グランドソード~巨剣使いの青年~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第4章
2節―変わらぬ仲間―
終結と布告
どうやってソウヤはミカエルを地面に堕としたか。
その質問に答えるのは単純だ。
左手に嵌めたグローブから発した爆風で“強制横移動”を行い、不意を突いたのである。
雪無を近衛剣から王剣へと昇華させるとき、ソウヤは自らの魔法スキルを具現化し雪無の力として込めた。
その時から、ソウヤは他の物にもスキルを具現化し装着することが可能ではないか…と考えていたのだ。
結果として出来たのが、今現在ソウヤが嵌めているグローブ。
『亡霊解放』の中に眠る火魔法スキルを持つ魔物の力を具現化し、元在ったただのグローブに装着したのである。
「ふ、ふはははは…。まさか人間如きに我が地面に堕とされるとは…考えもしなかった」
「俺もまさか熾天使如きが俺の全力を受け止められるとは、思ってもいなかったよ」
ソウヤはミカエルの煽りを返すと、巨剣化している雪無を地面に堕ちた天使に向けた。
一度地面に着いてしまえば、かなりの隙が無ければ上空へと戻れない。
故にここで初めて、ソウヤとミカエルは同等の条件で戦う。
「…まぁ、良いさ。我が主はここまで予想しておられたのだからな」
「――――」
ミカエルは眉を潜めるソウヤに含み笑いで答えると、右手首にある9つの金輪を鳴らした。
その高い金属音に共鳴するように、ミカエルの持つ三対六枚の翼が鳴り響く。
互いが互いを高め合い、その音が最骨頂まで至ったその瞬間――
「なっ…!?」
「怯えろ、敬え…ひれ伏せろ、人間」
――黄金の輝きと共に現れたのは、目を疑うほどの光量を宿した剣を持つミカエル。
その姿は合計6枚の大きな翼と9つの金輪が消えてなくなっており、その特徴全てが手に持つ黄金の剣に在った。
「これが、我が主が託した最強の能力が1つ…“神々の剣Ⅱ”」
「――よりにもよって、そのスキルを持ってるのか…お前は」
“神々の剣”。
この世界がまだゲームだと認識されていた頃、αテストで居た住民から聞ける最強のスキルの1つに、このスキルがあった。
黄金の輝きを持つ剣を手にし、最強の名を思うが儘に出来る…その資格を得られるスキル。
しかし、αテストどころかこの世界に来てから1度もそんなスキルの噂は流れもしなかったので、ソウヤ自体殆ど忘れていた。
それが、今この瞬間ソウヤの前に“敵として”現れる。
「この最強の剣を前に死ね、人間」
ミカエルは油断なく、“神々の剣”をソウヤに向けて構える。
だが、戦う前に1つどうしてもソウヤはミカエルに反論したいことがあった。
「残念だけどミカエル、その剣は最強じゃない」
「…なんだと?」
ソウヤはその手に持つ“相棒”を天空高く掲げると、不敵に笑う。
この剣とは、長い間共に戦ってきた。
初めは弱かったが、その伸び代はどの剣よりも高く…結果的に今では最強を誇れる。
どこか、この剣と自身は似ていると…ソウヤは心のどこかで思っていた。
努力すれば、鍛え上げれば最強になれる才能を、どちらも持っていたのだから。
「最強は俺の相棒…雪無だよ、ミカエル。この剣に勝るものはどこにもない」
「ふっ…。笑えぬ冗談だ」
ソウヤとミカエルは互いに真剣な表情で得物を構えた。
「じゃあ、今ここで決めようじゃないか…どちらが最強の剣なのかを」
「面白い…やってみ、ろッ!」
空気の壁を突き抜けながら、ミカエルはソウヤの目の前に現れる。
出現と共に振るわれる黄金の剣を目の前に、ソウヤは雪無で受け止めようと構えた。
「なッ…!?」
その行動を嘲笑うかのように、次の瞬間にソウヤは地面を大きく削りながら吹き飛ばされているのに気が付く。
―何が起きた!?
勢いを完全に止めると、ソウヤはその圧倒的な身体能力と卓越した技術によって音速をも超えミカエルに突撃する。
振るわれる巨剣にミカエルはただただ笑みを零すと、黄金の剣を斬撃に合わせるように振るった。
そして、ソウヤの斬撃とミカエルの斬撃が重なる瞬間――
―…見えたッ!
――黄金の剣から神力があふれ出るのをソウヤは確かに確認する。
「ぐっ…うぅっ!」
大きく後ろに吹き飛ばされながらも、まともに打ち合うことの出来ない原因を理解したソウヤは、ミカエルを睨み付けた。
その視線で大体何が言いたいのか理解したミカエルは、大きく口を歪めてソウヤを嘲笑う。
「一時的に神力を纏う…それがその剣の能力か」
「だから言っているだろう?“神々の剣”だと、な」
神しか得ることの出来ない特殊な力…“神力”。
それを“神気”として纏う者は下位存在の攻撃を一切受け付けなくなり、逆に触れる不届き者に粛清を与える力だ。
“全てを拒否する力”を持つソウヤの場合は吹き飛ばされているだけで済んでいるが、それ以外の生物なら打ち合っただけで肉片となっているだろう。
だからこそ神しか持てない…はずなのだが、どうやら目の前の黄金の剣はそれを無視して自らの刀身を“神気”で覆っているらしい。
―なるほど、そんな“最強の武器”を扱う資格を持てるから、“最強のスキル”と言われているのか。
“最強のスキル”を持ち、尚且つ“最強の武器”を手に入れる…そんな豪運、普通の人なら到底叶わないだろう。
どれだけ努力しても、その力は得られないのだから。
「託されたと、言ったな」
「あぁ、我が主が託しくださったのだ…この我に」
“それをここまで成長させたのは貴方だし、その力を使って私たちを…世界を救おうとしてくれてるのは貴方よ、ソウヤ”
少し前に、レーヌが言ってくれた言葉を思い出す。
確かにソウヤの持つ力は“貰い物”…言葉を変えるのなら“託された力”だ。
けれど、その“託された力”も最初は弱く…他の人に比べて少し才能がある程度。
必死に育て、必死に生き延び、必死に鍛えてやっとここまで強くなれたのだ。
だからこそソウヤはミカエルに言いたいことがある。
「――他人の力を威張って楽しいか?ミカエル」
「…ッ!」
刹那、ソウヤの目の前に黄金の剣を構えるミカエルの姿が現れた。
薄々ミカエルも気付いてはいたのだろう。
この力はあくまで“他人の力”なのだということを。
振るわれる黄金の剣。
受け止めてしまえばソウヤは成す術もなく吹き飛んでしまうし、避けるのはこの至近距離では不可能だろう。
ならば――
「ぐッ…!」
――吹き飛ばされなければいい。
黄金の剣を“肩で”受け止める直前、ソウヤはミカエルの背中に手を回してガッチリと掴む。
こうすることで、“神気”による圧力と肩に入るダメージさえ耐えてしまえばソウヤが吹き飛ばされることは無い。
―“肉体強化”、“亡霊解放・二ッ…!”
ソウヤが自己強化をし終えると同時に、肩の痛みと“神力”による吹き飛ばしが始まる。
「ぐッ…!がぁあぁああああああッ!!」
“神気”による圧力と黄金の剣の他を凌駕する攻撃力に耐え、ソウヤは雪無をミカエルの腹目掛けて全力で手前に振るった。
巨剣の分厚い刀身が、全てを破壊せんと突き進む。
そして、黄金の剣は消滅した。
持ち主が死ねば、その肉体は扱う資格を失い黄金の剣は消え去る。
そしてまた扱う資格を持つ者を待つため、どこかに現れるのだろう。
「人、間…!」
「まだ…生きてるのか、ミカエル」
呆れた精神力にソウヤはそう言い…心の中ですぐに訂正する。
今、この時ソウヤに言葉を発しているのは怨念だ。
ソウヤと戦闘し、死んだ者の魂は黄泉へと行けずソウヤの“亡霊解放”の中で閉じ込められることになる。
だから、今現在ソウヤに言葉を発しているのはミカエルの魂。
“巨剣使い”、いや“剣神”となったソウヤの、逃れられぬ罰だ。
「…すまない、せめて安らかに“生きてくれ”」
そう言い、ソウヤはミカエルの魂を閉じ込める。
一つため息をつきソウヤは周りを見渡してみると、周りの仲間達も大概の天使を倒し終わっているところだった。
と言いつつ、その周りとは“1㎞”ほど離れているのだが。
「…とりあえず、加勢しに行くか」
ソウヤはそう言って立ち上がり、仲間達の元へ消え去った。
「やっと、終わったか…」
生き残った最後の天使の心臓をソウヤは一突きすると、大きくため息をついた。
全てミカエルと比べたら圧倒的に弱かったが、それでもあの異常な量と戦い続け流石に疲れてしまったのである。
それでも、自身を信じ戦ってくれた仲間達に感謝を告げようとソウヤは足を運びかけ――
「あ~あ、全滅しちゃったかぁ」
――久しく聞いたその声に、ソウヤは表情を変貌させて声の方へ振り向いた。
姿は見えない。
それでも、この声はどんなことがあっても忘れることは無いだろう。
この声はソウヤを…地球に居た10万人を…この異世界の住民全てを不幸に陥れた張本人なのだから。
「ウィレスクラッ!」
「こうして声を交わすのは初めてかな?ソウヤ君」
嘲笑うかのように調子付いた声を聞くだけで、ソウヤはウィレスクラが愉悦に浸っているのが手に取るように分かる。
それが出来るだけの力を、持っていることも。
「手駒も大体倒されたし、もう一度天使たちを“創る”のも大変だしなぁ…。っていうことで、今回僕はソウヤ君に提案しに来たんだよ」
「提案…?」
ウィレスクラの口からサラリと出た、“天使を創る”という言葉も気になるが、それよりもソウヤは“提案”の方が気になっていた。
この世界をまるでゲームのように…否、ゲームとして見ている彼が言う“提案”とは何なのか、それを知りたかったから。
だが、ウィレスクラから発せられた“提案”は予想以上に最悪だった。
「僕、4日後にこの世界滅ぼすから。僕を殺したいのならそれまでにここまでおいで」
それは“提案”ではなく、“挑発”そのもの。
ソウヤの力が高まる前に必ずこの世界を滅ぼす、それが嫌なら“不完全な状態で”自身を倒しに来い…最も考える中で最悪のパターンだった。
元々この世界をゲームとして見ているウィレスクラは、圧倒的な力がありながら…嫌、あるからこそ必要以上に介入しない。
理由は、介入してしまえば面白くないからという単純明快なものだ。
けれどゲーマーでウィレスクラがあるからこそ、それを突いてソウヤはここまで強くなることが出来たのである。
けれど、ついにウィレスクラは自身が世界に介入すると明言した。
本気を出した世界神に、誰も…今現在のソウヤでさえも敵うことは無い。
ここまで警戒されてしまえば、ほとんど“詰み”も同然に等しいのである。
「今日から3日後、僕はここに“神界”へと通じる穴をあける。当然、入れるのは君1人だけ。だって“神力”に耐性があるのは…君だけでしょ?」
確実にソウヤ達を詰みの方向へ持っていきながらも、最低限遊べるところは遊びつくす。
こうなってしまえば、ソウヤは完全に玩具と化してしまう。
不完全な状態で挑んでしまえば勝ち目がないことは、アルティマースが断言していた。
それでも。
「…………る」
それでも…。
「……てやる」
それでも――
「やってやるッ!」
――それでも、ソウヤは諦めない。
確かに今の自身は不完全な状態だ。
確かに今の状況は圧倒的に不利だ。
確かにもう大概に詰みなのだろう。
けれど、それは“確実”ではないのである。
不完全な状態でも勝ってしまえばいい。
圧倒的に不利でも覆してしまえばいい。
大概に詰みだとしてもまだ光明がある。
なにより、ここで諦めてしまうのは“自分らしく”ない。
何故なら――
「俺はお前をぶっ倒して、元の世界に戻ってやるッ!」
――諦めたら、自分自身が一番後悔するのだから!
「ふ、ふは…あははははははは!!!!良いよ良いよ、それでこそ“君”だ!」
「首を洗って待ってろ、ウィレスクラ。必ずお前をぶっ飛ばしてやる」
そのソウヤの宣言に、大笑いしながら声は消えていく。
理解した、ということで合っているのだろう。
「…3日後、か」
そう呟くソウヤの視界に、駆け寄る仲間達の姿が見えた。
―仲間を必ず護るため。皆を必ず救うため。俺たちを必ず戻すため。俺は戦おう。
不安気に揺れる仲間達の表情に、ソウヤは小さく笑むと仲間の元へと地面が壊れない程度の速さで駆けていく。
未だに彼は不完全で未完成。
けれどその意思は誰よりも気高く、誰よりも頑丈。
反逆の時間まで、後3日。
ページ上へ戻る