ソードアート・オンラインⅡ〜隻腕の大剣使い〜
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第80話 銃士X
前書き
完全に忘れている方がほとんどかと思いますが、お久しぶりです。醤油ラーメン弐式でございます。
今年の4月から私めは社会人となってログインは出来ても執筆する時間がないということが続いていた事をお許しください。
これからもそんな日々が続くと思いますが、しっかりと投稿しようと思います。
シノンと同盟を組んだオレは、行方を暗ませた死銃を追うために廃都市エリアに来た。理由はいくら死銃が妙な力の持ち主とはいえ、奴は基本的に狙撃手だ。隠れる場所が少ないオープンスペースでの戦闘が苦手なはずだと、同じ狙撃手のシノンの意見でこの廃都市に来た。
「死銃に追いつかなかったわね。まさかどこかで追い抜いちゃったとか?」
「いや、それはないな。走りながらずっと水中をチェックしてたから」
「そう・・・それならもう、この街のどこかに潜伏してるはずだね。川はそこで行き止まりだし」
死銃は装備を《サテライト・スキャン》に感知されない程度まで解除して、さっきの橋の下に流れてた川に潜ってこの廃都市に向かったと思ったから、オレは川をチェックしながらここまで来た。でもその川もオレ達が今立っている地点で進めなくなっている。つまりもう街中に潜んでる可能性が高い。
「よし、じゃあ次のスキャンで死銃の居場所を特定して、奴が誰かを撃つ前に強襲しよう」
「それはいいけど、一つ問題があるよ」
もうすぐ次の《サテライト・スキャン》の時間だ。それで奴がどこにいるのか見つけて、更なる犠牲者が出る前に撃破しないといけない。でもーーー
「死銃はあいつの正式なキャラネームじゃないってこと、忘れてないでしょうね」
「それな。確か初出場の中で、シノンの知らない名前は三人だっけか?」
死銃は奴がそう呼べと言わんばかりに名乗った名前であって、正式なキャラネームじゃない。つまり死銃という名前は《サテライト・スキャン》を見ても出ないことになる。
でも死銃のキャラネームはシノンの知らないBoB初出場選手の三人の中にあることは確実だ。初出場の選手は《ペイルライダー》、《銃士X》、《スティーブン》の三人。その内ペイルライダーは奴じゃなかったから、残る候補は二人だ。
「あのさ、今ふと思ったんだけど・・・『銃士』をひっくり返して『死銃』、『X』は『クロス』で十字を切るジェスチャー・・・てのは、流石に安易過ぎよね」
「う~ん・・・」
言われてみれば銃士Xは死銃と名前に共通点があるかもなーーー奴はペイルライダーを撃つ前に、胸の前で十字を切るように手を動かしてた。その動きは『X』という名前が由来になってるのかもなーーー
「十分なくらい信憑性湧いてきたぜ。そもそもキャラネームなんて安易なものがほとんどだと思うぞ。オレは本名のもじりだし・・・シノンは?」
「私も・・・」
オレのキャラネームのライリュウは、本名が神鳴竜だから『神鳴竜→雷竜→ライリュウ』ってかんじで決めた名前だ。確かオレ以外の《リトルギガント》のメンバーもそうだったな。ミラは『神鳴未来→未来→ミライ→ミラ』、ミストは『霧島弾→霧→ミスト』、ライトは『明石翼→明→ライト』、キャンディは『雨宮かんな→雨→飴→キャンディ』、アリーは『河村亜利沙→亜利沙→アリサ→アリー』だったはずだ。シノンも本名のもじりみたいだしーーー言ってしまえばアスナさんみたいに本名をそのままキャラネームにしてる人の方が少ない。まあやたら凝った名前にして後から恥ずかしくなるよりはマシだけど。
「まあそんなことより、両方いた場合は銃士Xを狙おう。もしオレがペイルライダーと同じように麻痺しても、慌てず狙撃体制に入ってくれ」
「え?」
死銃は必ず出てきて、あの黒い銃でとどめを刺すはずだ。シノンにはそこを売ってほしい。
「・・・狙うのはあんたかもしれないよ?」
「お前がそんな風にオレを撃たないのは分かってるよ。オレ、人を見る目はある方なんだ」
シノンはそんな危険な場面でオレを撃たないと思ってる。というか、そんな考えが脳裏を過ることすらないと思う。オレは彼女をーーーシノンを信じる。
「そろそろ時間だ。頼んだぜ、相棒」
オレはシノンの方を軽く叩き、街の入口付近へと歩き出したーーー
「協力するのは今だけだからね!!」
そんなことを強調するように言う彼女の前を歩きながら、オレは苦笑いするしかなかった。
******
街の中に入って、転倒して逆さまになっていた乗用車の陰に隠れながら、オレとシノンは《サテライト・スキャン》を操作して銃士Xの名前を探し始めた。オレは北側からチェックして、プレイヤーのいる位置が分かるアイコンをタップして名前を確認する。その中に銃士Xの名前はーーー
「あった!」
この街の、ここから少し離れた所にある野球のスタジアムーーーそこに銃士Xがいる!
「今この街にいるのは銃士Xだけだわ・・・」
「ああ、スティーブンはいないな。やっぱこいつが死銃みたいだな・・・」
スティーブンの名前がないってことは、既に死銃か他のプレイヤーに倒されたってことになる。もしスティーブンが死銃だったらラッキーだけどーーー奴がそんじょそこらのプレイヤーに負けるなんてありえない。つまり初出場選手の中で、オレ以外に生き残ってるからこの銃士Xが死銃《デス・ガン》だ。狙ってるのはーーー恐らくこの《リココ》ってプレイヤーだ。
「リココが死銃の射程に入る前に止めないと」
「そうなる前に、オレが奴の所まで一気に跳ぶ。10秒以内に着く。すぐに決着がつくだろうけど・・・万が一上手くいかなかったら援護してくれ」
「10秒以内にって・・・ここからスタジアムまで結構遠いわよ?どうやって行く気?」
「ああ・・・」
確かにこの距離を10秒以内に移動して、それですぐに死銃を倒すなんて普通は無理だーーー普通はな。
「シノン、今からオレの言うことを信じて欲しい。オレの、システムから外れた能力について」
「システム外の能力?」
そうだ。他人からはどうしても信じられないと思うけど、この戦いで絶対に信じてくれると思う。オレがSAOの中で、外からオレの兄貴ーーー龍星がありがた迷惑で目覚めさせたこの力。
「《オーバーロード》っていう、オレの脳を活性化させる能力なんだ。今まで何回か使ってるけど、システムに組み込まれた能力じゃないし、ゲームのシステムに負荷をかけたとか、データ改ざんとかしてないから、チート行為にはならないみたいなんだ」
「オーバー・・・それって、昨日の予選で《へカートⅡ》の弾を斬った時に何か言ってたヤツ?」
何か不信感というより、不機嫌なのが目立つように睨んでるけどーーーそんなに不服だったのか?
「まあ具体的にどういう能力なのかというと、VRゲーム内での移動速度の上昇かな。多分、音速を越えるスピードに」
「何よそれ、ほとんど無敵じゃない。あんまり信じられないけど、そんなこと出来るんならさっさとあんな奴退場させなさいよ」
「出来たらバンバンやってるよ・・・」
バンバンはやらないけど、何のデメリットもなかったら、今頃とっくに死銃を倒してるよ。でも、そんないい話はこの世にはないんだよなーーー
「ここから《オーバーロード》のデメリット・・・というか、リスクについて説明するよ。脳を活性化させると、その分の負担をかけるんだ。5秒から・・・10秒くらいかな?それくらいだったらちょっと頭痛いかなって程度で済むけど、それ以上は負担が強くなる。1日に2分以上使うとしばらく寝込むかな。前にそれで5日間は寝てたよ」
「えっ・・・それ以上、使い続けたら?」
「さあな。オレ、兄貴がいるんだけど・・・なんか《オーバーロード》の研究でもしてたんじゃないかな。オレも兄貴に教えてもらったんだよ。精神崩壊とかもありえない話じゃないってさ」
そうーーーオレはこれまで10回に満たないとはいえ、何度か《オーバーロード》を使ってきた。発動時間や脳にかかる負荷を考えながら気をつけて使ってきたけど、もしかしたらオレは精神崩壊までどんどん近づいてるのかもしれない。でもーーー
「それでもオレはやる。仲間や何の罪もない人たちが死ぬなんて・・・そんな理不尽なことが、もう二度と起こらないために」
誰かが消えちまう光景なんて、もう見たくねえから。
「そろそろ行こう。援護は頼むぜ」
「了解」
オレとシノンは建物や転倒した自動車の陰に隠れながら移動し始め、スタジアムの一つ前の通りで立ち止まった。そこからシノンが建物の中をじっと見つめてーーー窓から飛び出てるライフルの銃口を見つける。
「いた。あそこに」
「どうやら、まだリココが出てくるのを待ってるみたいだな。今のうちに飛び込んでくる。どうにか外に引っ張り出してみるから、シノンはスタジアム手前のビルから狙撃体制に入ってくれ」
「え?私も一緒に・・・」
一緒に来ようとするシノンのセリフを途中で遮り、オレは彼女の肩に手を置く。
「シノンの援護があるから、オレは恐れることなく戦える。コンビって、そういうもんだろ?」
「・・・うん」
まだちょっと不満そうな顔をしたシノンに微笑みかけ、オレは少ししゃがみ、右手にまだ刀身を展開していない剣を持ち左手を地面に添える。
「今から30秒後に奴を外に引っ張り出す。時間は足りるか?」
「うん、十分・・・」
「そんじゃ・・・頼んだぞ!!!」
オレは《オーバーロード》を発動し、一気に飛び出した。周りがオレを視認できないくらいのスピードで壁を登り、奴のライフルが出ている窓からーーー
「ちょっと失礼!!!」
「きゃあっ!?」
窓から飛び込み、銃士Xを驚かせることに成功した。流石の奴もこんな女みたいな声で驚いてーーーあれ!?
「女!?」
「何よアンタ!?どうやってそこから・・・!?」
スタジアムから誰かを狙ってたのは間違いなく銃士Xだ。でもその銃士Xは女だった。ということはーーーこの人は死銃じゃない!!!
「ぅ、嘘、だろ・・・アンタ、ガ、ジュウシエックス・・・!?」
「ジュウシエックス?私の名前は《銃士X》よ。よく間違えられるから困ってるのよ・・・」
「なんですと!?」
《銃士X》ってーーーそもそも読み方が間違ってたのか。だったら奴はーーー
「立て続けに悪いな、マスケティアさん。用事ができた。倒れてくれ!!」
「ガッ・・・!!」
オレは剣にビームの刀身を展開し、謝りつつもマスケティアさんを撃破する。それにしてもーーー
「どういうことだ・・・?」
ペイルライダーが殺害されて、銃士Xが死銃じゃなかったってことはーーー残るのはスティーブンってことになる。そのスティーブンってのが死銃だったら、もう倒されてるはずだ。生きてるなら何で《サテライト・スキャン》に名前が出なかったんだ?まさかスパイ衛星に認識されなかったのか?幽霊や透明人間じゃあるまいしーーー
「・・・透明?」
そういえばALOで会ったレコンが透明マントの魔法を使えたな。もし、死銃が身に纏ってたマントがただのボロマントじゃなくて、GGOにおける透明マントだとしたらーーー
「ヤベェ!!!」
オレの考えたことが本当にありえたら、相手は見えない敵だ。例えどんなに強いプレイヤーでも、そんな奴を認識するのは難しい。それじゃ、あっという間にみんなーーー
「シノン!!!」
頼む、間に合ってくれーーーまだ礼も言ってないし、約束もまだ果たしてないんだ。どんな方法で人を殺してるのかは知らないけど、シノンはシノンだけはーーー死なせない!!!
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