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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第4章
3節―刹那の憩い―
  天地の光

 深春がその後、急に恥ずかしがって他人礼儀になったり、それでソウヤも感化されてオドオドし始めたり…。
だが、2人の時間は非常に大切なものだったと、互いに思っていた。

 そんなこんなで時間は経ち、日が沈み始めた頃を見計らいソウヤは深春と別れ一足先に城へ。
 何故なら、そうしろと深春が切りだしたから。

「…御帰りを心よりお待ちしておりました。ソウヤ様」

 ソウヤが城へ帰り、そのまま流れるように風呂へ連れて行かれ、使用人たちに案内された先にはエミアが居た。
 純白に輝くドレスを身に纏い、長机の主賓席に座っているのが様になっている。

 美しく座る彼女の口から出たのは、“王女”としての言葉。
 ならば、それに対する答え方は1つしかなかった。

「はっ…。失礼いたします、女王陛下」

 片膝をつき一礼すると、ソウヤは長机の半ばで座る。
 それをエミアは確認すると使用人に合図を送り、夕食を並べさせ「2人きりに」の一言で使用人を下がらせた。
 ここまでしてようやく――

「はぁ…。疲れたのです」
「ご苦労なことだな、エミア」

 ――素のエミアと会うことが出来る。
 両肩を揉むような仕草をするエミアにソウヤは苦笑をせざるを得ない。

 ―…流石に、17歳で王女というのは窮屈だろうな。

 ソウヤよりも3歳も幼いこの女の子が、ソウヤより何倍も辛く苦しいことをしている。
 その事実だけで、このような状況に追いこんだウィレスクラに怒りを覚えよう。

「さて、使用人さんたちも居なくなったことなので、頂くとするのです」

 さも当然かのように事態が進んでいるが、どうやら次の相手はエミアだったらしい。
 ご丁寧に食べる…ということはなく、ごく一般的な食事の仕方で食べ始めるエミアに続き、ソウヤも目の前に並ぶ大量の食事に手を出し始めた。

「ふふ、おいしいのです~」
「…?食事中は喋るのは禁止じゃなかったか?」

 リスのように口を膨らませながら幸せそうに話すエミアに、ソウヤは疑問を覚える。
 流石に食事中に喋るのは使用人が居なくても駄目なのでは…と。
 その疑問にエミアは顔色を急に変えて、真面目な表情でソウヤの方を向く。

「それじゃあ美味しいご飯も美味しくないのですよ…!」
「…そっか」

 「そうなのです」と満足げに答えたエミアは、またご飯に手を出し始めた。
 幸せそうな笑みを見て、ソウヤは思う。

 ―こっちの方が似合うな、やっぱり。

 女王らしく凛として気品もあり、威圧感を醸し出しているエミアより、小動物みたいに可愛らしく食べているエミアの方が何倍も合っていた。
 お転婆、という言葉があっているのかもしれないが、あえてソウヤは“王女っぽい”と思うことにする。

「じゃあしょうがないな…っと」
「?ソウヤさん、急に立たれてどうしたのです?」

 盛り付ける皿などの食器を持って立ち上がったソウヤは、「さぁ?」とニヤついて移動して座った。
 その席は――

「――わ、私の横!?」
「良いだろ別に、喋るやつが遠いと美味しいご飯も美味しくなくなるからな」

 主賓席のすぐ近くにあるイスに座ったソウヤは、食事の続きをする。

「ソウヤさんは面白いのです」

 エミアはすぐ近くで作法も糞も無い食べ方をしているソウヤを見て優しげに微笑むと、自分も慌てて食事を再開。

 そうしてしばらくの間、ソウヤとエミアは互いに雑談も交わしながら到底2人では食べきれない食事を減らしていくのであった。




「…女王陛下?」
「もう少し御寛容ください」

 食事を終えたソウヤとエミアは、すぐさま元の席に戻り演技も戻すと使用人を呼び片付けさせ始めた。
 そうして移動するとエミアが言い、ソウヤが了解すると――

「あの…いつまで目をお隠しに?」

 ――いつの間にか黒い帯で目を隠されていたのが現状。
 長いこと歩いた気もするが、エミアはもうちょっと、もうちょっとを連呼し聞く耳を持たない。
 どこか行きたい場所があるにしても、目隠しは少し…いやかなり怖いからソウヤは止めてほしかった。

 というのも、ソウヤは元の世界では絶叫系・恐怖系のアトラクションがからっきしだったのが理由。
 つまり、俗にいう“一緒に遊園地に行って面白くない”人間だったのだ。

 ―何かあれば気配でわかるし、すぐに目隠しも外せるから良いが…。

 それでも精神的恐怖というものは、どれだけ肉体面を強化しても変わらないものである。
 すぐ目の前に壁があったら…と目を塞いだ状態で思うと、本当にぶつかった感触を微妙に感じるように、脳というのは思い込みで間違えるのだ。
 思い込まなければいいと言うが、それが出来ればとっくに克服している。

 出来ないからこそ“苦手”なのだ。

「――もう、着いたのですよ」
「あ、あぁ」

 と言っている間に、目的地に着いたようで背中を押していたエミアが離れる。
 口調も“素”になっているところを見ると、周りに誰も居ない、または誰からも見られない場所なのだろう。
 そう思い、ソウヤは普段通りの口調でエミアに聞いた。

「じゃあ、黒い帯を外してもいいな?」
「はいなのです」

 布の擦れる音がして、視界に光が差し込み目に情景が映り始める。
 今いる場所、そこは――

「ぁ…」
「王族お気に入りの場所なのです」

 ――高い、本当に高い木の頂上だった。
 すぐにわかる、ここはエルフ大陸の首都…大樹のてっぺん。
 見下ろせば人々の営みを示す、暖かな光が見える。

「あぁ、すごく綺麗だ」
「…こっちも綺麗なのですが、あっちも綺麗なのですよ」

 あっち?とソウヤは思いエミアに視線を向けると、彼女は天高く指を上に差していた。

 ―上…てことは空?

「…あぁ、確かにすごく綺麗だ」

 エミアに釣られ上空を向いたソウヤが見たのは、視界いっぱいに広がる星の海。
 大小さまざまな光が、まるで共鳴し合いように瞬きあう…そんな光景だった。

 “こっち(人々の光)”が現実的な美しさなら、“あっち(星々の光)”は幻想的な美しさだろう。
 現実的な美しさは積み上げてきた重みや温かみを感じられ、幻想的な美しさは一瞬に全てを込めたかのような儚さを感じられる。
 どちらも、本当に美しかった。

「初めてだ、こんなにいっぱいの星空を見たのは」

 元の世界では都会に住んでいたせいか空気が汚く、星空なんて全く見えなかった。
 この世界では毎日が忙しいし、約半分は建造物の中に籠っていたから見なかった。
 だから、今初めてわかったのだ――

「この世界は、美しかったんだな」

 ――護るべき世界が、こんなにも光で満ちているのだと。

「気に入りましたか、ソウヤさん?」
「あぁ…あぁ、すごく」

 素晴らしすぎて言葉も出ない。
 今だけは本当に自分の低い語彙力が恨めしい…とソウヤは思った。

 ―こんな感動を、他人に分かってもらえないなんて。

 人の温かさと空の儚さ、それは共存出来るのだと知らなかった…それを今、エミアに教えてもらったのである。

「ありがとう、エミア。こんな光景を見せてくれて」
「…はいっ」




 あぁ、また惜しいと思ってしまった、“この世界”と別れを告げることを。 
 

 
後書き
――人工の地と天然の天、その”天地の光”は美しいもの。 
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