グランドソード~巨剣使いの青年~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第3章
2節―”神殺し”を追い求めて―
勝負
「”話し合い”。でござるか」
心底驚いた様子で深春はそう言い返した。
その言葉に、ソウヤは頷く。
「あぁ、そうだ。俺がこの勝負に勝ったらお前を説得させる機会をもらう」
「随分と小生に有利な条件でござるな」
苦笑を隠そうとしない深春に、ソウヤは真剣な表情で視線を返す。
その様子にこの条件が本当だと理解した深春は、手に持つ刀を肩に置いた。
「いいでござるよ。小生が有利なのは嬉しいことでござるし」
「なら――」
とソウヤは下を向くと手頃な石を掴むと、手の中で転がし深春に見せた。
「――勝負内容は一撃決闘だ。準備には時間をどれだけでも掛けていいが、勝負自体は俺と暁月かどちらかが攻撃を一撃でも入れたほうが勝ちだ」
「いいんでござるか?」
深春が、ニヤリと不敵に笑った。
その笑みにはまるでもう勝ちを得たような自身がヒシヒシと伝わってくる。
それはあいにく間違っていない。
深春は刀を持つということは、つまり刀スキルを得ているということにイコールするのだ。
刀スキルの長所は、一撃離脱とカウンター、そしてその剣速にある。
刀は耐久力に難があるが、剣の速度ならばどんな武器よりも速く鋭い。
それに対し、ソウヤは剣…それも巨剣だ。
木が所狭しと生い茂る森の中では巨剣は使えにくいことこの上ない。
故に振るえる剣撃は上段に限られるだろう。
更に剣自体のステータスは耐久力は高いが剣速は多少遅い部類に入ってしまう。
これらの事実から、この勝負内容は圧倒的にソウヤが不利なのである。
それをソウヤは知っている。
だが、知っているが故にただただ静かに笑った。
「あぁ、問題ない。そちらも問題なければ準備時間だ。できたら声を掛けてくれ」
「うむ。分かったでござる」
そういうと、深春は刀を突き刺すと目を瞑り身体中のちからが抜けた。
今から戦うであろう敵を見にして、それはあまりにも無防備だ。
だが、ソウヤは今斬りかかっても確実に対処され、最悪の場合殺されることは簡単に感じられた。
それほどの圧力が深春から溢れ出している。
ソウヤも、ずっと持っていた右手にある雪無を地面に突き刺す。
すると、いきなり身体中の力が無くなったようにバタリと音がしてソウヤがうつ伏せに倒れ込んだ。
片方、立ったまま瞑想。
片方、うつ伏せに倒れこむ。
周りが見ればこう思うだろう、「意味がわからないよ」と。
ただ、達人と呼ばれる者達にはわかるはずだ。
深春からは身をゾッとさせるほどの冷たく静かな圧力が放たれていることを。
ソウヤからは魔力がその見に充満し、身体から溢れ出るという普通ならばあり得ないことが起きていることを。
時にして、20秒ほどだろうか。
ムクリとソウヤは音もなく立ち上がった。
身体中からは何もしていないはずなのに汗が流れている。
時を同じくして、深春も目を開ける。
その身体から放たれる圧力は瞑想する前より何倍にも膨れ上がっていた。
「終ったで、ござるよ」
「あぁ、俺も準備は終わった」
深春とソウヤ、両者ともがそう言うと少し息を吸い――
「『鋼の加護』」
「『身体強化』」
――同時に自身を強化した。
同時に放たれる凄まじい力の波。
ソウヤは20秒間一切動けなくなる代わりに、今までとは比にならないほどの肉体の強化を得られる『肉体強化』を王級まで伸ばしたことで手に入れた技を使う。
例えるならば、ソウヤは豪の力で深春は柔の力と言うべきだろうか。
それぞれ違うもその気に触れるだけでも失神できてしまう力の応酬。
風は吹いていないのだが、その力の波だけでソウヤと深春の周りには暴風が吹き荒れていた。
ソウヤと深春はそれぞれ構える。
深春は正面に構え、ソウヤは周りの特性上上段にしか構えた。
そして――
「っ…!」
――音もなくソウヤが深春に向けて突撃し、ところかまわずの大振りに巨剣を振るう。
それを見た深春は、リーチ上こちらの刃が届かないので”縮地”によりリーチを補った。
しかし、それと同時に迫り来るのは停止時間である。
一瞬でさえこの隙は1秒10秒にもなり得るのがソウヤ達の至る世界だ。
音速の壁を超え、残像が見えるほどの速さで動けない深春へ刃が迫る。
「っ…!?」
ゾッとソウヤの背中を駆け巡る悪寒。
それこそ、まさしく長年の戦いの日々により積み上げてきたアラームだ。
そしてそれは一寸の狂いも無くソウヤの危険を察知し行動する余裕を与える。
即座に巨剣を自分のもとへ力技で引き上げ身体を全力で捻った。
音のない剣の残像の軌跡。
それを視認出来たのはソウヤであったからでこそ。
ソウヤと同じく音速の壁を超えた剣撃はまさしく先ほどまでソウヤが居た場所の喉を掻っ切っていた。
人ならざる反応速度を見せたソウヤに深春は一瞬驚いた様子になると、嬉しそうに一気に顔を笑みで歪める。
ひとまず両者とも距離を取ると、一息入れた。
「…正直、びっくりしたでござる。ソウヤ殿がこんなに強いとは」
「…それは俺も同じ――」
そう言うと、ソウヤは土を大きく抉りながら深春に再度突っ込むと上段に構え巨剣を振るう。
「――だっ!」
深春は今度は自ら足を動かしソウヤの元へ走って行く。
上から迫る圧倒的質量。
それを影として認識しながら深春は分け目振らず駆ける。
―…間に合うっ!
深春がそう確信すると、同時にさらに加速。
そう予想した通りソウヤの巨剣が深春の元へ到達するより速く深春の刀がソウヤをリーチに入れるほうが速かった。
ここまで接近されるとソウヤは対応出来なくなり、深春の刃はソウヤの腹を目掛けて近づいていき――
「…らぁっ!!」
――突如として目の前に現れた剣によって防がれた。
刃が同士がぶつかると同時に、ソウヤの再突進からの音が遅れてやってくる。
しかし、その圧倒的なまでの剛力にソウヤは為す術もなく吹き飛ばされた。
―俺の筋力が負けるのか…!?
その事実に驚愕を隠せないソウヤは、地面を削りながら停止する。
「…お前、本当に人か?」
「ひどいでござるなぁ、ソウヤ殿は」
にこやかな笑みを浮かべた深春は、ソウヤに視線を向けた。
「人でござるよ。ただの…ね」
どこか思うところのある笑みを浮かべたまま深春は一気に、ソウヤに攻め入る。
瞬時に懐に入り込むと、その刀を横薙ぎした。
それを寸でのところでバックステップすることで躱したソウヤは、再び雪無を巨剣化してリーチの長さで攻撃を仕掛ける。
上から迫り来る刃に対し、深春は刀を構えるのみだ。
―コイツを弾き飛ばすつもりか…!
そう悟ったソウヤは、先ほど感じた馬鹿力を思い出しあながち無理そうでもないことに辿り着いた。
迫り来る刃とそれを待ち受ける深春。
雪無が深春に届けばソウヤが勝利し、深春が雪無を弾き飛ばせれば大きく隙を見せるソウヤは負けることになる。
深春の刀とソウヤの巨剣が今――
「なめる…なぁッ!」
――ぶつかりあう、”はず”だった。
ぶつかり会うはずの雪無の姿が、いつの間にか深春の前から消えていた。
力がぶつかり合った感覚もない深春は、当然のように呆然とする。
慌てて叫んでいたソウヤのいる場所を見てみれば、”そこにソウヤはいなかった”。
―…ヤバイッ!
悪寒が今更に駆け巡り、脳内の警報が鳴り響き深春は思わず背面に振り向き――
「力技だけだと思ったか、暁月?」
――行動する前に、後ろにいたソウヤの拳が深春の腹をえぐった。
それで気を失ったのか、深春の身体中の力が一気に抜ける。
重たくなった深春の身体をソウヤは抱きかかえると、安堵の溜め息をついた。
―危なかった…。
あの時、ソウヤは雪無を振るって深春の刀が当たる瞬間、巨剣化していた雪無を短剣の大きさに変化させ、ある”技”を使って急加速したのだ。
そして背後に移動したソウヤは振り返ろうとした深春のみぞうちを撃ちぬいた。
ソウヤが使ったある”技”とは、『巨剣使い』に変わる『剣神』の『亡霊解放』。
正式な名前は無いが、言うならば『亡霊解放・二』というべきだろうか。
『剣神』となったソウヤの『亡霊解放・二』は、2段階の変化がある。
1つは、今までどおりのやり方。
ソウヤの内側に貯めこんだ魂を開放することで、その者の力を一時的に使うことが出来る。
数分という長時間使うことができ、重ね掛けもすることが可能だ。
しかし、魂は消費されその1つの魂の効果は低い。
更に使うと非常に長い間スキルを使用出来なくなるデメリットがある。
2つ目は『剣神』となったことで出来ることが可能となった使い方。
こちらは、内側に溜め込んだ魂を”瞬間的に解放”することで、その者の力を一時的に使うことが出来る。
魂の消費がなく1つの魂の効果は比べ物にならないほど大きい。
だが、使える時間はほんの刹那の間で、複数の魂を使うこともできないのだ。
しかも何日ものスキル使用不能の呪いにはかからないが、1秒ほどこの方法は使えなくなる。
この、2つ目の瞬間解放とも呼べる方法でソウヤは爆発的に加速し深春の後ろ側に回りこんだのだ。
ソウヤは、深春の身体を見つめる。
「…小さいな」
彼女の身体はソウヤもびっくりするほどに華奢で軽い。
きっと、元の世界ならソウヤが力を目一杯蹴っただけで骨が折れてしまいそうだ。
―そう、”元の世界”なら。
あまりにも小さく軽い深春の身体は、服の上では細かいことは分からないがやせ細っているように見える。
こんな女の子が普通なら持てるはずもない刀を使いこなしている事実と、何故自分の行く手を阻んだのかという疑問に、ソウヤは嫌な予感を隠せなかった。
スキルや、ステータスの恩恵を得ているとはいえ人は人だ。
普通なら振り回すことも危ういソウヤ達がスキルによって使いこなせているが、身体に負担をかけ続けている。
結果的に、身体が今の動きについてこようとして自分たちとは無意識に筋肉が基本的に着くものなのだ。
しかし、目の前の少女は”それ”が全く感じられない。
「…まぁ、起きるまで気長に待つか」
彼女が起きた時に事情を聞けばいいだろうとソウヤは思考を完結させ、もう一度、小さく溜め息を付いた。
後書き
――その出会いは驚きに満ちて。
ページ上へ戻る