繊細な猛将
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第三章
「いいな」
「それで足止めですか」
「足を止めれば」
ボルトはキャリーの言葉に敬礼をして応えた、そして中隊の全てのバズーカを出してそれを敵の戦車隊に向けて放った。持っていない者は手榴弾を投げまくった。
バズーカの続け様の連続射撃と手榴弾にだ、敵の戦車の中には動きを停めた車両も出ていた、キャリーの命令通りキャタピラを攻めた結果として。
それを受けてだ、戦車達は退いていった。動けなくなった戦車からは兵士達が慌てて出て何とか友軍の戦車によじ登って乗ってだ。キャリーは何とか中隊の危機が去ったのを見て胸を撫で下ろした。
「よかったな」
「いや、正直言いまして」
ボルトもこう返した。
「びっくりしましたよ」
「俺の命令にか」
「こっちは歩兵、相手は戦車ですから」
「逃げるとだな」
「思っていました」
「まあな、実際に考えたら」
撤退をだ、ボルトも否定しなかった。
「普通はそうするよな」
「はい」
「ただ、相手は歩兵がいなかっただろ」
「そういえばそうでしたね」
戦車だけだった、敵は。
「歩兵がいたら鬱陶しいですからね」
「戦車助けて撃ってきたりするからな」
「見たものを戦車に教えたり」
「そうしてくるからな」
だからだというのだ、このことはドイツ軍だけでなく他の軍隊でも同じだ。戦車と歩兵の協同攻撃は相乗効果を生み出しかなり厄介なのだ。
「だからその場合はな」
「撤退していましたか」
「ああ、しかし敵は戦車だけだった」
「だからですね」
「踏み止まってな」
「バズーカで攻めましたか」
「そうしたんだよ」
手榴弾も投げさせて、というのだ。
「バズーカもあったしな」
「そういうことですね」
「しかも相手はエレファントだったな」
キャリーは敵の戦車の種類にも言及した。
「そうだったな」
「馬鹿でかい自走砲ですね、何時見ても」
「ああ、確かに砲の口径はでかいし装甲も厚い」
キャリーはこのことも熟知していた、敵の戦車のことも。
「しかし、だろ。エレファントは」
「自走砲ですからね」
「砲塔がない」
自走砲の特色だ、普通の戦車と違い回転する砲塔が存在しないのだ。だから後方や左右の敵に攻撃することが出来ないのだ。
「それもあったしな」
「しかも歩兵用の機銃もですね」
「他の戦車よりも弱いからな」
「だからですね」
「ここは踏み止まってな」
「キャタピラを攻撃させてですか」
「やったんだ」
そうだったというのだ。
「それが成功したな」
「そうですね」
「作戦勝ちだな」
キャリーは軍服の胸ポケットからガムを出した、彼は煙草は吸わないのでいつもこちらを楽しんでいるのだ。
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