繊細な猛将
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第一章
繊細な猛将
ジョージ=パットンについてだ、彼の下にいるアメリカ軍の将兵達は口々に言っていた。
「厳しいな」
「すぐに怒鳴る」
「鉄拳制裁も辞さない」
「軍律を厳しくしてちょっとでも違反したら罰則だ」
「いつも軍隊の先頭にいるしな」
「猛将と言われるが」
「本当に猛将だ」
こうした評価だった、とかく激情家で軍規軍律に厳しく勇敢な人物だというのだ。
自ら戦車に乗り指揮をすることも常だ、彼は部下達にいつもその厳しい顔で言っていた。
「大胆不敵であれだ」
「そして勝て」
「そういうことですね」
「そうだ、常にだ」
まさにというのだ。
「軍人は大胆不敵にないとならない」
「そしてですね」
「勝たないといけないですね」
「戦争には」
「その通りだ、勇敢に戦って武勲を挙げるんだ」
パットンは大きな声で叫ぶ様にして常に言っていた。手振りまで交えて。
「イギリスの連中にも負けるな」
「彼等にもですか」
「そうだ」
まさにというのだ。
「いいな」
「友軍にもですね」
「負けるな、ですね」
「そうだ、負けるな」
彼等にも対抗心を見せていた。
「アメリカ軍の力を見せてやれ」
「わかりました」
部下達はこう応えるしかなかった、そしてだった。
パットンは自ら勇敢に戦い部下達を率いていた、その彼を見てだ。
歩兵中隊の指揮官ジム=キャリー中尉は部下のセオドア=ボルト少尉に問うた。夕食の時に食後のバーボンを飲みながら。ステーキの味が口の中に残っている。
「将軍だがな」
「パットン将軍ですね」
「あの人は本当に典型的な軍人だな」
「攻撃的な、ですね」
ボルトはこうキャリーに返した。ボルトは赤髪で細面で青い目を持っている、顔にはソバカスが目立つ。キャリーは金髪で目はブラウンだ。彼も面長で鼻が高い。二人でバーボンを飲みつつそのうえで話をしているのだ。
「まさに」
「ああ、そうだよ」
「そういう人ですね」
「わかりやすいな、ただな」
「ただ?」
「厳しい人だけれど何故かな」
首を傾げさせてだ、キャリーはこう言うのだった。
「皆嫌いじゃないな」
「そうですね、確かに」
「妙にな」
「何か嫌いになれないんですよね」
「それはどうしてだろうな」
「わかりやすい人だからですかね」
だからではないかとだ、ボルトは言った。
「それで、でしょうか」
「わかりやすいからか」
「はい、怒る時も笑う時も大声で裏表もなくて」
「それでか」
「嫌いじゃないんじゃ、皆」
「そうか、何かそれだけじゃない気もするな」
キャリーは考える顔でボルトに話した。
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