グランドソード~巨剣使いの青年~
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第1章
4節―茨の旅の決意―
港街ポールト
旅を初めて2日、現在ソウヤ達は街道を歩いていた。
「そういえば、ソウヤさんはどこに向かっているんですか?」
ただ歩くのに飽きたのか、唐突にルリがソウヤに向かって聞く。
そういえば、とソウヤはルリに行く場所を告げていないことに気付き「すまん伝えてなかったな」と苦笑する。
「どうせ旅するなら、色々と回ってみたいだろ?だからとりあえず港街ポールトに向かうつもりだ」
「港街ポールト…ですか?」
ルリが首を傾げながら街の名前を繰り返す。
―そっか、あの村にずっといたから知らないのか。
街や村の外には魔物がうろついているので、本来旅に出れる者は非常にすくない。
それ故に自分の村や街のこと以外を知らず一生を終える者も多いはずである。
「あぁ。潮風に呷られても大丈夫なように家が全て白く染められているらしい。また、海に面しているから貿易の街としても活躍してる街だ」
「白い家、ですか…。想像もつきません」
―まぁ、森に囲まれた村で生きてきたんじゃわからないよな。
どんな家か必死に想像しているルリを見て、ソウヤは口元を緩めると「着いたら分かるさ」とだけ言うことにする。
少し意地悪なソウヤの言葉に、ルリはどうしても気になるのかまた頭で考えだす。
それほど気になるのか、とソウヤは唸っているルリをチラ見して、そのモヤモヤを晴らす為に話題を変えることにする。
「それにしても、この姿はいつになっても慣れないな」
現在の村を出た時に使った月文字魔法によって、今もソウヤの容姿が異なっている。
とはいっても変わっているのは髪や瞳、肌の色ぐらいでそれ以外は全く弄っていないのだが。
それでもやはり目や髪は気にならないだろうが、肌の色が外国人みたいになっていれば流石に気になるだろう。
「お似合いですよ、ソウヤさん」
「嘘言うな。俺の容姿はそこまで優れてないことぐらい知ってる」
容姿を褒めるルリに、ソウヤは肩を竦めながら自分を卑下する。
とはいっても本当に自身の容姿は優れていないと、ソウヤが思っているし事実元の世界ではカッコいいなんて一言も言われたことがないのだが。
けれど、言った本人のルリは本音なので自分を卑下するソウヤに眉を下ろした。
事実、この世界ではソウヤの顔はどちらかというと“優れている”に入るだろう。
どうしても戦う者が多いこの世界は、筋肉隆々の男が多くソウヤのような細めの体つきを持つ男は少ない。
また顔の線も細いので、元の世界の“普通の顔”は“少しカッコいい”に入るのだ。
と、街道を歩く2人に道を塞ぐ者が現れる。
この世界では“普通”のクラスに入る、全身筋肉で出来た男たちだ。
男たちが浮かべる下品な笑みを入れなかった場合…だが。
「おいそこの小僧、横の女と手持ちのお金全部置いてお家帰んな」
「嬢ちゃん、そんな細い体の男じゃ満足できねぇだろ?」
いわゆる、簡単な賊というやつだ。
ここは港町ポールトの近くということは、ごく最近職を失って住む家を失った人なのだろう、とソウヤは結論付ける。
―ただ、港町っていうのは大抵栄えてるものだ。普通に働いてれば住む家失うまで行かないだろ。
纏めてしまえば、“そういうこと”を仕出かした奴らだということだ。
ならば見逃すという選択肢はソウヤには存在しない。
それに、この男たちはルリの体も狙っている、という事実に腹が立たない訳が無かった。
ソウヤは男たちの視線からルリを護るように立つと、目を細めて威圧する。
「悪いがお前らにやるものは何一つない。お前らこそ命が惜しければ、一生こんなことしないと確約した上で失せろ」
ソウヤはこうやって自分さえよければ良い男たちが一番嫌いだ。
創造物上ではまだそういうのは許せるが、現実でやろうと思う者の気が知れない。
男たちはソウヤの言葉に顔を見合わせると、ありえないと爆笑した。
「あっはっは!冗談は止めとけガキ、大事なガールフレンドの前でカッコいいとこ見せたいのは分かるが、やっていい時と場所があるんだぜ」
「そういうお前らも口だけは達者だな」
段々冷めていくソウヤの言葉に、さすがに頭に来たのか青筋を立てる男3人。
「あ?調子乗るなよ小僧ッ!」
男はソウヤに飛びかかり、殴ろうと拳を振るった。
確かにその腕から放たれる拳は、“普通の人”ならば中々痛いのだろう。
“普通の人”ならば。
「――っら!」
「がッ…!?」
軽く首を横に傾げるだけで男の殴りを躱したソウヤは、そのまま任意正拳突きで男の腹を殴る。
それだけで男は吹き飛ばされた。
残った2人の男たちは、仲間が簡単にやられたことに動転し固まっている。
そんなこと露知らずにソウヤは殴った感触を確かめながら、小さく独り言を呟いた。
「戦士の状態でこれか。このままでも十分やっていけそうだな」
残った男2人はついに腰に吊り下げてあった剣を抜いて、こちらへ襲い掛かる。
けれどその動きは戦いに慣れていない素人そのもの。
肉体は凄いが、これは元々就いていた仕事上鍛えられたものなのだろう。
隙の大きい構えで振りかぶった男たちのうち、1人に向けてソウヤは軽く懐に潜り込むと腹目掛けて殴る。
それだけで、男は気を失い体中の力が抜けた。
―流石に体中筋肉まみれなだけあって、かなり重いな…。
内心愚痴を零しながら、もう1人の男が放った剣撃をソウヤは軽く躱しながら殴った男を地面に捨てる。
あまりに見た目と反した強さを持つ青年に、男は驚きを隠せない。
「なっ…。お、お前何者だッ!」
「ただの”達人級の戦士”だ」
男は愕然とする。
戦士の達人級というのは努力すれば誰でも到達できる部類に入るが、こんな見た目若い青年がなること自体はあまりない。
まずそこまで戦闘する機会がないからだ。
訓練だけでは熟練度は伸びないし、戦闘では常に死が付きまとう。
それ故に男は今更ながら知った。
今自分の目の前に居るのは、この若さにして修羅場を幾つも潜ってきた化け物だと。
「ヒッ、ヒィッ!た、助けて…!」
「大の大人が、情けないな」
地面に腰を抜かし、居もしない助けを求める男。
ソウヤは目の前の男のあまりの情けなさに眉を潜めると、無言で近づき腹に一発殴る。
気を失い完全に沈黙した男を確認すると、ソウヤは襲ってきた男たちを一纏めにして道の端に投げ捨てた。
「まぁ、誰か助けてくれるのをそこで待ってるんだな」
仕事が片付いたとソウヤは1つため息をつき、ルリの居た場所に戻る。
「片付いたし、行くぞ」
「はいっ!」
港街ポールト。
それは世界有数の貿易国と言われるほどの有名な、港街。
ここでは外からの商人たちが集まり、互いに有益に求めようと日々奮闘している。
2日以上もかけて、ようやくソウヤ達はこの港街ポールトへと着いたのだった。
「わぁ、町が真っ白で綺麗…。それにすごく塩の匂いがしますっ!」
「確かに予め知っていたとはいえ、これはすごいな」
見渡す限りの白で囲まれた町並みに、ルリとソウヤは驚きを隠せない。
その様子は田舎から初めて都会へ来た若者の反応に良く似ており、周りも「田舎者がまた来たのか」と微笑ましく見ていた。
少し歩けば必ず視界には商店が見え、屋台で焼き魚や果実を売っている所も多くある。
何より中央通路にはシルフをはじめ、ヒューマン、ガルフ、グルフ、エルフ、ウォルフというたくさんの種族が集まっているのが印象的だ。
とりあえず軽く町を見てある程度満足したソウヤとルリは、話を始める。
内容はもちろん、これからどうするか。
「まずは宿だな。寝る場所が最優先だ」
「そうですね。…えっと、宿代どうしましょう?」
恐る恐ると言った風に問うルリに、ソウヤは「そんなことか」と軽く笑って見せた。
「俺が全部払うから心配するな。手持ちはかなりある」
「申し訳ないです…」
かつてソウヤが長い間暮らした『瞬死の森』で得た素材。
王国で売った際に、予想以上に高く売れ現在ソウヤの持ち金はかなりある。
そこらの商人よりも持っているのではないだろうか。
ついでに言うと現在お金は財布代わりの板があり、そこに収納済み。
実際のお金は硬貨なのでその板から硬貨として取り出すことも、逆に板に入れることも出来る。
元の世界でもこんな感じなら良いのに…とソウヤが思うほどの画期的な板であった。
手持ちはかなりあると言われても申し訳なさそうに耳を垂れるルリに、ソウヤはしょうがないなと苦笑する。
「だが、後に自前で稼ぐ手段を作る予定だ。その時にしっかり返してもらうぞ」
「…!はいっ!」
ルリのように―言い方は悪いが―お人よしな性格の者は、一方的に施しを受けるというのを嫌うことが多い。
特に村では自分の力だけで自分とリク老人の2人分働いていたので、何でも自分で出来るようになりたいのだろう。
だからソウヤは、ルリの意志を尊重して後で返してもらうことにした。
ソウヤの言葉にルリが頷いて了承してくれたのを確認してから、2人は宿を探し始める。
当然、屋台のものをウィンドウショッピングしながら…ではあるが。
その後、ルリとソウヤは一緒に「ラウス肉」と呼ばれる肉を串刺しに刺したものを食べ歩きながら宿を探す。
あまり高額な宿だと変な人から目を付けられる可能性が高いため、探すのは程ほどの宿。
大体30分後、“窮龍亭”と呼ばれる宿にソウヤ達は泊まることに決定した。
この世界のお金はロード―記号でR―で表すことができ、日本円でいうと先ほどの串焼きから換算して1R=約20円ほどだ。
また、本来は硬貨であるお金は『金結晶』とよばれる板に収納することができるのは、先ほどもした話だろう。
ついでに言うならば“窮龍亭”の宿代は1000Rで、日本円換算で2万円ほど。
1日分とはいえ、2人別の部屋にして2万というのは安すぎるのではないだろうか。
だが、貿易の街というからには人も多く移動して留まりにくいことを考えると、安くして当然とは思える。
「さて、部屋も取れたことだしギルドへ行くぞ」
「ギルド…ですか?」
まずギルドすら理解していさそうなルリ。
それも当然だ、まずあの村周辺には比較的村人でも対処できる弱い魔物しかいなかったのだから。
ギルド。
本来の名称は“冒険者支援ギルド”だ。
その名の通り、依頼を受け時に駐屯兵の代わりを務め、時に地域の開拓を行う冒険者のサポートを行う場所である。
確かにソウヤの手持ちはかなりあるが、それにばかり頼ってはいられない。
ソウヤの本来の目的は“元の世界に戻る”ことである。
その為には一刻も早く強くなり、魔族との戦いを早急に終わらす必要があった。
稼いだお金は装備を整えるのにも使えるし、何より手持ちだけでやり過ごすのも周りから目を付けられそうだ。
普通に金を稼いだ方が何倍も普通に見えるだろう。
「――っていうのが、ギルドの説明と俺の目的なんだが」
「…そうですか、わかりました。そういうことなら、私もお付き合いさせてください」
その時に、少しルリの顔が暗くなったのをソウヤはわざと見て見ぬ振りをした。
“窮龍亭”の店主にギルドの場所を教えてもらい、ソウヤたちは外に出てギルドの場所を目指す。
意外にもギルドはすぐ近くにあり、現時点からまっすぐに進むだけで見つかった。
「ここがギルドか」
「かなり大きいですね…」
あくまで舐められないように。
だからソウヤは口調を変えていると言っても過言ではない。
出来るだけ堂々としながらギルドに入ると、一気にむさ苦しい匂いが鼻をくすぐる。
昼間から酒を飲む者の匂いだったり、人がかなり多いのでその為に起こる汗の匂いが原因だろう。
むさ苦しい中を掻い潜るように早足でソウヤ達は抜けると、カウンターに座っている女性に声をかけた。
「すまない、冒険者登録を依頼しても?」
「…えぇ、わかりました。登録料は御一人500Rになります。よろしいですか?」
ソウヤが声を掛けると、女性は一瞬ソウヤの体つきに戸惑う。
本当にこんなか細い体の青年を冒険者にしていいのか、と。
だが、すぐさま思考を切り替え女性は淡々とソウヤに対して言葉を返す。
冒険者ギルドは基本、ギルド内での暴動以外では一切冒険者に関わらない。
例え冒険者成りたての人が死のうが、自分たちは知らないで突き通すスタイルなのだ。
「あぁ。俺とコイツを頼む」
ソウヤはそう言って『金結晶』を取り出してギルドの受付嬢に渡す。
先にソウヤは1000Rぐらい『金結晶』に入れておいて、それ以外は硬貨としてアイテムストレージに突っ込んである。
中身の金額がばれたところで問題がないよう、そうやって対策をとったのだ。
「1000R、確かに受け取りました。それではこの『ギルド板』をお受け取りください」
受付嬢はソウヤに『金結晶』を返してから、ソウヤとルリに互いに白い板のようなものを渡し説明を始めた。
この白い板…『ギルド板』はギルドのサポートを受けている冒険者の証として扱われる。
身分証明の代わりにもなるため、失くすことは避けてほしい。
失くした場合は通常の2倍の価格で再発行できる。
冒険者にはランクがあり、下からD、C、B、A、S、SSの順に上がっていく。
依頼を完了させたり、魔物を倒したポイントが加算されることでランクが上がる。
とりあえず、その能力を計るため冒険者と戦ってもらい初期ランクを設定。
大抵の人がDから始まるが、Cで始まる人も少なくないらしい。
現在、冒険者ランクでSは20人ほどしか居らず、SSに限っては5人しかいない。
Sの強さは1人=ドラゴン1匹討伐出来るレベルで、SSの強さは1人=ドラゴン10討伐ぐらいに相当するらしい。
また、ランクによって『ギルド板』の色が違うことや、依頼が失敗するとお金を取られる等々のその他の説明を受け終了した。
「ご質問等はありませんでしょうか」
全てを聞いて、完全に理解したソウヤとルリは頷く。
「それでは、『ギルド板』認証を行います。触れた方の身体能力もその際に大体把握できますので、冒険者に本当に向いているかどうかお確かめください」
これは暗にソウヤやルリに、そのガタイで冒険者になるなと女性は言っているのだが、やはりというか2人とも気が付かない。
というより、それどころではなかった。
“触れた方の身体能力もその際に大体把握できる”。
それを聞いたソウヤは、急いで『ギルド板』を離そうとするがかなり遅かったらしい。
触れた者…つまりソウヤの身体能力を把握した『ギルド板』が、そのまんまソウヤの桁外れの身体能力を堂々と表していたからだ。
確認の為か、『ギルド板』を見ていた女性はそのあまりの桁外れの表示に言葉を失っている。
それを見てソウヤは内心頭を抱えた。
―最悪…ではない。身体能力の数値は出ていないし、スキルも設定したメインスキルが表示されているだけだ。
メインスキルは現在“戦士”なので、達人級だとしても修羅場を幾つか潜っていればここまでくるのも難しくない。
よってここまでは“最悪”ではない、良くも無いが。
―ただ…。
ただ、2つ名がドンとはっきり浮かび上がっていることは完全に最悪だ。
この世界では2つ名はSランクでも得ていない者が多いほど、持っている人が少ない。
そんなのがこんな青年から見られれば、驚くのも当然だ。
受付嬢である女性はしばらくの間固まっていると、やっと状況を理解し始めたのかすぐさま対応を行う。
「しょ、少々おまちください!」
そう言って受付嬢はソウヤに向け引きつった笑みを見せると、すぐさま奥の部屋に引っ込んで行った。
ソウヤは本当に頭を抱えて、唸り声を小さく出す。
そう、盲点だった。
まさか簡易的とはいえステータスが現れるとは思いもしなかったのである。
だがソウヤは2つ名を2つ持っており、そのうちの1つしか表示されなかったのは不幸中の幸いというべきだろうか。
しばらくそうしていると、受付嬢が奥の部屋から慌てた様子で現れた。
「ソウヤ様、ですね。ギルド長がお呼びです、至急こちらに来て頂けますか」
「あぁ、構わない。連れも連れて行くが良いな?」
「はい。大丈夫です」
そう言って女性は緊張した顔持ちでソウヤとルリを奥へ案内する。
まさかこんなか細い青年が2つ名持ちとは、夢にも思わなかったのだろう。
逆に心の中であんなに愚痴って大丈夫だったのだろうかと、内心ガクブル状態である。
ギルドの奥は長い一本通路で出来ており、そこから左右の扉が永遠に続いているようだった。
女性は通路の一番奥のひと際大きい扉のドアノブの前に立ち、軽くノックする。
「入れ」
扉の奥から聞こえるのは、渋い男性の声。
男性の声を聞いた女性は「失礼いたします」とだけ言うとドアノブを回し、扉を開けた。
「――ほう?その小僧が18人目の2つ名付きか?」
「はい、18人目の2つ名『均等破壊』の名を、この眼で確かに確認致しました」
ソウヤの目に映ったのは、まず書斎のような部屋。
そして椅子に座って目の前の机に足を掛けている、筋肉が大量に詰まったような火の妖精ガルフの姿だった。
後書き
ギルドにいた人たちはソウヤが入っていったのを疑問視していますが、2つ名付きとはまだ判明していません。
※ここで手直しは終了しています。次話からは昔に書いた稚拙な文になっているので、お気を付けください。
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