九点差逆転
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第一章
九点差逆転
根室寿は毎年春になると恒例の発言を今年も行っていた。
「今年は阪神優勝するからな」
「毎年言うわね、本当に」
妹の千佳はその彼に冷めた目で返した、これも毎年恒例である。
「そう言って優勝しない方が圧倒的に多いのに」
「そう言うそっちはどうなんだよ」
寿は阪神ファンとして広島ファンの妹に言い返した。
「カープは」
「決まってるじゃない、連覇よ」
妹の目は冷めたままだった。
「阪神はよくて二位、クライマックスで負けるわよ」
「言ってくれるな」
「ついでに言えば巨人は今年も優勝しないわ」
「そこは僕も同意だよ」
二人共巨人は大嫌いだ、特に寿は阪神が巨人に負けた時はいつもこれ以上はないまでに嘆き叫び大変なことになる。
「菅野も打って」
「菅野はねえ」
「悔しいがいいピッチャーだ」
「実力はあるのよね」
問題は巨人以外の全てのチームを憎むという人類史上最も歪んでいると言っていい思想であろうか。
「あいつは」
「あいつ呼ばわりなんだな」
「だって大嫌いだから」
千佳はカープファンとして言い切った。
「あいつは」
「だからか、まあ僕も嫌いだからな」
「そうよね、あとカープ連覇って言ったけれど」
「本気なんだな」
「当たり前よ、去年大勝ちさせてもらったけれど」
とはいっても嫌味はない、千佳も寿も巨人以外のチームには非常に寛容だ。
「今年も勝たせてもらうわよ」
「言ってくれるな、今年の阪神は違うぞ」
「強いっていうのね」
「そうだ、去年みたいなことはないからな」
「どうかしら、カープを甘くみないことね」
「勝って勝って勝ちまくってやる」
「こっちこそね」
「おい、早くテーブルに着け」
言い合う子供達に二人の父親が言ってきた。
「野球の話もいいけれどな」
「今夜は焼きそばよ」
母親も言ってきた、見ればテーブルの上にはホットプレートとその焼きそばがある。
「早く食べなさい」
「うん、じゃあね」
「今から行くわ」
二人で話してだ、そしてだった。
言い合いは止めてそうしてだった。家族で仲良く焼きそばを食べた。そのうえで開幕を受けてだ。
阪神も広島も好調だった、それでだ。
寿はにやにやとしてだ、千佳に自宅で言った。
「やあ、いいシーズンだよな」
「そうね」
千佳はその兄にむすっとした顔で返した。
「阪神強いわね」
「カープにもな」
「何かね」
千佳は藪睨みの目になって兄に言った。
「今年はカープ阪神にだけ負けてるわね」
「だから言っただろ、今年は違うってな」
「毎年阪神には勝ち越してるのに」
「そうそう毎年カモにされてたまるか」
自覚はあった、だがそれが巨人ではないので寛容でいられるのだ。
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