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提督はBarにいる。

作者:ごません
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『冷し』で暑さを乗り越えろ!・1

「あ゛づいっすぅ~……」

 時刻は夜。今宵もウチの店は満員だ。そんな中、カウンターに突っ伏したまま動かない影が2つに、呆れたようにそれを眺める影が1つ。

「そりゃあなぁ。このブルネイでそんなドカジャンみてぇにモコモコした制服着てりゃ暑いだろよ」

「そんな事言ったって……これが占守型の制服っすから、脱ぐワケにはいかないっしゅ」

「大体ドカジャンて何よ!?そんなダサいのじゃ無いわよ!」

 カウンターに突っ伏していたのは、先日の大規模作戦で新たに発見された海防艦の占守と国後。

「占守先輩も国後先輩も、択捉みたいにセーラー服にすればいいのに」

 そんなだらけた2人をよそに、けろりとしているのは占守型を改良した択捉型の海防艦の1番艦である択捉が、チビチビと冷酒をやっている。駆逐艦の中でも幼く見える睦月型や暁型より、更に幼く見える択捉が手慣れた様子で日本酒を注がれた杯を空けていく様は、何というか背徳的ですらある。

 先日ウチに加わったのはこの3人も含めて6人。海防艦3、護衛空母1、補給艦1、そして極めつけにロシアからの刺客……という訳ではないが、金剛やウォースパイト並の艦齢を持つ戦艦が1。どういう政治的取引があったかまでは知らんが、半分敵対関係にあったロシアの戦艦が、何の因果かウチにも回ってきた。まぁ、戦力の増強は願ってもない事だしウチのやり方で鍛えていくだけだ。てなワケで、その6人は絶賛一ヶ月のデスマーチ中である。

「あの量のトレーニングメニューを、その分厚いドカジャン着てたらそらぶっ倒れるわな」

「だからドカジャンじゃ……もういいわよ」

 暑さと疲労にやられてか、反論するのを諦めたらしい国後。よっぽどバテてやがるな。とは言えブルネイは常夏に近い。この暑さに慣れてもらわないと仕事にならん。そもそも土方の作業員が防寒に着るドカジャンに似たような制服を着込んでいるんだから暑いに決まっている。

「仕方ねぇなぁ……ほら、これでも飲んで身体冷やせ」

 俺はそう言いながら、占守と国後、ついでに択捉の前にもスープマグを置いた。

「司令……なんすかコレ?」

「『枝豆の冷製ポタージュ』だ。大方しごかれたのとこの暑さにバテてロクに飯も食えてねぇんだろ?飲むにしろ食うにしろ、まずは胃袋を軽く動かしてからでねぇとな」



《火を使わずに!枝豆の冷製ポタージュ》※分量2人前

・冷凍枝豆(自然解凍で食べられるタイプ):200gくらい

・玉ねぎ:中くらいの1個

・コンソメキューブ:1個

・牛乳(または豆乳):300cc


 さて、作っていこう。冷凍枝豆は調理済みで解凍すれば食べられる物を使用する。自然解凍で食べられる状態になったら、皮を剥いて実に貼り付いてる薄皮も剥がす。剥き身になった枝豆が100g位になるのがベストだ。

 耐熱容器に皮を剥いて根っことてっぺんを切り落とし、十字に切り込みを入れた玉ねぎを入れてラップをして、電子レンジでチンする。大体7~8分加熱すると火が通って透き通ってくるハズだ。玉ねぎに火が通ったらフォーク等で粗く潰して、コンソメキューブと混ぜ合わせてコンソメを溶かす。

 フードプロセッサーに枝豆と先程潰した玉ねぎを入れて、滑らかなペースト状になるまで機械にかける。途中、何回か運転を止めて全体的にかき混ぜてやるとムラが無くペーストに出来るぞ。

 ペーストが出来たら牛乳か豆乳を3回くらいに分けて入れつつ、入れたらその都度撹拌。味見をして塩、胡椒(分量外)で味を整えたら後は冷蔵庫でキンキンに冷やしてやれば完成だ。味見の時にドロドロし過ぎだと感じたら、牛乳を加える量を増やして適宜調節してくれ。

「あ、美味し」

「冷え冷えで美味いっす~!」

「ふん、まぁまぁじゃない?」

 リアクションは三者三様、まぁ美味しいみたいだからいいが。このレシピの応用だが、カボチャとか捨ててしまいがちなブロッコリーの茎なんかを柔らかく煮て、同じようにポタージュにしても美味しいぞ。しかもこのレシピの良いところは、冷やしても温めても美味い、という所だ。年中使えるレシピだから、覚えておいて損は無いだろう。




 きゅるるるるぅ~……という、何とも可愛らしい腹の音が鳴り響く。顔を真っ赤にしてわたわたしているのを見る限り、犯人は国後らしい。

「くっくっく、口は反抗的でも身体は正直だなぁ?国後。空きっ腹に今のスープは堪えたろ」

「ぐ、ぐうううぅぅ~……」

「諦めるっすよ、クナ。司令、占守達は腹ペコっす。晩ご飯ご馳走になってもいいっしゅか?」

「バカ言え、ウチはBarだぞ?彼氏の家とか実家じゃあるまいし、飲食店では金払って飲食するモンだ」

「だってまだ占守達、着任したばかりだから給料貰ってないっすよ?だから……」

「だから?」

「給料日までは、ツケ払いっす!」

 堂々と言った割には情けねぇ台詞だこと。だが、そういう素直な奴は嫌いじゃない。

「ぷっ、くくく……仕方ねぇなぁ。ただし、食った分はキッチリ請求するからな?」

「勿論っしゅ!……あ、出来たら冷たくて美味しい料理がいいっす」

「あいよ、任せときな」

 元々暑さに慣れてねぇ奴は沢山いたからな、そういう奴等用のメニューはしこたまあるんだ。


《1人前100円以下!?冷やし麻婆豆腐丼》※分量2人前

・豆腐(絹ごし):1丁

・豚挽き肉:100g

・長ネギ:1本

・白すりごま:大さじ4

・醤油:大さじ4

・砂糖:大さじ1

・酢:大さじ1

・一味唐辛子:お好みで

・おろし生姜:お好みで

・おろしにんにく:お好みで

・ラー油:お好みで

・ごま油:大さじ1

・ご飯:適量


 さて、作っていこう。豚挽き肉はフライパンで一番先に炒めて、粗熱を取っておく。長ネギはみじん切りにして水にさらし、そのまま冷蔵庫へ。辛味を抜くのと限界まで冷やす為だ。

 ネギと挽き肉を冷やしている間に、タレを作る。すりごま、醤油、砂糖、酢、生姜、にんにく、ラー油、一味を混ぜ合わせてタレを作るんだが、麻婆豆腐に使いそうな豆板醤や甜麺醤が入っていない。……が、この料理のコンセプトは『極力火を使わずに麻婆豆腐の味を再現する』所にある。その為豆板醤・甜麺醤は使っていない。その代わりに火を通さずに薬味の類いをぶちこむ事で辛味を出しているのだが……当然、加減しないとエラい事になる。レシピにお好みで、と書いたのはその為だ。初めて作る時には味見をしつつ、少しずつ混ぜていくのがベターだろう。

 さぁて、メインの豆腐の登場だ。豆腐は1~2cm角に賽の目切りにしてボウルに入れたら、冷ました挽き肉と水気を切ったネギ、そしてタレと絡めていく。この時、箸で混ぜると豆腐が崩れすぎるため、ヘラ等を使って混ぜるようにな。まぁ、グチャグチャにして飯にぶっかけて食べるってのも美味いっちゃ美味いんだが……如何せん、見た目がな?全体が混ざったら仕上げにごま油をかけて香り付け。

 さてと、盛り付けだ。本来なら温かい飯に盛るんだが、今回は冷たい料理とのリクエストだったんで特別仕様だ。ご飯をザルにあけて、流水で洗う。こうして米の粘りを取る事でかっこみやすく、暑い時には食べやすい冷や飯が出来上がる。注文通り冷たくもなるしな。洗った飯を丼に盛ったら、さっき和えておいた冷やし麻婆豆腐をぶっかけて完成だ。



「さぁ出来たぞ。『特製冷やし麻婆豆腐丼』だ、多少辛いかも知れんから、飯とよく混ぜてな」

「頂くっす!……辛っ!辛いけど美味いっす!」

「けほっ……ちょっとこれ辛すぎない!?」

「司令、択捉にもう一杯ビール頂けますか?」

 そんなに辛かったか?そうでもないと思うんだがなぁ。ちなみにだが、このレシピのいい所は安上がりな所だ。豆腐は安ければ1丁30円くらい、ネギなら1本10円くらいで買えたりもする。それに豚挽き肉が特売なら100円くらいだから、合わせても140円程度。調味料代を考えても、1人前100円以下で出来てしまう……財布にも優しいレシピだぞ。

 
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