グランドソード~巨剣使いの青年~
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第4章
2節―変わらぬ仲間―
恋する乙女が夢見るは――
深春が無事『申し子』となりソウヤ達と合流し、これからの行き先についてソウヤ達は話し合っていた。
「と、まぁ行く場所はもう1つのみだが」
「グルフの大陸…でござるな」
ソウヤは現在全6大陸中、エルフ、ウォルフ、ガルフ、シルフ、そして現在いるヒューマン5つを巡り仲間と会ってきた。
故に残すは最後…グルフの大陸のみなのは明白。
「すぅ…はぁぁ」
乱れる心臓を抑えつけようと、ソウヤは大きく深呼吸する。
心情を察するかのようにレーヌが、遠慮なく全力でソウヤの背中を叩いた。
「ほら、ここまで来て更に引き伸ばしは無しよ?ソウヤ」
「――あぁ、そうだな」
意を決し、一生に幾度とない勇気を持って自らの想いを告げた相手を一度、ソウヤは蔑ろにした。
だからこそソウヤはグルフの大陸に行くのを躊躇う。
―けど…もう決めたんだ。“後悔しない”、と。
「…よし、行くぞ。俺に掴まれ」
人と鎧と武器、その全てが1人の身体に圧し掛かるが、それに気にすることなくソウヤは常人ならざる跳躍を行った。
向かうはグルフの大陸…“ルリ”と“ルビ”が待つ、最後の大陸。
―行って、ちゃんと返事する。それが今俺に出来ることだ。
ソウヤは決意を今一度確認し、インベントリからアイテムを取り出して踏み台にし大きく吹き飛ぶ。
迷っている暇など、もうないのだから。
「――終わりましたね」
「うん。意外と…楽、勝」
グルフの大陸、その王都からあまり離れない平原で2人の少女“だけ”がその場に立っていた。
少女らを囲むように倒れこんでいるのは天使たち。
その天使たちの階級は低いものの、それでさえ彼らは1つの生命体としてほぼ完成しきっている。
そんな天使が地に伏し、本来彼らに対して抗う術を持たない少女たちが立ち続けていた。
常識を疑う偉業を成し遂げたのは、グルフの少女と魔族の少女。
互いともその表情は明るく、余裕があった。
「…さて、これでこの大陸の天使は壊滅出来たはずです」
「じゃあ次は…どう、する?」
初めにしてかなり難解な壁をクリアしてしまったグルフと魔族の少女たちは、これから自分たちがどうすべきか頭を抱える。
変に動いては今いるこの大陸が危ないが、それでもこのままここに居続けるのも耐えられない。
出来れば、他の大陸の援助に行きたいのが2人の本音だった。
「――あぁ、もう終わっていたのか」
「――…!?」
そんな風に頭を抱えていた2人の耳を不意に燻ったのは、何よりも望んだ声。
心から欲していた声が響いたのに、その2人が見せた表情は気まずそうだった。
それもそうだろう、彼を最も傷付けたのは他でもない自分達なのだから。
「…久しぶりだな、ルリ、ルビ」
「ソウ…ヤ、さん……」
「ソ、ウヤ…」
ルリとルビが恐る恐る振り返り、ソウヤの方を向き…その表情を見て驚く。
彼の表情は気まずそうでもなく嫌っている雰囲気もない。
ただ、久しぶりに会えた仲間との再会を心から喜んでいる表情だった。
「悪かったな、心配かけて。俺はもう大丈夫だ、心配すんな」
「心配なんて!逆に私の方が、ソウヤさんに迷惑を…」
「ごめん…なさい、ソウヤ」
苦しそうな表情で謝る2人に、ソウヤは小さく息を吐く。
あまりに頑固で、あまりに優しくて…あまりにお人よしな2人。
―だからこそ、俺が何よりも最低だった。
自分のことでいっぱいになってて、この苦しみを他の人と分かち合おうとしなくて、ただ自分で背負うだけ背負って爆発した。
他人の迷惑にならないようにと、そう考えて行動した結果がこれ。
―俺に恋をしてくれた、俺を好きになってくれた人に、最もしてはならないことをしてしまった。
告白に対する返答が、精神疲労で倒れる。
それは告白した側にとって、もっとも傷付く行為だ。
「謝らないでくれ、俺が悪かったんだ。周りを頼ろうとしない、俺が」
だから、俺は決意した。
本当の意味で“後悔しない”ように努力すると。
それは周りを信頼するということであり、過ちを繰り返さないということだ。
「すまない、2人とも。最低な形で返答してしまって」
「ソウヤさん…」
「ソウ、ヤ…」
「だから――」
ソウヤは謝罪するために下げていた頭を上げると、真剣な表情でルリとルビの瞳を見る。
「――だから、チャンスをくれないか。ちゃんと返答出来るチャンスを」
「――――」
2人が息をのむのがソウヤにはわかった。
きっとルリ達の中ではもう、2度とこの話題を口にする気はなかったのだろう。
それで気持ちがいつか晴れるというのなら、それでもソウヤは良かったのである。
けれど、そうならないことをソウヤが最も良く分かっていた。
このまま放置してしまったら、きっと一生の傷として、2人の心の中にあり続けるだろう。
それだけは許してはいけない、それだけはあってはならない。
だから、今この場でソウヤは2人に謝るのだ。
「ルビ、ルリ…。すま――」
殺気。
ソウヤ含め8人がそれを感じ、瞬時に得物を引き抜き殺気の元部分に振り返った。
「流石は『申し子』と『均等破壊』…といったところか。反応が早いな」
「誰だってそれだけの殺気向けられれば、振り向かざるを得ないだろうよ…“熾天使”!」
濃密な殺気を向けているのは、“9つの金輪”を腕に嵌めている天使の男。
特徴的なのは三体六枚の翼と、流れるような赤いマント…そして異常なほどに整えられた身体だ。
「我が主はそろそろこの“茶番”に飽きていらっしゃる。故に我…『死の天使』の名を持つミカエルがお主たちに命運を渡そう」
「…にしては随分と有象無象を引き連れてるじゃないか、ミカエル」
ミカエルの後ろに飛翔しているのは、一目で軽く1万を超える天使の軍団。
どれも権天使以下ばかりだが、それでもこれほどの量になれば裁くのも一苦労どころではない。
「…これは、ヤバいな」
「大人しく降伏しろ、さすればソウヤ1人の命だけで済むぞ」
仲間の命か、自分の命か。
その2択を迫るミカエルの言葉に、ソウヤは笑う。
「俺はまだ伝えたい言葉が一杯あるんだ。残念だが俺はまだ死ねない――」
ソウヤはミカエルに中指を立てると、獰猛な笑みを浮かべて挑発した。
「――やりたいこと全部終わったなら、殺されてやるよ」
「承知した」
ミカエルのその返答が当たり前かのように流すと、右手を大きく上に振り上げた。
攻撃が来ると即座に判断したソウヤは、後ろの仲間に目配せを一瞬だけ交わす。
「全天使よ、この下等な生物共を…殺せ」
「頼むぞッ!」
ミカエルの指示を受け、天使が大声を上げて一斉にソウヤ達に向かっていく。
それから逃げるようにソウヤは仲間を盾に後ろに下がった。
「敵前逃亡とは堕ちたものだな、人間――」
「――“偽・全て飲み込む雷神の一撃”!!」
唐突にエレンが放った凄まじい雷光が全てを飲み込み、突撃した天使を大半を消滅させる。
あまりの威力に、ミカエルは驚く。
―これはもう神力こそ纏っていないものの、『神級能力』と言っても遜色ない…!これが対魔王を想定した『申し子』の強さだとでもいうのか!?
ただの天使だけでは押し切れないと判断したミカエルは、右手にレイピアを創り出すと自ら先陣を切って突撃する。
圧倒的な速度で、刹那の間に7人の元に現れたミカエルは一番近くにいたルリにレイピアを突く。
「くっ…!?」
あまりの速度で、流石にルリでも完全に反応できなかったのか何とか攻撃を避けるものの、大きく態勢を崩した。
その隙を逃さずミカエルは追い打ちをかけるようにもう片方の手にレイピアを創り出し攻撃を放ち――
「っらぁ!!」
――何かに大きく吹き飛ばされた。
「な…んだ!」
攻撃を受け止め、尚且つ熾天使である自身を大きく吹き飛ばした原因をミカエルは探し、一瞬で見つける。
「人間、お前か!」
「流石に…本気を出すしかないと思ってな」
巨剣を片手で担ぎ、ソウヤはしたり顔で笑った。
「“久々の”本気だ。制御出来なくて肉片になっても恨むなよ」
そうして、天使との大戦が始まる。
後書き
恋する乙女が夢見るは――青年への謝罪
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