グランドソード~巨剣使いの青年~
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第2章
1節―旅の中で―
レーヌ再会、大陸を渡る船にて
「あ~、うるさすぎて鬱になる…」
「別にいいじゃないか、胸を張れることなんだぞ?ソウヤ」
エレンがそういうとソウヤは宿の外に集まっている者たちを見て「はぁ…」とため息をつく。
ソウヤは『亡霊解放』を発動していたせいであの呪い…『スキル使用不能』が出てきていた。
しかもあの『瞬死の森』で中間ほどの力を有していた赤竜と灼熱獣を使ったせいで、前は1週間だったのだが2週間半にも上がっている。
ソウヤの力がほぼ無くなったのでこの状況から脱出する手段が分からず、こうやってエレンとソウヤ、ルリはこの宿で立ち往生しているのだ。
「…にしても、”ソウヤ”っていう名前広がるの早すぎだろう……」
「仕方がないじゃないか、ソウヤの存在はもう人を超えているんだから」
「めんどくさくなる、か…」
ソウヤは頭の中で姿を魔法で変えれば…と一瞬思ったが『スキル使用不能』の影響は魔法にも出ているのですぐ振り払った。
すると、空っぽになった頭にまた変なこの先の妄想が浮かび上がってくる。
それは城に無理矢理連れて行かれて、手駒にしようと誘いがありそれを断りあらたな大陸に旅立つとその国の城に連れて行かれて…。
「無理だ…絶対に無理だ。世界中から魔の手が襲い掛かるなんて………」
「そこまではいくらなんでも……いや、あるか」
ソウヤがその妄想に拒否を続けていると、エレンが助け船を出そうとするがそれが正論だと理解して助け船を引いてしまった。
2週間半…もっといえば18日の間はここから動けなくなる計算になるが、それはいくらなんでもソウヤたちには勘弁である。
なので、ソウヤたちはある作戦を決定した。
簡単に言うと…”夜逃げ”である。
「大丈夫だよな…いきなり襲い掛かってくるとかないだろうな…」
「いくらなんでもそれはないだろう。向こうだって人なんだぞ、休眠は取る」
「そうですよ、信じてみましょうっ」
2人の言葉に負けてソウヤはしぶしぶ頷いて、その作戦名”夜逃げ作戦”は決行されたのだった…。
もともと念のために夜に出航する船の存在は知っていたが、今回は炎の妖精ガルフの大陸…『ガラード』に行くことが決まる。
出発時間は7日後の最遅時間の夜7時―この世界に光は松明と魔法だけなので基本的に夜は活動しない―に出航する予定だった。
ソウヤたちはもともと借りてあった馬を真夜中にかけながら、港町セランスへと向かったのである。
「ん~っ!やはり船は良いものだな…」
「本当は甲板の上で伸びがしたかったんだがな……」
ソウヤが船の下にある部屋のなかで小さく伸びをすると、開け放たれた窓から映る薄い水色の海と大空に広がる雲を除く。
「きれいだな…」と男気なくソウヤは呟くと、静かに目を細める。
今は港町セランスから出航した炎の妖精ガルフ行きの船にソウヤたちは乗っていた。
これに乗るまでに盗賊らしき集団が現れて退治するという、異世界当然のアクシデントが起こり7日後の船に乗ることは叶わなかったのだ。
だが、その9日後にしかまた出航しないと聞いてソウヤたちは違う大陸にしようかと悩んだけれど、ガルフの大陸に着くのは約4日だったのを聞いてそのまま待った。
なぜかというと、港町に来るまでに7日でそのまま9日留まり、そして4日船の中…つまりガラードに着くまでにはあの呪いは消え失せる訳なのだ。
「後、この呪いが解けるまで2日か……」
「そうだな…。というかお前盗賊の時確認したんだがあまり力は下がっていないような…?」
ソウヤはそれを聞くと、「あっ…」と声を出してステータスを確認するとやはり新しい力が表れていた、しかも二つ名と称号、あとメインスキルの3つ。
新たに表れた二つ名は『英雄』、称号は『炎の剣帝』、メインスキルは『英雄戦士』というものだった。
それの説明は――
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二つ名…『英雄』 分別…特殊
能力…全ステータス×3倍 メインスキルに『英雄戦士』追加
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称号…『炎の剣帝』 分別…特殊
能力…炎での攻撃時威力×2倍 炎での攻撃される時の防御力×3倍
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メインスキル…『英雄剣士』下級 分別…特殊
能力…全ステータス×2倍 剣術の階級2段階アップ 全スキル階級1段階アップ
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――というもので、これは大変ソウヤを驚かせた。
「…新たな特殊の分別の二つ名、称号、職を覚えているな」
「……もう驚かないからな」
「そうですね…」
ソウヤは驚いているのに対して、エレンとルリはもうあたりまえのように感じ始めていた…慣れとは恐ろしいものである。
そのまましばらく沈黙が続くが、ルリが珍しく話を出した。
「そ、そういえばどんなものを獲得していたんですか?」
「二つ名が『英雄』、称号が『炎の剣帝』、職が『英雄戦士』だな」
「『英雄』…か。確かにソウヤにはお似合いかもな」
ソウヤはもともと目立つのが特に苦手だったので、エレンの言葉に思わず苦笑いを浮かべた。
昔からソウヤは学園生活…という名の日々を送っていたが、それが退屈で仕方がなくいつも孤立をしていたのだ。
目立たないようにわざと伊達眼鏡をして真面目君を演じてもいたので、高得点や高評価を貰ってもだれも相手にしなかった。
それで必要以上に現実での付き合いが出来なかったソウヤは、ついにMMORPGへと逃げ、そして楽しんだ。
ゲームの中ではコミュニケーションの上手い優しい青年を演じて、そして周りからも話しかけても普通になっていた。
だが、もうこの世界はゲームではない…だから――
「…『英雄』なんていう称号は俺には不釣り合いだ…」
――などとソウヤは口走った。
この世界はゲームではなく”現実”であり、今こそある程度ソウヤはコミュニケーション能力を身に着けている。
だが、それでも本来の『英雄』である強く弱き者を守る存在になれない自分は『英雄』ではないのだとソウヤは思う。
「俺は二つ名でなんと呼ばれようが俺の本性は”普通人”で充分なんだよ」
「…そうか。やはり考え方はお前らしいな。いつまでも自虐して、な…」
ソウヤはそのエレンの言葉には答えず、静かにベッドに横になりそっと目を閉じた。
「で、なぜお前がここにいるんだ」
「何故って言われても…ソウヤが気になったからよ。異世界人だとしても…ね」
ソウヤはそれを聞いて少し頭を抱えて唸りながら、目の前の椅子に座っているレーヌを見てどうしてこうなった…と思う。
始まりはソウヤが起きて少し経った頃時から始まって、目を覚ましたソウヤがそこら辺をぶらついていると、扉がノックされる音がしたのだ。
ソウヤはエレンとルリのどちらかかな、と思って普通に何も言わずに扉を開けたら…レーヌがそこに立っており普通に「おはよう」と言ってきた。
そのまま普通にソウヤの部屋に入っていき備え付けられた木の椅子に座り、今の現状に至る。
「……それだとしてもいきなり入ってくる奴がいるか?」
「あら、そんな人ならこの世界中にいくらでもいるわよ?」
「…もう良い。で、用件はなんなんだ」
ソウヤが眠たげな眼を静かにレーヌに合わせると、レーヌは少しクスリと笑いソウヤに手を伸ばしてソウヤの頭を撫でる。
それを嫌に思ったソウヤはその手を振り払うと、ジト目でレーヌを見つめた。
「あら、心外ね。頭のくせ毛直してあげただけなのに」
「…用件は」
「用件っていわれてもねぇ…。ただ私はソウヤに興味を持っただけだしね。そういえば、あなたはこれからどうする気なの?あんなに有名になって」
それを率直に言われたソウヤは別に慌てもせずに表情を変えないままで、静かにベッドに座った。
そのまま目を閉じてしばらく話していいものかと悩むと、不意に目を開けて口を開く。
「教えられない」
「教えられないってことは教えられないことでもあるのかしら?」
「冒険者では情報は命に関わる…知らないわけでもないだろう」
ソウヤがそう言うとレーヌが「そうね…」と言って口を閉じるのをソウヤは見て、追撃を掛けようと声を掛けようとした。
だが、不意にレーヌが微かに微笑んでいる様子で口を開く。
「じゃあ、私の希少魔法を教えるのを代償にして情報を教えてくれない?」
正直に言うと、ソウヤはこの情報交換は良いものであったいうべきだった。
情報は冒険者の中ではもっともな戦力として置かれており、その意味は自分が不利にならないためであるのだ。
ソウヤの場合は多少情報が出回ってもその戦力にはあまり大差ないし、正直『巨剣使い』の対策はあまりあり得ないとも言える。
しかし、普通の冒険者はその相手の癖、動きの前兆、細かな隙などを知って初めて相手に戦いを挑むものだ。
それは魔物としても変わらず、初級の相手ならば普通に倒せるがある程度強くなるとやはり武具とスキルだけでは対処できない。
情報は強力過ぎる相手を倒す場合もあるほど、大切なのだ。
「…別に良いが、俺がそれでも伝えられるのは特殊に入る数個だけだが…」
「良いわよ。どうせあまりこの技は使えないしね」
そしてソウヤとレーヌは2人だけで情報交換をした。
今、ソウヤが情報交換に動いたのは単なる興味心であり、それ以上でもそれ以下でもない。
だが、レーヌの希少能力は予想以上に幅広さをもったものであって、大変ソウヤを楽しませた。
簡単にレーヌの能力をステータスで表すとこのような風になる。
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特殊能力…幻夢魔法
詳細…これは幻の夢…しかし現実と変わらない。現実の中に存在する幻の夢…その中に存在する現実…それは幻を現実にし、現実を幻にする魔法。
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これだけではわかりにくいと思うが、簡単に言うと水と火を使って出来る特殊能力とは違う…ということだ。
その特殊能力の名前は『幻魔法』というもので、これはあくまで幻覚であり触れることは叶わない。
しかし、レーヌの持っている希少能力は幻覚であるはずなのに物体として触れることが可能なのだ。
「そういえば、やはりお前の魔法は希少魔法だったんだな」
「えぇ…」
特殊魔法と希少魔法にはしっかりとした分かれ目が存在する。
特殊魔法というのは、2つの属性…例として火と風をしっかりとした対だけ込めれば…業火魔法なら8:2発動する。
魔力が意外と減るが、それ以上の威力を望めるし2つの属性を持っていたら―ほとんどの人は1種類だけ。プレイヤーはまた違うが―誰だって使える魔法だ。
だが、希少魔法はどれだけの属性を重ねても発動することはなく、例えば空間魔法をイメージするとすれば、空間を歪めるにはどの属性も必要ではない。
なればどうすれば良いか、その空間魔法を唱えればそれで完了だ。
その希少魔法というのはそれ自体が1つの魔法で、2つの魔法を組み合わせても作ることの出来ない魔法なのである。
それに一世紀―つまり100年―に一度しか現れないこともあり、その所有者が生きている限りその者しか扱えない魔法であるのも特徴だ。
「――というのが、俺の特殊魔法に入るものだ」
「『業火魔法』に『雷魔法』…ねぇ」
ソウヤの能力を聞いたレーヌは少しの間黙っていると、不意に真剣な顔になってソウヤを見つめる。
そして、口を静かに開いた。
「ねぇ、私を入れてくれない?あなたのパーティに」
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