赤舌
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第三章
「今すぐにでもな」
「はい、我慢出来なくなり」
「また水門を閉じたりすれば」
「大変なことになりますな」
「そうですな」
「何とかせねばな」
こう言ってだ、代官は井戸掘りの者を呼びにやったが彼等が来る間のことが心配で仕方がなかった。それでだ。
水門に代官所から見張りの者を送ろうとした、しかし。
その者はすぐに代官所に帰って来てだ、代官に言った。
「水門のところに奇妙なものがおります」
「奇妙な?」
「はい、獣に似ていますがやたら大きな口があり舌がやけに赤い」
「それは獣か」
「どうでしょうか」
「話を聞くとそうは思えぬ」
代官は難しい顔になり述べた。
「あやかしではないか」
「そうでしょうか」
「獣に似ておるか」
「熊に似ていますが熊の倍は大きく黒く毛深く顔は恐ろしく」
「あやかしにしか思えぬな」
「そう思われますか」
「うむ、その様なのがいてはな」
代官はさらに言った。
「どちらの村の者達も近寄らぬな」
「はい、実際にです」
見張りに行ったものは代官にこのことも話した。
「どちらの村の者達もです」
「今は水門に近寄っておらぬか」
「はい」
実際にというのだ。
「誰も」
「そうか、では上流の村の者達が馬鹿なことをしようとしてみな」
「それがおる限りは」
「大丈夫じゃな」
「左様ですな」
「ではじゃ、その間にじゃ」
そのものが水門のところにいる間にというのだ。
「すぐに井戸を掘ろうぞ」
「それでは」
こうしてだ、井戸掘りの者達を急がせてだ、代官は自らも代官所の者達をれて水門まで行った。すると実際にだ。
水門のところに熊に似ているが倍はある大きさの黒い毛に覆われたものがいた、実際に口は大きく舌が赤い。代官はそのものを見て言った。
「確かにな」
「熊に似ていますが」
「あの様に大きな熊はおらん」
水門の傍に蹲っているそれを見て言う。
「何処にもな」
「左様ですな」
「獣ではない、ではな」
「あやかしですか」
「そうであろう」
こう言うのだった。
「やはりな」
「お代官もそう思われますか」
「あれはやはり獣ではありませぬか」
「他のものですか」
「そうなりますか」
「そう思う、しかしあれがおるとな」
まさにそれだけでというのだ。
「安心出来るわ」
「左様ですな」
「あれがおる限りはです」
「誰も近寄りませぬ」
「どちらの村の者も」
「これで馬鹿な争いはない」
水門を閉じた開けだのでのだ。
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