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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第4章
3節―刹那の憩い―
  唐突に起こす素

「もう、女性を待たせるなんて…男として酷いと思わない?ソウヤ」
「悪い深春、すまんかった」

 エレンとスラム街へ向かい、食事を作っていざ振る舞う…までは良かったのだが、人が思っていた以上に多く時間がかかってしまったのだ。
 とはいっても、約束の時間に少し遅れてしまったのは事実なので、ソウヤは素直に謝る。

 本気で走ってしまえば、予定時刻まで1秒しか無くてもソウヤは大陸の端から端まで辿り着けるだろう。
 しかし、そんなことすると周りに被害―災害とも言う―が出てしまうのだ。

 ―…まぁ、時間見とけって話なんだがな。

 結局は時間をしっかり確認していなかった自分が悪いのだと、ソウヤは結論付ける。

「謝ってくれるなら許してあげる。何か理由があったんでしょ?」
「――ありがとう」

 ソウヤを信頼するからこそ“理由があるのだ”と納得してくれた。
 それほど嬉しいことは無い、とソウヤは思う。

「じゃあ、行こっか」
「どこに行くんだ?」

 時刻は大体お昼前。
 人も賑わい初め、活気が溢れはじめる時間帯だ。
 行こうと思えばどこへでも行けるだろう、と思いソウヤは深春に問う。

「そんなの決まってるでしょ」
「?」

 深春は太陽のように明るい笑顔を見せて走り出した。

「お昼、食べに行くの!」
「…あぁ、なるほど」

 確かにお昼時だったな、と先ほどまで大量の食事を作っていたことで忘れかけていたことをソウヤは思いだす。

 ―そこまで腹は減っていないが…。

 走って目的地へ急ぐ深春の後姿を見て、ソウヤは久しぶりに胸が躍るのを感じた。

 ―仕方ない、付き合ってやるか!

「おい、待てよ深春!」

 慌ててソウヤも先を急ぐ深春の背中を追う。
 その表情はまるで年頃の少年のように周りからは見えたのだった。




「――そういえば、どうしてお前は口調が“それ”なんだ?」
「ふぇ?」

 口の中に焼き鳥―のようなもの―を口いっぱいに詰め込んで、一心不乱に食べ続ける深春に、ソウヤはふと疑問に思ったことを口に出す。
 本来の深春の喋り方は「~ござる」で一人称は「小生」だったはずだ。
 とはいってもそれは“本来の喋り方”であって“素の喋り方”とは別物なのだが。

 ソウヤの問いに、深春は口の中にある肉を全て飲み込んだ後さも当然化のように答えた。

「私、決めたの。貴方の前でだけは“深春()”で居ようって」
「…そっか」

 深春の知る中で唯一心の底から信頼できる男性はソウヤのみ。
 縛り続けた過去を断ち切ったとはいえ、そうそう“あの過去”を無かったことに出来るわけでは無い。
 未だに深春の中には、“あの男たち”の影がうろついているのだろう。

 同じ同郷人として、信頼される人として、出来ないことは無いだろうかとソウヤは少し考える。
 考えた結果――

「そっか、なら俺もお前の前でだけは“蒼也()”で居ようかな」
「…ぁ」

 ――ソウヤも、同じことをすることにした。
 突然の行動に深春は喉を詰まらせる。

 ―やっぱり長い間これで喋ってないせいで、少し違和感あるなぁ。

 内心、いきなり口調を変えた違和感に苦笑をしながらもソウヤは固まった深春を見た。

「ぃぃ…」
「へ?」

 小さく呟いた深春の言葉を、流石のソウヤもいきなりすぎて聞き取れない。
 次は聞き流さないぞと耳に神経を集中させたソウヤ。
 …しかし、すぐに後悔することになる。

「それいい!!!!!」
「――――ッ」

 研ぎ澄まされた耳の中にある鼓膜を揺らしたのは、普通でもびっくりするくらいの大声。
 あまりにデカさに、ソウヤは肩を震わせた。
 しかしそんなこと知るものかと、深春は興奮した様子でソウヤの両肩に手を置いて顔を近づける。

「それいい、すごくいいよ!なんだかカップルみたいだし!!」
「お、おう…気に入ってもらえて結構だよ」

 結構近い距離に深春の顔があり、ソウヤはタジタジだ。
 最近良いとこなしで忘れがちだが、深春だって他の仲間に負けていないくらい顔が整っている。
 少なくとも、元の世界だったらアイドルにでも成れた…と思えるぐらいには可愛い。

 エレン達とあんなことまでしておいて、今更それかと思われるかもしれない。
 けれど、また違うのだ。

 この世界で出来た仲間達は、“圧倒的な美しさ”や“圧倒的な可愛さ”に目を奪われる。
 もちろん性格も良いし、全て元の世界じゃ比較にならないほど。
 元の世界で生まれたソウヤはそれでも、何となく“モデル”や“女優”に向けるような、“尊い”という言葉が似合う気持ちでいる。
 別次元の存在すぎて、逆にそれ以上の感情を求めてはいけない…と自身で抑えているのだ。

 深春は他の仲間達に比べるとやはり外見では一歩劣るだろう。
 けれど、それによって逆に別次元にならずに済み、ただ“可愛い”という言葉が似合うのだ。
 温かみがあり、“自分では…”という遠慮しがちな思考が起きないのが、今ソウヤがドギマギしている理由である。

 正直に言うと、元の世界で深春にソウヤが会っていれば確実に恋に落ちていただろう。

「えっと、深春…顔近いんだけど……」

 やっと興奮が落ち着いてきた深春に、ソウヤは周りの視線を感じながら宥める。
 完全に落ち着いた深春は、冷静に今の状況と周りの視線を把握し――

「…な、なぁあぁぁぁ」

 ――意味不明なことを言いながら座り込んだ。
 ソウヤは何が言いたいのかは大体理解できたらしかった。

 ―なにやってんだ私…って言いたかったのか。

 つまりは、あまりの恥ずかしさに言葉として成立せず、ただのうめき声になったのだろう。

 ―まぁ、それだけ喜んでくれたってことかな。

 というソウヤ自身も、内心嬉しかった。
 この世界ではもちろん、元の世界でさえ“こんなこと”をしたことは一度も無かったのである。
 同級生の男子と小さい頃は馬鹿やっていたが、女子と遊んだ記憶が全くない。

「…ありがとな」
「ぅう……」

 呻いて恥ずかしがる深春に、ソウヤは聞こえてないのを承知で感謝を述べた。




 …少し、世界神を倒したら会えないのだと残念に思う気持ちを押し殺しながら。 
 

 
後書き
――親しき仲でも、”唐突に起こす素”というのは以外と恥ずかしいものだ。 
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