グランドソード~巨剣使いの青年~
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第3章
2節―”神殺し”を追い求めて―
守る先にあるものは
「――ヤさん。ソウヤさん」
「ん…?」
まどろみの中で、誰かが自分を呼んでいた。
懐かしい声。
不意に1年以上昔の事が思い出される。
――エレンにルリ、レーヌとナミル。
全て自身に着いて来たかけがえのない仲間だ。
何故かその声を聞いて、とてつもなく不安になりその声を手で抱き寄せる。
「――――――ッ!!!」
何か、悲鳴に似た何かが聞こえたような気がするが、関係ない。
まるで赤子が母に抱っこをねだるように、その声を追い求めた。
「ちょ………ヤさん…きてくだ……!」
―騒がしいな。
その声が鼓膜を揺らし続け、徐々に意識が浮上していくのをソウヤは感じた。
まどろみの中で、ソウヤはゆっくりと目を開けると――
「やっと…起きましたか……?」
「ん……?ルリ…?」
――それこそキス出来そうな距離で、ソウヤはルリは強く抱きしめていた。
まるで機能しない脳内処理が少しづつ元に戻っていくのを感じる。
目の前に居るルリは、どこか頬を上気させており赤い。
それでもどこか嬉しそうな表情を崩さず、でも少し困っていそうな顔をしている。
未だぼーっとしている頭のなか、ソウヤはその顔を見て思う。
―ルリは、俺のこと――
その続きが出る直前に、ソウヤはハッと目を覚まし意識が覚醒するのを感じた。
まるで、”気付いてはいけない”と咎められているように。
それからのソウヤの行動は速かった。
「すまん、ルリ」
そう、落ち着いた声で返しながらソウヤは凄まじい速度で寝ていた布団からぬけ出したのだ。
言葉通り、あっと言う間に。
申し訳そうな顔をしながら、ソウヤは未だ転がったままのルリに手を差し伸べる。
「えっと、悪いなルリ。寝ぼけていたとはいえ」
「い、いえ。私こそしっかりとソウヤさんを起こせなかったので…」
ソウヤはルリを立ち上がらせると、そういえば…と今の時間が気になり窓から空を眺める。
空はこれ以上ないくらいに晴れていて、太陽は3分の1まで上り詰めていた。
「だいぶ寝過ごしたみたいだな…」
「仕方ないですよ、あんなことが会った日ですし」
どこか火照った顔でルリはソウヤにそう返しながら、布団を片付ける。
そして、ソウヤの横に並んで窓を見上げると、呟く。
「空が、綺麗ですね」
「あぁ。忙しくてあんまり感じていなかったんだが、太陽を見上げるのは2年ぶりだな」
眩しそうに、嬉しそうに見上げるソウヤ。
それに見惚れていたルリ。
その2人は、しばらくそうやって数少ない穏やかな時間を過ごしていた。
「準備はいいか?」
「……うん」
「おっけーでござる」
ソウヤは後ろを振り向いて、それぞれの2人の少女たちに視線を向けた。
ルビと深春は準備満タンのようにそれぞれの得物を確かめている。
ギルティアのおかげか、ルビは凄まじい回復を見せ完璧とは言えないものの、戦力にはなる程度までは回復していた。
先程まで寝泊まりしていた家の玄関を見つめると、ルリとギルティアが静かに立っている。
ソウヤの視線に気付いたルリが、済まなさそうな顔をした。
「すみません、付いていけなくて」
「気にするな。お前はお前の、俺は俺のやることをするだけだ」
ソウヤは苦笑いを浮かべてそう言う。
それを聞いたルリは優しい笑みを浮かべて、「はい」と言った。
「さぁ、行くぞ」
「――――――」
「でござるな」
ルビはしっかり頷き、深春は呑気に肯定する。
ソウヤ達が森の中へ歩き出した。
歩きながら、チラリと深春のほうをソウヤは見る。
「ん?」とにこやかな笑みを浮かべて、深春はソウヤを見返す。
―…本当にこいつは、これで良かったのか?
昨日、ルリたちの元へ戻ってから、深春がソウヤに対して提案したのだ。
「一緒に連れて行って欲しい」と。
ソウヤと殺しあったため、初めは猛反対していたルリとルビだが、ソウヤが許可したのだ。
「小生は、もう負けないでござる。例え、”武力で負けよう”とも、二度と”心は負けない”と、誓いをたてたのでござる」と言った、深春の真剣な表情が今でも頭に残っている。
―いや、無粋だな。
そこまで思い出し、ソウヤはさきほど考えたことが誤りだと気付く。
深春も、自身と同じく自分と向き合い、二度と後悔しないように努力する気なのだ。
人の努力を無視して勝手に物事を考えるのは、それこそ愚行だろう。
「――ソウヤ殿」
「…ん?」
「……つい、たっぽい」
深春とルビの声に、ソウヤは初めて自身が森の奥底に居ることに気が付いた。
どうやら、考えすぎていたらしい。
ソウヤは自身の馬鹿らしさに内心で溜め息をつくと、雪無を抜いた。
「この先のことは、知らないんだな?」
「そうでござる。この先からは結界が張っているでござるし、小生も入ることを許されなかったでござる」
ソウヤは、「そうか」と短く答えるとゆっくりと近づいていく。
ふと、目の前の森に違和感を抱き、ソウヤは何の躊躇いもなく雪無を突きつけた。
甲高い金属音が響き、なにもないはずの空間から物理的に拒絶された。
「ルビ、行けるか?」
「ん…」
ルビは短く答えると、結界であろう場所に手を差し伸べ幾つか呟くと目の前の違和感が消える。
この間、たったの3秒だ。
「…速いな」
「ん、ほめていい」
少しだけ額に汗を浮かべながら満足気なルビに、ソウヤは頭を撫でた。
たったの3秒で済ましてしまったが、凄まじいほどの抵抗を受けていたのだろう、ルビは疲れているように見える。
「じゃあ、行くぞ」
ソウヤの言葉に2人は頷くと、結界の中へ入っていく。
中はさきほどとは全く違い、薄暗かった。
しばらく歩くと、大きな広場に出る。
「――!!伏せろっ!」
ソウヤは第六感が鳴り響き、咄嗟に後ろにいるルビと深春を抱き寄せ地面に倒れる。
そして――
ゴオオオオォォォォォ!!
――そんな音がして、さきほどまでソウヤ達が居た場所を巨大なビームに似た何かが撃ちぬいていった。
良く分からない攻撃を、避けきったと確認してから、ソウヤは2人にあわてて声をかける。
「大丈夫かっ!?」
「うん、大丈、夫」
「平気でござる」
2人共無傷のようで、ソウヤは安堵の溜め息を漏らし、立ち上がる。
そして、背中が大きく焼ける痛みに耐えながら水魔法で回復しようとして…気付く。
「魔法が発動しない…!?」
魔法が全く使えないのだ。
魔力というパイプが途中で切断されているかのように、バッサリと。
空中で、何かを操作している深春は驚愕したように呟く。
「――魔法使用不能と、身体強化無効が付いているでござる。しかも無期限」
その言葉に驚愕を隠せないソウヤ。
いきなり襲いかかってきた多くの理不尽に気を取られていると、声が聞こえた。
「――――――――!」
何かが吠える音が響く。
ソウヤ達3人がその方向に顔を向けると、そこにあった。
金属の塊で出来た巨大なロボット。
9mはあろうかというほど大きい金属の塊は、基本は人間をモチーフにしているようだ。
その手には先ほど自分たちを撃ち抜こうとしていた巨大な銃を持っている。
背中には6mはある巨大な剣。
「――ここを守ってるのは暁月だけじゃなかった…か」
「倒されることは予想済み…っていうことでござるね」
ソウヤと深春はそれぞれの得物を構える。
深春を連れてきたのは、”もしかして”という可能性が会った場合対処できるようにだ。
その”もしかして”が今襲いかかっているので、備えあれば憂いなしと言える。
ソウヤは後ろに居るルビに声を掛けた。
「ルビ、お前は補助に徹しろ。完全に治りきっていないお前じゃ俺達の動きに付いてこれない」
「…ソウヤ」
言い終わるか否かで、ルビは不意にソウヤに話しかける。
真剣な表情をしたルビに対して、ソウヤは視線を向けた。
「――あの敵、の先に、とても強い…結界を感じる」
「つまり…!」
あの敵の先に探し求めている”神をも殺せる力”が眠っている。
「多分、時間かかる、けど」
「強引に行けるか?」
「――――うん」
この世界はRPGではない。
目の前にいる敵を倒した所で、きっと開かれるという問題でもないはずだ。
「俺達が道を開いて時間を稼ぐ。その間にその結界を開いてくれ」
倒せればそれで良い。
だが、それは無理だとソウヤと深春は思う。
”魔法使用不能”と”身体強化無効”。
それがソウヤと深春を弱める。
幸い、『結界術』などの魔法に入らない能力は打ち消されていないのが幸いか。
―スキル使用不能よりかはマシ…か。
ソウヤは”あの男”がケラケラと笑う姿を思い浮かべ、苛つきが芽生える。
―確実に遊んでやがるな、あの野郎。
「…やるぞ、暁月」
「おっけでござる、ソウヤ殿」
それぞれに得物を構えたソウヤと深春は、目の前の金属の塊に対して走りだした。
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