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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
2節―”神殺し”を追い求めて―
  外の現状と、これから

 ソウヤが扉をくぐり光に包まれると、気付けばアルティマースの元へ行く寸前の状態でソウヤは立っていた。

「ソウヤさんっ!」

 ルリが慌てたようにソウヤの元へ駆けた。
 今まで気力尽きて横になっていたルビもソウヤを心配そうに見つめている。

「…どうやら、得ることが出来たようじゃの」

 戦闘が終わったので深春の治療を行っているギルティアは、ソウヤにそう問いかける。
 ソウヤはその問いに深く頷くことで答えた。

「なら良いが…アルティマース様からお話はあったのかの?」
「あぁ、これからやるべきことも全て聞かされた」

 ソウヤの言葉にギルティアは「そうか」と答えると深春の治療に専念し始める。
 その間にソウヤは近付いて心配そうにこちらを見ているルリの頭を優しくなでた。

「ありがとな、ルリ」

 ルリはゆっくりと頭を横にふる。
 灰色の尻尾と耳をパタリと伏せているところを見ると、何かを悔やんでいるようだ。
 暫くの間ルリはソウヤに撫でられており…絞りだすように呟く。

「……すみません。巻き込んでしまって」
「――――――」

 その謝罪にソウヤは黙って聞く。

「貴方をとても辛い戦いへと招いてしまって…。本当に、すみません」

 今まで言えなかった心からの謝罪。
 それにソウヤは優しく、優しくルリの頭を撫でると微笑んだ。

「逆に、俺でよかったと思え」
「え…?」

 思っていたのと違う返答に、ルリは顔を上げて声を漏らす。

「神殺し。誰も…神さえも成し遂げれなかったことを、俺なら”成功出来る”んだ。喜べよ」

 不敵に笑うソウヤ。
 それにブンブンと首を横にルリは振る。

「そんなの、結果論じゃないですか…。神殺しなんて、出来るとは決まってないじゃないですか…」

 「なんだ」とソウヤは言うとルリの目の前に右手の手のひらを向ける。

「信じられないのか?俺を、俺の強さを、俺の力を、俺の手を」

 若干涙目になっているルリに対し、ソウヤは笑って言葉を続けた。

「信じられないのなら、信じさせてやる。俺の手を取れ、ルリ。この手がお前を…全てを守ってきた手だ」

 当然、全てなぞ守ってきたわけではない。
 だがソウヤがいなければ、被害が拡大していたどころか国1つや2つ消されてもおかしくない出来事があった。
 ”全て”という単語は、誇張ではあったが全くの嘘ではない。

 ―その肩に、その手に、その背中に、その顔の裏側にどれだけ貴方は背負っているのでしょうか。

 不意に、ルリはそう思う。
 凡人…否、特別な人間でもそうそう得られない経験をし続けてきた目の前で不敵に笑う彼は、どれだけの命を背負ってきたのだろうかと。

「もう一度言うぞ、ルリ」

 そんな中、彼は…ソウヤは――

「俺の手を取れ。お前に俺を信じさせてやる」

 ――ルリも背負うというのか。

 ルリは目を閉じると、大きく息を吸ってソウヤに近づく。
 そして…自分より高い身長のソウヤに抱きついた。

「――――――」

 思いもよらなかった行動に、ソウヤは無意識に息を短く吸う。
 その中で、ルリはソウヤの胸の中で語りかけた。

「じゃあ、私のことも信じてください。私だけ背負われるのは嫌です」

 ヒロインらしからぬ言葉に、ソウヤは苦笑する。
 ただ、目頭が暑くなるのを感じながらソウヤは優しくルリの頭を撫で、もう片方の手をルリの手に合わせ握りしめた。
 そして、小さくソウヤは呟く。

「――あぁ…。頼む」

 そんな光景を、ギルティアは微笑ましそうに、ルビはどこか不機嫌な顔つきで眺めていた。




 色々と話を纏めるために、一旦ソウヤたちはギルティアの家へ戻っていた。
 そこで、ソウヤは”神をも殺せる力”を手に入れるまでとゴーレムを倒した後のアルティマースとの会話を全員に話している。

「――ということだ」
「ふむ、アルティマース様がそう仰ったのなら問題はないじゃろうの」
「ソウヤ、とっても…大役」

 ソウヤが出来るだけ簡潔に全ての事情を言い終わると、ギルティアは真っ先に反応を返した。
 ルビはアルティマースなどの事情を一切今まで知らなかったため、それも含めて今話しているのだが、そうとは思えないほどの軽い返し方である。
 帰る途中で目を覚めした深春の容態をルビは確認しながら、ソウヤに問うた。

「ソウヤさんは、これからどうするつもりですか?」
「そうだ…。ルリ、外の様子はどうなっているんだ?俺が居なくなってから何年経ったっ!?」

 徐々に熱が入ったのか声が上がっていきながらルリに質問で返すソウヤ。
 「あっ」と声を上げたルリは、どうやら話すことを完全に失念していたらしい。

「えっと、ソウヤさんが居なくなってから大体2年と少しが経ちました」
「なら”軍勢の期”は終わっているんだな?」
「はい。勇者様の手により魔王は倒されています」

 そうか…と溜め息をつくソウヤ。

「今、外はどうなってるんだ?」
「ソウヤさんの知っている世界とはだいぶ変化しています。魔物は大きく弱体化し、殆ど脅威はありませんが、トリップした異世界人を”天使”と名乗る有翼人が見張って満足に動けない状態です」
「国は?」
「主な都市・町・村以外は殆ど焼け野原と……」

 ソウヤは顔を傾けると、黙りこんだ。

 ―俺がいればもっと被害は小さく出来た…。

 だが、すぐにソウヤはそんな考えは捨てる。
 「たられば」を考えて状況が良くなったことなど1つもないのはソウヤが一番良くわかっていた。
 今できることは現状の確認とこれからの目標を決めることだ。

「…エレンたちはどうなっているんだ?」
「エレンさん達はそれぞれの大陸へ別れ、魔族との戦争の傷跡を支援している…と思います」

 「そう言って別れたので…」とすまなさそうな表情でそういうルリ。
 ソウヤは感謝の礼を一言言うと、立ち上がった。

「他に何かないか?伝えることとか」
「はい。…最後にエレンさん達から伝言があります」

 ルリがソウヤの目を見てそう伝える。
 立ち上がったままソウヤはそれを聞くことにした。

「――”帰ってきたら、まずエルフの大陸へ行きエミアの元へ行って欲しい”だそうです」
「エミア…」

 ソウヤは誰だったかと思考を巡らせ…エルフの大陸で命を救った少女であったことを思い出す。
 理由が聞きたかったが、他でもない仲間の頼みなのだ、それだけで受ける価値はある。

「わかった、ならそうしよう」
「ありがとうございます」

 ルリは頭を下げると、ニコリと微笑んだ。
 瞬間の間それにソウヤは見惚れると頷く。

「なら、ルリはここでギルティアの元で守護者の力を扱えるように頼む」
「はい」
「ルビと暁月は、身体が完全になるまで身体を休めておけ。治ったら俺と付き合ってくれ、少しでもこの”剣神”の熟練度を高めたい」
「ん」
「了解でござる」

 ソウヤはそれに頷くと、ギルティアを見つめ「頼む」と一言言って家の戸を開けて外に出た。

 外に出てしばらく歩いたソウヤは、雪無を鞘から抜き放つと森の方向へ向かって脚を自分が思った通りの強さで蹴る。
 すると、思った通りの弱めの力で脚が地を蹴りソウヤは前へ向かう。
 だがそれでも今までとは段違いの速度でソウヤは駆け出し、土はえぐれ土埃が大きく巻き上がった。

「ぐッ…!」

 ―力が強すぎる…!

 ソウヤはあまりの力に扱いきれないのだ。

 簡単にいえば、普通の人がオリンピック選手並の身体能力を得るとする。
 すると普通の人は”いつも”の軽く駆ける感覚で走ると”オリンピック選手の軽く駆ける”で地を蹴るのだ。
 そうなれば、普通の人はその速さを扱いきれず逆に振り回され無用の傷を負うことになる。

 それが今のソウヤの状態であった。
 予想以上の速さで目的の森の奥の広場についたソウヤは一切息を荒げずに、大きく溜め息をつく。

 ―まず、手加減の練習だな…。

 そう”神殺し”を成し遂げようとする者とは思えないことを目標とするのだった…。 
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