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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
2節―”神殺し”を追い求めて―
  懐かしき再会

 ソウヤと目を覚ましたルビが扉をくぐった先には、木などで作られた家が複数存在していた。
 家があるということは、人も居るのは当然と言える。
 ただ、動きなどを見る限りNPCなのだが。

 不意に視線を感じて、ソウヤはその視線の方向へ顔を向けた。

「お待ちしておりました――」

 耳に入る、優しげで母性を含んだ声。

 この世界でも珍しい部類に入る、灰色の髪色をしたショートボブ。

 別段主張するところのないスマートな身体。

 その全てが、ソウヤは見て、聞いたことがある。
 ポツリと、ソウヤは言葉が自らの口から漏れだすのを聞いた。

「ル…リ……?」

 それは、初めて彼と彼女が会った時のように…彼女(ルリ)は優しく微笑んだ。
 ただその瞳には、透明な液体で溢れていて――

「――ソウヤさん」

 また、(ソウヤ)もあの日のようにその微笑みに見惚れていた。




「ルリが、”神殺し”の力の案内人?」

 ルリとソウヤが再会してから、1時間ほど。
 一段落したソウヤとルリの再会は、置いてきぼりになっていたルビに説明をしつつ、ソウヤに現状を理解してもらうということに移っていた。
 ルリが住んでいたという家に入り、そこで飛び出したのが、ルリが”神殺し”の力の案内人だということである。

「はい。私は自我も持たない幼い頃にアルティマース様に、”神聖森”という”神域”の”守護者”として選ばれました」

 ”神聖森”に”神域”、そして”守護者”。
 複数の知らないキーワードが現れ、ソウヤはその意味を理解できずに居た。

「あれ?アルティマース様に聞いておりませんか?」
「あぁ、お前の言う意味1つもわからん」

 ルリはソウヤの言葉に「アルティマース様ったら…」と苦笑すると、ソウヤに目線を向ける。

「”神聖森”というのは、ソウヤさんや私が居るこの村や周りの森の…言うところの地名。”神域”はそう呼ばれる地域を作成した神が許可した人のみしか入れないため、そう呼ばれています。そして――」

 ルリはそこまで言うと自分の胸に手を当てた。

「”神域”を他の神から守るために選ばれたのが、私こと”守護者”なのです」

 「ただ…」とルリは苦笑いを浮かべて自らの胸に当てていた手を、ゆっくりと下げる。

「私はまだ、”守護者見習い”といったところですが」
「見習い…?」

 その単語にソウヤは疑問を持つと、後ろから扉が開く音が響く。
 その音を耳にしたルリは、立ち上がると扉の方へ向かい――

「この方が、現”守護者”」

 ――右手で現れた女性の老人を指す。

「ギルティア様です」
「よろしくのぉ、ソウヤ殿」

 ルリと同じ耳の形をした老人の女性…ギルティアはほっほっほと陽気に笑った。




「――それで、どうでしたか?”あそこ”は」

 ルリはギルティアにそう尋ねると、老人は静かに首を横に降った。

「未だに占拠されておる」
「そう…ですか」

 残念そうなルリの言葉に、ソウヤはどうしたのかと聞く。

「本来ならば、ここで身体が『剣神』に慣れるまで村に住んでから試練に行ってもらおうとしていたのじゃが…」

 言葉を詰まらせるギルティアに変わって、表情を暗くしていたルリが続ける。

「…一人の女性が、つい先程試練に続く唯一の道を占拠してしまったのです。多分、ウィレクスラが干渉したせいだと思うのですが…」
「ちょっと待て。この”神域”は確か作成した神が許可した人のみしか入れないんじゃ…」

 至極当然なソウヤの疑問に、ルリは小さく「はい」と返した。

「最後に説明しようとしたのですが…」
「作成した神より上位の神は入れはしないが、間接的に干渉は出来てしまうのじゃ」

 神にも魔族と同じように階級がある。

 生物の心理…つまり愛情や憎しみなどを司るもっとも階級の低い下級神。
 雷や氷など、炎や水が干渉し合って起こる現象を司る中級神。
 火・水・風・地の基本現象を司る上級神。
 そして、1つの世界を見守り、管理する管理神。

 ここまでの神が、1つの世界にのみ存在出来る基本神。
 地球のある世界には存在せず、この世界にのみ存在する神など―例えば魔力を司る神―も存在する。
 アルティマースは、この中で最も上の存在である管理神だ。

 時間と空間を司る時空神。
 生物全ての運命を司る運命神。
 魂が居座るところ、つまり肉体の創造を司る創造神。
 魂の管理、生と死を司る輪廻神。

 そして、全ての神の頂点。
 創造と破壊を司り、世界の全てを掌握する神。
 それが”世界神”。

 この4柱と、世界神。
 たった5柱だけが世界を股に掛けて干渉することが出来る最高神。
 他の神も他の世界を”見る”ことはできるが”触れる”ことは叶わないのだ。
 ソウヤのように、神々の住む世界に入り込まないかぎりは。

 今回、この”神域”を作成した神は管理神であるアルティマース以外に想像がつかない。
 現段階で合ったことがあるのはアストレイアとアルティマースのみ。
 その中で”神域”に入ることを許可したような言動したのはアルティマースだけだ。
 よって、ソウヤの想像の中ではアルティマースという仮定となる。

 まぁ、それも意味のないことだ。
 神域を作成した神より上位の神は、無許可で入れる。
 つまり下級神が作成した”神域”は中級神以上の神は普通に干渉することができるのだ。

 アルティマースは上級神より位の高い管理神なので、余程のことがない限り神域を犯されることはない。
 ただ、今回干渉してきたのは最も位の高い世界神だ。
 流石に相手が悪すぎたのである。

「つまり、その女性は――」
「――はい。私たちの敵です」

 「バレていたのか…」とソウヤは呻くように呟いた。

「なら何故、たった1人の女性しか神域に侵入させてないんだ?」

 そのソウヤの問いに、ギルティアは口を開いた。

「世界神とはいえ、管理神が作成した”神域”を干渉するのには疲れるのだと見えるの。つまり――」

 一瞬の静寂。

「――現れた女性は、下手な天使より強い」

 呟いたその言葉は、今現在の現状が悪いことを物語っていた。
 ソウヤは何も言わず、立ち上がる。

「ギルティア、『剣神』に早く慣れたい。外に出る」
「…うむ」
「私も、行く」

 ルビはそう言うと、外へ歩き出したソウヤの背中を追う。
 バタンと音を立ててソウヤ達が扉の外へ行ったのがわかると、ギルティアはルリを見据えた。

「ルリよ」
「はい、ギルティア様」

 ギルティアは立ち上がると、扉へ身体を向けた。

「――急いで守護者の修行を終わらせるからの」
「…喜んでお受けいたします」

 そして、ルリとギルティアも家の外へ出て行った。

 言葉を交わす意味は無いのである。
 もう、やることは決まっていた。




「――ふむふむ、あれが”例”の…」

 村より1kmほど離れた森の中で、人外レベルの速さで剣を振り、身体を動かすソウヤを見つめる者が居た。
 カチャリ…と音を立ててその者の腰にかけた”刀”がなる。
 見つめる者は、真剣そのものの目でただただソウヤを見続けていた。

「…絶対に、通さないでござる」

 その者は食い入るようにソウヤを見続ける。
 瞳は、どんよりと暗い”何か”が宿っていたのだった。 
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