グランドソード~巨剣使いの青年~
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第4章
3節―刹那の憩い―
夜の中の決意
「ん~っ…。疲れたぁ…」
エレン、深春、エミア。
仲間達と親睦を深めるのはいいし、身体的にも全く疲れていないのだが、流石にこれだけ連れ回されると精神的に疲労が溜まる。
嬉しい悲鳴ってやつか…と、この人生の中で初めての疲労感を味わいながら、ソウヤは自室の扉を開け――
「あ、おかえりなさい。ソウヤさん」
「え…?」
――ベッドに座っている寝間着姿のルリを見つけ、ソウヤは入る部屋間違えたのかと本気で思った。
「少しお邪魔させてもらっていますが…よろしいですか?」
「あ、あぁ…構わないが」
ソウヤが許可を出すと、「ありがとうございます」とルリは嬉しそうな笑みを浮かべる。
心から嬉しいと思っているのが丸わかりなので、ソウヤも仕方ないなと思って部屋に入った。
「こんな時間帯にルリが居るってことは、もしかして今か?」
「はい。今、この時間帯にさせてもらいました」
―なんか、凄い時間帯に来たな…。
下手な人から見れば確実にそれは夜這いとして扱われるレベルだ、なお男がやれば即逮捕であるが。
部屋に入ったのは良いものの、どこに自身の体を落ち着かせればいいのか分からないソウヤは、扉の前で立ち尽くしてしまう。
それに気が付いたルリが、自身のいる真横を叩いた。
「そ、そこに行けと…?」
「…嫌でしょうか?」
別に嫌でないが、本当に“そんなこと”をする雰囲気になりそうで無理…とは言えないソウヤは、ルリから目を背けながら横に座った。
「ふふっ…」
「………」
嬉しそうにしながらはにかむルリと、顔を真っ赤にしながら黙りこむソウヤ。
なんとも初々しい雰囲気で、客観的に見るものが居れば吐きそうだ。
この小恥ずかしい状況を何とかしなければと、ソウヤは目を背けながらもルリに質問する。
「あの、ルリ。ええと…どうすればお前は満足して帰ってくれるのか?」
今までの2人での時間は全てソウヤに何かを見せたい、体感してほしいという気持ちがあったもの。
だからこそ、ルリがその事を考えていない訳では無いとソウヤは思った。
けれど、ルリの口から出た言葉は少し意外なもの。
「――癒されてほしいんです」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまうソウヤ。
あまりの破壊力に、思わずルリの顔を見てしまい――
「…ッ」
――その顔が真っ赤なことに気が付く。
―え、えぇ…。いやいやいやいや待て待て、落ち着け俺…!
変な事を想像しそうになったソウヤは、暴走する心臓を押さえつけルリに分からないように深呼吸する。
しかし、ルリは止まることを知らず言葉を続けた。
「最近、ソウヤさん精神的に疲れているんじゃないかなって…。それに今日は特に、色んな人に色んな所に行かれたでしょうし…」
「お、おう」
確かにルリの言っていることは間違っていない。
ソウヤは精神的に疲れている、今日は特に、今この瞬間特に。
「そ、それにですね、ソウヤさん“あれ”をしてるの全く見たことないんです。“溜まってる”んじゃないかなぁって…」
「!?せ、せやな」
段々口調までおかしくなり始めたソウヤ。
“あれ”とか“溜まってる”とか言い始めたら流石にそうもなるだろう。
でも流石に思春期に青春らしいことを一度もしたことない男子にはきついのではないだろうか。
「だ、だからですね…してあげようかなって――」
「…な、何を?」
聞いていいのか、いけないのか。
一度足を突っ込んだら負けではないのか、覚悟を決めた想いはどこにいったのか。
知らず知らずに生唾を飲み込んだソウヤに、ルリが目を合わせて想いを告げる。
「――耳掻きを!」
「……へ?」
覚悟もクソもなかった。
「――気持ち良いですか?」
「あ、あぁ…」
その後、ソウヤは言われた通りルリに耳掻きを受けていた。
もちろんその体制は――
「――あの、さ…。なんで膝枕?」
「え!えぇっと、この方がやりやすいじゃないですか…!」
珍しくルリに力説され、思わずソウヤは「お、おう…」と頷いてしまう。
とはいっても、至高の癒しであることは間違いない。
膝枕をされながら耳掻きを受けると言うのは、王道でありながらも誰もが憧れるものなのだ。
―あ、やべぇ…。段々眠たくなってきた……。
あまりの心地よさに瞼を重たげに開くソウヤに、ルリは気付くと――
「…あの、寝てしまっても大丈夫ですよ」
「ッ!…わ、わかった」
――耳元で囁く。
いきなりの耳に感じる吐息にソウヤは体を震わせ、目が覚めるのを感じた。
―こいつ、悪魔かなんかか…?
さきほどの思わせぶりな話し方といい、この唐突な行動といい、もう妖精じゃなくて悪魔を名乗った方がいい気がしてきたソウヤ。
といっても、ルリ本人がそれを故意でやっていないのは流石に理解できるので、名乗るとしても悪魔ではなく小悪魔だが。
―…にしても、この感じ。まさかラノベみたいな雰囲気を味わえるなんてな。
元の世界でソウヤが何だかんだハマっていたのが読書だ。
ジャンルは恋愛、ラノベ、推理、哲学…結構何でもだったが、それでもやはり年頃の男子たるもの、ラノベみたいな展開を夢見ないわけでは無かったのである。
だからこそ、この異世界転移に最初は異常に興奮していたソウヤだったが、その実ラノベらしいことは殆どしていない。
雑魚相手には無双はしていたが、強い相手はソウヤと同レベルかそれ以上。
愛の為に頑張る訳でもなく、故郷の為に頑張る訳でもなく、ただ自分が元の世界に帰りたいから頑張る。
現状がハーレムなんておこがましい、自分がそれを望むのも論外だろう。
ラノベみたいに、すぐに“死”に慣れもしなかった。
この世界に来てすぐはいつも死体を見て吐いてたし、それでも結局は何かを食べなきゃ生きていけないから無理矢理口に詰め込んでいた。
何度も死ぬと思ったし、何度も痛い思いもした。
心だって壊れたことがあるし、身体だって何度も無理して壊れかけた。
―…本当、ラノベらしくない俺の人生だな。
それでも、そうだとしてもやはり――
「なぁ、ルリ…」
「…はい」
「俺、2日後頑張るよ」
――やはり、後悔はしていない…とソウヤは思う。
無双していなくてもいい、自分が故郷に帰るためでもいい、ハーレムなんて女性が可哀そうだ。
それに、“死”に慣れるなんてふざけてるし正直今でも吐きそうまである。
だってそれが“普通”だ。
何度も死ぬ思いをして、何度も痛い思いをして、ここまで来た。
心だって一度壊れた、体だって壊れかけたけど、ここまで来た。
なら、それが“我道”だ。
「誰だって自分の命を玩具にされたら怒る。そんなやつ許せないよな」
「…はい、そうですね」
許せないなら、謝ってもらわないと。
許せないなら、償ってもらわないと。
その気持ちを持つことに、“後悔はない”。
「ありがとう、ルリ。凄く助かった」
「はい…!」
“後悔しない”。
その為に、俺はここまで来た。
“後悔しない”。
その為に、俺は神をも倒そう。
――それが最善への道だと、俺は思っているから。
後書き
――人が行う”夜の中の決意”というものは、意外と長く続くだろう。
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