グランドソード~巨剣使いの青年~
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第3章
1節―最果ての宮―
50層
もう、眠りの時間は終わり…か」
ソウヤは、少し薄暗いの中でゆっくりと意識が覚醒していくのを感じた。
ここ最近の少ない娯楽の1つ、睡眠がもう終わってしまったのかとため息をソウヤはつく。
ストレージに、瞬死の森の時から使っていた手製寝袋を入れてもうすっかり消えている焚き火に、魔法でソウヤは火をつける。
土魔法で作っておいたコップの中に水魔法で水を入れ、それを飲んでから顔に掛けた。
スゥ…と目が冷めていくのをソウヤは感じる。
―まずは…飯だな。
ソウヤはそう思うと、肉の料理を作って食べる。
瞬死の森では草が存在していたためビタミンなどを摂取しやすかったが、このダンジョンではそんなものは存在しない。
ストレージにあるにはあるが、貴重なものが多いので食べるに食べられないのだ。
パパっと肉々しい飯をソウヤは食べ終わると、ストレージから黒鏡破を取り出した。
ソウヤは立つと黒鏡破を構え、目を閉じる。
―イメージしろ…。相手は……あの将軍魔族2人だ。
ソウヤはあえて巨刀化せず、そのままで相手をする。
シンク―大剣を持っていた男の将軍魔族―がソウヤに向かって目に見えぬ速度でソウヤに大剣を振るう。
ソウヤは出来るだけ最小限でそれを避けると、後ろからロウが来ると判断して出来るだけ小さく横にステップする。
しかし、そこにシンクが先回りして対応する前にその首を切り取られた…。
「はぁ…はぁ…」
ソウヤは身体を汗を垂らしながら、息を荒くする。
実はイメージでの戦闘は酷く集中するため、少ない時間でもこうして酷く疲れてしまうのだ。
ソウヤは小さくため息をすると、素振りを始めた。
一回、一回しっかりと確認しながら、自分に合った振り方を馴染ませていく。
―…駄目だ、違和感しか感じない。…これも駄目。隙が多い。
1000回終わらせたところでソウヤは、素振りをやめる。
そして眼を閉じて大きく上段にソウヤは構えるとしっかりと黒鏡破を握った。
「すぅ……」
ソウヤは大きく息を吸い――
「っ…!!」
巨剣を使っているのではないかと思えるほどの凄まじい速度で振り下ろされた黒鏡破は、空を斬る。
次の瞬間、無音だった空間が一瞬にして響きソウヤの髪を大きく揺らした。
「…ふぅ。やっぱり変わるものだな」
ソウヤはそう言うとため息をする。
初めではそこまで速度も威力を出なかった一撃が、巨剣の一撃並みに増大したのだ。
驚かないほうがおかしいというものである。
「といっても、まだ全然駄目だ。身体に違和感があるな…。それに身体に負担を多少かけているようだしな」
ソウヤはそう言うと、水魔法で水を生成すると水を飲み喉を潤す。
そして飲み終わると焚き火の火を消してセーフティエリアの扉に手を掛ける。
「…おしっ!行くか…!」
ソウヤは深呼吸をすると、扉を開ける。
開けると、やはり薄暗い通路が目の前に映っていた。
ソウヤは火魔法で明かりをつけると、ダンジョンの通路を進んでいく。
1週間ほど篭っていてソウヤにはこの階層は一本道しか無いことがわかっていた。
「グルァっ!!」
しばらくするとリザードマンエリートがこちらに飛びついて、曲刀を振るう。
ソウヤはそれに予想していたので、極力小さい動きでその攻撃を避けると黒鏡破を横薙ぎする。
それにリザードマンエリートはバックステップを行う。
「『業火剣』」
その動きもとっくに予想出来ていたソウヤは、前に1歩半だけ前にでると黒鏡破で突く。
リザードマンエリートはそれに対応して擦らした。
ソウヤはそれに小さく舌打ちをすると、その場で回転して逸らされたところとは逆の方向から横薙ぎを行う。
「ガッ…ガゥウ……」
リザードマンエリートは小さくうめき声を漏らすと、その瞳に光が無くなった。
ソウヤは、それをさっさとインベントリの中に突っ込むとさらに通路を進んでいく。
何回もリザードマンエリートと戦っているうちに、その行動をある程度だが予測できるようにソウヤはなっていたのだ。
大体よそくが当たる確率は40%だが、それでも無いと大きく違うものである。
しばらく進んだところで、少し小さめな広場が見えてきた。
ソウヤはそこで立ち止まる。
ここ1週間で調査できたのはここまでだったのだ。
初めてのダンジョン+中級魔族以上の魔物が出てくるところなので、臆病すぎるのが丁度いいのである。
―多分、この先にこの階層を守る奴がいるか…この階層の先に進ませないようにするために配置された、いわゆる中ボスがいる。どちらにせよめんどくさいことに変わりはないな……。
ソウヤは、それだけ思うと黒鏡破を一度力強く握ると小部屋に向かって入っていった。
瞬間、目の前に光が集まっていき1匹のリザードマンとリザードマンエリートが2匹現れた。
真ん中に突っ立っているリザードマンは、装飾もされており明らかに名鍛冶屋が作ったのであろう強い光沢を持っている、全身鎧を着込んでいた。
そして持っている得物は大剣。
「リザードマンエリートならぬ、リザードマンロードって奴か」
ソウヤはそう言うと、ため息をつく。
そして黒鏡破を構えると瞬時に飛び出した。
リザードマンエリートはそれに対応して曲刀を振るう。
ソウヤは攻撃にあえて相手の懐に飛び込みかわすと曲刀を持つ腕を切り落として、間髪入れず返す刃で心臓を切り裂いた。
リザードマンエリートは呻いて地面に倒れる。
「ガルァッ!!」
仲間の死に怒りを覚えたのか、一段と大きい叫び声を上げてソウヤに突っ込んでくる。
その凄まじい威圧にソウヤは一瞬怯み…その一瞬が命取りとなった。
「ぐっ…!?」
ソウヤは咄嗟に後ろにステップしたものの、腹を深めに斬られた感触がして一気に腹が熱くなった。
その熱さに悶えながらもすぐさま腹の傷口をくっ付けると、その切り口はすぐに治る。
この現象は、その得物が鋭いからこそできた芸当であった。
生き物の身体は細胞で出来ており、そこに傷口が出来るということは細胞が真っ二つになったり、離れ離れになるということだ。
しかし、あまりに鋭いものでその細胞が真っ二つになったり離れ離れになると、それを理解するのには一瞬だけ時間がかかるのである。
そして、その一瞬に傷口をくっつければ自己的に凄まじい治癒が開始され瞬時に治ってしまうのだ。
ソウヤは未だに腹が少し熱いのを感じながら、再び黒鏡破を構えてもう1体のリザードマンエリートに向かい突っ込む。
そこから出された攻撃をリザードマンエリートは軽々と避けて、カウンターを仕掛けてくる。
「『業火剣』」
ソウヤはその刀に凄まじい熱量を持った赤き炎を纏わせると、そのカウンターを避けてリザードマンエリートの腹部に向けて突いた。
そしてその業火を纏う黒鏡破を上に切り裂く。
「……」
リザードマンエリートは呻く暇もなく、口をパクパクして死んでいった。
ソウヤはすぐさま後ろに下がると、黒鏡破に付いた血を払ってリザードマンロードに向けて構える。
「ガルァッッ!!」
仲間を始まってすぐ殺された怒りで、リザードマンロードは喚く。
ソウヤはそれに答えるように、静かな声でつぶやく。
「……最後はお前だ」
瞬間、リザードマンロードがソウヤに対し攻撃を行った。
凄まじい早さの上段斬りである。
それを出来るだけ小さく避けると、ソウヤは横薙ぎをリザードマンロードに対して行った。
リザードマンロードはそれを楽々と後ろに下がることで避けてみせる。
だが、ソウヤの狙いはリザードマンロードを下げることであった。
ソウヤはもう一度黒鏡破を構える。
「…『地獄炎剣』」
『業火剣』より、一段階威力の高い『地獄炎剣』をソウヤは使用して蒼い炎をその黒鏡破に纏わせる。
「『雷光瞬《ライデン・ストル》』」
一瞬だけだが、凄まじく自身の速度を上げてくれる雷をその身に纏い、一気にリザードマンロードに向かって突っ込んだ。
リザードマンロードはその驚くべき身体能力を使い、その攻撃を大剣で防御してみせる。
その大剣も、相当業物のようで『地獄炎剣』を纏った黒鏡破を楽々と防いでいた。
―ここまでの業物…魔剣クラスだろうな。レベルにしてみたら上級ぐらいだろうか?
上級魔剣…そのクラスは魔魂剣や恐電と同じぐらいのものだ。
ちなみに黒鏡破は中級、サイレンは下級である。
更に言えば、魔魂剣は敵を倒せば倒すほどその威力を増し、恐電は特殊能力である雷を使えるように、そして強化する。
黒鏡破はものすごく頑強で、折れることもなく刃こぼれもすることもない。
サイレンは水魔法を使えるように、そして強化するだけなので下級なのだ。
―魔魂剣か恐電を使ったほうがいいだろうか…?
そう、ソウヤは思ってすぐに考えを改める。
まだここは50層であってここでもう魔魂剣や恐電を使っていたら、この先が思いやられるというものだ。
だから、命を危険が本当に迫るまではソウヤは使わない。
「っち」
ソウヤは小さく舌打ちをすると、鍔迫り合いをやめてすぐさま後ろに下がって構えた。
リザードマンロードはそれに嗤って、何か喋ったあとにその大剣に何か込められるのをソウヤは見る。
目に見えない何か…それがわからずソウヤは警戒した。
「ガルァ!」
リザードマンロードは気合とともにソウヤに向かい、隙のない攻撃を行う。
ソウヤはそれを逸そうと黒鏡破を滑らせた瞬間――
「…ッッ!?」
凄まじい音がしてソウヤはふっとばされる。
ソウヤは地面に何度かバウンドし、背中からおもいっきりぶつかってゴキッ!という嫌な音がした。
―っぐ…。背骨が逝ったか…!
凄まじい痛みがソウヤを襲い、動けない。
水魔法で回復しようと試みるも隙を見せることになりアウトである。
まさに万事休すであった。
―あいつ…希少能力なんて持っていたのかっ!
先ほどの凄まじい音と、強烈な風と熱から考えるとあれは爆発系の能力なのだろうとソウヤは思う。
「ぐっぅ…」
ソウヤは身体に力が入らず、リザードマンロードはそれに気付きニヤリと嗤ってソウヤに近づいてくる。
迫り来る恐怖にソウヤは小さく震え始めた。
それに興奮するのをリザードマンロードは止められない…だから――
「……ガ?」
――自分の腹に突き刺さった凄まじい熱量を持った蒼い炎を纏う巨大な刀に気付くことができなかったのだ。
「ガッフ……ッ!」
そして、リザードマンロードは自らの油断が招いた死に後悔しながら…その生命を終わらせた。
ソウヤは、その手に持つ巨刀化した黒鏡破を片手で持ちながら小さく笑う。
「油断…してるからだ、よ。バーッカ…ッ!」
ソウヤはそう勝ち誇った顔で言うと、その意識を暗転させた。
それほどまでに…傷は深かったのである。
そして…攻略不可能と言われた最果ての宮の初攻略が、面白いことに50層で…しかも1人で行われたのである。
それに気付くものは――この世にはいないだろう。
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