英雄伝説~灰の軌跡~
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外伝~メンフィル・エレボニア戦争の和解調印式~ 最終話
~グランセル城・謁見の間~
「―――女王陛下、王太女殿下。今回の和解調印式の件に加えて和解調印式までの間メンフィル帝国の捕虜であったわたくしの保護までして頂き、リベール王国には本当にお世話になりました。この御恩……わたくしは一生忘れませんわ。内戦が終結した際はお父様――――ユーゲント皇帝にも今回リベール王国より受けた御恩の件をお伝えし、その御恩に対するお礼をするように嘆願致します。」
「いえ、私達はエレボニア帝国と友好を結んでいる国として……”不戦条約”を提唱した国として当然の事をしたまでです。それよりも内戦が終結してもエレボニアには大きな”試練”が訪れる事になるでしょう。その際は我が国でご協力できることがあれば、可能な限りご協力致しますので、内戦が終結して何か困った事があれば、遠慮せずリベールを頼ってください。」
「お祖母様………」
「……はい。リベール王国の寛大なお心遣いに心からの感謝を。」
「本当にありがとうございます………!」
アリシア女王の慈悲にクローディア姫が優し気な微笑みを浮かべている中アルフィン皇女はアリシア女王に会釈をし、ダヴィル大使もアルフィン皇女に続くように頭を深く下げて感謝の言葉を述べた。
「………エルナン、一つ聞きたい事がある。」
「何でしょうか、カシウスさん。」
「和解交渉の時、遊撃士協会の代表であるお前は第三条の時だけ何も口出ししなかったが………やはり遊撃士協会はメンフィルに何か言い含められていたのか?」
「え…………」
「そ、そう言えばエルナンさん、何故か第三条の時だけシルヴァン陛下とアルフィン殿下、どちらに対しても何も口出ししなかったですよね?」
カシウスのエルナンへの質問を聞いたクローディア姫が呆けている中アネラスは不安そうな表情でエルナンを見つめ
「………やはりカシウスさんも気づいていましたか。実は本部より私が和解調印式に遊撃士協会の代表として同席する件を伝えられた際に『両帝国の和解交渉の際、エレボニア帝国がメンフィル帝国に自国の領地を贈与しなければならない話が出た際は両勢力に対して何も口出しするな』との指示をされていたんです。」
エルナンは複雑そうな表情で呟いた後真剣な表情で答えた。
「ハアッ!?何で本部はそんな指示をエルナンさんに出していたの!?」
エルナンの答えを聞いて驚いたシェラザードは信じられない表情でエルナンに訊ねた。
「当然私もその件が気になり、本部に理由を訊ねた際にこのような答えが返ってきました。『今回の両帝国間の戦争勃発は僅かとはいえ、アルフィン皇女を護衛していた遊撃士にも責任がある事は明白。よって、本来ならば遊撃士協会はメンフィル帝国がエレボニア帝国に謝罪金並びに賠償金代わりに要求すると思われるエレボニアの領地の領有権に贈与について口出しする権利はない』との事です。」
「それは…………」
「…………その……まさかトヴァルさんまで遊撃士協会から何らかの処罰を受ける事になるのでしょうか……?」
エルナンの説明を聞いたクローディア姫が複雑そうな表情をしている中アルフィン皇女は心配そうな表情でエルナンに訊ねた。
「……ええ。『B級正遊撃士トヴァル・ランドナーはエレボニア帝国の事情を優先してユミルの領主にユミルの領主がアルフィン皇女を匿っている件をメンフィル帝国に報告する事を止める要請―――つまりは”国家権力に不干渉”を規約の一つとして掲げている遊撃士でありながら国家権力に干渉した為、結果的に今回の戦争が起こってしまった。よって規約違反並びに戦争勃発の原因に間接的に関わっていた処罰として2階級降格処分並びに内戦終結後オレド自治州にある支部―――”オレド支部”に異動』との事です。」
「トヴァル先輩が2階級降格処分に加えて、”異動”だなんて………」
「そ、そんな………わたくしのせいでトヴァルさんまで処罰を受ける事になるなんて………」
「……まあ、さすがに今回の件は本部の言う通り、トヴァルにも責任があるから、皇女殿下がトヴァルに対して罪悪感を感じる必要はあまりないと思うわよ。」
エルナンの説明を聞いたアネラスが信じられない表情をしている中悲痛そうな表情をしているアルフィン皇女にシェラザードは静かな表情で指摘した。
「”オレド自治州”………確かクロスベルより東側に位置する自治州でしたね。」
「ええ………大陸横断鉄道が通り、国際空港もあるとはいえ、小さな自治州である事に加えてクロスベルと違い、何らかの問題を抱えている自治州ではない為常駐する遊撃士は一人で十分ですから、降格処分を受けた遊撃士でも十分やっていけるでしょうな。」
考え込みながら呟いたアリシア女王の推測にカシウスは頷いた後複雑そうな表情で説明した。
「それと第三条の件とは別に和解調印式の件で本部より他にも命じられていたことがありまして………その内容とは『エレボニア帝国支部の受付並びにエレボニア帝国支部所属の遊撃士達に両帝国の間に起こった戦争の和解調印式の件を教える事を厳禁とする』です。」
「ええっ!?どうして本部がそんな事を……!?」
「恐らく本部はトヴァルを含めたエレボニアにいる遊撃士協会関係者に今回の戦争の和解調印式の件が伝わった際、トヴァル達が唯一捕われていないオリヴァルト皇子に連絡を取り、和解調印式の事を知ったオリヴァルト皇子が和解調印式にアルフィン皇女と共に参加する為にリベール王国を訪問する事によって、オリヴァルト皇子の動きに注意していた貴族連合軍にまでリベール王国がアルフィン皇女を保護していた事が把握され、その結果ユミルの二の舞のような事が起こる事を防ぐ為だろうな………」
「………メンフィルに奪われたアルフィン皇女の救出を”大義名分”にした貴族連合軍―――いえ、エレボニア帝国とリベール王国の戦争へと勃発する事を防ぐ為ですか………」
「それは…………」
「実際リウイ陛下もその可能性がある事を指摘して和解調印式が行われるまでの間は和解調印式を秘匿する事を要請されていましたね………」
エルナンの説明にアネラスが驚いている中カシウスは真剣な表情で推測し、カシウスの推測に続くように答えたシェラザードは疲れた表情で溜息を吐き、ユリア准佐とクローディア姫は複雑そうな表情をしていた。
「遊撃士協会は間接的とは言え、既に両帝国間の戦争勃発の原因の一つになってしまったからな………もし遊撃士協会の関係者が原因で今度はリベール王国とエレボニア帝国の間で戦争が勃発してしまえば、良くてリベール王国全土にある各支部の撤退……最悪は全国家から遊撃士協会の存続が問われる可能性へと発展する事を恐れてそのような命令を出したのだろうな………」
「ええ、恐らくは。そしてこれがメンフィル帝国と何らかの取引をしたと思われる通達なのですが……その内容とは『僅かとはいえ、遊撃士協会の関係者が今回の戦争勃発の責任の一端を担ってしまった為、遊撃士協会は両帝国に対する責任を取る為にエレボニア帝国にまだ残存している支部を全て撤退。並びに今回の戦争でメンフィル帝国が得る事になる元エレボニア帝国の領地に新たな支部を設立し、その支部に残存しているエレボニア帝国の支部から撤退した受付や遊撃士達を配属させる』との事です。」
カシウスの推測に頷いたエルナンは重々しい様子を纏って説明を続けた。
「そ、それって………」
「『責任を取る』という名目の下、メンフィル帝国領となった既に撤退した元エレボニア帝国の領地の支部を復活させる事でメンフィルに対する”汚名返上”をする事でメンフィルとの関係の修復を重視して、エレボニアとの関係は完全に”切り捨てる”って事じゃない……!どうして本部はそんな不公平な判断をしたのよ!?」
エルナンの説明を聞いてある事を察したアネラスは不安そうな表情をし、シェラザードは厳しい表情で声を上げた後エルナンに訊ねた。
「本部がそんな判断をするように誘導したのは恐らく本部と和解調印式の出席の件で直接交渉したメンフィル帝国の関係者――――――レン皇女でしょうね………本部に和解調印式の件で交渉に来たメンフィル帝国の関係者が誰なのか訊ねた時、レン皇女の名前が挙がりましたから状況から考えて間違いなく本部の判断にはレン皇女が関わっているかと思われます。」
「ええっ!?レン皇女殿下が遊撃士協会の本部の方達と交渉したのですか!?」
「レンちゃんが遊撃士協会の本部と和解調印式の件についての交渉をしたのですか…………」
「よりにもよってあの娘の仕業か………何で本部がそんな判断をしたのか、納得したわ………」
「彼女はかつて”お茶会”で我々どころかカノーネ達”特務兵”の残党を自分が思い描いた通りのシナリオに動くように誘導したからな………そんな彼女からしたら遊撃士協会の本部の意向を誘導させる事も容易い事だろうな………」
エルナンの説明を聞いたアルフィン皇女が驚いている中クローディア姫は複雑そうな表情をし、シェラザードは疲れた表情で溜息を吐き、ユリア准佐は複雑そうな表情でかつての出来事を思い出しながら呟いた。
「本部がそのような判断をしたのはレン皇女の誘導によるものもありますが、現状のエレボニア帝国と遊撃士協会の関係も間違いなく関係しているでしょうね。」
「”鉄血宰相”や”情報局”、後はそれぞれの領地を治めている貴族達が2年前に起こった猟兵達による遊撃士協会支部の襲撃事件を盾にして遊撃士協会に露骨な圧力をかけてエレボニア帝国各地に存在していた多くの支部を撤退させ、遊撃士達の活動を大幅に制限したからな………」
「そ、それは…………」
「………つまり遊撃士協会がわたくし達エレボニア帝国との関係を完全に”切る”事にした原因の一つは、今までお世話になっていた遊撃士協会に対してそのような恩を仇で返す仕打ちをしたわたくし達エレボニア帝国の身から出た錆なのですね………」
「アルフィン殿下…………」
エルナンは複雑そうな表情でアルフィン皇女達を気にしながらカシウスと共に推測を口にし、二人の推測を聞いたダヴィル大使が複雑そうな表情で答えを濁している中、辛そうな表情で呟いたアルフィン皇女をクローディア姫は心配そうな表情で見つめていた。
「…………エルナンさん。今回の和解調印式の延長になる形ですがリベール王国として、遊撃士協会に依頼したい事があります。」
「お、お祖母様……?」
「どのような依頼内容でしょうか?」
するとその時カシウス達の話を目を伏せて聞いて考え込んでいたアリシア女王は目を見開いてエルナンを見つめ、アリシア女王の突然の言葉にクローディア姫は戸惑いの表情をし、エルナンは表情を引き締めてアリシア女王を見つめた。
「依頼内容は”エレボニア帝国の内戦終結までのアルフィン皇女の護衛”です。」
「え…………」
「なっ!?何故、女王陛下自らが他国の皇族である皇女殿下の護衛の依頼を……!?」
アリシア女王が口にした依頼内容を聞いたアルフィン皇女は呆け、ダヴィル大使は驚いた後信じられない表情でアリシア女王に訊ねた。
「アルフィン殿下はこれからメンフィル帝国が内戦介入の為に結成した部隊――――”特務部隊”と共に内戦終結の為に活動する事になります。幾ら和解したとはいえ、両帝国の間にできた”溝”はそう簡単に埋まるとはとても思えません。両帝国の関係はそのような状況であるのに、メンフィル帝国主導の下エレボニア帝国の内戦を終結させる事は私達リベール王国を含めた他勢力からすれば、エレボニア帝国はメンフィル帝国の隷属国化したと判断してしまう可能性へと発展し、その結果内戦やメンフィル帝国との戦争で大きく落ちたエレボニア帝国の権威が更に落ちる事が考えられます。その可能性を少しでも減らす為にも国際的立場からすると中立の立場である遊撃士協会にも”他国主導の下内戦が終結させられる”という前代未聞のエレボニア帝国の内戦に介入して欲しいのです。」
「なるほど………皇女殿下の護衛を名目に遊撃士協会を介入させることで、”特務部隊”――――メンフィル帝国が和解条約の第五条に付与されている緩和条件の実行を行っているかどうかの確認もできますし、中立勢力として和解調印式に遊撃士協会が皇女殿下や”特務部隊”と共に行動し、エレボニアの内戦の終結を見届ける事によって、和解したとはいえ今までエレボニア帝国と戦争していたメンフィル帝国が皇女殿下に危害を加えない為の両帝国や他勢力に対する”見張り役”としての保証にもなりますな。」
「あ……………」
「お祖母様………」
アリシア女王とカシウスの説明を聞いたアルフィン皇女は呆け、クローディア姫は微笑み
「な、なるほど………エルナン殿、エレボニア大使館からも女王陛下と同じ依頼を出します。当然”報酬”も相応の額を用意致しますし、内戦終結後エレボニア帝国政府にエレボニア帝国が撤退させた支部の復活を含めた遊撃士協会との和解の打診を致します!ですから、どうか皇女殿下の護衛の遊撃士の手配をお願いします……!」
一方ダヴィル大使も納得した後エルナンを見つめて頭を深く下げて嘆願した。
「…………わかりました。女王陛下と大使閣下の依頼、謹んで受けさせて頂きます。そう言う訳ですから、皇女殿下の護衛を貴女達にお願いしても構わないでしょうか、シェラザードさん、アネラスさん。」
「ええっ!?わ、私とシェラ先輩が皇女殿下の護衛を……!?」
「何となくそんな気はしていたけど……護衛の遊撃士をあたし達にしたのは事情を知っているかつ護衛対象の性別が”女性”だからかしら?」
エルナンにアルフィン皇女の護衛の要請をされたアネラスが驚いている中シェラザードは疲れた表情で溜息を吐いた後表情を引き締めてエルナンに訊ねた。
「ええ。今回の依頼内容に含まれている事情を考えると事情を知る人物達は最小限にするべきの上、護衛対象と同じ性別の方が護衛する上で色々と都合がいいでしょうし、今回の依頼の難易度を考えると最低でもB級正遊撃士が求められます。以上の条件から現状リベール王国内に配属されている遊撃士で今回の依頼の適任な遊撃士は貴女達二人だけなのです。」
「シェラザードのランクはA級、アネラスのランクはB級。今回の依頼に求められるレベルも合格しているから納得の人選だな。それで二人はどうするんだ?」
エルナンに続くように納得した様子で呟いたカシウスはシェラザードとアネラスに訊ね、二人は少しの間考え込んだがすぐに結論を出して答えた。
「……ま、あのスチャラカ皇子に”貸し”を作る良い機会でもあるし、遊撃士協会ロレント支部所属A級正遊撃士シェラザード・ハーヴェイ、皇女殿下の護衛の依頼、謹んで受けさせてもらうわ。」
「もう、先輩ったら素直じゃありませんね~………―――同じく遊撃士協会ボース支部所属B級正遊撃士アネラス・エルフィード、修行中の身ではありますが遊撃士として……”八葉一刀流”の剣士として、道と義に従い皇女殿下の護衛の依頼、謹んで受けさせて頂きます!」
シェラザードは溜息を吐いて呟いた後真剣な表情になって答え、シェラザードの答えに苦笑したアネラスもすぐに表情を引き締めて答えた。
「お二人とも本当にありがとうございます……!これから、どうかよろしくお願い致します……!」
二人の答えを聞いたアルフィン皇女は感謝の言葉を述べ
「……陛下、護衛の件をシルヴァン陛下達にも説明し、納得してもらう必要があるのでは?」
「勿論この後シルヴァン陛下達にも説明し、二人をアルフィン殿下の護衛につける事に納得してもらうように説得致します。ユリアさん、客室に待機してもらっているシルヴァン陛下達をお呼びしてください。」
「ハッ!」
カシウスの指摘に頷いたアリシア女王はユリア准佐に指示をし、アリシア女王の指示に敬礼で答えたユリア准佐はその場から去った。
その後アリシア女王達はシルヴァン達にシェラザードとアネラスをアルフィン皇女の護衛につける説明をし……その説明に納得したシルヴァン達は二人をアルフィン皇女の護衛につける事を了承した。
そしてアルフィン皇女はアリシア女王達に別れを告げた後シルヴァン達と共にセシリアの転移魔術によってグランセル城から去り、その後セシリア達と共に内戦を終結させる為にリィン達”特務部隊”も既に待機している”パンダグリュエル”へと向かった―――――
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