次はハーマイオニーとアニーをエイモスさんに紹介する。……エイモスさんは〝アニー・ポッター〟の名前を父さんから聞くと、最早テンプレにアニーの額に目を遣る。
……そしてアニーの額に傷痕──アニーが〝アニー・ポッター〟たる証を確認したエイモスさんは瞠目する。これも最早テンプレだ。
「こいつは驚いた──君がアニー・ポッター?」
「はい、始めましてエイモスさん」
慣れているアニーはそつなくエイモスさんから求められた握手に返す。しかしエイモスさんのマシンガントークは止まらなかった。
「セドが君の事を話してくれたよ。……何でもグリフィンドールを優勝に導いた立役者だとか…」
「過分な評価ですよ。クィディッチではいくら早くスニッチを捕まえる事が出来てもその時点で160点以上の差が有ったら意味が無いですからね」
「何と謙虚なことか…。お嬢さんやもし良かった家のテントに来ないか? お茶をご馳走しよう。……うちのセドリックは親の贔屓目無しでも、こう──いろいろと優れていると云うのにどうも女っ気だけははな…」
「父さん!」
いきなりアニーを誘い始めた父親に対して息子が怒鳴る。
「……ごめん、アニー。でも父さんが勝手に言っている事だから気にしないでくれ。ロンもごめん…」
「良いさ」
謝ってくるセドリックを手を軽く不利ながら制す。……実際、おっさんの下世話な話にいちいち目くじらを立てていたらあっという間に世界が世紀末な世界になっている。
……もちろんの事ながら〝限度〟と云うものもあるが、今のエイモスさんくらいならば気にならなかった。
そこで頻りに時間を気にしていた父さんが口を開く。
「皆、そろそろ時間だ。……あ、そういえばエイモス、後他に誰が来るか知っているか?」
「ラブグッド家はもう一週間も前から行っていて、残念な話だがフォーセット家はチケットを入手出来なかったらしい。……私が知っているのはこの二家だけで後は知らないな。この地域にはもう他に誰も居ないと見ても良いだろう。……アーサーはどうだ?」
「……そうか、ふむ──私も思い付かないな」
「よし、じゃあ準備をしようか。……もう1分くらいしかないぞ」
エイモスさんは持っていた古いブーツを地面に置いて皆を急かす。……と、そこで、〝移動キー〟を知らなくて首を傾げていたアニーとハーマイオニーに対して〝移動キー〟の使い方について父さんが大まかにだが説明した。
「アニー、ハーマイオニー。〝移動キー〟は触れているだけで遠くへ運んでくれる。……なんなら小指一本でもね」
(この状況、わりとシュールだよな)
そう父さんから説明を受けたアニーとハーマイオニーはブーツに触れる。……のべ9人の老若男女が古いカビだらけのブーツに群がっているとい状況下に益体も無いことを考えてしまう。
そんな事を考えていたせいで、いつの間にか俺が最後になっていた。父さんから注意される前にすかさず俺もブーツに触れておく。
「後5秒──3…2…1…」
(……ぬっ!)
父さんのカウントダウンが終わった瞬間、臍の裏を中心に身体ごと引っ張られる様な気がした。そな感覚に身を任せたままにしている軈て両足が地を離れた。宙を歩いている様だった。まるでブーツに進まされているようだったが、その感覚に任せたまま歩を進めた。
……どれくらい歩を進めたのかは定かではないが、足の裏で〝地面〟を踏んだのが判った。今になって思えばその感覚が終わったのはあっという間だった様にも感じる。
「……っと…」
〝転移〟に慣れている俺は身体のバランスを軽く崩すだけで済んだ。
……しかし、アニーやハーマイオニーは〝転移〟にはなれていなかったようで…。
「おっと」
「わっ!?」
「きゃっ!?」
運悪く──もしくは運良く落ちてきたアニーとハーマイオニーを受け止めてやる。
「ありがとう」
「あ、ありがと…」
「何、気にする事はない」
恥ずかしかったのか、頬を朱に染めながらアニーとハーマイオニーがお礼を言ってきた。……ちゃんと立っていたセドリックがにやり、としながらこちらを見てくるが敢えてスルーだ。
……するとそこで、アナウンスが響いた。
「5時7分、ストーツヘッド・ヒルより到着~」
「ぶふっ」
アナウンスの人の格好を見て吹き出してしまった。アナウンスの人の格好はマグルに扮装しようとした頑張りは見られるが、どう見てもウケを狙っている様にしか見えない変な格好だった。
(いや、それは無いだろう…)
頑張ってマグルの格好をしようとしているアナウンスの人を見て、笑いを堪えるに必死になるのだった。
SIDE END
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