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真田十勇士

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巻ノ九十一 消える風その九

「いざという時は。しかし上様はな」
「そこまでは言われぬ」
「左様ですか」
「上様は穏やかに天下泰平になることを望まれている」
 家康、彼はというのだ。
「だからな」
「半蔵様と十二神将の方々のご出陣は」
「それは、ですか」
「望まれぬ」
「そうなのですか」
「お許しになられぬ」
 こう言うのだった。
「それに拙者もその時が来れば」
 ならだというのだ。
「戦の時じゃ」
「まさに」
「その時ですか」
「命を賭ける」
 幸村、彼と戦うことになればというのだ。
「そしてそのうえでじゃ」
「あの方をですか」
「倒されますか」
「御主達にも頼む」
 その彼等にも言うのだった。
「恐ろしい戦になるぞ」
「左衛門佐殿との戦になれば」
「その時はですか」
「我等伊賀者も総出でとなる」
「そうした戦ですか」
「うむ、その時は頼む」
 またこう言ったのだった。
「御主達の命拙者に預けてもらう」
「喜んで」
 伊賀者達は服部に即座に、しかも淀みなく答えた。
「言われずともです」
「我等は伊賀者です」
「伊賀者の半蔵様への忠義は絶対です」
「どの家のそれにも劣りません」
「ですからこのことはです」
「言うまでもありませぬ」
「そうだったな、拙者はよき家臣達を持った」
 半蔵は声を微笑まさせた、そして。
 ここで面を外した、すると端正な引き締まった顔が表れた。その顔でも九度山を見たのだった。そうしてだった。
 伊賀者達にだ、あらためて言った。
「よい山じゃな」
「ここから見ますと」
「実に落ち着いていてです」
「緑も豊かで」
「よい山です」
「そうじゃな、しかし静か過ぎる」
 服部は九度山についてこうも言った。
「やけにな」
「過ぎますか」
「どうにもと」
「特に志があればな」
 そうした者達にとっては特にというのだ。
「辛いであろう」
「では、ですか」
「時折天下に出てその動きを見るのもですな」
「仕方ないですか」
「当然の動きですか」
「そうも思う、そして時が来れば」
 まさにというのだ。 
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