痩せてみると
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第九章
「そのことを忘れるな、俺が言いたいのはそのことだ」
「それで僕を家に呼んでくれたんですか」
「俺も失恋したことがあるからな」
「その経験が先輩の心もですね」
「太らせてくれたんだろうな」
「痛い経験でしたよね」
「ああ」
その通りだとだ、岩崎はスルメを噛みつつ答えた。
「その時はな」
「そうですね、やっぱり」
「だから御前のこともわかるつもりでな」
「それで、ですか」
「声をかけた」
「僕を助けたかった」
「そう言えばそうなるな」
岩崎も否定しなかった。
「それは」
「やっぱりそうですか」
「人は誰でも助けられるならな」
そうした状況ならというのだ。
「助けるべきだ」
「モラルですか」
「そうなるな」
岩崎も否定しなかった。
「少なくとも御前がどうしようもない奴には思えなかった」
「そんな評判もあったんですか」
「誰も近寄せないとかな」
「正直誰とも会いたくないし話もしたくないって思ってました」
「そうだな、しかしな」
「どうしようもないとはですか」
「思わなかった、だから声をかけた」
そうだったというのだ。
「そして何度か話をして思った」
「僕はそうした人間じゃないですか」
「別にな、また何かあればな」
「話をですか」
「何時でも来てくれ」
「そうしていいんですね」
「俺でよかったらな、いいな」
「はい」
少し俯いて頭を下げる様にしてだ、哲承は岩崎に答えた。
「そうさせてもらいます」
「それじゃあな」
「けれど、僕正直言って」
「どうしたんだ?」
「誰かにこうして話が出来るとは思っていませんでした」
「人は誰でも自分を馬鹿にしているとか」
「そうも思っていました」
彩友美に振られてからだ、実際にそう思ってもいた。失恋のことをいつも言われるかと怯え言われていく中でだ。
「実際に」
「そうだろうな、しかし」
「それでもですか」
「そんな奴ばかりでもない」
「先輩みたいな人もですか」
「はっきり言う、俺は御前は嫌いじゃない」
哲承の目を見てだ、岩崎は言った。
「俺も失恋したことがあるしな」
「僕のそのことも」
「わかるつもり、あくまでつもりだがな」
「そう思われるからですか」
「声をかけた」
「同情ですか」
「そうかも知れない」
岩崎はまたはっきりと言った、飲む手は止まらない。
ページ上へ戻る