グランドソード~巨剣使いの青年~
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第2章
3節―始まり―
目覚めと序章
「ここは…」
ソウヤは目の前に存在する光景に思わず声を上げた。
ソウヤと同年代であろう男子と女子が大量に並んだ机と椅子がある部屋でなにか話したりふざけあったりしている。
そう、この光景はソウヤが一番良く知っているであろう光景…すなわち教室だ。
「確か、俺は将軍魔族を倒してその後気絶して……」
目を開けたらこの光景だ。
夢なのだろうか、否、きっとこれは夢なのだろう。
ソウヤはそう思い至った。
なぜならこの場面は良く記憶に残っている場面だからだ。
扉が開かれ、先生が入ってきた。
あぁ、そろそろ――
「みんなに新しいクラスメイトを紹介する。ほら、入ってきなさい」
「は、はい」
教室の外から男の声が聞こえ、おずおずという感じで教室に入ってくる。
それはまさにソウヤだった。
「よ、よろしくおねがいします。斑斗蒼也です、えっと…蔵簀戸高校から転入してきました」
蔵簀戸高校という名前が出た瞬間、教室内が一気に騒がしくなった。
それは当時の蒼也もわかっていたことである、が先生に自己紹介に高校も言ってくれと言われたのだ。
「蔵簀戸高校って…」
「あぁ、日本でも有数の超ハイレベルの高校だろ?なんでこんなところに…?」
騒がしくなった教室の中で、蒼也は居心地悪そうに立っている。
もともと注目されるのが苦手だったのだから、仕方のない事だろう。
その様子を、ソウヤは何か達観したような様子で眺めていた。
――これから、俺はテストで普通に500点近くを取り皆から離れた場所に置かれる。それは変える事の出来ない――現実だ。
青春の”せ”も見えなくなるぼっちの生活…。
親からは見捨てられ、新しい学校でも友達1人も出来ず、ただ何の変哲もないぼっち生活。
本来こんな生活をしていたら戻りたくないと思うのだろう…。
ソウヤはそのころ異世界に行けるのなら行ってみたい――そう思ってやまなかった。
だが、現実は小説のように、漫画のように、アニメのようにうまく行かず…ラブコメ出来ず本気で笑う事も少なくて…そして怖がっていた殺戮も今は慣れている。
――チート様な能力を得て、あつらえたように美女や美少女の仲間が出来て、周りから拝まれるこの生活が、今は怖い。
――どうしてこの休みのない生活を楽しんでいられる?どうして他の生き物を殺せる?どうして俺はまだ死なない?どうしてどうしてどうして…!
この世界で生き続ける事は、殺戮に馴れこの世界の生活を楽しんでいるという事だ。
だから一刻も早く元の世界に戻り、あのぼっちの生活を過ごして異世界で楽しむことを行わないようにしなければならない。
ソウヤは、蒼也に戻るために…元の世界で死ぬために戦う。
段々とぼやけていく教室を眺めてながらソウヤは最後に思った。
――…ごめん。
それが誰に向けられたのか、言った自身にしかそれは理解できるわけもなかった。
「んぅ…?」
差し込む光、それが目に直撃してソウヤは目が覚めた。
もう少し寝たいという欲望を抑え込み、ゆっくりと目を開ける――どこか元の世界に戻っているのではないのかと、期待をしながら。
目を開けたところに映ったのは見慣れた天井。
しかしその材料はコンクリートではなく木の板だ。
ソウヤもよく知っているであろう場所、異世界での日常的に使われる宿らしい。
「どれだけ気絶してから経ってるんだろう」
ソウヤはそう思い、ベッドから立ち上がると…盛大な音を立てて地面にぶっ倒れた。
「…?」
どうにも体に力が入らない現状にソウヤは疑問を持つ。
倒れた拍子にでた大きな音を聞きつけたのだろう、誰かが走ってこちらに向かってくるのが分かる。
そして勢いよく開かれた扉、それを開けたのはレーヌだった。
レーヌがソウヤがぶっ倒れているのを見つけると、焦ったように肩を貸してソウヤを立ち上がらせた。
「…すまん」
「何言っているの!?まだ気絶して1日しか経ってないんだから身体がまだ治りきっていないのは当然でしょう!?」
「1日、気絶したのか。また…今回は起きるのが、早かったな」
ソウヤはレーヌにベッドに横たわらせてもらう。
よく見たら、ソウヤの身体は汗でベタベタになっておりベッドもまるで水に濡らしたように冷たかった。
それを知って、ソウヤはレーヌに申し訳無く思う。
「他のみんなは…?」
「買い出しに行ったり、依頼を受けたりしてるわ」
「さっさと身体を元に戻さないと…」
「一応、一晩かけて水魔法で再生能力は少しは良くなっているはずよ」
ソウヤはレーヌのその言葉に「すまん」とだけ謝ると、窓を見る。
街は人が溢れ、圧倒的絶望から助かったのがよほど嬉しかったのか、祭りのように騒いでいた。
「今日、休んだらこの町を出てこの大陸からも出よう」
「――」
なぜそうしたいか…その思いがレーヌにも伝わったのか、レーヌは少しの間黙った。
もう、これ以上周りの人々に迷惑をかけてはならない…『英雄』は皆が知らないところで消え、物語上だけで受け継がれるものなのだろう。
「…わかったわ。そう伝えとくわね」
「頼む」
ソウヤはそれだけ伝えると、身体が限界になったのか眼を閉じ静かに眠り始めた。
それを見たレーヌはその部屋から出る直前に、「――おやすみ」それだけ言って部屋から出る。
町は、『英雄たち』の思想も知らず、一時期の歓喜に満ち溢れていた…。
「エルフの大陸に行く」
数日後、ソウヤたちは逃げるようにウォルフの大陸から船に乗って離れた。
しかし…ソウヤたちは何も知らなかったのだ…。
異世界トリップの醍醐味である1つの旅…それさえもソウヤたちに許されぬことを…。
――ソウヤたちの『旅』の終わりは近い……。
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