グランドソード~巨剣使いの青年~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第4章
1節―変わった世界―
前段階
「――――――」
目が覚めると見慣れない――いや、”嫌というほど見慣れている”天井が視界に入る。
おかしい、そう思いながら俺はふかふかのベッドから無理やり起き上がった。
「蒼也、ご飯よー!」
「はーい!」
懐かしい声が響く。
思わず、涙がこみ上げそうになった。
いつも制服をかけているカーテンを見てみると、”中学の頃”の制服が掛けてあるのが見える。
そうして、俺は2つのことを考えついた。
1つは、”先程までの事が全て夢”だったこと。
もう1つは――
「――これが、夢」
正直、考えたくないし、両親を待たせるのもアレだろうと思って俺は階段を使って降りる。
そこにはパンをかじっている母と、真面目な顔でテレビのニュースを見ている父がいた。
母は俺が降りてくるのを見ると「おはよう」と、優しげな笑みを浮かべそう言う。
もう、耐えられなかった。
「っ…!お、おは…よ」
「どうしたの!?」
視界がグニャグニャと揺らぐ。
ヒャックリが全然止まらない。
鼻水も止まらず、垂れてくる。
何故か体の震えが止まらない。
「怖い夢でも見たの…?」
顔を驚愕に変えた両親は、心配そうな顔でそう俺に聞く。
ここまで優しいものなのか。
ここまで暖かいものなのか。
ここまで苦しいものなのか。
ここまで泣けるものなのか。
両親に――
「大、丈夫…」
――優しくされることは。
耐えられない。
もうわかってしまった。
「ごめん、なさい…!」
これが”現実じゃないこと”に。
「ごめんなさい…!」
だって、俺の両親はもう――
「ごめんなさい!」
――俺を”人として”失望していたのだから。
パラパラと何かが崩れる。
情景が、街を歩く人々が、車が、両親が、俺が、消えるのだ。
暗闇の中1人、俺は嘆く。
「ごめん…なさい……」
「――ソウヤ、の…調子……は?」
心配そうにルビはソウヤの様態を、ソウヤの横に座っているエミアに聞く。
エミアは残念そうな顔をすると、小さく首を横に降った。
「身体的にも、数値的にもソウヤさんは完治しているのです」
「それでも…治ら、ない……のは――」
「――それだけルビらがつけた心の傷が深かったんじゃろうな」
その言葉を聞いて、ルビは自分を行ったことへの後悔から苦しげな表情をする。
ルビを苦しめる言葉を吐いた人物にエミアはぷりぷりと怒った。
「ユメ子さん!」
「私は本当のことをいっただけさね」
その言葉に付け加えるように、ユメ子と言われた老年の女性は「ただ」と言う。
どことなく、その顔は悲痛なものだった。
「この小僧の活躍は、私も耳が痛いほどようわかっとるから言える。コイツは無理のしすぎだよ。単純に引き金がルビらだっただけさね」
それについてはエミアはよくわかっていた。
瞬死の森を1人で踏破し、その後たった1人で『軍勢の期』を全滅、更に上級魔族も倒す。
その後も何度も上級魔族と将軍魔族と相対し、仲間と共に全て壊滅。
強敵と戦う際はいつもボロボロになり終わりには毎回気絶しているおまけ付きだ。
これだけで、きっと普通の異世界人ならその背中に背負う命と使命感で押しつぶされて当然だ。
だが、これだけでは終わらない。
最果ての宮に閉じ込められ、脱出するために1匹の雑魚でも上級魔族や将軍魔族と同じくらい強い敵と何度も戦い殺した。
そして、熾天使であるウリエルと戦い敗れながらも最終的に倒し、神に頼まれ”世界神”を殺す為に試練も乗り越える。
また、最果ての宮を登る中で非常に親しくなり親友とも呼べる人と殺しあう。
どれだけの心労をソウヤは背負っていたのだろうか。
何度もボロボロになって気絶しながら人のために強敵と戦い、果てには親友さえもその手で殺す。
そして神に頼まれ、世界神を殺すために今も強くなろうとしていた。
「あんな経験、おとぎ話の英雄でもやらないのですよ…」
「だからこそこの小僧は、ストレスに身が耐え切れなくなって意識不明になったのさ。逆に、今までよく持ったもんだよ」
ルビはベッドの中で薄く光のない目を開いて、ぼーっとしているソウヤを見ると手を優しく包み込んだ。
「対処、法は…?」
「あるのです。でも、時間が少々かかるので今は無理なのですよ」
エミアは申し訳無さそうにそう言うと立ち上がり、ルビの肩に手をおいた。
「わたしも今から準備を手伝ってくるのです。ルビさんは看病をお願いするのです」
「ん…」
ルビは言葉少なく肯定すると、ソウヤの手を強く握りしめる。
―帰って、きて…。
自身の必死の願いを、少しでも彼に届けるように。
「ユメ子さん。そちらの方は――」
「――終わってるよ」
ユメ子は大きくため息を吐きながらそう言って、続ける。
「年寄りに徹夜なんて何考えてんだい」
「ごめんなさいですー」
エミアは謝罪の気持ちを全く込めずにそう言うと、「まぁ、良いよ」とユメ子はその老いた顔に似合わない意地悪い笑みを浮かべる。
そして顔を見合わせるとクスリと笑い合う。
どうやら、2人とも冗談のようだ。
「じゃあユメ子さん、行くのですよ」
「はいよ」
そうしてエミアとユメ子は部屋から出て行く。
ふと光があたったような気がして、ルビはカーテンを開ける。
そこには、上り立ての清々しい太陽が顔を出していた。
「ん…」
聞き慣れた声が聞こえて、ハッとルビがソウヤの方へ振り向くと、ただ顔に光が直撃して反応しただけのようだった。
ルビは小さく溜息をつくと、カーテンを閉める。
アイツらに気づかれるわけにはいかないからだ。
「早く、戻ってきて…ソウヤ」
それが自分の我が儘だと、自己中心的な言葉だと分かっていてもそう思わずにはいられないルビ。
ソウヤの左手には、ルビの両手が優しく包み込んでいた。
ページ上へ戻る