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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
2節―”神殺し”を追い求めて―
  出発前日

 ソウヤが『全てを拒否する力(人間)』を得てから1週間が経った。
 森の広場―ソウヤが作ってしまった場所―で、火花が散る。

「――ッ!」

 雪無が光に反射し、眩くその軌跡を映す。
 それに対抗するのはもう1つの軌跡。
 ルリの手に持つ分厚い鉄剣である。

 火花を散らし、雪無と鉄剣がぶつかり合う。

 ルリの持つ鉄剣は地面を操作して作り上げたものだが、雪無をほんのコンマ1秒止めさせた。
 その隙を逃すのは凡人、逃さないのが超人。
 鉄剣を持っていた手と逆の手に針のように細長い短剣をルリは瞬時に創りだすと、動きを止めているソウヤに突き刺そうと腕を伸ばす。

 そしてそれを躱すのも超人、なのだろう。
 ソウヤは人を軽く超えている反応速度でそれに対応すると、全身の筋力を総動員させてその短剣を強引によけて見せた。

「っつ!」

 強引な避け方をしたいせいで、ソウヤは強く右肩を強打し小さく声を漏らす。
 しかし目にもとまらぬ速さで体制を整えた。

「――――――!」

 小さく何かを呟いたルリは、短剣を手放し地面の中から鉄剣を”20本”創造する。

 -いきなりハードル上がりすぎだろ…!

 ソウヤは内心愚痴ると、雪無を大きく前に構え防御の姿勢を取った。
 次々に放たれる鉄剣。
 それはさながら”アサルトライフル”を思わせる。
 …それにしては威力が高すぎるが。

 鉄剣1本目。
 ソウヤは雪無を最低限に振るい安々と砕く。

 鉄剣2,3本目。
 1秒が、何分の一にまで長引く中でソウヤは雪無だけだと躱しきれないことを理解する。
 咄嗟に左手で腰にかけている鞘を取り外すと右手の雪無と左手の鞘で2本の鉄剣を砕いた。

 そこから、一気に数が増え一度に5本も打ち込まれソレに対してソウヤは砕くスピードを上げていく。
 雪無で砕き鞘で逸らして咄嗟の判断で躱していったソウヤは、ついに全てを退ける。

 ソウヤは鞘を空中へ投げると、最後の鉄剣を砕いた後にすぐさまルリへ突っ込んでいく。
 突っ込んでくるのを見たルリは地面から針を一瞬で出現させ、ソウヤを突かんとした。

 泥でコーティングされた鋼がソウヤを突くその瞬間――

「――――――」

 ――ソウヤの姿が掻き消える。

「ッ…!!」

 ルリはすぐさま強度重視の分厚い鉄剣を両手に創造すると、背後へ回転しながら振るう。

 決着は、あまりにもあっさりしたものだった。

「詰めが甘かったな、ルリ」
「…参りました」

 2本の分厚い鉄剣を刹那をも超える速さで砕き、ルリの皮膚ギリギリで雪無を止めたソウヤは苦笑する。
 ルリは両手を上げると困り顔だ。

「最後、あれは鉄剣で俺の移動を防ぎつつ針で攻撃だったな」
「封印状態のソウヤさんにも勝てないなんて、ちょっと悔しいです」

 空中へ投げ出された鞘をソウヤは左手で受け取ると、雪無を仕舞い軽くはたいてから腰につける。
 ルリは片手間で地面を修復して、顔は少し膨れ顔だ。

「まぁ、俺とルリじゃ役割が違うからな。仕方ない。それにハンデもちゃんと両方あったろ?」
「そのハンデが私とソウヤさんでは違い過ぎますけどね…」

 残念な表情をするルリに、ソウヤは少し困り顔で見つめる。

 ―俺の強さは、全部”貰い物”だ。それを除けば俺は普通の冒険者にも負ける。

 それが、ソウヤが困り顔になっている原因だった。
 ”貰い物の力”。
 それは”剣神”を初め、”『人間』”や”肉体強化”などのこの世界に来てから貰っていた力を指す。

 ソウヤが”貰い物の力”に対し、ルリは”自力で身に付けた力”だ。
 ルリ自身の才能に加え、血も滲むような特訓をしてきたからこその力。
 それはソウヤの持つ”力”よりも、圧倒的に信頼でき頼りになる力である。

 自身の力とルリ達の力の差を、誰でもないソウヤ自身が一番理解していた。

「ま、慰め合いはそこまでにしておくのじゃの」
「ギルティア、もう大丈夫だろう?」

 先ほどの戦いを観戦していたギルティアは、ソウヤの言葉に頷く。
 今までの1週間、それは”ソウヤが封印状態である程度戦えるようになる”という目標を身につける期間だったのだ。
 ”ある程度”とは、ちなみに”天使”と互角という意味である。

「じゃあ――」

 ソウヤの言葉に続くように、ギルティアは話す。

「――うむ、帰るが良い。妖精たちの世界へ」

 ギルティアはゆっくりと家の中へ戻っていく。
 それを見届けたソウヤは、ゆっくりとため息を付きルリに手を伸ばす。

「さ、帰るぞ」
「――はい」

 自身の手に触れたルリの手が小さく震えているのを、ソウヤは感じていた。




 ギルティアの住む家へと戻り、ソウヤ達は話し合って”明日の朝”に戻ることになった。
 理由は極々簡単で、出来るだけ早く元の場所へ戻るためだ。

 その日の夜、ソウヤは横にならず部屋の端っこで座り込み考えていた。

『エレンやルリ達は必ず封印する者となるじゃろう』

 ―エレン達が、半分生きて死んでいるような状態になる。それで、本当に良いのだろうか。

 長い間、ルリやエレン達とソウヤは行動を共にして旅をしてきた。
 幾度もなく危険な橋を渡ったし、幾度もなく強敵に相手にしたし、幾度もなく人々を助けた。
 ”掛け替えのない存在”としてソウヤは彼女らを見ている。

 ――下手をすれば、”恋人”という存在以上に。

 だからこそ、ソウヤはギルティアの言葉を忘れられずに居た。

 そうやって苦悩していると、不意にドアをノックする音がソウヤに聞こえる。
 どこか控えめなノックで、相手を心配しているような優しいものだ。

「ルリ、か。どうした?」

 ノックの音だけで誰かを判断できるのは、長い間共に歩んできた仲間故の特権だろう。

 恐る恐るという風にドアを開けたのは、ソウヤの言うとおりルリだった。
 ただ、その顔の上にルビの姿もあったが。

「ん。私、も…いる」
「――どうした、2人共」

 出来る限り、悩んでいる表情を消して優しげにソウヤは2人に聞く。
 音を立てないように部屋に入ったルリとルビはソウヤの前に立つ。

「私、と…ルリで、決めた」

 何を決めたのだろうか…とソウヤは首をかしげる。

「え、えと。大事な話があるんです、ソウヤさん」

 大事な話。
 そう言われては聞かざるをえないと思い、ソウヤはルリ達と同じように立ち上がった。
 静かに、ルリとルビの瞳を見つめる。

 ソウヤの目に映るルリとルビは、どこか頬が赤いように思えた。

 ルリとルビは互いに視線を交わすと、小さく息を吸ってソウヤを見つめ、言葉を紡ぐ。

「――好きです」

 ドクン。

 ソウヤは、無意識に両手に力が篭もるのを感じた。

「ソウヤ、貴方のことが――」

 ドクン。

 喉がカラカラになって、動悸が早くなる。

「――大好きです」

 ドクン。

 身体中に、血液が回るのを感じた。

 ―俺は、どうしたら良いのだろうか。

 回り切らず、でもどこか冷静な頭でソウヤは考える。

 ―俺は、ルリとルビが好きではある。

 それだけではない、エレンやレーヌ。
 ナミルも好きだ。

 ―でも、それは”恋”なのだろうか。

 わからない。
 頭が痛い。
 心臓も痛い。

 ”エレンやルリ達は必ず封印する者となるじゃろう”。

 ギルティアの言葉が、ソウヤの胸に突き刺さる。

 ”――ソウヤ、貴方のことが大好きです”。

 胸を焦がすような想いが、ソウヤを襲う。

 ”与えられた力”という劣等感とそれを使うという行為に、どうしようもなく胸が苦しくなる。
 どれだけ努力しても、救えるのは自身と異世界人だけというのが申し訳ない。
 封印に身を捧げ、人生を投げ出すルリ達を救いたい。

 今の今まで、ソウヤの心にのしかかってきた全ての負担。

 ”強者”故の責任。
 ”与えられた力”の虚しさ。
 努力してきた者を嘲笑う力を持ったことの心苦しさ。
 自身を偽るストレス。
 仲間の信頼の重さ。
 自身の思惑を一切無視する流れ。
 ”神殺し”という大罪を起こすという恐怖。
 ――仲間から向けられる恋心と、自身の恋心。

 それが、ルリとルビの告白がトリガーとなって、今――

「――――――――――――――――――――――――――」

 ――爆発した。

 ソウヤの身体が、ぐらりと傾く。
 意識が遠のいていく。
 足音が聞こえる。
 声が聞こえる。
 痛みが、音が、地面の感覚が、視界が、匂いが…消えていく。

 ――そして、ソウヤは暗闇に身を投じた。  
 

 
後書き
”異常なほど落ち着いている”――

 ――嘘じゃないか。 
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