九点差逆転
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第二章
「こっちもな」
「去年それが優勝に貢献したのに」
「ぶっちぎりで優勝してな」
「やれやれよ」
「だから毎年そうなってたまるか」
幾らカープには寛容でもだ。
「というか巨人には勝ってるだろ」
「それはそうだけどな」
「それでもよ」
「お得意様が減るっというんだ」
「それだけ優秀に遠のくから」
それだけにというのだ。
「全く、やれやれよ」
「巨人に勝ってろ」
「まあね、しかし今年本当に阪神強くなったわね」
客観的に今シーズンの阪神を見てだ、千佳は兄に言った。
「去年はカープには打たれまくって抑えられまくってたのに」
「だから違うんだよ」
「兄貴さんの超変革が出て来たのね」
「ああ、そうだよ」
「守備は悪いし藤浪さん四球多いけれど」
「その二つはどうかだけれどな」
確かに問題だが、とだ。寿は真実を認めたうえで覆い隠そうとした。
「強いことは強いだろ」
「確かにね」
「だから今年はな」
「阪神優勝っていうのね」
「ああ。手応えを感じてるさ」
尚寿は阪神の調子がいいといつもこう言う癖がある。家でも学校でもそれは癖だとみなされている。
「今年は優勝だ」
「やれやれよ、今年は苦労しそうね」
千佳は苦い顔で兄の顔を見て述べた。
「優勝は」
「だから阪神優勝だって言ってるだろ」
「九月までそれ言えたら認めてあげるわ」
「じゃあ九月楽しみにしてろ」
「そうしてるわね」
どうせ夏から落ちるわよ、とだ。千佳は言いそうになったがこうした時の兄は大丈夫だと笑って言うだけなので言わなかった。しかし。
ゴールデンウィークの時両チームは首位を争っていた、千佳は前日その阪神に負けたので苦い顔をしていた。
それでだ、寿に朝食の場で言った。
「負けないからね」
「今日はか」
「そうよ、勝ってね」
「首位だっていうんだな」
「二位にしてあげるわよ」
鯉というよりは虎の目で兄に言うのだった。
「楽しみにしてなさい」
「言うな、今の阪神に勝てるのか?」
「絶対に勝ってやるわよ」
「甲子園の試合だぞ」
言わずと知れた阪神の本拠地だ。
「昨日は勝ったしな」
「今日も甲子園でっていうのね」
「本拠地にいるだけで有利なんだ」
所謂地の利である、ホームグラウンドで勝てないとそもそも話にならないのはどのスポーツでも同じだ。
「だからな」
「今日もっていうのね」
「そして首位でゴールデンウィーク終わりだ」
「それはこっちの台詞よ」
「じゃあお昼に甲子園行くぞ」
寿は一塁側、千佳は三塁側に陣取るつもりだ。それぞれの場所に。
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