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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
2節―”神殺し”を追い求めて―
  封印と未来

 人は、物を掴むのに意外と無意識に力を込める。
 例えば、箸や皿だ。
 それはこの世界の人も同じであり、まぁつかむ程度なら物を壊さないだろう。

 どうしてこんな話をしているかというと――

「…なんで持つだけで壊れるんだ」

 ――目の前に広がる山積みにされた木片がそれにつながっている。

 森に移動しようとして駆け出して走った時、思ったよりかなり速く走ってしまった。
 それから”手加減”の練習をと思い、木を切り倒して丸太を持ち上げようと掴んだ瞬間、”粉々になった”のである。
 しばらく同じように手加減をしてみたのだが、ソウヤの力が強すぎて一瞬で粉砕してしまった。

「単純に、腕力とか攻撃力とかは10倍近くに増えてる。なら今までの10倍手加減したら良いだけの話なんだけど…」

 普通の人ならば、特訓して徐々に強くなっていく。
 今までのソウヤも大体そんな感じだった。
 だが、今回の場合は状況が違い、いきなり全ステータスが10倍にまで膨れ上がったのである。
 いつもなら出来ることができなくなっていて当然だった。

 ―でも、こんなんじゃ飯も食えない。

 ソウヤはある意味前途多難な状況で溜め息をつくと、積み上がっている丸太に手を伸ばす。

「すぅ…ふぅ………よし」

 大きく深呼吸してリラックスさせると、丸太を豆を取るように軽く手に取ると…”粉砕”した。

「――――――」

 泣きそう…とソウヤは内心涙目になりながら、再度大きく溜め息をつく。

 ―せめて、この10倍のステータスを封印するとかできたら…。

 ”封印”。
 それを考えてまず頭に浮かぶのはルビのこと。
 ルビは魔族と恐れられ、害をなすと決めつけられて気絶している中で村人に閉じ込められた。

「うーん…」

 ―別にルビの結界術(エルデル)で封印してもらっても良いが、そうなると解除もルビになりそうだ…。

 だが、どう考えてもこのまま手加減の練習などしていても出来る気がしない。
 というか出来たとしても”神殺し”にはなんの役にも立たないのだ。

「……しゃあない、頼むか」

 結局それ以外にいい方法が思いつかず、ソウヤは諦めて元の練習に戻ったのだった。




「――その結果がこれだよ」
「――――――」

 周りには、綺麗な広場が広がっていた。
 切り株が残っているが鬱陶しい巨木が全く無く、清々しい空が見下ろしている。

「まさか、ちょっと力を出しただけでこうなるとは思わなかった」
「――――――」

 大きな溜め息をつくソウヤの横には、大きく目を見開いたまま硬直しているルビがいた。
 この現状は流石にヤバイと思いルビに封印してもらおうとソウヤが呼んだのである。
 しばらく沈黙していたルビが、不意に声を上げた。

「反省は…」
「当然」
「後悔は…」
「もちろん」

 土下座しそうな勢いで意気消沈しているソウヤ。
 それを見て本当らしいと結論に行き着いたルビは小さく溜め息をつくとソウヤに近づいていく。

「…封印、する?」
「あぁ、頼むよ」

 コクリと頷いたルビは、両手を上げてソウヤの両頬を優しく包み込み顔へ引き寄せる。
 息が掛かりそうなほどに近付いた2人。
 恥ずかしいのか赤面し始めているソウヤは、どもりながらもルビに話しかけた。

「えと…な、なんでこんなに近く…?」
「――――――」

 それに答えること無くルビはソウヤの顔をずっと見つめる。
 身体中から汗が吹き出てくるほど身体が熱くなったソウヤは、けれどルビの顔に目を向けた。

 ルビの顔は一言で表すのなら、フランス人形だ。
 全身が細く、脆そうな雰囲気がありどこか儚い美少女。
 銀髪赤眼がそれを倍増していると言っても過言ではない。

 今の今まで多くの美女美少女と旅を共にしてきたソウヤだが、改めて顔をじっくり見るとその美しさに目を奪われた。
 そして、ソウヤがルビに見とれていると――

「んっ――」
「――――――ッ!?」

 ――不意に唇に伝わる熱。
 餅のように柔らかく、炎のように熱い。
 その感触がソウヤに伝わったのはほんの一瞬。

 その感触が愛おしくて、行ってほしくなくてソウヤは離れたルビの顔を引き寄せた。

「――――――!」

 ソウヤの時とはまた違う驚きの声を上げたルビは、嬉しそうに顔を綻ばせてそれを受け入れる。

 時間の感覚が狂ったようで、何時間もこうしていたような気がする。
 ソウヤはゆっくりとルビから顔を離すと――

「…っは!?」

 ――顔をゆでタコのように真っ赤にした。

「ソウヤ…結構、積極…的?」
「ち、違う違う違う違う違う違う!」

 俺は何をやっているんだろうと地面に頭を打ち付けるソウヤ。
 そうして1分ほどずっと悶えていると…不意に顔を上げた。

「――そういえば、封印の話はどうなったんだ?」

 その言葉に「あぁ…」とルビはあくびが出そうなほどのんびりとした声をだし――

「最初のキスで、終わらせた」

 ――さも当然かのように封印を終わらせていた。

 ―おい待て。

 ソウヤに嫌な予感が脳内を駆け巡る。

 ―ということは…!

 ”最初の”キスは封印のための行為。
 まぁ、それなら”2度目の”キスするさいにソウヤがルリの頭をゆっくりと引き寄せられたのも納得が行く。
 問題はその”2度目の”キスには何の意味もなく――

「す、すまんっ!」
「――――――?あぁ、2度目の…こと?」

 申し訳無さそうに頭を振るソウヤ。
 ルビは自らの唇に手を当てると…顔を喜びで溢れさせる。

「ん…。嬉しかった、よ。気に…しない、で?」

 ソウヤは目を閉じて暫くの間沈黙していると、立ち上がる。
 そして、深く頭を下げた。

「とにかく、すまん。道理は通さなきゃ駄目だ、俺が納得しない」
「…うむ、良い良い」

 ルビはふざけてふんぞり返りながら、王族っぽい返し方をする。
 ソウヤはそれをみて、本当に嫌がられていないと確信でき苦笑した。

「じゃあ、さっきのは無s――」
「――嫌っ!」
「アッハイ」

 ルビはニコリと笑うと、「それ…じゃあ、気を、つけて…ね。ソウヤ」と言い残しルリたちの元へ帰っていく。
 その顔は、ほんのり赤く染まっていたことは流石のソウヤにも理解できていた。




 それから1週間が経つ。
 ルビの封印のおかげで普通の生活が出来るようになったソウヤは、剣術の練習を終えルリたちの元へ帰っていた。
 家に帰ると、そこでルリとギルティアが家事をしているのが目に入る。

「ただいま」
「あ、ソウヤさん。おかえりなさい」

 優しげな笑みでソウヤを迎えるルリ。
 そう、それはまるで――

「――新妻をみているようじゃな」

 まさにそれだった。
 それを聞き、ルリは顔を真っ赤にさせ「もうっ」と困り顔になる。

「ソウヤさん、ギルティア様に何か言ってあげてくださいよっ!」

 そのルリの言葉にソウヤは瞬速の速さで返した。

「いやぁ、俺はルリみたいな嫁さんがいて幸せだなぁ~」
「えっ!?」

 顔を再び真っ赤にさせるルリ。
 そこでソウヤの横腹に鈍痛が響く。
 痛みに片目を思わずつむりながら、痛みが響く方を見てみる。

「ソウヤ、浮気はダメ」
「浮気て…」

 まず付き合っても居ないだろうとソウヤは思い…”あのこと”を思い出す。
 急激に顔を赤くするソウヤは、顔に手を当てて「…戻ってる」とだけ言い家の中に入った。

 自室に入り込んだソウヤは、敷かれた布団に頭から飛び込んで悶える。

「ああぁぁぁ!もう!なんであんなことをぉぉぉ!」

 枕に顔を突っ込みながら叫んでいるので、全く何を言っているか分からないが多分こう言っていた。
 ソウヤは”あの場面”を意識しているからか、ルビの顔と唇の感触が何度もリピートされる。

 元の世界では、ソウヤはオタクだった。
 当然ラノベだって読んでいたし少しだけだが興味を惹かれてエロゲーだってやったことがある。
 しかし、しかしだ。

「…俺は、責任を持てないっていうのに……」

 全て、この言葉に尽きるのだ。

 ソウヤはまるで物語の主人公のように、旅する仲間は美女美少女しかいなかった。
 しかも、ソウヤは馬鹿でもないし鈍感でもない。
 エレンやルリを初め、恋心を自身に持っていることは分かっていた。
 当然、ルビもだ。

 それは全部吊橋効果と言われる、いわゆる卑怯のおかげに等しい。
 吊橋効果を含めなくとも、ソウヤは今現在も元の世界に戻る気である。
 ならば、エレンたちも連れて行けばいいじゃないかと思うかもしれないが、それは出来ない相談だった。

 ―あいつらは、俺達の世界へ”行けない”。

 ある日の真夜中、ギルティアに呼ばれたソウヤは2人で部屋の中で互いに見合う形で座っていた。

「何故お主だけをここに呼んだか、わかるかの?」

 静かにソウヤは頭を横に振るう。

「お主に聞きたかったのじゃ――」

 ギルティアはソウヤの瞳をじっと見る。
 心のなかまで見透されているような気がして、ソウヤは背筋から鳥肌が立つ。

「――もし、世界神を倒した後どうする気じゃ?」
「――――――」

 その答えを、すぐにソウヤは出せなかった。

 否、違う。
 ”答えあったが言えなかった”のだ。

 それほどの威圧を、ギルティアはソウヤに放っている。

「俺、は…」

 本当に言って良いのか。
 言って後悔はしないのか。
 それを突き通す覚悟はあるのか。

 その全てを、ギルティアは瞳で聞いてくる。
 だから、ソウヤはそれを一身に受けて…口を開く。

「俺は……”元の世界に戻る”」
「アヤツらを置いておいてか?」

 ソウヤの答えを予想していたばかりにギルティアはすぐに返す。
 その問いに、ソウヤはすぐ答えた。

「あいつらが、付いて行くというのなら、連れて行く」

 そういった瞬間、ギルティアの視線が一気に鋭くなる。
 天使でさえも倒すことが出来るはずのソウヤは、その視線に当てられ背中が凍るのを感じた。

 確かに、実力では圧倒的にソウヤが勝つ。
 だがこの威圧は、重みはステータス伝々だけが起こしているものではない。
 ”経験”による威圧なのだ。

「連れていける、と思うのか?」

 手が震える。
 無意識に唾が貯まる。
 ――恐怖を感じる。

 力を抜けば一気に腰が抜けそうなほどの重圧に襲われながら、ソウヤは答えた。

「連れて、いけるのなら――」
「――無理じゃ」

 即答。
 ほんのコンマ1秒も許さずギルティアはソウヤの言葉をぶった切る。

「何故だ…。あの男は俺達を転移させてみせたのだから、その逆も出来るはずだ」
「出来るじゃろうな、確かに」

 その言葉に、ソウヤは疑問を抱くほかなかった。

「ならなぜ――!」

 思わず声が昂ぶるソウヤに、ギルティアは冷静に、冷たく答える。

「ルリを初め、お主が仲間と思う者全員は”役目”があるからじゃ」
「――――――」

 役目とはなんだ。
 そんな疑問がソウヤを襲う。
 だが、聞くまでもなくギルティアは答えた。

「魔王は倒された。確かに倒された。じゃが、”魔物がいなくなった”と言う訳ではない」
「なんで…?魔物を生み出しているのは魔王じゃないのか?」

 昔、パソコンで調べた公式サイトのストーリーの中にそんな情報があったのをソウヤは覚えていた。
 ギルティアはそれを鼻で笑う。

「魔王が生み出しているのは”上位の魔物”だ。他の下位や中位の魔物は基本的に魔力が集まりやすいところに生まれる」

 下位や中位は、正直に言えば普通の冒険者…下手すれば冒険者となって1ヶ月の者でも倒せるレベルである。
 ただ、問題はそこではなく――

「――国民の命は常に脅かされるのは変わらない」
「そうじゃ」

 ソウヤの言葉に、ギルティアは頷く。

「それを防ぐために、封印を施さなければならん」
「なら、なんでピンポイントにエレンたちが…?」

 それが最も大きい疑問だ。
 流石に仲間全員が封印に関わる人というのは天文学的な確率である。

「封印の魔力が常に維持できるのは、ルリやエレンたちだけだからの」

 ソウヤの強さに隠れてはいるが、エレンやルリの強さは妖精のレベルを超えている。
 普通に異世界人を超えている可能性もあるし、下手すれば最も強いかもしれない。
 なにせ、1年ほど前のころで中級魔族を相手に2対1とはいえ倒せるほどなのだ。

「故に、エレンやルリ達は必ず封印する者となるじゃろう。つまりのところ、生きているうちは”魔物を封印し続けなければならない”のじゃ」
「それって――!」

 よくあるRPGのように、宝石なりに閉じ込められ半分生きながら…ということになるのだろう。
 ギルティアは静かに、頷いた。

 カッとソウヤの頭が破裂しそうになる…が、何とか抑えて聞く。

「ルリは、それでいいと言っているのか?」
「ルリだけじゃないの。お主の仲間…ルビを含め全員がそれを成すことを”良い”と言っておるよ」

 つまり、この世界から魔物の脅威を無くすために自らの人生を売るといっても過言ではない。
 あまりに残酷な未来に、ソウヤは憤怒する。
 誰か、どこかに当たり散らしたかった。

「――お主は、それを頭のなかに入れてくれれば良い」

 ギルティアのその言葉が、静かにソウヤの脳内を反響していた。




「クソ野郎…」

 嫌なことを思い出したと、ソウヤは頭を軽く振り襲いかかる睡魔に身を委ねた。 
 

 
後書き
――彼に圧し掛かるのは”世界”か”仲間”。 
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