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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
2節―運命が許さない旅―
  右翼の戦い

「…っ!エレン、避けてッ!!」

 その恐怖が混じり、裏声った声を聞きながらエレンは咄嗟にその身体を捻じ曲げた。
 エレンの先程居た場所に巨大な棍棒が振るわれ、地面に巨大なクレーターを作る。
 振動を利用して立ち上がったエレンは、バックステップを何回も行い後ろに下がった。

「幻よ溶岩で埋め尽くせ…『|幻夢溶岩(シュレオ・メレン)』!!」

 エレンが後ろに下がったと同時にレーヌは幻の溶岩を上級魔族にぶつけると、エレンの方をチラッと見る。
 ほぼ、身体のすべてを覆っていた鎧の左の部分が砕けており鎧としての役割をはたしていなかった。
 その状態をエレンも察したのか、ボロボロになった左腕の部分を見て少しだけ溜息を吐く。

「こいつ相手に、この騎士鎧は不利……か」

 エレンはそう呟くと、エレンの全身を覆っていた鎧を胸と脚の部分だけ残してすべて外す。
 すると、中に黒い革の部分がでてくるが、それもすべて外してしまう。
 それを脱ぐと普通の一般人には目に毒な美少女の素肌が見える――はずもなく、服が現れた。

 その服は白を基調に作られており、ところどころ黄色のギザギザラインが入っているのが特徴だ。
 上半身は半袖の服、下半身はハーフパンツの服だが、その防御力は服にしては高い。

 そして、エレンは今まで使っていた大剣を鞘ごと地面に置くと、右手で左耳に着けているピアスの宝石をタッチした。
 すると宝石が発光して空中に浮かび、そして1本の長剣になるとそれをエレンは掴んだ。
 発光が弱まりその姿を現した長剣はソウヤにも見せたことのない、城から貰った対決戦用の魔法剣だった。

「なにそれ…?」

 レーヌは初めて見るその美しい長剣に、呆然としながらそう言った。
 それにエレンはクスリと笑うと、その美しい長剣の切っ先をマグマに溺れる上級魔族に向ける。

「私が勤めている城から貰った対決戦用の魔法剣だよ。姪は『天使剣(セルンス・ソーガ)』」
「『天使剣』…」

 『天使剣』。
 それはシルフの王が、エレンがソウヤの後を追う時に渡した長剣で魔法剣である。
 魔法剣とは、いわゆる魔法石と呼ばれる魔法の威力を上げる事が出来る石を使って出来る剣だ。

 その魔法石の強さは大まかに、通常の鉱石<通常の宝石<ダイヤモンド<ミスリル<オリハルコンの順になっている。
 エレンの持つ『天使剣』は『真の鉱石(ミスリル)』の部類に入り、『神々宝石(オリハルコン)』を除けば最強の魔法剣である。

 なお、魔剣は魔法剣と同じくらいの強さで、強いのは聖剣とあとそれ以上だけなのだ。
 ソウヤの持つ『|魔魂剣(レジド)』は魔剣の超上位に―沢山の魔物や魔族の血を吸ったため―部類されている。

「いくぞ、レーヌ」
「えぇ、分かったわ。私も本気で行くわよ」

 レーヌもそういうと、地面に純魔樹の杖を叩きつけると今まで抜いてこなかった腰に刺さった剣を解き放つ。
 レーヌが持つ剣、それは魔導剣とよばれる魔法使いが使う武器の1つだ。
 魔導剣というのはいわゆる魔法の効果を増大させることだけに集中させた、杖となんら変わらないものである。

 しかし、レーヌは聡明で頭がいい。
 この魔導剣を利用する手はなかった。

「剣よ、その身に理性を…『独立剣(ワルク・ソーガ)』」

 レーヌがそう言うとグリップ以外のすべてに散りばめられた宝石が、眩しくひかり剣がレーヌの手を離れる。
 当然、この剣は幻であり、感触はするが痛みはない代物だ。

 魔導剣はそのグリップ以外のすべてに宝石がちりばめられており、魔法を使うとその宝石すべてが発光を行い、独立して魔法を強化する。
 そこでレーヌが考えたのが|幻夢(シュレオ)魔法を宝石が強化しその現実さを強めることだった。
 その結果、この『独立剣』は殺傷能力はないが感触だけではなく”痛み”までも相手に与えることが可能となったのだ。

 その剣が上級魔族の元へ向かい、攻撃を全て軽やかに避けると切り裂く。

「―――ッ!!」

 その痛みに上級魔族は小さく叫ぶと、怒り狂ったように舞うように動く剣にだけ攻撃を集中させる。

 その間にエレンは今までとは比較にならない速さで上級魔族に近づくと、天使剣を両手に持ち切り上げた。
 案外容易く―と言っても対決戦用の魔法剣が…だが―上級魔族を切り裂くと、その怒りの矛先をエレンへと向ける。
 そこに素早く『独立剣』が嘘のダメージを負わせ怒りの矛先を混乱させていく。

 そのあまりに簡単に上級魔族が罠にはまっていくのをレーヌは見ながら、安堵したように溜息を吐いた。

「まさか、こんなに簡単にはまるなんてね…。これならいけるかも…!」

 それをソウヤや他のトリッパーが聞いていたら「フラグだっ!」と叫ぶことだろう。
 しかし、その”フラグ”の存在もレーヌは知らないしその恐るべき効力も知らない…。

 だが、さすがフラグ先生というべきだろうか、レーヌが建てたフラグをまさに成し遂げることとなる。
 レーヌ達にとっては堪ったものではないが。

「ガァ―――――ッ!!」

 超音波とも呼べるような高い声を上級魔族は叫ぶと、一気に上級魔族の魔力があふれかえる。
 それを感じ取ったレーヌは、咄嗟に『独立剣』でエレンを守った。

「なっ!?」

 その次の瞬間、『独立剣』がいつの間にか目の前に現れていた拳により砕け散っていた。
 それを見たエレンは未だに残っていた剣のカケラを足場として地面に直行する。

 エレンは地面に着陸すると、地面を削るのを感じながら上級魔族の方を見る。
 一段と盛り上がった筋肉、そして興奮したように熱を持った息を吐く犬…否、狼の上級魔族がそこに立っていた。
 その眼は赤く光っており凶暴性を増しているように感じられる。

 そして、上級魔族が一瞬にしてその姿をかき消すと…エレンは横っ腹に大きな衝撃を感じるとせめてダメージを減らそうと無意識に身体を流れに沿わせる。
 そのまま体制を元に戻すと同時に、次は背中から激しい衝撃を感じ前に吹っ飛ばされた。

「がっ…!」
「エレンッ!!」

 レーヌはエレンを助けようと、その手にマグマを発現させると一瞬だけ見える上級魔族になげつける。
 しかし、上級魔族はその1000℃のマグマをめんどくさそうに跳ね除けるとまたその身体をかき消す。

 だがその時間稼ぎというにはあまりに稼げていない空白の時間でも、エレンは事を成し遂げた。

「『|光電の力『フォッツ』!!」

 エレンはその身体に光電を溜めこむと、それを身体全体に流し込むと一気にエレンの速度が速くなった。
 雷の効果が筋肉を強制的に強化しているせいだ。
 上級魔族の攻撃をそれにより避けたエレンは、天使剣を振り上げる。

「っく!」

 しかし、それを軽々と避けられたことにエレンは気付くと必死に身体をねじる。
 その瞬間、凄まじい空気を斬る音が鼓膜をゆさぶりながらエレンの目の間に上級魔族の腕が見えた。

 その腕にめがけ天使剣を振り下げる。
 しかし、それも避けられてしまいエレンの背中が取られた。

「行けっ!!」

 レーヌはエレンが危険なのを察すると、幻夢魔法で出現させた幻の剣を上級魔族に投げる。
 それを上級魔族は最小限の動きで避けバックジャンプで後ろに下がった。

「光の速さで走れ光電!『光縮地《フォルト・シグル》』!!」

 その瞬間にエレンはそう叫び、足が一気に放電を始める。
 白い雷は周りの地面を削ると同時に圧倒的な素早さをエレンは得る事が出来た。

 そしてエレンは上級魔族に向かって全力で向かう。

 それに気が付いた上級魔族は拳を固めると、エレンの行く先を添うように拳を流れさせる。
 いきなり目の前に現れたその拳にエレンは驚くと同時に、少し右に移動し避ける…が、目の前にはもう1つの巨大な拳が現れていた。

「ちぃ!!」

 エレンは天使剣を拳に向けて突くように顔の横で構えると、上級魔族に刺しこんだ。
 やはりというか、ダメージは喰らわなかったがそれでも上級魔族に引っ付くことは可能となりダメージはほとんどゼロに近かった。

「とまれぇッ!!」

 レーヌは、空中に浮かばせていた巨大な剣をかなりの速さで上級魔族に向かわせる。
 しかし、それに早く気が付いた上級魔族は敏速なその身体で避けた。

「まだ!」

 さらに大剣を2つ出現させると真横から同時に上級魔族へ向かわせた。
 しかし、それも必要最小限の動きで避けてしまう…が。

「ラストッ!!」

 突如、上級魔族の胸から大剣が現れた。
 感触しかないその幻の剣は、しかし内臓にまで触れることで擬似的な”痛み”を生み出していたのだ。

「が…――――――!!」

 そのあまりの痛みに上級魔族はもがく。
 そして、一気に狼のような雄たけびを上げるとエレンを地面へ投げ飛ばした。

 エレンは空中で一回転すると軽やかに地面に着地して変化が起こっている上級魔族を睨む。

 毛のすべてが灰色から血のように赤く染まっており、手と足の爪も大きく成長してまるで金属のような光沢を放っていた。
 その上級魔族がエレンは睨んだ。

 不意に、エレンがレーヌに言葉を告げる。

「レーヌ、時間を稼げるか」
「…あいつを倒す手立て?」
「そうだ、頼む」

 その言葉にレーヌは不敵な笑みでうなずくと、自分の周りにマグマと剣、そして大剣をいくつも出現させて上級魔族へ向かわせる。
 レーヌが時間を稼いでくれている間に、エレンは天使剣を地面に突き刺すと目を閉じ身体の緊張を解いていく。

 バチバチッ!!という雷の音がエレンの鼓膜をゆさぶった。
 そして、途切れ途切れだった雷の音も徐々にその数を増やしていき…最終的には雷の音しか聞こえなくなる。
 エレンが何をしているのかと言うと、雷を作り溜め込む…を何回も繰り返していたのだ。
 いわゆる、『光電の力』を何回も繰り返している…と同じことだ。

「すぅ…はぁ…」

 エレンは深く深呼吸すると、目をそっと開き右足で地面を強く叩いた。
 すさまじい音が響いて周りに飛び交っていた雷が、それだけで周りに流れていく。

「レーヌ!」

 エレンは短くレーヌの名前を言うと天使剣を地面から取り出した。
 すると、天使剣はその身を眩しいほどに光らせそれと同時におびただしい量の雷が天使剣に流れ込む。

「いっけぇっ!!」

 レーヌも、ラストの巨大な剣を上級魔族へ投げ込むと全力で後ろに下がった。
 しかし地面にうまく着地する事が出来ず地面を滑る。

 ただ、最後の力を振り絞って手を上げたレーヌは、一言だけエレンに言った。

「…任せたわよ」
「任せておけ」

 パンッ!と乾いた音が合わさった手から響く。

 エレンは天使剣を両手で持つと、前かがみになって突撃しそうな上級魔族を睨む。
 そして『光縮地』を発動させると上級魔族へ今までと断然に違う速度でエレンは向かった。

 上級魔族はその手に全力を振り絞ると、エレンに向かって最高の力の拳を振り下げる。
 それに真正面からエレンは突っ込むと1秒硬直の時間があって…いともたやすく上級魔族の剣を切り裂いた。

 そして瞬時に上級魔族の大きな肩に乗っかると、不敵な笑みを作って一言。

「その身を全てかき消せ…『雷神の剣《イクスゼウス・ソーガ》』」 

 その天使剣がついに耐え切れなくなったのか、光る電気を弾けさせる。
 光る電気はその身をさらに巨大な剣へと成してそれをエレンを大振りで構えた。

「さよならっだ!!」

 そして、抵抗するまでもなく…その巨大な雷の神の剣とも思わせるそれは、いともたやすく上級魔族の頭をかち割った。

 その余韻で雷が全方向へ飛び交い、まわりの魔物をすべて焼き払っていく。
 それを眺めていたエレンとレーヌは、魔力の残量があと少ししかない状態なので不意に意識が途切れた。
 右翼部隊、壊滅である。 
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