インフィニット・ストラトス ー剣を継ぐものー
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第2話 模擬戦は突然に
前書き
大変お待たせしました。
3話目です。
こんなに待たせておいて短いですが、ご了承ください泣
目が醒めると、そこにあったのは暗い天井だった。無機質で暗い部屋の固いベッドに寝かされていることが理解できる。春斗にはそれしか分からなかった。他に分かることは、単純なこと。
「なんで拘束されてんのかねぇ……」
手首に付けられた手錠に目を向け、深い溜息をつく。いや、確かに自分は悪いことをしたと思っている。
しかし、ここまで厳重に拘束されるのはどうだろうか。ただでさえ武器庫みたいな学園で不祥事を起こしたとなれば、死ぬ可能性が跳ね上がるのだから、下手な手を打つわけが無いじゃないか。と言いたいが、もう捕まってしまってはどうしようもない。
「さてと…どうしますかねぇ……」
どっこいしょ、とおっさんの様な掛け声で立ち上がり、辺りを一度見渡す。
広さはビジネスホテルのバスルーム程度で、自由に動き回ることは出来ない。まぁ、拘束されているので当たり前と言えば当たり前ではあるが。
「あら?起きたみたいね、バイトくん」
背後から聞こえた声に春斗は振り向いた。
そこにいたのは、淡い水色の短髪に真紅の目を持った美女。その手には装飾のされた扇子が畳んで持たれている。
春斗にこの女性との直接の面識はなかったが、彼女のことは知っていた。
「更識楯無……さんか?」
「あら。私は貴方と面識は無いはずだけど?」
「そりゃあねぇ……世界を救った英雄様の1人を知らないわけないですよ」
春斗が生まれた頃に、犯罪組織『亡国企業』が起こしたテロ事件において、各国の代表候補生と伝説とまで言われる織斑一夏の世界規模の戦い。
それにおいて活躍したISパイロット達は、今や知らぬものはいないと言うほど有名になった。
その中の1人が彼女だ。もとはIS学園の生徒会長で、名家「更織」の長女である。因みに三十路真っ只中のはずだが、その美貌はどこからどう見ても二十代である。
「なんだか失礼なことを言われた気がするわ」
「気のせいですよ」
眼をそらしながら春斗は白々しく言った。勘のいい女性にはシラを切るのが一番効果的だ。
「まぁいいわ。とりあえず、整備のおじさんに確認を取って、貴方が変態覗き魔っていう線はなくなったから、安心しなさい」
「じゃあそろそろこれ取ってくれませんかね? 僕は無実ですよ」
ジャラジャラと鎖を鳴らしながら、春斗は手錠を外すように楯無に願う。すると、彼女はニッコリと微笑みながら扇子を広げた。
そこに書いてあったのは「不許可」
「あなたは知らなかったとはいえ、女の子のヌードを見ちゃったわけだし?お咎めなしってわけにもいかないのよね」
彼女がそう言うのとほぼ同時に、背後の自動ドアが開きそこから少し小柄な少女が入ってくる。それは、どこかで見たことのある顔立ちをしている。
「見覚えあるでしょ?」
「え、いや…まぁ……どっかで……」
頭をひねりながら記憶を辿って行くと、ついさっきの衝撃が蘇ってきた。
「まさかあんた……」
蘇ってくるのは扇情的な肢体。細く括れた腰から臀部へのラインと、しなやかに伸びる美脚。
それらが春斗の脳内ではこちらを誘うようなポーズで再生されたのだ。
「あの時の美脚の女の子‼︎」
「なんでそんなことを覚えてるのかなこの変態は⁉︎」
「もの投げんガハァ‼︎」
鉄格子の隙間を通して飛んで来た何かが顔面に直撃し、春斗は床に転げ回る。
気絶するほどではないが、かなりの痛みが走った。鼻が折れた感覚も無いので、大怪我ではないが、痛いものは痛いのだ。
「いつつ……人にものを投げんなって……って、救急箱?」
鼻を押さえながらぶつけられた物を見ると、それは赤十字のマークが入った白い箱だった。
「さ、さすがにISで殴ったのは、やり過ぎたかなって……」
ばつが悪そうに目をそらしながら少女はそう言った。
罪悪感を感じてくれるあたり、この子はまとものようだ。春斗の出会った中では、自分の行いが全て正しいと思い込んでいる勘違いイケメンがいるため、余計にまともに見える。
「まぁ、見ちまったのは本当だし、殴られたのも仕方ないというか、いいもの見せてもらったというか……」
「そ、そのことは掘り起こさないで欲しいんだけど‼︎」
「はいはい、ラブコメはまた後にしてね〜」
段々とヒートアップする2人の会話を、楯無が扇子を間に差し込み遮った。
「さてさて、それじゃあバイトくん?これからあなたの処分を言い渡します」
「え、なに。俺まさかの絞首刑とかそんな感じですかね?」
「そんな物騒なことはしないから‼︎」
瑠璃色の子が突っ込み、再び楯無が扇子を開き、口元へと持っていく。そこには先ほどとは違い、『判決』と書かれていた。いつの間にすり替えたのだろう。
「とりあえず、君にはここにいる千藤さんと模擬戦をやっていただきます」
その時、春斗の時間はほんの少しだけ止まっていた。
「「…………は?」」
そうだったのは瑠璃色の少女も同じだったらしい。
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