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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第3章
1節―最果ての宮―
  薙沙

「次の層が…55層だな」

 敵の死体だらけと化した少し大きめの部屋の中で、ソウヤの唾を飲み込む音だけが響く。
 そう、ここまでの層をソウヤはこなし…そしてボスが居ると予想した55層への道へとたどり着いたのである。

「…おし」

 ソウヤは小さく気合を入れると、設置された魔法陣―次層への道は魔法陣での転移である―に乗っかって、起動させた。
 青白い光にソウヤは包まれ…次の瞬間には眩しい光をソウヤは浴びる。

 ―光…?太陽でもあるのか?

 ソウヤはそう思い、少しずつ目を開けていく。
 そして目を開けた先に広がったのは…辺り一面に広がる木々だった。
 虫の音、暖かな日の光、木々が風に揺れる音…その様々な要素がまるで…本当の地上のようで――

「――え?」

 ソウヤは呆然として、そして自らの目を疑った。

 ―ここは…地上?いや……違う。

 ソウヤはここは地上なのかと目を疑ったが、一瞬にしてこれは地上ではないと理解した。
 身体に走る違和感と言うべきなのだろうか…そんなものがソウヤをここは地上ではないと理解させたのである。

「緻密に再現された…空間?」

 そうつぶやいた瞬間、ソウヤの中で深く納得できたような感覚が走る。

 ―…?獣道が続いてる…?

 不意にソウヤが足元を見ると、そこには何度か生き物が通ったような跡が存在していた。
 注意深く見てみれば人の足跡がうっすらと確認できる。
 それを知ったソウヤは不可解だと思う。

 ―魔物が歩いて出来た獣道ならまだしも、うっすらと見えるのは人の足…。この迷宮は未だにここまでこれたものは居ないのだから、人は居ないはず。

 しかし、どうみてもそれは魔物のあの三本足でも四本足でも違う、人間の履く革靴やサンダルの足あとなのだ。
 結局、ソウヤは考えるだけ無駄だと思い至り唯一の道標である獣道に向かって歩き始める。

 しかし歩いて10分、普通ならもうとっくに一度は魔物に襲われていいはずの時間帯だが、”近く”には魔物が一匹もいなかった。
 そう、ソウヤの使う危険察知のスキルがここから数十m離れたところにわんさか魔物が居ることを告げているのだ。
 ソウヤ自身も鍛えに鍛えられた第6感とも呼べるものが、魔物がこちらをじっと見ていることに気がついていた。

 ―まさか、この獣道は全てセーフティエリアなのか?

 ソウヤはこの不可解な現象を自分がセーフティエリアにいるからだと、そう仮定させた。
 セーフティエリアは基本、中に入れば魔物は入ってくることは出来ずしかもその入ったものの気配も完全に絶たれるので普通なら魔物は遠ざかっていく。
 しかし、この獣道がセーフティエリアなら木と木の間からは普通に見えてしまう。
 だから魔物は気配が無くなっても人がここにいることはわかってしまうのではないか。

 そんな現実味のある仮定をつけたところで、ソウヤは目の前に目を疑うものが見えてきた。
 それは――

「む、村?」

 ――人工物であろう建物と、その中でせっせと働いている人たちである。
 同時に、ソウヤの頭のなかは一気に混乱に陥った。

 ―は…?なんで人が…?え…?

 人が入った瞬間、その強大な魔物の大群により第1層でさえクリアできなかった伝説の迷宮。
 そんな迷宮の中で、しかも100層のうちの55層…つまり最低でも中級魔族並みの敵が現れる場所で、人が住んでいるなどありえないのである。
 しかし、そんなありえない情景がソウヤの目の前にあらわれていた。

 ―まさか…幻術?それとも人の形になった魔物?

 ソウヤは酷く疑心暗鬼になるが、それもしかたのないことなのだろう。
 しかし、ソウヤとてこの獣道を外れ巨剣すら扱えないこの狭い空間の中で数十もの、桁外れな強さを持つ魔物と戦おうなど、考えたくないのである。
 戻ろうとすれば戻れるが、そうすればもとの地上に戻れなくなってしまう。
 結局、村に足を運ぶことしかソウヤは出来ないのであった。

 疑心暗鬼な中、しかしそれを表情に出さず雪無を片手に持ちソウヤは飄々とした構えで村に入る。
 すると、門の横にずっと立っていた子供が一言――

「ようこそ、第55層の村。『アルキア』へ」

 ――そう、笑顔なまま固まり”棒読み”で言った。

 その光景に酷くソウヤは恐怖感にあおられる。

 ―なんだ、なんだこれ…。子供が、笑顔なまま突っ立ってるだけで…呼吸さえしてないように見える。

 人というのは肺で呼吸をするが、そのときに腹筋を使うので呼吸をすると腹が出たり入ったりするのだが、この子供は笑顔のままその呼吸の動作さえしていないのだ。
 そのことがソウヤにとってもっとも恐怖感を煽るものだった。

 横にいる少女が無邪気に笑う――呼吸という動作さえせずに。

「村長の家は村の一番奥にあるよっ!」

 また棒読みのままそう少女が言って…固まった。

 ―…村長の村、か。

 村に来たら村長の家に必ず行く…まるでRPGみたいだ。
 ソウヤはそう思うと…その思わず思ったことが当たりのように感じた。
 そうすると、全てのこの子供の原理もうまく説明が行くのである。

 ―魔法による仮想の人体の創造。そしてそれを動かすためにその人体の中に、いわゆる『プログラム』を乗っけたわけ…か。

 通常の魔法の中にはそんな桁外れた能力の持つ種類など無いが、しかしそれも固有(ユニーク)の類だとしたら説明が行く。
 ただでさえソウヤの持つ巨剣使いは未だに達人級から抜け出していないのだというのに、通常のステータスを25倍にまで引き伸ばすのである。
 そんなチートな能力を固有が持っているのなら、別におかしくもなんともないのであった。

 ―つまり、この迷宮は自然発生したのでなく…人工発生したのか?

 迷宮は大きく2つに分けられるが、それが自然発生型と人工発生型だ。

 ソウヤが転移させらてた時に入れられた、『瞬死の森』などが自然発生型の例である。
 また、自然発生型は『瞬死の森』のような自然風なものから本当の迷宮のような石が敷き詰められたものも存在している。

 そして、今ソウヤがここにいるのが人工発生型なのだ。
 自然発生型と違う点は、自然発生型よりかは弱い魔物しか出ないことが多いが、どれも高い知能を有するということである。
 魔物に魔法をかけてあったりしてあるのも、特徴の1つといえるだろう。

「まぁ、とにかく村長の家に言ってみるか」

 ソウヤはそんなことは今はどうでもいいと切り替えて、少女に言われたままに村の奥へと歩いて行く。
 度々すれ違う人々は、RPGよろしくほとんど得のない世間話だけをしていた。
 しかし、少し歩くと泣き崩れている夫婦がいるのを見つける。

「おぉ、我が娘よ。どこに行ったのだ……」
「神よ、どうか我が娘をお救いください…」

 その言葉だけが、今まで聞いてきた中でもっとも感情が込められているようにソウヤは思えた。
 そして、泣き崩れている夫婦がなにかの鍵になることは安易に予想できるだろう。

 ―あの夫婦は一旦置いておこう。今は村長の家に向かうことを優先に――…?

 ソウヤは夫婦を置いて先に行こうと目を前に向けたその先には、武器や防具が立ち並ぶ建物があった。
 それはまるでRPGにある武器屋や防具屋のようで――

「失礼します…」
「いらっしゃい!ここは武器と防具の店だよ!」

 ――思わずソウヤはゲームしていた頃の癖で入ってしまっていた。

 爽やかな笑みをした青年が棒読みでソウヤを向かい入れる。
 その青年のイケメンさと棒読みが相まって、少しイラッとしたがそれは置いておきソウヤは武器を見渡し、片っ端から鑑定していく。
 そしてその質の高さにソウヤは思わず冷や汗をかいた。

 一番安い『シック』という長剣は、下級魔剣クラスで能力は斬った相手に特定の確率で毒化をさせるもの。
 一番安い武器で下級魔剣クラスなのだから、冷や汗モノである。

 一番高い『薙沙(ナギサ)』と呼ばれる長剣は、なんと将軍剣(ロード・ソーガ)クラスのものだった。
 将軍剣というのは上級の魔剣、聖剣の更に上を行く剣でその威力は『魔魂剣(レジド)』さえも遥かに超える。
 その上にまだクラスがあるが、それを見たものは10000年に一回もないのだという。
 そして、その将軍剣1本だけで小さい国1つは買えてしまうほどであった。

 そしての『薙沙』の値段は40万Rである。
 現在のソウヤの所持金が45万Rなので5万Rしか残らないが、それを通り越してもほしい武器であった。
 ただ、現在の雪無の魔剣のクラスが上級になっているので使わなくなる日も遠くはなさそうであったが。

 ―現在の雪無は上級クラス。約5層で中級から上級まで上がったのだから底が知れないが、正直ここから将軍剣になるまでが長そうなんだよな…。

 その名の通り、将軍剣は古い昔に世界を征服した帝国の将軍が持っていたとされる数少ない剣をモチーフとしている。
 その将軍剣は他にある魔剣や聖剣とは格別な差があり、一振り剣を振れば数十m先の敵でさえ真っ二つになり山は削れ海も割くほどの力を有していたらしい。
 それを考えてみれば中級魔剣と上級魔剣の差など無いに等しいものであった。

 それを考えてみれば、5層で中級から上級まで上がったとしてもそこから将軍剣になるのにどれだけかかるかわかったものではないのである。
 それに、それでもしもの時を考えてみれば薙沙は非常に欲しい品であった。

 結局、ソウヤは数分悩み――

「ありがとうございましたー」

 ――薙沙を買ったのだった。

 ―薙沙は本当に危機が迫った時にだけ使うとして、もし雪無が将軍剣に成長した時は二刀流にしてもいいかもな…。

 二刀流といえば、それだけ攻撃力がプラスされ最強と思われがちだが現実そうでもない。
 確かに攻撃力が2倍にはなるが、それを使いこなせなければ意味が無いのである。
 ソウヤの場合は巨剣にしてぶん回していれば、敵の消滅速度が早くなるので二刀流をしていたが、右の剣と左の剣で使い分けるのは至難の業だ。
 事実、地球の剣道では二刀流は一部許されているが上級者になってくると使うものはゼロに等しい。

 しかし、ソウヤはこの二刀流を使いこなすつもりであった。
 意識分裂なぞ出来もしないが、戦闘時になれば意識の速度が非常に高まるのはソウヤ自身がもっとも知っている。
 それに強敵と闘う場合、そういう手数は増やしたほうが結果的に有利になるのだ。
 剣術が戦士を使えば王神級という、非常に高いアドバンテージもソウヤはあるため、毎日行えば迷宮から出るまでには熟練出来るとソウヤは確信があった。

 ソウヤは薙沙をアイテムストレージにしまうと、村長の家に向かってまた、歩き始めたのだった…。 
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