魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第4章:日常と非日常
第108話「科学者の来訪」
前書き
皆大好き(?)変態マッドサイエンティストの回です。
当然、原作と設定が違い、この小説では綺麗になっているのであしからず。
=out side=
「....ふむ。」
「...また、見ておられるのですかドクター。」
とある次元世界の、誰にも見つからないような場所にある研究所。
そこで、ドクターと呼ばれた白衣の男はじっとモニターに映る映像を見つめていた。
「ウーノか。なに、興味が尽きないものでね。」
「管理局でそれなりに有名な嘱託魔導師ですね。」
秘書のような恰好をしたウーノと呼ばれる女性が、映像を見てそういう。
「確か、名前は....。」
「志導優輝。...第97管理外世界“地球”に住む子供さ。」
そう。男が見ていた映像は、嘱託魔導師として活動している優輝の姿だった。
「なぜ、彼なのですか?活躍ぶりで言えば他にも...。」
「では、こちらを見てくれるか?ウーノ。」
「こちらは....?」
次に映った映像は、海の上で優輝と今は亡き緋雪が戦っている映像だ。
「...古代ベルカから伝えられる存在、“導王”と“狂王”の戦い...その再現と言える映像とでも言っておこう。」
「導王と狂王の再現...ですか?見た限り、志導優輝と一人の少女の戦闘でしかないですが...。いえ、激しさで言えば確かに...。」
「違うのだよウーノ。再現と言えるのはそこじゃない。」
首を振り、ウーノが言おうとした事を否定する男。
「...彼らは、生まれ変わりなのさ。」
「生まれ変わり...ですか?それは、ドクターのような...。」
「いや、少し違う。確かに私も生まれ変わりに近いが、彼らはまた別のようだ。」
そう語る男の表情は、まるで憧れのものを見る子供のように輝いて見える。
それこそ、“興味が尽きない”と言う風に。
「別?それはどういう...いえ、論点はそこではありませんでしたね。」
「っと、話が逸れてた。まぁ、つまりは彼が導王の生まれ変わりだから興味が出てたのさ。聖王と覇王で隠れがちだが、導王は古代ベルカで最強とも言える王だったからね。」
「なるほど...。」
“生まれ変わり”に加え、古代ベルカで有名な人物だから男は興味を示していた。
そこでふと、ウーノはある事に気づく。
「この少女も狂王の生まれ変わりと言いましたが...こちらには興味がないのですか?」
「ん?あぁ、彼女か...。」
緋雪の事を聞かれ、男は残念そうに目を伏せる。
「彼女は志導緋雪。彼の妹なのだが...。」
「....まさか...。」
「そう。死んでしまったのだよ。同時に、私は導王と狂王の真の結末を知る事にもなった。正直、生命を研究している身としてはなんて無駄な事を...と思ったよ。」
男にとって、既存の生命を道具のように改造するのは賛成できなかった。
一から作り上げたのならともかく、それでは男の信条に反するからだ。
「結果としては、彼女は生物兵器としてではなく、一人の人間の少女として死ぬ事を選び、現在の兄であり、かつての幼馴染であった彼に殺してもらったのさ。長い長い因果を断ち切るためにね。」
「それは....。」
“せっかく兄妹として生まれ変わったのに...”と、ウーノは考えてしまう。
「生憎、私は人として感性がずれているのでね。彼らの悲しみや想いは理解できない。」
「...そうですね。ドクターはそんな方です。」
「...断言されると私も辛いのだが。」
何とも言えない空気は二人の間に漂う。
「...っと、そういえば、この事件に関連したもので、興味深いものもあったね。」
「今度は一体...?」
今度映されたのは、ユーリとサーラの戦い。
その中でも、サーラとサーラの持つアロンダイトに注目する。
「かつて私が作ったデバイスと、その使い手さ。残念ながら、これ以降の足取りは掴めておらず、アロンダイトは別の少年に使われているがね。...まぁ、懐かしい者達を見れたものさ。」
「........。」
そして、映像は最初に見ていたものに戻る。
「ふむ、そうだな...。」
「ドクター?」
「....よし、会いに行こうか。」
「....はい?」
突然の会いに行く発現に、ウーノは間の抜けた声を出さざるを得なかった。
=優輝side=
「....これをこうして....やったぁ!!やっと完成したよー...。」
「おー、上手く行ったか。ようやく“基礎”が終わったな。」
夏休み最終日。いつも通りになった霊力の特訓で、アリシアが御守りを完成させる。
「...えっ?これで、“基礎”なの...?」
「おう。自力で作るものでは基礎だ。...だよな椿?」
「ええ。これぐらいなら基礎の範囲ね。持ってたら得する...これぐらいの御守りは昔ならそこら中にあったわね。」
尤も、それは基礎の部分だけだ。ここから応用しなければならない。
今回作られた御守りの効果は、若干運が良くなり、ごく小さい怪我をしない程度だ。
「うぇええ~...頭痛くなる~...。」
「基礎を繰り返せば作業みたいにこなせるが...そうなると効果が薄れるからな。」
「護符や御守りは術式を組む際に“想い”も重要だもの。」
ただの“作業”としてより、想いを込めた方がいい...まぁ、典型だな。
「葵ー、そっちはどうだ?」
「んー、そうだねー。」
アリシアの方は見たので、今度は葵の方を見る。
ギギギギギギギギギィイン!!
「っと!」
「っ、躱された...!」
「やぁああっ!!」
「っ....!」
アリサの刀を正面から全て受け流し、すずかの氷の術による拘束を回避。
そこへ司と奏が槍と刀二振りで斬りかかるが...。
「....だいぶ様にはなってきたね。」
「蝙蝠に...!」
「当たらない...。」
蝙蝠となって、僕らの前に現れる事で回避する。
...やっぱり、基礎能力で言えば葵はダントツだな。霊力だけとはいえ圧倒してる。
「アリサちゃんとすずかちゃんで一人前。司ちゃんと奏ちゃんはそれぞれ四分の三人前って所かな?司ちゃんと奏ちゃんは元々魔法で何度も戦ってるから、戦い方は心得てるからね。」
「なるほどな...。」
順調...と言った所か。
アリサは思い切った攻撃が得意で、すずかはそんなアリサの動きをよく見て的確に援護をしている。司や奏は魔法としての戦い方が染みついてるから、どうしても無理にアリサとすずかに動きを合わせる形になっている...か。
「(元々霊術使いとしても戦えるように...って事だから、連携はそこまで重要視する必要はないか。...でもまぁ、僕としては中途半端にしたくないな。)」
「じゃあ、アリシア。最後に一試合するわよ。」
「ええ~...。」
僕がそんな考え事をしている間に、椿とアリシアが模擬戦を始める。
アリシアは既に疲労してるから面倒臭そうだが...。
「それじゃあ、行くわよ!」
「うー...よしっ!」
頬を叩き、アリシアも気合を入れ直して仕掛ける。
武器は刀と弓。そして懐には御札も多数持っている。
近接をするための刀、弓道の経験から弓、そして霊力を生かすための術って所だ。
「アリシアちゃん、凄い成長スピードだよね。」
「まぁ、器用だからな。理論とかを交える御守りはまだまだ先は長いが、戦闘に関してはセンスもあってだいぶ上達している。」
司の言葉に、僕はそう返す。
アリシアは理屈を並べるより感覚で動いて考えるからな。
現に、椿との模擬戦でも、そんな感じだ。
矢や術の精度、刀の扱いは未だ椿に劣っているが、機転が利いているからすぐにはやられないように立ち回れている。
...まぁ尤も、まだ未熟なのには変わりないけどな。
「じゃあ、今日はここまで。帰り道に気を付けなさいよ。」
「あ~、疲れたよ~...。」
しばらくして、今日の分の特訓が終わって各々家に帰る。
結局、アリシアは少しは踏ん張ったけど椿にあっさり負けたという結果だった。
「しかし、以前までは一度も戦った事がないのに、刀を主武器にしてるとはいえ椿とあそこまでやり合えるとはな。」
「戦い自体は何度も見てきたというのもあるんじゃない?後は...才能かな?」
「加減してるとは言え、何度かひやりとさせられたわ。」
近接戦を克服するためなのと、力量を合わせるために椿も刀を使っている。
ユニゾンしている時はレイピアも扱うから、刀の扱いには慣れてるはずだけど...。
そんな椿をひやっとさせるとは、もしかしたら化けるかもな。
「.....ん?」
「あれ?珍しい恰好の人がいるね。」
家の近くに来ると、白衣を着た男性が秘書みたいな恰好の女性を連れて歩いていた。
あまりにも異質に見えたため、目に留まってしまったが...。
「(どこかで見たような...。)」
既視感を覚え、少々立ち止まってしまう。
それに気づいたのか、男性が僕へと話しかけてきた。
「やぁ。済まないが、道を尋ねてもいいかい?」
「え、あ、はい。どちらへ行くんですか?」
人の良さそうな笑顔で話しかけてくる男性。
道を聞くなんて、テンプレの不審者みたいだが...。
「“翠屋”と言う店に行きたいのだよ。人気らしく、興味が湧いてね。」
「それなら、その道を―――」
一応警戒しつつ、翠屋までの道のりを言う。
「―――で、そこを道なりに進めば見えてきます。」
「ふむ、なるほど。いや助かったよ。」
「ありがとうございます。」
お礼を言う男性と連れの女性。
普通ならこの街に慣れていなくて迷っただけに見えるが...。
「では、僕たちはこれで...。」
「ああ。縁があればまた会おう......ムート君。いや、優輝君と言うべきか?」
「っ.....!?」
“バッ!”とその場を飛び退き、男性と距離を取る。
椿と葵も、言っていない僕の名前を言った事で同じように間合いを取る。
...尤も、重要なのはただ僕の名前を知っていた事じゃない。
この男性が僕の導王としての名前を知っている事が問題なのだ。
「なぜ、その名前を知っている...!」
僕が導王と知っているのは、両親、緋雪、椿、葵やクロノと言った、親しくしている人でも限られた人たちだけだ。
それを、この男はさも当然のように知っていた...!
「ふむ、驚かせるつもりはなかったのだがね。」
「...少々お戯れが過ぎます。」
僕の問いに、男性は肩を竦め、女性がそれを窘める。
.......ここは...。
「....翠屋に直接案内しましょうか。ここではアレですから。」
「気が利くね。では、お言葉に甘えよう。なに、周りに危害を加えるなんて事はしないさ。してしまえば、後が怖いからね。」
...食えない男だ。...そう、つい思ってしまう。
椿と葵も、ここではまずいと理解してくれたため、僕についてきた。
「色々聞きたそうだね。歩きながらでいいさ。遠慮なく聞き給え。」
「....そうか。なら、まずは名前を聞きたい。」
翠屋までの道のりの中、男性の言葉に甘えてまずは名前を聞く。
敬語は付ける必要がない。警戒すべき相手にそんな事してられないからな。
「私はジェイル・スカリエッティ。気軽にドクターとでも呼んでくれたまえ。」
「助手をしております、ウーノです。」
「ジェイル・スカリエッティ....なるほど、ね。」
だいぶ薄くなった“原作”の知識と、管理局で得た知識。
そこから、彼の事を思い出す。
「....なんだってこんな所に...しかも僕に会いに来ているんだ...。」
「ふむ、知られていて光栄だね。そして、その質問に対してだが、私が君をなんと呼んだか覚えているかね?」
「...そういう事か。」
僕を“導王”と知っているから、接触してきたって所だろう。
しかし、どこから情報が漏れたのやら...。
「一応聞いておくが、なぜ僕を...。」
「導王だと知っているか、かね?ああ、安心したまえ。その事を知っている者から情報が漏れた訳ではない。私が自ら探りを入れ、とある記録から知っただけさ。」
「それこそありえない。記録に僕が導王と明記されてるものは....。」
...いや、一つだけ可能性が、というか心当たりがある。
「...僕らが過去に行った時の事件の記録...か。」
「そう言う事だ。なに、未来には影響を与えんさ。」
本当に食えない男だ。どこまで知っているのやら。
「それで、どうして僕に接触してきた。」
「単純に、興味が尽きなくてね。」
「...興味、だと?」
まさか、そのためだけに僕に...?
「そうだとも!歴史に残る存在、その生まれ変わり!つまりは、偉人に直接会えるというもの!ならば、会いに来たくなるのも仕方ないとは言えないかね?」
「いや、会いたくなるのは分かるがそのためだけに犯罪者の身で来たのかよ。」
「私の探求心は、誰にも止められないからね!」
“ククク”と笑うジェイル。...ある意味飽きない奴だ。
「...盛り上がってる所悪いが、今の僕は“志導優輝”であって導王じゃない。確かに導王の時の記憶はあるが、今を今として生きているからな。」
「ふむ...まぁ、かつてとは全く違う人生だ。君がそうならば私も無闇に導王としては接しないようにしよう。」
「助かる。」
話している感じ、変人さは感じられるが、悪人らしくはない。
違法研究などで犯罪者になっているとは思えない雰囲気だが...。
「それに、稀代の才能を持つ者でも、歴史に残らない者もいるのでね...。」
「えっ、それはどういう...。」
「優輝、着いたわよ。」
ジェイルが呟いた言葉について聞こうとしたが、そこで翠屋に着く。
「...案内ならここで終わりだが...。」
「...聞きたい事が残っている。それに、その恰好だと目立つだろうし、名目上犯罪者を野放しにはできないからまだ同行するさ。」
「それは良かった。」
翠屋に入り、士郎さんに目配せをして、警戒の素振りを隠すようにしてもらう。
雰囲気ですぐ怪しいと思うとは...さすがです士郎さん。
「....さて、話の続きと行こうか。」
「その前に、注文はいいかい?」
「構わない。ここのマスターには簡単に事情を伝えておいた。」
認識阻害の結界を霊力で張っておく。
これで一般の人にはただの世間話と認識されるはずだ。
「そうそう言い忘れていたが、君に会おうと思った理由はもう一つあるのだよ。」
「もう一つ...だと?」
僕としては、先程の言葉を聞こうと思ったのだが、こちらも気になる。
「そう。簡単に言ってしまえば、君と私の境遇は少し似ているのだよ。」
「境遇だと?」
「どちらも過去に生き、そして生まれ変わった...。そういう事さ。」
「っ....!」
一気に警戒心を上げる。
“似た境遇”、“生まれ変わった”。このワードから考えるに...。
「転生...したのか?」
「ご明察。ただ、君と私では過程が違う。君がどうだったかは知らないが、私の場合はクローンにほぼ似た記憶継承のようなものさ。」
「クローン...ね。」
“ほぼ似た”と言う事は、本来のクローンでの記憶のコピーと違い、実際に何らかの方法で受け継がせたという事だろう。
「じゃあ、仮にお前の肉体を二世代目としよう。...その肉体を作ったのは?」
「構造、理論などは私が遺したものだが、作ったのは....最高評議会さ。」
「......!」
...前々から、管理局には後ろめたいものが見え隠れしていた。
クロノや末端など、半分以上がそれに関係していないが、それでも確かにあった。
だが、まさか元締めまでそれに関わっているとはな。
「私の頭には爆弾が仕掛けられていてね。叛逆する素振りを見せれば即“バーン”さ。だから、私は彼らの言いなりになって犯罪者に仕立て上げられたという訳さ。」
「...正義を掲げる組織がその実、自ら悪を作り出すという自作自演をしていた訳か。その裏では、違法の研究もしているだろうし...。予想できる事とはいえ、笑えないな。」
「全くだ。好きに研究させてほしいものだよ。」
そう言って苦笑いするジェイル。
...どうやら、根っからの悪人と言う訳ではなさそうだ。...変人だが。
嘘も言っている様子はなく、椿と葵に目配せをした所、同意見のようだ。
「しかし、“予想できる”とは?」
「そりゃあ、権力を一か所に集中させていればな。法を作り、法を執行し、政治を行う。それらを一つの組織がすれば、当然不正が発生する。」
「なるほど。この国には三権分立という権力を分ける方法を取っていたね。だが、それでも問題は起きる事から考えれば、当然の事か。」
この世界に来るのに少し勉強しておいたのだろうか、まさか知っているとは。
「...っと、話を戻すぞ。こちらからも聞きたい事があるからな。」
「おっと、そうだったね。私から聞いてばかりでは申し訳ない。」
話の軸を戻し、今度は僕から聞く事にする。
「店に入る前に言った事、それと“生まれ変わり”...ジェイル、お前の“前世”がどんなものだったか、少し聞きたい。」
「ふむ、前世に関してか...。」
少し気になった事だ。
彼程の天才であれば、何かしら歴史に残すような事をしていると思うが...。
「今から数えれば、遥か1000年も前の事さ。生憎、私がいた国は歴史に残らない程跡形もなく滅ぼされてしまってね。今では僅かな文献と当時の事を表したおとぎ話ぐらいしか残っていない程なんだよ。」
...おとぎ話か。あの“忠義の騎士”の話を思い出すな。
そういえば、導王の時に見た忠義の騎士に関する文献で、その騎士の剣を作った人物は“J”から始まる人物だと記されていたような...。まぁ、掠れて読めなかったが。
...まさか。
「...“忠義の騎士”...。」
「まさか、そこに行きつけるとはね。そう!かの騎士の剣を作ったのはこの私なのだよ!いやはや、あれは当時の私の最高傑作でね、今の時代でも超高性能と言える程の代物なのだよ!」
「お、おう...。」
ここまで食いついてくるとは思わなかった...。
ジェイルは捲し立てるように当時の事を話し始めた。
「...ドクター、注文の品が来ました。」
「おっと、つい話し込んで忘れていたよ。こちらも楽しまなくてはね。」
士郎さんが注文の料理を持ってきたので、一度中断して食事とする。
この後、お互いに前世(僕は前々世だが)の事で話し合い、盛り上がった。
「...ドクター、そろそろ時間です。」
「ふむ、もうそんな頃合いか。では、そろそろお暇しようか。」
一時間以上話し込み、ウーノさんの言葉で帰る事になる。
「あ、お金...。」
「安心したまえ。ちゃんと用意してある。今回はこちらから誘ったようなものだから、私の奢りとさせていただくよ。」
「...助かるよ。」
今回の事で、彼が悪人ではない事がわかった。
そのため、僕の口調も砕けた感じになり、椿と葵も警戒を解いていたからな。
...変人という分野では、最後まで警戒は解けなかったが。
「では、縁があればまた会おうか。」
「ああ。そうだな。」
捕まえはしない。悪人ではないし、何より相手は天才だ。対策もされてるだろう。
しかも、管理局の上層部も関わっているとなれば、迂闊に手を出せない。
おまけにお忍びらしいから、これ以上動向を知られるような事はしたくない。
知られると爆破されるらしいからな。
「じゃあ、僕らも帰るか。」
「そうね。」
「あたし達、蚊帳の外だったねー。」
僕らも今度こそ家に帰る事にする。
「しかし、まさかアロンダイトの製作者だったとはな...。」
「今では宝の持ち腐れのようね。」
「そうだねー。」
ジェイルの話にはなかなか有益な情報もあった。
例えば、織崎が持っているアロンダイトだ。
あれはジェイルが作った最高傑作のデバイスで、忠義の騎士が使っていたもの。
使用者に合わせて成長するらしく、ジェイル曰くかつてはもっと強かったらしい。
つまり、織崎では未だに宝の持ち腐れという事だ。
「(忠義の騎士、仕えていた盟主ね...。)」
忠義の騎士に関する事で色々聞かせてくれた。
騎士の名前や、仕えていた主の名前。
...あのおとぎ話に導王の子供時代に憧れていた身としては興味深いものだった。
「...楽しかったかしら?」
「ん?...そうだな。ジェイルの話は興味深いものが多かったからな。次元犯罪者という立場がなければすぐにでも連絡先を交換していたさ。」
「色々複雑みたいだからねー。」
立場上、僕は管理局側の人間で、ジェイルは次元犯罪者だ。
そのため連絡先を交換する事もできない。...その代わり見逃したけどな。
「人手不足に裏での犯罪行為...。管理局って...。」
「...人の上に立つ組織なんて、そんなものよ。」
「まぁ、そうなんだけどさ。」
僕だって導王時代の時にそれで苦労したものだ。
不正や悪事など、取り除いても湧いて出てくる。
その挙句の果てが、シュネーの惨劇なのだから。
「世知辛いのはいつの時代も変わらない...か。」
「まったくだね。」
「そうね。」
僕の言葉に、三人で苦笑いした。
=out side=
「いやはや、やはり会ってみた方が面白いと言えるな。」
「ドクター、これからはそういう事はお控えください。気づかれれば危険ですよ。」
「善処するよ。」
研究所に戻ったジェイルは、ウーノにそう返す。
「...しかし、まぁ、興味深い事もあった。」
「...はい?」
「いや、彼の性質が少しばかり見えたのでね。」
少し真剣味を帯びた表情になったジェイルに、ウーノも真面目に聞く事にする。
「彼は小さな“可能性”を掴む事を得意...いや、能力としているようなのだよ。」
「可能性を...ですか。」
「ああ。為したい事象を実現できる確率が、0%でない限り、その可能性を掴み取れるという、凄まじいものだよ。そして、現実に0%はありえない。つまり、理論上彼は何事も為す力を秘めている事になるのさ。...飽くまで理論上だがね。」
「それは...。」
例え理論上なだけだとしても、凄まじいとウーノは理解する。
「だけど、忘れてはいけない事がある。...小さな可能性を掴むという事は、他の可能性を潰すという事でもあるのさ。力には当然リスクも付いてくる。強大な力であればあるほど、それに付随するリスクは大きくなるのだよ。」
「...だとすれば、彼は一体どんなリスクを...。」
「さぁ?詳しくは分からんさ。だけど、彼をあそこまで強くしたのには代償があるだろうさ。...ないのだとすれば、それこそ“可能性”を司る存在程でなければね。」
「......。」
“どこまで識っているのだろう”と、ウーノは自身を造った相手ながらそう思った。
「それはそうと、地球は...と言うより、海鳴市だったか?あの街は住み心地が良さそうだね。翠屋での料理も美味しかったし...ふむ、“これ”さえなければ、あそこにでも住みたいものだ。」
「...残念ながら、それは...。」
「分かっているさ。」
ジェイルが指す“これ”とは、頭に仕掛けられた爆弾である。
手術で取り除こうとすれば気づかれ、電波などで破壊しようとすればジェイルごとやってしまうという、中々に厄介な代物である。
「では、私は課された仕事に戻るとしよう。君は妹たちの世話でもしてくれたまえ。」
「分かりました。」
切り替え、それぞれやる事に戻る二人。
部屋に残ったジェイルは、ふと先程の自分の言葉を思い出す。
「詳しくは分からない...ね。まぁ、彼とあの二人の様子を見れば、大体予想はつくが...これだけでは軽い気がするんだがね。」
優輝があそこまで強くなった代償。
それは、予想したジェイルも苦笑いするようなもので...。
「...差し詰め、“自分から惚れる可能性”と言った所か...。なんというか、“恋”を知らないような雰囲気だったね。...私が言えた事ではないが。」
何とも、馬鹿馬鹿しいものだった。
「...大きな力とは、相対して大きな対価が必要だ。それを乗り越えれる可能性もあると普通は言えるが...さて、“可能性”を掴む力の場合、どういえばいいのやら。」
だけど、それでもと、ジェイルは頭の中で思う。
「.....彼なら、どうとでもしそうなのが、また不思議だね。」
そういって、彼は自身のするべき事へと取り組んでいった。
後書き
なぜかスカさんを出すと話が書ける書ける。
innocent寄りな性格なため、残念なイケメンみたいになってます。また、“次元犯罪者に仕立て上げられた”とか言ってますが、案外その立場を愉しんでたりします。
...そして、優輝に対する予想の大方を当てていくという天才っぷり。
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