グランドソード~巨剣使いの青年~
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第1章
4節―茨の旅の決意―
魔族の退け
「…はっ!ルリ、『スイッチ』頼む!!」
「わかりましたっ!」
ソウヤが敵―グリフドルと呼ばれる剣を使う全長約3mの巨大な牛―の剣を跳ね返してそのまま一撃を入れてから、ルリに『スイッチ』を言い渡す。
それに答えたルリはすぐさま未だ体制を崩しているグリフドルに、俊足の速さで近づくとそのまま2本の剣を同時切りしてダメージを与える。
後ろに下がったソウヤは一旦息を整えてから再度突っ込み、ルリに迫る剣を跳ね返す。
それと同時にルリは最近使えるようになった地の魔法でグリフドルの足元を固めて足止めする。
「…『雷蒼電斬!』」
地の魔法で足止めしている間にソウヤは最近生み出した『雷蒼電斬』を小さくつぶやく。
すると、ソウヤの持っている剣が電気を纏い始め、蒼い雷へと変化して剣全体が蒼い電撃の剣と化した。
ソウヤはグリフドルに顔を向けると、一気に飛び出しす。
「グルアアア!!」
地の魔法が解けた瞬間、グリフドルが叫び声をあげて炎の魔法を唱えて剣に纏わせる。
あの魔法は決して特殊能力ではなく、中段火魔法の中級ほどで覚えられる炎剣の『ファイソード』で、幾分も威力は特殊能力より低い。
そして、ソウヤの蒼い雷剣とグリフドルの紅い炎剣がぶつかり合い、鍔迫り合いへ移行する。
「ッ!いけッ!ルリ!!」
「はい!『飛来風剣!』」
ルリがそう言い放つと、ルリの両手から無数の鉄の塊が表れ始めて段々と刀身だけの剣が無数に作り出される。
そして、その刃に風が巻き付いて風の剣へと進化して、ルリはそれをグリフドルに向けて放つ。
それと同時にソウヤが鍔迫り合いに勝ちグリフドルは大きく体制が崩れ、その背中に刃たちが次々と刺さる。
「はぁ!」
最後にソウヤはグリフドルの首を目指して剣を横払いする。
その次の瞬間、グリフドルは首を胴体から放して絶命し、それと同時にソウヤの剣が真っ二つに折れた。
「…ふぅ。やっぱりというか、折れたな」
「そうですね、新しく買うんですか?」
「そうだな、この依頼終わったらもうBだし鋼はもう使えないだろうしな」
そう言ってルリとソウヤは着々と剥ぎ取っていき、数十分後にはもう剥ぎ取りは終了していた。
あれから3週間ほど経ったその日、今回の依頼はBランク突入になる試験でグリフドルを討伐する依頼だった。
グリフドルは本来ならばBランクが5人でやっと倒せるほどの強さを誇っていたが、ルリとソウヤとの2人組には勝てるも同然である。
「じゃあ行くか」
「はい、そうですね」
そう言ってソウヤとルリはその場を離れて歩き出した。
「…?なんだ、やけに騒がしいな」
「そうですね…?」
ソウヤたちが帰ってきたとき、町はガヤガヤといつもより倍くらいに騒がしくなっていた。
それに疑問詞を浮かべた2人は近くの衛兵に状況を聞いてみようと近づく。
「すみません、なんであんなに騒がしいんですか?」
「ん?お前冒険者か?何言っているんだ、『軍勢の期』だよ、さっさとギルドへ行け!」
そう休む暇もなく衛兵に言われると手でシッシッ!と追い払うマネをしてきた。
ソウヤは「ありがとうございます」と言ってそのまま急いでギルドへ向かうことにする。
内心、ソウヤは呆れざるを得なく、それはなぜかというと『軍勢の期』こそトラウマの一部に大きく乗っ掛かっている出来事だからだ。
そしてギルドへ着くと中は一層騒がしく、そして殺気めいたなにかが漂っていた。
その中をすり抜けるようにソウヤは歩くと、受付嬢に採取部類の革の一部分を渡してギルド板も一緒に渡す。
「…騒がしいな。いつもはこうなのか?」
「いえ、前の『軍勢の期』は何者かによって全滅させられたので余計ですよ」
「ん?良いことではないのか?犠牲は出なくて」
「そうでもないんですよ、お金を稼ぐにはもってこいですからね」
「なるほど…」とソウヤは呟いてうなずく。
確かに『軍勢の期』によって現れたのはどれも高そうな毛皮や角を持ったモンスターばかりだったのだ。
売れば必ず設けるだろうなと考え、それと同時に守銭奴みたいだな…と苦笑いをソウヤは浮かべる。
「…ではこれでソウヤ様はBランクへ昇格されました」
「あぁ。ありがとう」
「Bランクとなったため『軍勢の期』の依頼を受けることが可能です、どうされますか?」
Bランクとなったと同時に『軍勢の期』の依頼を受けることが可能となるとソウヤとルリは告げられる。
依頼を受けることで討伐金に色を付けてもらえるし、無事『軍勢の期』を全滅させたら大金が入ってくるというシステムらしい。
ソウヤは少し考えた後、「考えておきます」と告げてギルドを出る。
ギルドを出ると同時にルリがソウヤに目を向けて問いかけようと口を開けた。
「…どうして『考える』なんですか?」
「俺とお前は規格外だからな。多分俺が本気を出したらその人物だってわかるだろうしな」
「なるほど…」
「あぁ。しかも今回は魔族などが表れないはずだからな。俺が居なくても対処出来るだろうな」
ソウヤはそう告げて宿へ向かおうと足を向ける…と同時に遠く後ろから大きな爆発音が聞こえた。
何事かと顔を爆発音のした方へ顔を向けると、背筋が凍るような感触がソウヤは感じる。
爆発によって出された煙の中で、見覚えのある翼と人間の形をしたそのものが現れた。
「ま、魔族だ!!逃げろー!!」
そう、魔族…この世界で魔物を従えて魔王へ献上する魔の種族…そして、ソウヤと戦ったことのある種族。
なんでだ…?とソウヤは心の中で思い悩む。
本来にならば魔族は3ヶ月に一度しか出てこないという仕様があったはずだ…とそこまでソウヤは考えてからふと思い直す。
―この世界はゲームじゃない。『異世界』なんだ、ならば仕様通りに動かなくて当然ではないか?
その考えがソウヤの中で現れる。
ソウヤは無意識に手を握ると、ルリに顔を向けて言葉を告げた。
「いいか、お前は避難する人の手助けをしてくれ」
「ソウヤさんは…?」
「魔族とは一度1対1で戦って倒したことがあるから大丈夫だ。早くいけ…!」
「わ…わかりました……死なないでくださいよ?」
「あぁ…!」
ソウヤはそれだけ告げると、すぐさま人気の居ない所へ向かい装備を整えんと準備を始める。
今まで着ていた『獣のフード』などの安い装備を外して、反対に『血黒の服』などの最強装備を整え始める。
そして、最後に全身全霊を込めて作ってもらった大剣と長剣の間の武器…新しい相棒である大長剣『魔魂剣』を出現させて背中に背負う。
大長剣…それは大剣並みの重さと分厚い耐久値を誇り、長剣並みの刃渡りと斬りやすさを誇る剣だ。
魔魂剣は鍔部分が翼のごとく開いており、『瞬死の森』屈指の最強と呼べる竜『ザージド』の鱗を使い、刀身部分はザージドと斬るのでは『瞬死の森』最強の魔獣『レグド』の爪部分を使ってある。
「月魔法『幻』削除」
ソウヤは小さくそう呟くとソウヤの今までの髪型などが全て変化して黒色一色に変化した。
『血黒の服』についているコートのフードをさらに上から被ると、重量リストバンドも外す。
そして最後にメインスキルを『巨剣使い』に変化させると、全身に力が入るような気がしてきた。
「…おし、行くか」
そして、『均等破壊』の2つ名を持ったソウヤは、その名の通りに『均等の力を破壊する者』として、また地面を踏みしめた。
「ん?今先ほど力の大きなものの波動を感じたぞ」
「そうなのですか?目安としてはどのくらいでございますか?」
家々が燃えて残骸と化している場所で、漆黒の翼をもった3mはある巨体の男がなにかを察知して横の鳥人間に言葉を告げる。
その鳥人間―ラツル―はその言葉に対して詳しく聞こうと耳を傾けた。
巨体の男は喋ろうと口を開けるが、全方向から放たれたと思われる拳大の炎の球が炎の中を突き抜けて巨体の男たちに迫る。
「…お前より強いと思うが」
「私よりですか…?それはすごい能力の高さですね」
その炎の球はあと1mほどに迫った瞬間、”かき消され”巨体の男は何事もなさ気に言葉を続ける。
その強さをしったラツルは驚嘆に少しだけ顔を染めるが、すぐさま真剣な顔をした。
「ガール様よりお強いので?」
「…ようわからん。ただ――」
そこまで巨体の男―ガール―が言うと、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべて一回言葉を切った。
それと同時に周りの炎がかき消されて一気に風によって鎮火していくのがガールの目に映る。
その炎を鎮火させた張本人であり、ガールが強いと確信したその者は…漆黒のコートとフードとズボンを被り、中に真紅の色を身に着けた男であり…そしてソウヤだった。
「――来たみたいだな」
「そう見たいですね…あんな体型では強いとは思えませんが……どうします?」
「もちろんぶっ殺す」
「では私はまわりの攻撃を…」
「頼む」
ガールとラツルはそう互いに呟くと、ラツルは呪文を唱えて炎の結界を張りその端っこに静まる。
ガールはそこから歩き出してガールの愛剣である身の丈ほどもある大剣『魔血剣』を呼び出してソウヤに刃先を向けて言葉を発した。
ザングの形はグリップから鍔にかけて紫一色に染め上げられていて、鍔は鬼のような角が生えており、刀身は血のように真っ赤に染まって不気味に光っている。
「お前…俺と戦えよ」
「……戦ったらここから引いてくれるか?」
ガールの言葉にソウヤは条件を付きつける。
その条件にガールはうなずくことで肯定すると、ソウヤは背中に背負ったレジドを引き抜き正面に構えることで交渉が成立したことが証明された。
ガールはそれにニヤリと好戦的な笑みを一層に深めると、なん合図もなく…ガールは動き始める。
「オラアアア!」
「シッ!!」
俊足を超えた速さでガールはそうやに近づいて雄叫びを上げながら斬りつけようとザング振り下ろす。
しかし、それより早くソウヤは『肉体強化』を一瞬だけ使うことで音速の域に達した速さでその場を回避する。
ソウヤは地面を削りながら走った勢いを殺して『肉体強化』を使わずに…それでも俊足を軽く超えている速さでガールに近づいた。
「はっ!」
「あめぇぞ!!」
そのままソウヤはレジドで斬りつけようと前方へ一回転して、その勢いで叩きつけるように振るう。
しかし、ガールもそれに反応してザングで防御して鍔迫り合いにもつれ込む。
「っは!!」
「良いぜ…良いぜ良いぜ!!!!!」
鍔迫り合いはソウヤとガールは互角で、どちらに転ぶこともないように思える。
その中でガールは狂気な笑みを浮かべて嬉しそうにケタケタと笑い始め、すると、互角だった鍔迫り合いが段々とソウヤに剣が押し込まれ始めた。
なんとか『肉体強化』で元の位置に戻すが、それを使ってやっと互角というところまでガールは力を溜めている。
「…フハハハハハ!!!!サヨナラダァ!『冷寒攻矛!!』」
「クッ!!『地獄炎剣!!』」
ほぼ同時にソウヤとガールは言葉を紡ぎ、互いの特殊能力が同時に現れる。
ソウヤに現れたのは蒼い炎の剣…そしてガールは大剣がなぜか巨大な氷の矛へ変化していた。
ガガガガガガッ!と何かが削れる音がしながらも鍔迫り合いを続けていく…。
そしてその鍔迫り合いを制したのはガールの方…ソウヤは力に押し負けて大きく体制を崩してしまう。
その隙を逃さずガールは氷の矛の突きによる追撃を掛けんとソウヤを狙うが、ソウヤは辛うじてレジドを顔に合わせて少し顔を捻ることに成功する。
ズガガガガッ!と鉄物同士がこすれ合い消耗し合う音が発生して氷の矛はソウヤの数㎜右を通過していく。
「さて…いく――」
『そこまでだ…ガールよ』
ソウヤは転がってその場から離れてその場を立つと、ガールは元に戻っているザングを持ち構えてさらなる攻撃を与えようと――
そういうところで、不意にどこからか男のような声が聞こえ始めた。
その声を聴くと、ガールは嫌そうな顔で表情を歪めさせながら「なんだ…?」と簡素に答える。
『独断はやめろ。我らに支障が出てしまうではないか…?』
「…たしかにな。おい、出直すぞ」
「分かりました」
その声には逆らえないと言わんばかりに嫌そうな顔をして、一度ソウヤに睨みかけるとラツルが呪文を答えてその場から消え去った。
ソウヤはそれを見届けてへなへな…とその場に崩れ去る。
それと同時に、いろいろな考えを巡らせていた。
―あの声はなんなんだ…?でもあのガールとか言うやつは悪魔の姿をしているからあの声はまさか…やつなのだろうか?それだとしたら…
そこまで考えた後、ソウヤは頭をフルフルと左右に振ってその思考を止める。
ソウヤはなんとか身体を持ち上げると、焼き燃える炎の中でソウヤは黙々と歩いて行った…。
のちにこの事件は『軍勢の期』を全滅させた者の仕業だと広がるようになり、ここにあらたなソウヤの隠したい出来事が現れたのは余談である。
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