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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
1節―旅の中で―
  ”英雄”

「グッ…!」

 ソウヤは迫りくる炎の光線をじっと見つめながら、どうにか動かそうと身体をくねらせようとしてみたが、まるで巨大な岩につぶされたように動かない。
 ソウヤは自分の後ろに居るはずのエレンとルリを助けた一心で、周りに使えそうなものないか探したのだが、周りには小石しか何もない。
 しかし、ソウヤが周りを見ているとある男たちが目に入ってその瞬間ソウヤは声を荒げていた。

「ユウイチッ!全力で防御(ガード)しろぉぉぉ!!」
「ッ!?…分かった!!」

 ユウイチはソウヤの声に、一瞬身体をびっくりしたように震わせたが了承して周りの盾役(タンク)であろう者たちと炎の光線に向かって立つ。

「『不動の壁(シュレーズ・ジ・ゼル)』!!」
「「『巨なる壁(セロウ・ゾル・ゼル)』!!」」

 ユウイチと、その盾役たちは特殊能力(エクストラスキル)を発動させて守ろうとする。
 主な盾たちが使ったのは『巨なる壁』という特殊能力でその名の通り巨大な壁を発動させる能力(スキル)で、ソウヤの目の前に3mはあろう壁が表れた。
 ユウイチが使った能力…『不動の壁』は希少能力(ユニークスキル)で、ユウイチの周りに水色の透明な結界らしきものが現れる。
 しかし――

「クッ!やっぱりこの攻撃を防御するのは無理だっ!」

 ――その完璧ともいえる防御は、数瞬の時を稼いだだけでいとも簡単に壊れてしまう。
 そして、炎の光線が盾役の人たちを焼こうとまっすぐに向かってくるのをユウイチは見て、思わず目を閉じてしまった。
 そのまま数秒経ってもダメージが入らない事を不思議に思ったユウイチは、ゆっくりと目を少しだけ開けて…次の瞬間に大きく目を見開く。

「すまんなユウイチ、遅れた…。にしても、こんなに早くこの技を使うときがくるとはな……」

 数秒前まで一番前に立っていたユウイチの目の前に立っていたのは、その巨刀に獄なる炎を纏わせた”ソウヤ”だった。
 『硬直全破(レークレフド・スミセルガ)』という超チート級のスキルだが、それには短所とは言えない短所らしきものがある。
 それは…”一度でもなにかがヒット”すれば効果範囲に居る者たちの硬直が治るというものだった。
 ベータ時代、それに気づいたものは『硬直全破』を発動するときに予備の盾役に突っ込ませて、その間に効果範囲から逃れる技術を作り上げる。
 だが、そんな技術は盾役が死ぬことが分かり、しかも防げるのは数瞬の間だけでそんな間で逃れる術はないと分かったときはそんな技術は破壊された。

「ソウヤ…まさかあの技術を使ったのか?」
「あぁ」

 その技術をWikiによって知っていたソウヤは、瞬時にそれを応用することを決意してユウイチらで防御させた。
 ゲームの中ではそんな技術は…と言われていたが、ただし…これはもうゲームではなく数瞬の間でさえも動けるチートをソウヤが持っていたからこそできた芸当だ。
 そして、ソウヤが持つ巨刀が炎を纏っているのは能力を使って打ち消したのではなく、ある能力によって吸収させたのである。

「『属性向無(ショルデグベズド・ザ・レイ)』…」

 『属性向無』…それは特殊能力の(レイ)魔法の中の1つで、無属性の魔力を武器に流し込み属性の魔法を受けると、それを吸収してぞの属性を纏った武器にする能力である。
 ソウヤは馬鹿げるほどの大量の魔力を巨刀を纏う炎から感じながら少しの間だけ見つめると、牛魔族に目を向ける。
 牛魔族は得意な魔法を攻略されたせいで動揺しているようだが、今のソウヤにはそんなことは関係がなかった。
 ソウヤは身体を牛魔族に向けてまま、後ろに居るはずのユウイチとエレン、ルリに声をかける。

「おい、ユウイチ、エレン、ルリ。俺は今からこの牛魔族に強力な攻撃を行う。ユウイチら盾役は防御してタゲを取っていてくれ」
「ふぅ…。わかったよ」
「エレンとルリは出来るだけ攻撃を休まず行ってくれ…頼む」
「……了解した、必ずしとめろよ」
「はい、がんばりますっ」

 エレンとルリ、ユウイチらの声に少々ソウヤはポーカーフェイスを少しだけ崩して、笑みを浮かべる。
 そして、一瞬のうちに笑みをその顔から消すとソウヤはサイレンをそれへ放り投げると、瞬時に黒鏡破を取り出すと巨刀化させた。
 そのまま牛魔族に肉体強化で最速にまで引き上げた速さで一気に突っ込む。

「ヨウセイのブンザイデ…!」

 牛魔族はそれに反応して、魔巨剣を横払いするがソウヤはその魔巨剣の刀身の刃の部分に手を置き、そのまま上へ飛び跳ねる。
 その状態から風魔法で風圧を作り、それをソウヤは背中で破裂させると牛魔族に向かっていく。
 がら空きの牛魔族の頭にソウヤは全力で黒鏡破を振り下ろす。
 ズバッ!!と音がして牛魔族の頭に切り傷をつくる。
 ソウヤはそのまま牛魔族の頭を踏み台にして上空へジャンプして、黒鏡破をしまって空中で回っているサイレンのグリップを握った。

「頼むぞっ!」

 ソウヤはそれだけ言って地面に音もなく着地すると、そのまま振り返ってユウイチらとスイッチする。
 牛魔族とある程度距離を置いたソウヤは、巨刀をいったん地面に置いてから目を閉じて今度はしっかりと”あの”呪文を唱え始めた。

「『我…強き者…。我の導きに答えよ…。我…弱き者を守る者…。我の言葉に答えよ…。我…』」

 この世界での魔法の使い方には、主に5つの発動の仕方が存在している。
 1つ目は普通の速さで呪文を唱えることで、それは一番扱いやすい手段で全ての人が有用している。
 2つ目は言葉を速く紡ぎ呪文を唱えることだが、それは発動時間が早いが消費魔力が同じだが少し威力が落ちてしまう。
 3つ目は言葉を紡がず呪文名だけを唱えること…で、そうすると一瞬で発動できるが、消費魔力も少々激しいし威力も落ちる。
 4つ目は魔方陣者(ローリ・シクスサー)という特殊能力のメインスキルを覚えることで発動できるもので、少ない魔力で魔方陣を描く事が出来るが、発動時間が遅い。
 5つ目は、ゆっくりと言葉1つ1つを噛み締めるように呪文を発することで、時間があり得ないほどかかるが、威力は”2倍”に膨れ上がる。
 そして…ソウヤはその5つ目を利用していた。

「『我…汝の魂を使い肉体の強化を得ん!汝は我の力を使いあの世へ逝け!』
       力を貸せ亡霊! 『亡霊解放《エレメンタルバースト》!』」

 その瞬間、ソウヤの周りにありえないほどのエネルギーが囲み始めて、目を閉じてしまうほどの眩しい光をソウヤを包む。
 その光が少しの間発行していると、不意に光が強烈な光によって吹き飛ばされソウヤの身体が目に入り…周りの人らは目を見開いた。
 髪と眼は血のように赤く染まっていて、眼光はギラリとぎらついており血黒の服から覗く右手は赤い鱗に身を包んでいる。

状態(バージョン)…赤竜&灼熱獣」

 ソウヤは確かめるように静かにそうつぶやくと、地に置いてある巨刀をその赤い鱗で包まれた右手で掴み軽々と持ち上げる。
 そして、意識を巨刀を包んでいる獄なる炎に向けると…一瞬にしてその獄なる炎は2倍にも膨れ上がり、一番熱い青い炎に変化させて形を固定した。
 そこでソウヤの目の前に画面が表示される。

 ――特殊能力(エクストラスキル)獄炎(ゴーク)魔法』を手に入れました――
 ――『獄炎(ゴーク)魔法』と『青火(ブルスイア)魔法』を合体させて
  希少能力(ユニークスキル)獄青炎(ゴーク・ブルガイア)魔法』にしますか?――

 ソウヤはYesを選択すると、いきなりソウヤの手に持つ巨刀を包む青い炎が膨れ上がり強大な力を持つ。
 それを呆然とソウヤは見つめるとニヤリと普通より獰猛な笑みを浮かべると、ユウイチやエレン、ルリが奮闘している相手…牛魔族をじっと見つめる。
 ソウヤは「すぅ…」と息を大きく吸うと肉体強化で一気に突っ込む。
 グゥッ…!と周りの景色が線のようになりソウヤの鼓膜に強烈な風の音が響き渡る。
 そして、地面を出来るだけ思いっきり飛んで牛魔族の頭上に身体をとどまらせてから、大声を出す。

「みんな、全員その場から逃げろおおおおお!!!」

 すると、巨大な声に押されたのか冒険者が全員その場から去っていく…。
 エレンとルリが少しだけ心配そうにソウヤを見たが、ソウヤはニッと獰猛な笑みを浮かべると安心したかのようにその場から立ち去る。
 すると、牛魔族がソウヤをじっと見つめて口を開く。

「オマエ…オマエはゼッタイニコロス…!」
「知るかよッ!!」

 牛魔族は魔巨剣を大きく振りかぶり下段からものすごいスピードで振り上げた。
 ソウヤは手に持つ巨大な刀…サイレンを大きく上段に構えて、一気に振り下ろす。
 2つの巨大な武器同士がぶつかり合い、そして一瞬もかからず…刹那の間にソウヤの巨刀が牛魔族の持つ魔巨剣を押しのけた。

「ナッ!?」
「うぉぉおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 ソウヤは巨大な叫び声をあげて、そのまま牛魔族をサイレンで切り裂く。

「ガアアアァァァァ!?ソンナ…バカナ…ッ!」

 真っ二つに裂かれた牛魔族は叫び声をあげながらその命の炎を消えさせ、そして二度と起きない長い眠りにつくことになった。
 それを遠くで見ていた冒険者たちは――

「う…うぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!やったぞおおおおおおおおお!!!!」

 ――数瞬の間固まっていたが、1人の叫び声によって一気にさわがしくなる。
 ソウヤは『亡霊解放』の効果が切れたのか本来の黒髪黒目に戻っているが、その場で静かに息を荒くして立っていた。
 そして数秒後、やっと勝ったことを実感したソウヤは、『亡霊解放』を使った後のひどくつらい眠気に襲われ、されるがままに意識を一瞬で失ったのだった…。




 その日、世界中がまた上級魔族を退けたことに歓喜して、その場所ごとがお祭りがおこなわれているほどだった。
 しかし、それと同時に『軍勢の期』へ向かった冒険者から言われたある言葉により、ある人物が非常に目立つことになる。

「…あの上級魔族に勝てたその5割…いや7割はそいつのおかげなんだ…。そいつはこう名乗ったんだ。『均等破壊(バランスブレイカー)』ソウヤってな」

 そして、その冒険者たちが言った言葉に共通する言葉が必ずあった。
 それは『均等破壊』、ソウヤ、巨大な刀、赤い目に赤い髪…右手には赤い鱗、そして…”英雄”と…。
 ”英雄”と『軍勢の期』に向かった冒険者たちが言った瞬間…ソウヤの目の前にはあるメッセージが乗せられていた。

 ――二つ名『英雄(ブレイヴァー)』を手に入れました――

 ソウヤはこの日、世界中に知れ渡ることとなり、それと同時に人々から”英雄”と慕われることとなった。
 そして、その『軍勢の期』の話は未来の人々から『均等が破壊された時(バランス・ズ・ブレイカー・ザ・イッズ)』と呼ばれるようになり、すべての始まりだといわれるようになる。

 このことは、ソウヤに新たな長旅の予感をさせたのだった…。 
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