グランドソード~巨剣使いの青年~
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第2章
2節―運命が許さない旅―
将軍魔族2体
「…ふぅ。案外楽勝だったな」
辺り一面が魔物の墓と化したその土地に立っている者が3人…否、1人と2体いた。
その1人は言うまでもなく、その右手に『魔魂剣』を左手に『絶対盾』を持ったソウヤだった。
そして2体はこの軍隊を作ったと思われる魔族の中で最強の位、将軍魔族である。
ソウヤは2体もいる将軍魔族に目を向けると、はぁ…と大きく溜め息をついた。
「…まさか、将軍魔族が2体もいるなんて思わなかったよ」
「貴様が最近私たちの位に上がってきたルクスが言っていた、妖精最強と謳われるソウヤか」
「ルクスもこのソウヤの魔力を吸っただけで中級魔族から将軍魔族にまでのし上がったのだから、その力は油断できんぞ」
最後にソウヤの事で警告した、両腕両足が漆黒の鱗に覆われている男が背中に背負っていた大剣を持つと構える。
「わかっている」とその警告に笑った額から牛の角が生えている女は、槍を構えた。
それらの戦う意思のある行動に、ソウヤは気を引きしめるとザースを前に、レジドを後ろにして構える。
一触即発…それを体現しているような静寂をソウヤと将軍魔族の間に流れた。
どちらもどの手札を持っているか分からない状態で、無闇に突っ込むのはあまりに愚策と言える。
それを知っているからこその静寂。
そして、先に動いたのはソウヤだった。
「走れ雷光『雷瞬速《ライデン・ストル》』」
そう呟くと、ソウヤに足に一瞬だけ雷が瞬いて…ソウヤの姿が掻き消えた。
次の瞬間金属の高い音が鳴り響く。
将軍魔族の男とソウヤが鍔迫り合いに入っていたのだ。
魔族の中で最高位である将軍魔族の力と、妖精最強とも謳われるソウヤの力がぶつかり合う。
その力が反発を起こして一気に周りの地面が削られていく…。
数秒も経たないうちにソウヤと男の間にクレーターが出来ていた。
「――チッ!!」
ソウヤは短く舌打ちをすると、レジドを斜めに傾け力の方向を変えると同時に前に飛び出した。
その入れ替わりのように移動したソウヤが振り返ると、先程居たところに女の将軍魔族が槍を突き刺している。
地面を削ってソウヤが着地すると、もう一度突っ込む。
それに反応するように男と女の将軍魔族は同時にソウヤに突撃した。
数秒の内にいくつもの火花が舞い、そしてクレーターが出来て周りの物は消し飛んでいく。
そのあまりに不現実的な現実に、第三者が見たならば呆然としていることだろう。
この暴風というのも恐ろしいほどの風が舞うこの地にをたどり着けるかは不明だが。
「…やはり一気に将軍魔族までのし上がらせたほどの魔力がある奴だ。私たちでも互角とはな」
「正直びっくりだ」
「本気の”ほ”も出していないくせに何言ってるんだ」
ソウヤのその発言に、将軍魔族たちは両方見合わせてソウヤを最後に見る。
「だが、君も本気の”ほ”…。出してないんだろう?」
「…当たり前だ」
ソウヤはその問いに嗤った。
将軍魔族たちはそれを聞くと嬉しそうに顔を歪めてそれぞれの得物を構える。
ソウヤもそれにならって巨剣と巨盾を構えた。
「将軍魔族が一人、ロウ」
「同じくシンク」
「妖精のヒューマン、ソウヤ」
それぞれが順番に名乗っていく。
それは今からは本気を出すぞという宣言でもあり、”肩慣らし”はここまでという宣言でもあった。
「「「行くっ!」」」
その刹那、ソウヤとシンクと名乗った男の将軍魔族が鍔迫り合いを行う。
それを予測していたロウと名乗る女の将軍魔族が持ち前のリーチのある槍でソウヤを攻撃しようとする。
ソウヤはそれに気付くとザースで槍の攻撃を止めて受け流すと同時にシンクの鍔迫り合いも受け流して見せた。
それにより出来てしまった大きな隙を突かんとソウヤはレジドを振り下ろす…わけなくそのままシンクを踏み台にバックジャンプを行う。
次の瞬間、ソウヤが居た場所に”何か”が通り過ぎロウの手の中にすっぽりと収まる。
両者同時に地面に着いてその数瞬の接近戦を終わらせた。
先程と違うのはロウの手の中にある武器が変更したことだけだ。
「その武器、変形するのか」
「そうだ」
あっさりと自分の武器の特徴をばらしてしまうロウ。
本当は駄目であろうこの行為も、ソウヤや将軍魔族クラス同士の対決だから出来る事。
どうせすぐにばれるのだから話しても良いだろうということだ。
ソウヤはすぐにザースを前に突き出すとそれに隠れるように突っ込んでいく。
「愚策だ…ね!!」
シンクはそう言ってザースごと切り刻んでやろうと、真正面から突っ込む。
その行動にソウヤは臆することなく、反対にスピードを下げるどころかどんどん加速していく。
そしてシンクはザースの表面にその大剣を斬りつけた。
そしてザースはいとも簡単に真っ二つに斬れ…その存在が空へと消える。
「なっ…!」
その現実にびっくりしてしまうシンク。
幻術だろうが、それを必ず気付くほどの技量を持っているシンクが惑わせたのだ、それは混乱するだろう。
しかし、忘れてはならないのだ…ソウヤにはいくつものチートがあるのだと。
「ぉぉおおおらあぁぁぁ!!」
どこからか、ソウヤの声が聞こえる。
ソウヤが何処にいたのか、それを知るのはシンクが吹っ飛ばされる直前だった。
シンクは急いで体制を立て直すと地面を深く削りながらもそのスピードを落とす。
「隠れていたのか…?どうやって?」
その問いにソウヤは無言でにやけ顔を作る。
ソウヤが行ったことは簡単だ。
月文字魔法で盾を偽造した後、同じ月文字魔法でその姿をかき消したソウヤは身を潜めて、盾が斬れたと同時に攻撃したのである。
しかし、あまりにもその装甲が固いせいで全力ではない攻撃ではそこまでダメージが入らなかったようだ。
シンクが何も感じて無さそうにソウヤを見て考えているのが、その証拠である。
「…っとに、なんでいつもあれを使わなきゃ行けないかな……」
あれとはつまり、『亡霊解放』のことだ。
強敵に会ってしまうとワンパターンになりがちだが、それも仕方のない事ことである。
下手に出ると死ぬのがリアルなのだ。
といっても、ソウヤには今すぐ『亡霊解放』を使える状態とは言い難かった。
『亡霊解放』を使うのに当然時間制限が付き、その効果がなくなると一気にソウヤは弱くなってしまうのだ。
時間の制限的に倒せるのはギリギリ1体ともう1体の半分ほど。
つまり、シンクかロウのどちからの体力を半分以下にしないと『亡霊解放』は使えないのだ。
―とにかく、ザースを失ってでもどちらかの体力を消耗させないと…。どちらを選ぶ?
シンクは大剣を使っており、その破壊力は今まで見た中でも凄まじい。
ロウを狙うにしても鍔迫り合いに陥ったら、横殴りをされてタダでは済まないだろう。
ロウは初め槍を持っていたが、あれは変形可能で変幻自在の攻撃を行ってくる。
シンクを狙うのならば鍔迫り合いは必須なのでロウの注意を引く”何か”が必要となってくるだろう。
どちらを狙うにしても、その片方の注意を逸らさないと”肉を裂いて骨を断ち切る”という現状になってしまうのは予想が簡単だ。
―どちらが簡単かと言われれば…シンクかな。あいつの懐に入り込めれば…!!
ソウヤは結果的にシンクを選ぶことにして…長らく続いていた静寂を断ち切るために動き始める。
「はぁっ!!」
ソウヤはシンクに向かいレジドを振り下ろす。
それに対して大剣を横に持ち掲げることでその攻撃をシンクは防いで見せた。
その間にシンクの後ろからロウが姿を現し、槍となった武器でソウヤを突かんとする。
「グッ…!!」
ソウヤは短く苦痛の声を上げながら地面に着いていた足を浮かせて前転する形でシンクをマット替わりにすると、後ろ側に回り込む。
目の前にソウヤが現れたことでロウは一瞬びっくりするが、すぐに立て直し剣と化した武器でソウヤを攻撃する。
ソウヤはその攻撃をザースにより防ぐと地面に刺し、レジドを両手に持ち替えてシンクに向かい振り上げた。
「ちぃっ!」
シンクは短くそう言うと大剣を下から上に振り上げ、そこから自由落下と回転を混ぜて後ろのソウヤに攻撃をした。
しかし、ソウヤの持つレジドは容易く裂かれてソウヤ自身も真っ二つに裂かれる。
瞬時にそれを幻だとシンクは理解するとどこにいるか目を左右に動かす。
「シンク!上だ!!」
ロウの声が聞こえシンクは咄嗟に上に大剣を突き上げる。
上から降ってきたレジドと重なり合い、レジドは落下を止めた。
しかし、そこにはソウヤは居ない。
シンクはその事実に着きつけられるのと、ソウヤが背中を巨刀と化し、その刃に地獄の青い炎を纏った黒鏡破で切り刻むのは同時だった。
「がぁあああっっ!?」
後ろから不意打ちのように攻撃された訳の分からなさと、痛みに二重の悲鳴を上げるシンク。
ロウが急に現れたように見えたソウヤを攻撃せんとその剣をふるう。
しかし、ソウヤはそれをジャンプすることで回避すると落下していたレジドを拾い少し離れて着地した。
これで大きくダメージは与えられたはずだ…とソウヤは思う。
そして、この瞬間ソウヤは本気の本気…すべてを出すことを心の中で意味不明に誓った。
小さく、しかし確実にその呪文を唱え始める。
「『我、強き者。我の導きに答えよ。我、弱き者を守る者。我の言葉に答えよ。我…』」
その呟きはシンクとロウには聞こえていないようで、また静寂を待つのだろうと踏んでいる様子だ。
それにソウヤは賭けるしかなかった。
しかし、最後の言葉ら辺になってくるとシンクとロウはその異変に気付き始めて…遅すぎる事もない攻撃を始める。
ソウヤは心の中で小さく舌打ちをするとその場で言葉の速さを変えることなく呟き続けた。
微妙に身体を動かして傷を小さくしているが、たまに直にダメージが入る。
続々とHPが減っているのを感じているソウヤだが、急に笑みを浮かべるとただただ、叫んだ。
「『力を貸せ亡霊! 『亡霊解放《エレメンタルバースト》!』」
そのいきなり暴発する力に、一気にロウとシンクは吹き飛ばされる。
「なんだっ!?」
その急激に増していく力にシンクは悲痛な声をあげる。
そしてソウヤを中心として広がっていた土煙が、一気に消え去った。
それと同時にシンクは何か身体に何かが足りない感覚に襲われ、思わず足りない部分に手を当てようとして…気付く。
”自分の下半身が真っ二つに切裂かれているのだ”と。
「――――かはっ…!」
小さく、そう口から大量の血を吐き出してシンクはその命を散らした。
そのシンクの5mほど離れた場所に立っている者が一人…そう、ソウヤである。
その手は毛に覆われており、額からは角が2本。
そして、それを置いてまで存在感を発するソウヤが左手に手にしている剣…牛魔族がかつて使っていた魔剣、『恐電』。
黄色で染められたその魔剣は、常に雷を発しておりその魔剣の効力を思わせる。
牛魔族を主人とし、その”力”一部でも持つものでないと受け入れないその魔剣は、『亡霊解放』でソウヤを新たな主人と認めた。
そして…その力は多くの魔物の血を吸い、肉を絶ち成長を続けてきたレジドには及ばないが、圧倒的なものであるのは確かである。
「いくぞ…!」
そして、牛魔族最強の技をソウヤは今使える。
ロウはソウヤに向かい飛び出そうとしたが、その身体が硬直しているのに気が付く。
そう…牛魔族最強の技にして牛魔族にしか使えなかったはずの技…すなわち――
「ガアアアアアアアアアッ!!」
――『硬直全破《レークレフド・スミセルガ》』である。
そしてソウヤの手から巨大な火魔法が放たれた。
それと同時にソウヤも動く。
将軍魔族がこの程度の攻撃で負けるはずがないからだ。
ただ、決めるのなら次の一回が限界だろう、さきほどの技は多くの力を使いすぎるのだ。
クレーターの底から浮き上がる土煙の中から1つの影が飛び出した、当然ロウだろう。
それを予想していたソウヤは、技を完成させていた。
「『狂雷恐電剣《カッズボル・クーズテット・ソーガ》』!!」
左手に持つ魔剣に巨大な雷を纏わせ、ロウに向かって放つ。
その攻撃にロウは大剣と化した武器でその攻撃を容易く受け止めて見せた。
「そんな攻撃で「倒せると思ってねぇよ」」
ロウがそういった言葉を先読みして、さらに否定したソウヤはラストアタックを決めるべく右手に準備していたレジドで突く。
その攻撃に思わず大きくバックステップしたロウは、ソウヤをみてその失態を知る。
「行くぞ…!『雷電獄蒼炎刃』!!!!!!」
2つの魔剣を合わせて出来たソウヤが今出来るであろう最強の技…。
地獄を思わせる巨大な蒼炎の剣に眩しくて目がつぶれそうなほどに白い雷がそれを纏い、強烈なパワーを生み出していた。
ソウヤは叫ぶと、2つの魔剣を一気にロウに向けて振るう。
――辺り一面を全て焼野原としたその攻撃を食らったロウは、当然のごとく塵さえもその場には残っていなかった。
「はぁ…はぁ…」
ソウヤは今までにないほどの疲労に見舞われながら、その意識を失った。
ソウヤ一同の活躍により、ガルフ全土を震わせた大軍は全滅したのである。
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