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天使の絵

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第三章

「教えることがないと思ったので」
「好きにさせたのか」
「そうしました」
 こうメディチ家の者に話した。
「あいつは私よりもです」
「才能があってか」
「自分で何とでも出来ますから」
 そこまでの才能の持ち主だからだというのだ。
「芸術、他にも色々とやってますね」
「自分に興味があることは何でもな」
「それだったらですよ」
「貴殿が教えずには」
「好きにさせることにしました」
「天才は縛らない、か」
「はい、ああした人間は特にです」 
 あらゆる分野で才能を発揮する者、まさにダヴィンチの様な者はというのだ。
「そうしたら駄目です」
「そういうことか」
「それであいつは自由にさせました」
「そうか、しかしだ」
「しかし?」
「彼は何故あそこまで才能がある」
 このことをだ、メディチ家の者は言葉に出した。
「そもそもだ」
「そのことですか」
「そなたに心当たりはあるか」
「元々才能があることは確かですが」
 ヴェロッキオは彼にまずはこう答えた。
「やはり、しかし」
「それに加えてか」
「はい、休まないのです」
「不眠不休で学問をしたり芸術に打ち込んでいるのか」
「どういう訳かわかりませんが」
 前置きをしてだ、ヴェロッキオはダヴィンチのそのことも話した。
「あいつは一日一時間しか休まないし寝ないです」
「一時間?」
「はい、一日にです」
「馬鹿な、それだけしか寝ないのか」
 メディチの者はヴェロッキオの話に驚いて言葉を返した。
「そんなことが出来るのか」
「私もそう思いますが」
「一日一時間か」
「十五分ずつそれだけしか寝ません」
 まさにというのだ。
「起きている間はずっと描いたり学問に励んでいますから」
「それでなのか」
「あそこまで出来るのでしょうか」
「不思議な話だな」
 メディチ家の者はその話を聞いて思わず言った。
「むしろその方がな」
「そう思いますか」
「これはそなたもか」
「工房で見ていつも思っていました」
「何故寝ないのか、か」
「ずっと動いていて休まないのか」
 実にとだ、ヴェロッキオも言う。
「見ていて不思議でした」
「そうだったのか」
「はい、ですが」
「それでもか」
「あいつはそれで充分らしくて」
「起きている分動けるからか」
「出来るんだと思います」
 一日に一時間しか寝なくて充分だからだというのだ。
「そうも思います」
「では才能に加えて努力もか」
「興味も加わって」
「ああしたことが出来るのか」
「私はそう思います」
 こうメディチ家の者に話すのだった、そしてだった。
 ヴェロッキオは彼の仕事に戻った、だがこここでメディチ家の者はその彼に彼自身のことを問うたのだった。 
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