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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第4章
2節―変わらぬ仲間―
  何も出来ぬ人間だから

「全天使よ、この下等な生物共を…殺せ」
「頼むぞッ!」

 そう叫んで、ソウヤは大きく後ろに下がる。
 ほとんど同じタイミングで放たれたエレンの技で視界を奪っている間に、ソウヤはルビと合流した。

「ルビ、“封印”の解除を頼む」
「了、解…!」

 ルビは間髪入れず即答すると、ソウヤの顔を両手で覆いこちらを向かせる。

 封印の解除方法は、封印した方法と全く同じ…つまり今回の場合はルビとのキスだ。
 それ故に戦闘内ではあまりに隙が大きすぎて出来ないソレを、仲間達は瞬時に察しソウヤの掛け声と共に動いたのである。

 ソウヤはこちらを見つめるルビの瞳が僅かに揺れ動いているのを見て、口元を緩ませた。
 何故なら、罪の意識に囚われている彼女に酷くソウヤは感謝を覚えたから。

「ルビ…俺は大丈夫だ、頼む。この戦いが終わったらちゃんと答えを返すよ。その為にも、何よりルビの為に…“封印”を解除してくれ」
「……分か、った」

 ルビはソウヤの説得に折れたのか、自身の唇を相手の唇に重ねる。
 そこには互いの感情は要らない…だが、ルビは精いっぱいの愛情をソウヤに託し、ソウヤはルビの深い感情を受け止めきった。
 本当にソウヤは大丈夫なのだと、心配要らないのだと…そうルビに伝えるために。

 そうして…鎖は砕かれ――

「っらぁ!!」

 ――危険に晒されていたルリを助けるために、ソウヤは“全力”を敵に振るった。

 たった“全力”の一振り。
 それだけでその周りに居た天使たちが一振りによって生み出された風圧に抗えず後ろに押され、地面は圧力に耐え切れず大きく傷跡を残した。

「人間、お前か!」

 唯一、その全力を防御したとはいえ正面から受けた熾天使…ミカエルは上空高くに吹き飛ばされていたが、その身に怪我は殆どない。

 ―流石…天使最上位の熾天使なだけはある…か。

 現在のミカエルを除けば、熾天使との戦闘は2回。
 その両方ともがウリエルとだったが、1回目はまず相手は本気さえ出さずにボロ負けし、2回目はルビと2人掛かりでギリギリだった。
 確かにあの時とは、まず“素のステータス”が違うことをソウヤは知っている。

 ―けど、もう少しさっきの一撃で相手の体力削れると思ってたんだけどな…。

 それは一重に剣神の熟練度が未だに成長途中であることと、封印解除直後の為か“全力”とはいえ“最高の威力”を出せたわけでは無いのが原因だろう。

 ソウヤは自身が現状、“全力”を出してはいるが自身の中の“最強”ではないことを把握し、巨剣をミカエルに対し構える。

 ―コンディションに関しては嘆いても仕様がない。ミカエルとの戦闘で上げていくとして…。

「俺はミカエルを相手にする。皆は他の奴らを頼む」

 簡潔にそれだけソウヤは仲間達に伝えると、ミカエルに対し大きく跳躍を行った。
 力み跳んだ作用で地面を砕き、大きく形を変えながらソウヤはミカエルに突っ込んでいく。

「ぐっ…!」

 そのあまりの速さと巨剣のリーチに、ミカエルは避けることが出来ず愚行と理解しながらも生み出した光のレイピアで受け止めた。
 瞬間、その余りのパワーにミカエルは必至に耐えながら顔を驚愕へと変貌させる。

 ―この力…!ただの一振りが先ほどのシルフの騎士が放った技と同レベルの威力とは、余りにありえない…!!

 相手の反則的なパワーに圧倒されながらも、ミカエルは正面から受けきって見せた。
 それを見たソウヤは予想外の展開に思わず口を釣り上げる。

「吹き飛ばすと思っていたんだけどな」
「…熾天使が1人を見くびるな、人間ッ!」

 ミカエルは両手持ちにしていたレイピアを片手で持ち、もう片方の手にレイピアを今一度生み出すと、ソウヤを斬りつけようと一閃。
 自由に上空で動く術を持たないソウヤは、苦し紛れにインベントリから物を取り出し添えを踏み台にすることで攻撃から逃れた。

「確かに鎖から解き放たれた分、貴様のステータスは異常だ、反則的とも言える。だが、空を飛べなければまだ対処の仕様があるな」
「やっぱそうだよな…」

 冷静にソウヤの弱点を見破り考察するミカエルに、ソウヤは小さく舌打ちをする。
 本来ならば先ほどの一撃でミカエルを地面にたたき落とす予定だったのだ。
 しかし、ミカエルは想像以上に耐えその機会を失ってしまった。

 ―明らかにウリエルよりもミカエルの方が身体能力の高さが上…。

 ウリエルの場合は低い身体能力を補って余りある能力を持っていたのだから、当然と言えば当然だ。

 そんな理由で叩き落とすことに失敗した結果、これからは圧倒的にソウヤの方が不利な戦いが始まる…という訳でもない。
 流石にそこまで考え足らずだったら、ソウヤは今この時まで生き残っていないだろう。

「…ミカエル、確かに人間は空を飛行できない。けどな、俺らの世界では確かに人間は空を飛んでいた。どんな力を使ってだと思う?」
「人間が空を飛ぶ?羽も翼も持たぬ人種に何故空を飛べようか」

 空も飛べぬから、楔も繋がれていなかったのだろう…とミカエルはソウヤを見て嘲笑った。

 確かに、人間は空を飛ぶ能力は無い。
 確かに、人間は他の人種達より劣る。
 それでも確かに、人間は空をその手に掴んでいた。

 無理だと、出来ないのだと言われ続けていたことを成し遂げていた。
 それは人間が鳥のように空を飛べなかったから。
 それは人間が魚のように海を泳げなかったから。
 それは人間が他の生物より劣る所があったから。

 人間が初めは弱かったからこそ、成し遂げられた…人間の特性。

「知恵だよ。人間は自身の力で飛べないから、知恵の力で飛んでいた」

 だから、人間であるソウヤは考えた。
 考えた結果、疑似的にでも空で移動する手段を生み出したのである。

 ソウヤがインベントリの中から取り出すのは左手用の赤いグローブ。
 甲の部分には赤く輝く宝玉が埋め込まれていた。
 それを左手に装着すると、ソウヤはミカエルに向けて巨剣を構え大きく跳躍する。

「あれだけ言って、結局は跳躍か…!」

 巨剣を持つソウヤが振るう、渾身の一撃。
 それを真正面からミカエルは受け止め、多少押されながらもその圧倒的な身体能力で防ぎきって見せた。

「死ね、人間!」

 左手に生み出したレイピアを、ミカエルは先ほどと同じように…しかし先ほどよりも凄まじいスピードで振るう。
 インベントリから物を取り出し、避ける暇さえソウヤには与えられない。
 極光によって作り出されたレイピアはソウヤの身体を切り裂く――

「ッ…!」

 ――前に、ソウヤはいきなり右方向へ移動しそれを避けた。

「なっ…!?」

 ―人間は飛行能力を持てないはずじゃ!

 ミカエルのその疑問に答えたのは、ソウヤの言葉でもソウヤの姿でもなく…ソウヤが移動した後の煙。
 移動した後の空間には黒い煙が漂っており、炎か爆発が起きたのだと推測できる。
 そこまで考えたミカエルは、どうやってソウヤが自身の攻撃を避けたのか察し――

「らぁッ!」
「ちィ…!!」

 ――背中から感じる殺気を両手のレイピアで受け止めた。

「人間、貴様“爆発”で移動したな!」
「よくさっきの一瞬で察することが出来る…なッ!」

 流石に不意打ち気味に入ったソウヤの攻撃を受けきることはできなかったのか、ミカエルはそのまま地面まで吹き飛ばされる。
 大きくクレーターを作りながら地面に落着したミカエルは、土煙を払いのけながら上空から落ちるソウヤを睨み付けた。
 それを真正面から受け、逆に殺気で返すソウヤは地面に着陸すると雪無をミカエルへ向ける。

「ようやく墜ちたな、ミカエル」
「地面に落とさせたこと…後悔させてやるぞ、人間」

 今、第二ラウンドが始まろうとしていた。 
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